神酒←「みき」って読めんよね   作:パルプンテ権左衛門

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恩恵喪失

 それは唐突に、前触れもなく発生した。

 久しぶりにバーテンダーとして【酒宴の寝床】で働いていた時だった。

 

「どうぞ」

「ありがとうございますソーマ様」

 

 もともと俺がカウンターに立つことが少なかったこともあり、今日のカウンターは大盛況。

 

 カウンター席に座る客の好みを聞き、名前もないカクテルを作りながら他愛もない話をする。

 

「ライムを出してくれ」

「わかったよ」

 

 従業員として働くイシュタルの眷属からライムを受け取り、切り口をグラスの縁を塗る。

 塩を広げた皿の上に縁を押し当てれば、スノースタイルという形になる。

 

「ソーマ様、そのカクテルはなんて名前だい?」

「ソルティ・ブルドッグ。普通にウォッカをグレープフルーツで割っても面白くないからな。爽やかな口当たりと塩を感じながら飲む形だな」

 

 従業員に聞かれたので素直に答えたが、考えてみればスノースタイルで酒を提供したのは初めてか。

 

「色が綺麗ですね」

「オレンジと白。いいねぇ」

 

 いつの間にか他の従業員も集まり、和気あいあいと酒を出す。

 

「他に見栄えの良いカクテルはない?」

「教えなさいよソーマ」

 

 自分たちの主神であるイシュタルすら敬っていない可能性のあるアマゾネスの言葉使いに苦笑いを浮かべる。

 ただ、【酒宴の寝床】で働くときはあくまでも神ではなく一従業員として。そうネクタルが言い始めたのもある。

 

 菫で紫色に着色したリキュールとジンで作るブルー・ムーンなんかのレシピを教え、笑いあう。

 

「ソーマ! こっちの卓にテキーラ4……、杯……」

 注文を伝えに来たはずが、カランと手に持っていたトレンチを落としたアマゾネスに戸惑う

 

「ラク? どうした?」

 

 ラク  本名をラク・ボモンティだけじゃない。

 給仕として働いていたイシュタルの眷属たちがそろって動きを止め、何かを感じ取っていた。

 

「ソーマ、イシュタル様が送還されたかもしれない」

「どういうことだ?」

「お前たちもアタイと同じか?」

 

 ラクの言葉に他のアマゾネスたちも頷くが、俺は理解ができない。

 

「アタイらの恩恵が、イシュタル様からもらった恩恵が、消えた」

 

 基本、神の血を与えられ刻まれた恩恵が消えることはない。例外は2つ。恩恵の封印と神の送還。

「おいおい! 歓楽街の方に送還の光が出てるぞ!」

「何か知ってるか?」

「わかんねぇ!」

 

「ソーマ。すまないが数人歓楽街に向かわせることはできるかい?」

「分かった」

「いや、私が向かうから行かせなくて良いよ」

 

 誰を向かわせようとホールに出ているメンツを確認しようとしたとき、本来今日は休みの予定だったのにもかかわらず裏から出てきたバクティが、俺を制した。

 

「あんたたちは一旦ここで待機だよ。恩恵が消えてるんだ。改宗した私と違ってコロッといっちまう」

「頼んだ」

「任された」

 

 そう言って飛び出したバクティが情報をもって帰還したのは、おおよそ1時間後だった。

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「【フレイヤ・ファミリア】が【イシュタル・ファミリア】を襲った?」

 

 俺の神室に集まった面々を前に、歓楽街から帰ってきたバクティは、確認したことを伝えた。

 

「たしかに、【イシュタル・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は犬猿の仲というか、主神同士がいがみ合っていたというか……」

「正しくは、イシュタル様がフレイヤ様を一方的に嫌っていた感じだね」

 

 その言葉に俺たちは頭を抱える。

 

 オラリオを追放。ではなく、今回フレイヤが取った行動はイシュタルの送還。

 

「ネクタル、一度ヘスティアのところに行ってリリルカに何か知らないか、ベル・クラネルの周りで出来事がなかったか聞いてきてくれ」

「かしこまりました……。確認ですが、クラネルについてですね?」

「ああ」

 

 ベル・クラネルを取り囲む神々の思惑。時にフレイヤについてのことは誰にも話していない。

 もちろん先日のバーでの出来事も。

 

「我々で考えないといけないのは、従業員のアマゾネスたち。ということですね?」

「ザニスの言う通りだ。もともと彼女たちはイシュタルとの契約で出向してもらっている形。契約の相手が居なくなり、また彼女たちも恩恵が無くなっている以上、何かしらの補填を彼女たちにする必要がある」

「そもそも、まだ【酒宴の寝床】で働く気があるかどうか……、ってところだね」

 

 そこは一旦、俺とバクティの二人で面談を行い、必要に応じて雇用か、眷属になった上で内営班なりに入ってもらうか、はたまたギルドを間に入れて別の職や別の【ファミリア】に移籍するか。

 

 もともと、アマゾネスではあるものの、娼館で働きたくない少数派の者を中心に雇用しているのもあり、バクティの見立てでは、このまま【ソーマ・ファミリア】の眷属になる者が多いだろうとのこと。

 

「また団員が増えますね……」

「人手が増えるのは良い事だ。酒を作るにしても、売るにしても人手が足りん」

「ああ。トムの言う通りだ。リリルカからの情報を聞いた上で日が明けてから、イシュタルの元眷属には話を聞こう」

「かしこまりました」

 

「ラク」

「なんだい? アタイならこのまま【ソーマ・ファミリア】に入れてもらうよ」

「わかった。後で恩恵を刻む。一旦は今ホールで待機している従業員に、明日一人ずつ面談することを伝えてくれ」

「わかったよ」

「バクティは面談を行う者たちのリストアップだ」

「任せな」

 

「ソーマ様、本日休んでいる者にはどうしますか?」

「ギルドに【ソーマ・ファミリア】からのお知らせとして掲示を依頼してくれ。ラク、すまないが面談の話と同時に、休んでる者にも伝えるよう他の子たちに伝えてくれ」

「もちろん」

 

 それにしても、だ。

 十中八九ベル・クラネルに何かが起きた。おおよそ、イシュタルがフレイヤを落とすためにベル・クラネルに手を出し、それに起こったフレイヤが潰しに行った形だろう。

 情報はないが、この前の賭けの話もあり想像できる。

 

 問題は、イシュタルがベル・クラネルに手をだそうとした経緯と、ベル・クラネル自身がなにかイシュタルもしくは彼女の【ファミリア】に対してアクションを起こしたか。

 

 それほど付き合いのない俺ではあるが、初心な彼が歓楽街でトラブルを起こすようには思えない。

 

「アマゾネスが探索部に来れば、ダンジョン攻略が捗るんですがね……」

「ははは。そっちに行く奴もいるだろうし、兼業する奴も出てくるさ」

 特殊な体系を取る【ソーマ・ファミリア】の等級は『Bランク』となっている。

 これは商業部と探索部をあわせた総合の評価としてギルドが発表しているものであり、商業部としての等級は、街の食時を支える【デメデル・ファミリア】と同クラスの『Cランク』

 それに対して探索部は到達階層21階層、単独派閥でのゴライアス討伐を熟したこともあり、等級としては追放された【アポロン・ファミリア】と同等の『Dランク』になっている。

 デメテルのところよりも等級が高いのは、彼女の【ファミリア】が完全な生産系ファミリアであることに対し、我々が探索系も行っているから。

 

「入団した後の配属先は後ほど決めよう。一旦は、ラクに恩恵を与える」

 

 そう言えば、ラク以外は部屋を出た。

 

「これからよろしく頼むよ。ソーマ様」

 

 これから主神になるためか、敬称をつけたラクは給仕服を恥ずかしがることなく脱ぎ、褐色の背中をさらす。長い黒髪をうなじの所で掻き分けたところに、俺は血を垂らした。

 

「これまでの働きぶりに感謝するとともに、これからは眷属として、我々を支えてくれることを願う」

 彼女の背中に恩恵が刻まれ、また一人、団員が増えた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「わざわざ来てもらってすまないな。ヘスティア」

「気にしないでくれ。今日はシフトもあるし、来る予定だったことには変わりないよ」

「リリルカも。元気そうで何よりだ」

「はい! ソーマ様!」

 

 日が明けた昼頃、昨日使いとして出したネクタルに連れられ、リリルカ、ヘスティア、ベル、命、そして狐人の見慣れぬ女性の5名が拠点へとやってきた。

 

「ことの経緯を離しますと、こちらの春姫殿が身売りされたところから始まります」

「すまない。全部話してもらうと長くなるので、掻い摘んで教えてほしい」

 

 1から100まで教えてくれようとしたヤマト・命に断りを入れる。

 

「まず大前提、今回のイシュタル送還に大きくかかわったのは、ベル・クラネルと、君が関係している認識で合っているか?」

「はい」

「サンジョウノ・春姫と申します。先日まで【イシュタル・ファミリア】で娼婦として働いておりました」

 

 金色の長髪に和装という、いかにも高貴な身分の彼女。それに先ほどの身売りされた。という話で何となく理解する。

 

「ベルがサンジョウノ・春姫を買い取った。正しくは奪い取った形だな」

「まさしくそうです」

「フレイヤがなぜイシュタルを送還させたかは分かるか?」

「それに関しては、春姫さんの魔法に関わると聞いてます」

 

 そこからはリリルカが説明をしてくれた。

 なんでも春姫は一時的とはいえ「レベルを上げる」魔法を持っているとのこと。それを使って【フレイヤ・ファミリア】を襲おうと計画していたらしい。

 しかも、満月によって力を増す狐人専用の魔道具である『殺生石』を使って。

 

「フレイヤからすれば都合が良かっただけか……」

「どういうことだいソーマ」

「いや、気にしないでくれ。ベル、お前はイシュタルに直接何かされたか?」

「直接?」

「襲われた、喰われた、まぐわった。言い方は色々あるがな」

 

 そういえば何かを思い出したのか、ベルの顔が段々と赤くなる。

 

「べ、ベル君!? まさかイシュタルとっ!?」

「ちちちちちち違います神様!!」

 

 何も! なかった! です!

 と必死に弁明する彼に嘘はない。ただ、慌てている姿は十分に何かあったことを表している。

 

 ヘスティアが癇癪を起したようにベルに突撃する。ポコポコと胸元を叩き怒っているいるのは、彼女が処女神だからだろうか。

 イシュタルやフレイヤとは眞反対の性質、性格であることもあるんだろう。

 そんなドタバタと  ヘスティアが一方的に暴れている二人を見て、リリルカや命は苦笑いを浮かべ、春姫は何かを思っているのだろう、ベルを見ている。

 

「もしベルのステイタスが見られていたとしても、見たイシュタルはここにいない。ある意味、良い結末にはなっただろう」

「ッ!? そ、そうだ! それなら、まあ、百歩譲って?」

「神様? 僕のステイタスに何か」

「あああああああれだ! 君の【英雄願望(アルゴノゥト)】のことだよ。魔法じゃなくて、スキルで威力を上げるなんて、っれれれっれ、レア中のレアスキルだから!」

 

 明らかに挙動不審だが、まあ良いだろう。

 

「事情は理解した。ここから先は俺が残ったアマゾネスたちを雇用なりなんなりするかどうかだ」

「な、何人かボクの眷属にしてくれても良いんだよ?」

「借金2億ヴァリスの所に行きたい奴がいるならな。もともとここだけで働いてたのに急にヘファイストスの所で働き始めたと思ったら……、当時は感動したんだがな、はぁ」

「なんだい! あの借金だって、【ファミリア】のお金は一切使わずにボクとヘファイストスの間だけの物なのに!」

 

 地団太を踏みながら怒るヘスティアに、俺は冷たく「知らん」と言い返す。

 

「俺が言えたことじゃないが、天界から降りた時点でしっかりと【ファミリア】を稼働させておけば、アポロンに絡まれたりバイトなんかもせずにすんでいただろう」

「ぐぬぬぬ」

 

「まあそんな訳だ。ここはもうお開きとしよう」

 

 わかりました。とベルが率先して立ち上がり、不機嫌なヘスティアの背を押して退室する。

 

「ソーマ様」

「リリルカ……」

 

 サンジョウノ・春姫は命に手を引かれ退室したが、リリルカだけはまだ部屋にいた。

 

「体には気を付けて。前にも言ったように思うが、時々顔を見せに来てくれ……」

 面と向かって言うのはどこか恥ずかしいが、頭に浮かんだ言葉をそのまま伝える。

 

「っ! はいッ!!」

 

「本命ではないが、一つ上手くいきそうな酒もある」

 

 お前に飲んでほしい。

 そう伝えた時の笑顔は、とても可愛らしく愛らしかった。

みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。

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  • ウィスキー
  • ラム
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  • 焼酎(芋・麦・米問わず)
  • 果実酒(梅・果物問わず)
  • テキーラ
  • ワイン(赤・白問わず)
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