ありがとうございます。励みます。
ソーマ・ファミリアを二分することとした。
一つはこれまで通り探索部。
以前の神会以降繋がりを持ったロキや、同郷のガネーシャのファミリアを中心にアドバイスをもらい、これまで雑な管理だった冒険者をしっかりとサポートすることで、少しずつだが成果が出始めた。
ソーマ・ファミリアに所属するほとんどはこちらに所属している。
そのほとんどは、ダンジョン内の活動などを評価したランキングによって、少量ではあるが偽神酒を提供しているから。
こちらはファミリアの団長が責任者となり活動をしている。ちなみにアーデ夫妻もこちら側だ。
もう一つは新設した商業部。
シャシン・ジンに続いて、ディオニソスと共同開発した白ワイン。銘柄を『シャシン・ウォッカ』と名付けた各種新発売の酒が飛ぶように売れたこともあり、非戦闘員が中心となる部隊である。
特に酒造りなどに興味があった新規入団のものが多く、多くの種類の研究。そして販売を行っているが、人数はかなり少なく十数人程度しかいない。
こちらの管理は俺自身が行っており、一段落すればファミリアのホームの横にバルを増築し、その従業員兼酒造用のメンバーとして活動してもらう予定だ。ちなみにリリルカはこちらに所属している。今の仕事は酒をデメテルのところなどに卸しに行くのがメイン。
なお、名称がダサいと団長に進言されたため、探索部の名称はソーマを飲む者を意味する「ソーマ・パティ」であり、商業部はソーマを与える者を意味する「ソーマ・ダーナ」である。
神的にはこっちの名前の方がダサいが、探索部にも商業部にも非常に好評である。解せん。
やはり親と子の間に感覚のずれがある。
ファミリアの改革はどんどんと進んでいる。
あとは
それはすでに神会で会った別の神に相談している。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よく来てくれた。よろしく頼むミアハ」
「はは。こちらこそ」
反神酒の作成方法に対して助言を求めたのは、オラリオでもトップクラスの医療系ファミリアであるミアハ・ファミリアのトップ。神ミアハ。
青い長髪の優しそうな雰囲気を持つ彼と握手をするため、俺は右手を差し出した。
「正直、私が役に立てるとはあまり思えないが……」
「そんなことはない。そもそも難しいことをやろうとしているんだからな」
そう。もとより難易度は高い話。ミアハの知見などに関してはダメもと。何かのきっかけにさえなってくれれば良い。
「話からするか? それとも試飲するか?」
「そうだな。私としてはあまり酒が得意なわけでもないから、すまないが話からして欲しい」
机を挟んだ俺たちは、目の前に置いた二つのグラスと酒を横にそらし、紙面に文字を書いて整理を行う。
「まず前提の話だ。知らない部分もあるだろうから、1から話す。まずソーマについてだが……。どこまで知ってる?」
「ほとんど知らないのと同じだよ。ソーマが作ったお酒で、人を酔わす神威がある。神も酩酊するが、人ほど影響は出ない。それくらいだな」
「十分だ。ソーマは元々、樹液などを使い、俺が1から100まで作成した神酒だ。アルコール分はそれほど多くないが、味などに影響されて人々は酔う。一種の麻薬のようになってる」
原料は樹液や果物。香草など多岐に渡るが植物由来。
それを、ジンなどスピリッツと同様に蒸留を行い製造したのがソーマ。
作成に関わっているのが俺自身であり俺だけ故に、酒の神たる神威が全て注ぎ込まれてしまっている。
「今現在デメテルのところや俺たち自身が販売している【シャシン】シリーズは、基本的に俺がほとんど関わらずに酒作りをしている」
「関わらなければ神威は含まれないのか?」
「おそらくだ。至ってシンプルだが、非常に明快。あっちで俺がしているのは、原料の選定と味見による検品くらいだ」
そして重要なのは、エリクサーを使用してもソーマの酩酊から醒めないということ。
「少なくとも、飲酒したタイミングからある程度時間が経てば効果が出るものの、ソーマの味を忘れることはできない。飲んだ直後なら、エリクサーを飲んでも禁断症状が発症する」
「ステイタスで言う耐異常は?」
「残念ながら無理だった」
正直言って、ソーマ・ファミリアは探索系であるものの、それほど突出した戦力はいない。団長を含む2名のみがレベル3。レベル2は3人だけ。その他多くはレベル1。探索系のファミリアでも中堅以下である。
ロキやフレイヤたちのファミリアはもちろん、ガネーシャやヘルメスの所に比べても貧弱としか言いようがない。このファミリアの状況なら力が強いものが上に立てる環境の筈ではあるが、失敗作という劇薬の存在のため頭の回る奴が幅を利かせている。
「ステイタスとは別の部分で作用している?」
「俺も同じ意見だ」
「思うにソーマ。君の神威は酔わすことに特化しすぎているように思う」
まあ、そういう評価になるのもわかる。というか、自分自身そう思う。
「そうだな。酒は薬ともいうし、調合を持つ者はいないのか?」
「残念ながら。今まで酒造りは俺だけでしていたからな。そういうタイプは期待するな。だが、酒という薬。か……」
酒のような薬。薬のような酒。なるほど。
「調合のアビリティ。もしくは神秘のアビリティがあれば何か変わるかもしれない……。ソーマ。私が思いつくのはこの程度だな」
「いや、十分だ。少し試したいことができた。薬草などの仕入れはどこに相談すれば良いだろうか。ミアハはどこから仕入れている?」
「大体はギルドを通してクエストにさせてもらっている。大体はダンジョンの中にあるからな。一部はオラリオでも育っているし、外にもあるが……」
「なら探索部の奴らにやらせよう。ありがとう」
「なに。私は特に何かしたわけじゃないよ。君が何かヒントにしただけだろう?」
爽やかな笑顔を見せるミアハ。これがイケメンというやつか。と他の神達が話していた内容を実感するが、今はそれよりも酒造りの衝動が湧き上がっている。
「今度うちのものにお礼の酒を届けに行かせる。完成したら一杯やろう」
「ああ」
ミアハを拠点から送り出し、そのまま再び作業部屋へと引きこもる。
調合のアビリティに関しては、薬の製造などを行い続けることによって発現するもの。神秘に関しては、神のみが起こせる奇跡を作り出せるオラリオでも5人いるか居ないかのレアスキル。
正直、ソーマ・ファミリアにそれを持つ存在はいない。
人員を借りるにしても、ミアハやディアンケヒトなど医療関係のファミリアの人員を借りないといけないが、それをお願いできたとして、見返りになにか提供できるほど、ソーマ・ファミリアは強くもなければ大きくもない。
ヘルメス・ファミリアに神秘持ちがいるとか噂を聞いたことはあるが、それも同様。
「とりあえずは俺だけで作り始めるか……」
案はミアハと話しながら思いついている。まさか、こんなところでつながるとは思っていなかったが。
「命の水。酒の名前は往々にしてそんな語源があるが、一番初めに造ったジンもだな」
今販売している「シャシン・ジン」の原材料は麦と香草。
その中で特徴的な香りを出し味の肝になっているのはとあるベリーだ。ギルドへの用事の帰りになんとなしに足を運んだ果物屋で見つけたそれだが、酒の神としての勘だが、使える。
「香草を香りづけとして使うのではなく、香草の成分を抽出して酒に混ぜる方法。温めて絞るのが基本ではあるが、味が良くなければ酒じゃなくなるから、そこも難しい部分だな」
成分の抽出方法はある程度種類がある。
最終的には絞り出すとは言え、煮出す方法でも水なのか酒なのか。方法で言うなら透過させるのか加圧するのか。
それぞれの原料を同じ方法ですればよいわけではない、その原料に適した方法を見極める地道な作業だ。
それを形作り、試し、それでも失敗作のように人を惑わすのであれば、そこで頭を下げればよい。他派閥に依頼するのはそれからだ。
「ジェニパーに生薬か。故郷の飯を作るようなもんだな」
必要になりそうなものをリストアップした俺は、一度ベッドに突っ伏した。
「ここからは忙しくなるな……」
だが、これまでに経験していないことを行う。酒の神として、一つのものづくり好きとして、これほどそそられることはない。
気が付けば笑っていた俺は、気持ちを落ち着かせるために瞼を閉じた。