「おいおい団長さんヨォ、なんでソーマが回って来ないんだよ!」
冒険者の膂力によって勢いよく叩きつけられた木製のジョッキが壊れ、床に飲んでいた酒が飛び散る。
ここ最近でよくあること。それまで賄賂のように金を出すことで得られていたソーマが、団員の貢献度によって量を規制され渡される環境に変わった。そこで困るのは、それまでの体制に慣れきったベテランであり、ベテラン故に狡賢くファミリア内で力を持つものたちである。
押さえつけていた分が遂に決壊した。ただそれだけのことと、団長はいつにも増して冷静であった。
「あんたも、他の幹部たちも今まで一緒になってやってたってのに、いい加減ふざけんのもやめてくれねぇか」
「ふざけてなどいない。神ソーマの意思・方針だ」
「はぁ? あの引きこもりがなんだってんだ? 今までこっちにゃ関わってなかったやつが、急に口出しして、今までのもの壊す? ふざけてんじゃねぇよ」
「すでに決まっていることだ。そして、すでに始まっていることだ。お前が何を言おうとこれは決定事項であり強制事項。嫌なら脱退、退団すれば良い」
毅然とした態度を続ける団長に腹を立て、暴れようとする彼を数人がかりで押さえつける。
「俺だって急な方向転換に驚いている。そこは事実だ。だが、俺はこのファミリアの団長である以上、疑問や不安はあれど付き従うのみだ。そしてそれを強制させる」
「上が腑抜けてたから好き勝手してたっていうのに、上がしっかりした途端これか? 偉ぇもんだな! 俺たちから金巻き上げてた一番のクソがお前だろうが」
男は冒険者としては二流だ。オラリオ全体で見ても決して上位には属していない。それでも、ソーマ・ファミリア内では数少ないレベル2の1人であり、そのレベルという大きな壁を持って他の団員から金を集め、それをソーマへと交換し欲を満たしてきた。
幹部を除くソーマ・ファミリア内で、ソーマ・ファミリアのルールに則りその力をつけた男が反論する。
その言葉に、暴れていた男を抑えていた団員たちは何も言えず、男に同調を始めるものが現れる。
一度落ち着いた広間に一つだけだった苛立ちが伝播し、多くの者が声を上げる。それもそうだ。元々ソーマが作った失敗作に魅了された者たちが集まったのがソーマ・ファミリアの始まりだ。団員数だけは多く、ガネーシャ・ファミリアのような大手とも所属団員数だけは同等レベル。そんな人数が声を出せば、立場がどうであれ状況は変わる。
「お前らがソーマに魅了されてこのファミリアに属しているのは知っている。自ら飲んだもの。誰かに飲まされたもの。酒造に興味があったもの。多くのものがここに居る。それが制限されたことに文句があるのも重々理解している。お前らを利用していたのも事実だ」
それでも文句があることは理解している。そう言った団長は、腰にぶら下げていたダンジョン内で使用する武器であるガントレットを両腕に装着する。
「俺への不満や反発を存分に向けて来い。その代わり、俺に殴られ膝をついたものは強制させてやる」
「お前一人だけか?」
「もちろん俺だけだ。じゃなけりゃ、お前らは満足しないだろう?」
両腕のガントレットの感触を確かめるように手のひらを開閉し感覚を確かめた団長に、団員たちはニヤリと悪どい笑みを浮かべる。
相手は団長でありいくらレベルが3とはいえ、たった1人である以上戦力差はかなりある。
「俺が言えるのはただ一つ。すまない。というこの方針転換を強いることに対する謝罪だけだ。飲み込むやつは拳を握るな。抗いたいやつだけかかってこい」
ソーマ・ファミリア団長および、
「【
雄叫びを上げた男がネクタルへと飛びかかり、それを引き絞った右ストレートで迎撃した。
「【挙げろ、怪宴の狼煙。降れ、偽神の奸計。踊れ、神樹の幹の如く。歌え、葉風と共に!】マルガ・パーリ!」
2人目、3人目を迎撃する最中団長は詠唱を行い、自身のステイタスを上昇させる補助魔法を発動させる。「力」「器用」「敏捷」に超高補正を適用させる上に、与えた打撃数が増えれば増えるほど、絶え間なく殴れば殴るほど「力」「耐久」「敏捷」に補正が乗る継戦能力を高めるスキルである【
「取り囲んでやれ!」
「一度でいいから動きを止めろ!」
ファミリア内では最上位に君臨する男を止めるため、歴の長い団員たちが指示を出しながら対抗する。得物を取り出すもの、拳を握るもの、詠唱を始めるもの。そのほとんどを返り討ちにする。
「嘘でも俺はこのファミリアの中じゃ頭だ。そんな奴を相手にしてんだ。もっと腰入れてかかってこい」
団長とその他の争いが一時的に治ったのはそれから約2時間ほど。
外を歩いていたら外壁が壊れるほどの争いを見た市民たちがガネーシャ・ファミリアの団員たち、そしてギルドの職員たちに通報をしたことで団長を含め戦闘に参加した全員を捕縛する事態にまで発展した。
かくいう
団長は暴れることなく大人しくしていたため捕縛も何もされず、実際にお縄についたのはパティの男ども。
「っ、たく、一体なんの経緯で拠点が壊れる喧嘩なんてしたんだ」
「ファミリアの方向方針に対する齟齬を俺たちの形で納得させていた。だが、迷惑をかけてしまったのであれば申し訳ない。市民たちに被害等は出ているか?」
「幸い出てはいないが……。えらく冷静だな……」
ガネーシャ・ファミリアの代表としてやってきた団長シャクティはやれやれと言った表情を浮かべる。
「
「すまないな。何か罰などは……」
「いや、一応被害はファミリア内だけだからなぁ」
決めるに決められない。といった表情を見せるシャクティやギルドの職員。
「そういえば神ソーマはどちらに?」
「ああ、ソーマ様なら今頃ダーナの面々と共にデメテル様のところへ行っている。卸と仕入れでな。朝早くに出たはずだからそろそろ戻って来ても良い頃合いのはずだが」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ソーマを含むダーナの面々がホームへと戻ってきたのは、治安部隊が到着してから1時間ほど。全てが始まってから約3時間ほどが経ってからだった。
「ネクタル。これはなんだ?」
ソーマたちが見たのは、広間を中心に壁に穴が開き少し屋根が燃えている拠点。
「ソーマ・ファミリアの方針をパティに落とそうとした。荒くれものたちに言葉で言っても理解できない以上、奴らの流儀で向き合った」
「結果は?」
「そこで捕らえられているもの以外は強制だ。そういう話をしている」
嘘をついていないことを理解したソーマはそれ以上のことは言わず静観する。
「あ、あの……お父さんとお母さんは……」
「アーデ夫妻は捕えられていない。ただ、殴り飛ばしてるから拠点のどこかで寝転んでるだろう」
「分かり、ました」
団長の言葉を聞きそのまま拠点の中へと走り去るリリルカ。そんな彼女を見て、ギルド職員たちは顔を歪める。
「あの子は……。確かリリルカちゃんですよね」
「ああ。俺たちのせいでこのファミリアにいる子だ」
「ソーマ様! 蒸留所は無事でした!」
「分かった。まあこんな状態なら何もできん。ギルドとガネーシャのところには迷惑料としてある程度本数を送ろう。当分休業だな」
「じゃあどうするんですか?」
「単純な話だ。俺たちは月と杯のファミリアだからな」
腹を割って話すのに、酒は一番もってこいだろ?
ギルド職員は呆気に取られ、ガネーシャ・ファミリアもまさか。なんて顔を見せる。
「ネクタル。酒瓶。集めて並べろ。主神命令全員参加の酒宴だ」
「かしこまりました」
なお、この騒乱で同じレベル3を一人、レベル2の二人を返り討ちにしたことがきっかけとなり、団長のネクタルはレベルを4に上げた。本人は、酒を売るものとして正道に戻るため。そしてこのファミリアの未来のためにした。と言うのだからなんとも言えない。
ただ、完全にとは言えないもののソーマの新方針を受け入れるものが目に見えて増えたのは明らかであり、オラリオでも数少ない嗜好品を提供する団体として、これまで以上に貢献するきっかけになったのも事実。
追って知らされたギルドからの処罰はなく、「シャシン」シリーズの売上金で持って改築、および増築した拠点は、
多くの店で出回ることになった「シャシン」シリーズの大元がバルを開き、また、飲み方も種類があることから、冒険者や市民、神も含め人気となる。
「あー。まじリリたん萌えぇー」
「小さい体で頑張ってウェイトレスしてるの、推せるわぁ」
なんて言う
若干数不満を持っている団員もいるが、それでも表立って出てくることはない。
「神ソーマ……。少しお話よろしいでしょうか」
「どうしたザニス」
「いえ、ダーナの監督官について相談が」
ソーマ・ファミリア 団長
【
レベル3
力 :B 767
耐久 :D 519
器用 :C 622
敏捷 :A 803
魔力 :A 872
《アビリティ》
拳打 :H
連攻 :H
耐異常:I
《魔法》
【マルガ・パーリ】
・付与魔法
・「力」「器用」「敏捷」に超高補正
・対象は術者のみ
・詠唱式【挙げろ、怪宴の狼煙。降れ、偽神の奸計。
踊れ、神樹の幹の如く。歌え、葉風と共に】
《スキル》
【
・打撃継続中「力」「耐久」「敏捷」に補正
・補正は打撃回数に比例
・打撃間時間は打撃回数に比例して延長