あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン!   作:おふざけちゃん

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あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 紅色の片目 4

 

 

 

「第四章 この真紅な少女の昔話を!」

 

 

 

「___!!三人共っ!!無事だったかいっ!?」

 

 門の前でウロウロとしていたお父様、まぁまぁと門番達に宥められていた所だったのか……私達を見つけ直ぐ様駆け寄ってくる。

 

 そんなお父様を呆れた目で見ているカズマ……まぁ、カズマからしたら鬱陶しい上この上ないかもしれないが、お父様の気持ちを何とか汲み取ってやって欲しいものだ。

 

 私とカズマを抱き寄せおいおいと大の大人が泣くその姿は恥ずかしいとも思えたが、此れだけ私達を愛してくれていると嬉しくも思う。

 

 そんなお父様に申し訳ない気持ちが勝ったのか、何時もは抱き寄せられても素知らぬ顔といったカズマも今日だけは、今だけはぎこちないながらも抱き返していた。

 

「お父様……クレアも見ています、それに…今日は客人が居るのです。」

 

「な、何と…!えぇおほん。取り乱してすまなかったなクレア……と、客人殿。」

 

「い、いえ大丈夫です。」

 

 深く帽子を被った姿でも見て分かる程に顔が引き攣っているめぐみんと名乗った彼女。

 

 赤く光る瞳で紅魔族と分かったから良かったものの、もし完全に目元が隠れていたら正気かと疑う所であった。

 

「さぁ、外で話しても熱いだけでしょう。狭い所ですが家の中へ。」

 

「………狭い…?」

 

 ボソリと溢したその言葉、貴族育ちである自分ですら自覚しているこのデカい家を狭いと紹介され困惑の面持ち……もしかしなくてもお父様は根っからの箱入りなのかも知れない。

 

 お父様に続いて私とクレアも家の中に入ろうとしていた所、私は見逃さなかった。

 

 ボソボソとカズマに耳打ちするめぐみん殿、とても昨日の深夜に道案内をしただけの関係とは思えないその姿に私は疑いの目を向けてしまう。

 

 クレアも同じ気持ちなのか何とも言えない表情であった。

 

「ララティーナ、カズマは昨日が初めての外出だったのか?」

 

 ボソリと耳打ちしてくるクレア。

 

「いや、一度だけ街まで脱走した事はある……が、直ぐに見つけて家まで連れ戻した筈だ。」

 

 つまりあの時の短い時間で二人に面識が出来る事は殆ど有り得ない、が本人の次のカズマを知っている私からすれば短時間で女一人虜にする事が可能なのがアイツだ。

 

 底知れぬ魔性の男……世の生き遅れから幼女まで、弟としても、兄としても、その二面性を持った面の奥深くには本人ですら自覚出来ない力がある。

 

 更にたちの悪い事にカズマという男を見た事も喋った事もない人間からすれば、私はただの重度なブラコンに過ぎない所である。

 

 事実クリスにカズマの事をそれとなく相談した時のあの目と言えば……!!まるで手遅れな人間を見るかの様な目であり高揚……非常に不愉快であった。

 

「まぁ私はあの女を注意深く見るとしよう。ララティーナはカズマを、もし二人に怪しい素振りがあれば……。」

 

「あぁ、分かっている。」

 

「フッ……流石私の親友だ。」

 

 二人で拳を合わせると、何をしているんだと言わんばかりの目を向けるカズマ。

 

 すまないカズマ、これも世の為お前の為なんだ。

 

「?四人共、入らないのかい?」

 

「!!いえ、今行きます。」

 

 めぐみん殿を尻目に私はお父様の後を着いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___さぁさぁ皆!!朝も早くでお腹が空いているだろう、まずは朝食を食べよう。」

 

 何時もは俺、姉ちゃん、イグニスさんと三人で囲っていた食卓はクレアとめぐみんさんが追加された事により寂しさが無くなっていた。

 

 目の前には何時もと変わらない朝食、シャキシャキと新鮮な野菜に暖かいパンと活きの良い目玉焼き、ウネウネと逃げるウィンナーにガクガクと震える煮物。

 

 見てて目障りな為生き残っていた煮物にフォークを突き刺し口に頬張る。

 

 口の中で完全に煮物が息絶えたのを確認すると、先程からチラチラ俺を見てくるめぐみんさんと姉ちゃん……一体何だってんだ。

 

 さて次は何を食べようかと悩みつつ、めぐみんさんの方をチラリと……あぁ成る程。

 

 どうやら貴族は貴族でもここまで大きな貴族だとは思っていなかった様で、ガチガチに緊張して食べ倦ねていた。

 

 大方作法等を気にしているのだろう、一応昨日俺の襟を掴み上げる位の度胸はあると言うのにこういう所は小心者の様だ。

 

「………スープは外側からスプーンで掬って啜る、だったよなイグニスさん?」

 

「…!!」

 

「ん?あぁそうだね、しかし珍しいねカズマ。何時もは作法何て気にしてなかったのに……まさか、急に連れてきたお客さんってカズマの…!?」

 

 ガタリと動揺するクレアと姉ちゃん、いや何で二人が動揺してるんだよ。

 

「何邪推してるかは知らないけど、あくまでめぐみんさんは昨日俺が姉ちゃん達と逸れてモンスターに襲われてた時に助けてくれた人に過ぎないよ。」

 

「な、何だそうだったのかい……ん?二人と逸れた…?」

 

 どういう事だと言わんばかりにクレアと姉ちゃんに目を向けるイグニスさん、悪いがここは親からの愛され特権を使わせて貰うぜ。

 

 予めこう言っておく事によって後から姉ちゃんやクレアが俺の言葉を否定した所で、めぐみんさんが居る理由の根本は何か俺達に問題があった事は違いないのだから。

 

 どっちにしろ俺を頼んだと送り出した二人の姉と姉的存在の頼みを実行出来ていない、つまり俺が責められる事は無いのだ。

 

 俺をギリギリと睨む姉ちゃん、昨日のパンチの仕返しだと思っておいてくれ。

 

 クレアは……まぁ、根本的な所はクレアが悪いから……寧ろ酒飲みすぎてキッカケを作ったと説明しなかっただけマシだと思って欲しい。

 

 そこを自覚しているのか呆れた様な、それでも己の罪が個々ではなく二人に分担された所に感謝半分といった目で俺を見てくる。

 

「……二人共、少しお話しよう。私もただ優しいだけとは思われたくないからね。」

 

「「はい…。」」

 

 本当に久しぶりに怒られると言った悲しそうな表情でトボトボ着いて行く姉ちゃんと、そんな姉ちゃんを励ますクレア……まぁ、弟って可愛がられるからね。

 

 また後で姉孝行でもしよう、そう心に決め俺とめぐみんさんだけが残った部屋には沈黙が流れる。

 

 何時もなら作ってくれた職人さんやメイドさんや執事が横に立っているのだが、客人に圧は掛けたくないとイグニスさんの粋な計らいで計算外ではあるもののめぐみんさんと二人っきりになる事に成功。

 

 探るなと昨日言われたばかりだが、俺はあの金髪の職員さんとの約束が先な為めぐみんさんとの約束を守る事は無いだろう。

 

「……人払いには感謝しますが、昨日の事についての言及は許しませんよ。」

 

「何だバレてんのか。」

 

「余計な詮索は控えて下さい……特に、貴方の様な初心者冒険者はあの様な場所に行かない方が良いかと。」

 

 それはご尤も、何故あの様な場所に大量の魔物が居たのか分からないが……何やら、めぐみんさんが御世辞にも俺が倒せるとは言えない魔物ばかりを倒していた。

 

 そしてめぐみんさんに回収されたあの赤い点が書かれた紙………あの場所は今までめぐみんさんが行った場所、又はまだ行ってない強い魔物が沢山出る場所であると予想出来る。

 

 だが不思議なのはここだ、何故ただ魔物を退治しているだけだと説明せずに何処か濁した説明をするのか、本人は目立ちたがらないと言って居たがあの途中で止めた名乗り、記事にされるのを止めない、相手が強かろうと弱かろうとやけに派手な魔法を使いたがる所、多々不思議な部分が浮き彫りとなっていく。

 

「なぁ、此れだけは教えてくれ………何故このアクセルの街から拠点を移さないんだ?」

 

「………。」

 

「めぐみんさん程の実力があれば王城周辺……いや、ジャティス……王子と一緒に魔王軍に侵攻するのに収拾されたりしてるだろ?何かアクセルに残る理由、紅魔の里に帰らない理由があるのなら教えて欲しい。」

 

 そう、結局の所これだけの力をこの初心者が集まると言われているアクセルの街に留まらせておく事は国からすればかなりの損失、ジャティスの野郎も見逃さない筈だ。

 

「買い被りだ、とだけ言っておきます。貴方が思う程私は強くも……弱くもありません、更に言えば貴方は折角頑張って外の世界に出たと言うのにそう高頻度で実家へ戻ろうと思うのですか?確かにここより強い魔物も居ますし強くなるには一番と言える場所でしょう……が、貴方の街に居る時とこの家へ居る時の顔を見比べれば分かりきった事ですね。」

 

 そう言ってフッと鼻で笑い何時もの調子を取り戻したのか目の前のご飯に齧り付く。

 

 ……つまりめぐみんさん本人曰く、其処まで強くない自分がわざわざここよりも危険な所に行くつもりはなく、かと言ってここに居る人々よりかは強い自分が強い魔物を退治している……と、理にかなっている。

 

 もし本当に姉ちゃんとクレアと逸れた所を助けてもらっていただけの関係性であれば、今の発言でもうめぐみんさんに聞く事は無かっただろう…が、忘れてはいけないのがあのギルドの職員さん。

 

 もし彼女の言葉通りだとしたら何故俺はあの紙を渡されたのか、何を期待しているのか、話を進めれば進める程めぐみんさんには裏がある様に思えてしょうがない。

 

 ……いや待て、思い出せ俺、昨晩めぐみんさんは大事なキーワードを溢していた筈だ、その時は投げ飛ばされた衝撃で微かにしか耳に出来なかったがこの平行線の話を一歩前へ、進歩させる単語!!

 

「………さて、これで満足ですか。私は此れでも忙しい身、お邪魔させて貰っておいて何ですがそろそろ出ようかと……」

 

「友人、だったか。」

 

「……ッ!!」

 

「確かめぐみんさんは昨日俺の探偵気取りに腹を立てて胸ぐらを掴んだその時、投げ飛ばす直前そう溢していたよな?」

 

 ゆっくりと考え伏せ込んでいたかおを持ち上げ、苦虫を噛み潰したような表情のめぐみんさんの片目を見つめる。

 

 そんな俺に押されて席を立ち瞬ぐ、が俺は今逃げられては敵わないのでジリジリとめぐみんさんに近付く。

 

「何故あれ程俺を殺す勢いで迫っていたのに、まるで思い出したく無いかの様な友人と言う単語を放った後その隠れた片目を押さえたのか、何故苦しそうにその場に蹲ったのか。」

 

 どんどんとめぐみんさんに近付く反面、俺から出来るだけ距離を取ろうと後ろに歩く……が、幾ら広いと言えどあくまで室内の内の一つ、壁に凭れ掛かるのも時間の問題。

 

 まるで思い出したくなかった事を急に思いだしたかの様に、恐怖の対象が目の前に現れたかの様に、息も荒く過呼吸気味になりつつ壁に背を付ける。

 

 もう逃げられないとそう悟ったのか、ストンとその場に尻もちをつき見下ろしたいた対象である俺を見上げる構図へ。

 

「そんな数々の疑問の答えは、昨日からやけに隠したがるその髪に隠れた片目にあるんじゃないか?」

 

「……はっ…はっ…ち、ちがい」

 

 ドンッ!と片手を壁に付くと拒否していたその口が閉ざされる、まぁ否定された所でする事は変わらないが。

 

 見てるだけでうっとりしそうな位には艶のかかった黒髪、俺の伸ばされた手にビクリと身体を震わし目を瞑るめぐみんさん……背丈は俺よりもデカくあろうとも、所詮は俺と同い歳の女性といった所か。

 

 あれだけ強く感じられた姿と力は何の意味もなく目の前でただ怯えるばかり、俺はゆっくりと腫れ物を扱うかの様に斜めに切り揃えられた髪をそっと……手の甲で持ち上げる。

 

 カタカタと震えるめぐみんさんの隠れた片目には、真っ黒い暗闇と透明な水が流れていた……いや、正確には両目からか。

 

「ここからまた俺の探偵気取りな頓珍漢な予想を言うのも良いが、それだと大事な大事な友人さんを侮辱する事になるかもしれない……なら、正確にめぐみんさんの口から正しい歴史を教えて欲しいんだが……どうだ?」

 

 そう伝えると急に全ての力が抜け落ちたかの如く俯き、震えも収まる。

 

 まるで死んでしまったかの様にプツリと動かなくなってしまっためぐみんさん、どうしたものかと待つ事数十秒、ポツリポツリと語り始める。

 

「……あれは、あれは半年程前でしょうか___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___ね、ねぇめぐみん。もしもよ?もしもまたアーネスが来たら……その時はどうすれば良いかな…?」

 

「何ですか、もしもも何もどうせまた来ますよああ言う輩は。いやぁ随分とモテモテで羨ましいですねちょむすけ?」

 

「なーお!!」

 

 まるで誇らしいかの様に胸を張っているのかちょむすけが鳴き声を張り上げる。

 

 やはり私の言葉が分かっているのか、私に相応しい天才っぷりに顔が遂綻んでしまう。

 

「どうせ来るって…、つ、次こそはどうにもならないかも知れないのよ!?私もあまり魔力も残っていないし、冒険者の方々だって昨日の夜の襲撃やさっきのゴブリンで……何もしてないめぐみんも少しは手伝ってよ!!」

 

「失敬な!!分かっていませんねぇゆんゆんは、私の魔法は絶望のピンチのここぞと言うタイミングで輝く物なんですよ!!全くこれだからボッチは……。」

 

「ボッチは関係ないからっ!?……そ、それに爆裂魔法が凄い魔法なのは知ってるけど詠唱だって時間掛かるし、私が時間稼ぎしようにも魔力ももうあまり残っていないし……。」

 

 と、何時になく真剣な面持ちのゆんゆん。

 

「……何ですか、やけに心配性ですね。」

 

「いや……うん、只の杞憂だったら良いんだけどね……なんだか、何だか嫌な予感がするの。」

 

 ゆっくりと流れる外の風景を遠い目で見ながら、そうゆんゆんが告げる。

 

 珍しい、私には届きませんが彼女も又紅魔族の中でも指折りの実力者、共にレッドプリズンで暴れ回ったと言うのに……らしくない。

 

「ゆんゆん、そう言うのはフラグって言われるやつですよ。どうせ私達の事ですから何だかんだあのアーネスとやらにも余裕綽々で勝利をもぎ取るに決まって」

 

「『カースド・ライトニング』ッ!!」

 

 最近聞き慣れた女性の声と共に馬車に繋がれていた馬の一匹に一筋の光が迸る。

 

 急に馬力を失った馬車はバランスを崩し後に停止、私は近くに居たちょむすけと女の子を抱えその場に伏せる。

 

「めぐみん!!」

 

「……どうやらお出ましの様ですね、ここでケリ付けてあげますよ!!」

 

「フフッ、アハハハハハッ!!随分と疲労困憊の様子だけど、口だけは達者みたいだね?……さぁ、ウォルバク様を返してもらおう!!紅魔の里や先程の様にいくとは思うなよ?」

 

 背中から翼を生やし空を飛ぶ上位悪魔アーネス、良い加減にして欲しいものだ。

 

「口だけ、とは本当に私を前にして出る言葉とは思えませんね……まさか、ゆんゆんがこの中で最大戦力だと言いたいみたいですね?」

 

「引っ込んでなちんちくりん。紅魔族を語るガキに興味はない、その手に怯えるウォルバク様に興味があるのだ。」

 

 ……カチン。

 

「良いでしょう良いでしょう!!私を弱いと思い込みたいその弱い頭にとっておきの魔法を……ッ!?」

 

 頭に登りかけていた血が一気に引いていくのを感じる、私は急に一部が真っ黒い何かで覆われた片目に手を当て……ドス黒い血で手が染まる。

 

「二度目は無い、すっこんでろ魔法の使えない女。」

 

 そう低い声で呟くアーネスの声は私には届かなかった、私の思考はその瞬間一つの感情に支配されたのだから。

 

「め……ぐ、みん…?」

 

 痛い。

 

「あ、あ………嗚呼ああああああああああああッ!?」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 止まらない血、ボドボドと手や地面にベタベタと付く私の片目から止め処無く流れる血。

 

 抱えていたちょむすけの事等、私の後ろで隠れていた女の子の事等、全てを忘れて喉から痛みを表す様に声を張り上げる。

 

 杖を放り投げ、ちょむすけから手を離しその場に蹲る。

 

「…よ、良くも……良くもめぐみんぉぉぉぉぉぉッ!!『ライトニング』ッ!!」

 

「怒りで我を忘れ我武者羅に魔法……『カースド・ライトニング』ッ!!」

 

「クッ…!?ま、まだまだ『ファイア・ボール』ッ!!」

 

「『カースド・クリスタルプリズン 』ッ!!」

 

 片目しか見えないながらも、痛みを我慢しながら私は顔を上げゆんゆんとアーネスを見上げる。

 

 ゆんゆんの練り上げられた中級魔法は私の目からしてもかなりの優れもの……が、やはり相手の上級魔法には敵わない。

 

「おい大丈夫か嬢ちゃんっ!?出血が酷いな……おい誰かプリースト!!手の空いた奴はあの嬢ちゃんの加勢に行くぞ!!」

 

「「「うぉぉぉぉぉぉッ!!!」」」

 

 馬車を護衛していた数々の冒険者がゆんゆんの手助けに、情けなくこの場で蹲る事しか出来ない自分が恥ずかしくて仕方がない。

 

 急いでプリーストの人が私の方に駆け寄ってくるが、ここまで酷くやられているのだ……回復魔法など気休め程度にすらなりやしないだろう。

 

 その場に投げ棄てていた大事な杖を持ちヨロヨロと立ち上がるとプリーストを制す、回復なんかよりも私はやるべき事があるのだ。

 

 頭痛の酷い頭を無視して一つ息を吐く、自分のけじめは自分でつけなければいけない。

 

 だから私は、祈る様に出来るだけ早く魔法を完成させようと……顔を見上げたその様子は地獄絵図と言う言葉が似合う有様であった。

 

 辺り一面に広がる様にバタバタと倒れる護衛の冒険者達、それぞれ空を飛ぶアーネスに有効打が無い事に気付いたのかゆんゆんを守る事に注力していたのだろう。

 

 重苦しい顔のゆんゆんは何処か焦った様子で早口で魔法を詠唱していた。

 

「『ブレード・オブ・ウィンド』ッ!!『フリーズ・バインド 』ッ!!」

 

「チッ!!鬱陶しい……見せてあげる、力の差ってやつを!!『ライト・オブ・セイバー』ッ!!」

 

 すっと手を構えると、光の刃が現れゆんゆんを一刀両断……と、リーダーと呼ばれていた人物が間に入って盾を構える。

 

「危ないッ!!グゥゥゥゥッ!?ガハッ……はぁ、はぁ。」

 

「リーダーさん!?」

 

「フッ、あ、安心しろ嬢ちゃん。俺達がこの身を体して嬢ちゃんを守るから様……あの子の為にも、嬢ちゃんに攻撃は任せるぞ!!」

 

「……!はい!!」

 

 悔しい。

 

 中級魔法までしか使えないと言うのにあれだけ頼りにされアーネスに有効打であるゆんゆん、そんなゆんゆんを守る為文字通り身を体してゆんゆんを守る護衛達。

 

 そんな皆を未だ見る事しか出来ない私が悔しい、目の痛みを引き摺り詠唱に集中出来ない自分が悔しい。

 

 あれだけ目の敵にしていたのに、今や私を見てすらいない私を舐め腐ったアーネスも悔しい。

 

 そんな負け犬思考が私の頭一杯に駆け巡った時、震えた小さな手で私の服の裾をひっぱる女の子が片目に映る。

 

「……お姉ちゃん……万が一の為の切り札なんだよね…?お、お姉ちゃんが倒してくれるんだよね…?」

 

 怯えた様子の女の子は、信じていない私自身を信じてくれていた。

 

 怯え隠れ逃げる事も出来たと言うのに、この女の子は私を信じて見守ってくれている。

 

 目の前にはあれだけ持て囃されていたゆんゆんですら苦戦する相手、そんなゆんゆんを守る事しか出来ない冒険者と言う光景が目に映っても尚、この子は私を信じてくれていた。

 

 一気にクリアになった私の思考はあれだけ大好きで信頼していた魔法の詠唱を忘れかけていた所、全てを思い出し女の子の頭を血が比較的付いていない方の手で撫で戦況に目を向ける。

 

「えぇ、任せて下さい……ほんのもう少ししたら、お姉ちゃんがとっておきの切り札でアイツを滅多打ちにしてやりますとも!!さぁ、物陰から見ていて下さい!!」

 

「……うん…!!」

 

 先程の心配そうな顔は何処へやら、私の言葉一つで笑顔になり今にも吐きそうな青褪めた様子で女の子を見ていたおばあちゃんの方へと駆け寄っていく。

 

 ……本当に後もう少し、もう少しでアーネスを倒せる。

 

 もう立っていられる冒険者も多くない、ゆんゆんも何時魔力が切れても可笑しくないこの状況……私に全てが掛かっている。

 

 次々とゆんゆんとアーネスの間に入って魔法を身体に受けて倒れる冒険者、心優しいゆんゆんは今直ぐにでもやめて欲しい筈だ。

 

 それでも皆の思いを無駄にせぬ様、出来る限りを力を振り絞りながらアーネスを私から背けるよう位置取りを調整している。

 

 全く、困った友人だ……私を御膳立てでもするのかどんどんと爆裂魔法のチャンスを作る様に動いていく。

 

 だが、そんな困った友人のお陰で私は本気を出せる。

 

「ゆんゆんッ!!」

 

 先程の痛みを受けた時の倍以上に声を張り上げゆんゆんの名を呼ぶ、彼女ならそれが合図であると気付いてくれる。

 

 詠唱していた中級魔法を瞬時に破棄し、アーネスの下を潜るように私の方へと走り帰って来るゆんゆん。

 

 そんなゆんゆんと私の様子に違和感を持ったのも束の間、アーネスの下に大きな魔法陣が現れる。

 

「……は?」

 

「油断しましたねアーネス!!私は、私はただのちんちくりんでも、口だけの魔法の使えない女ではありませんよ!!」

 

「やっちゃってめぐみん!!」

 

 気分が最高潮、詠唱も今まで一番上手くいっている自信がある、場も完璧……だからだろうか。

 

「えぇ見せてあげますよ、これが私の魔法……!!『エクスプロォォォォォジョンッ!!!」

 

 完全に物語の、良くある逆転劇の主人公だと思い込んでいたあの時の私をぶん殴ってやりたい……いや、あの時の私は立っているだけでもやっとだてただろう、殴ったりでもしたら本当に死んでしまう。

 

 そんな甘い思考の私だからこそ気付かなかった、そんな極限状態の私から放たれる爆裂魔法の威力と範囲などたかが知れていた、そんな甘い私だからこそ、私に向かって手を伸ばしていたアーネスに気付かなかった。

 

 アーネスを視界に入れているのに気付かないと言う矛盾、それを説明するにはその状況の私に酔いしれていたとしか説明のしようがない。

 

 だからこそ、疲れながらも笑顔で近付いていたゆんゆんの顔が歪んでいた事に気付かなかった、だからこそ、私はゆんゆんに守られているのだと気付かなかった、だからこそ…………ゆんゆんはアーネスの魔法に自分がぶつかりに行っているというのに、目の前で爆裂魔法とは又違った爆発が起きるまで気付かなかった。

 

 爆裂魔法の後に聞こえてきた爆発音、此方に走ってきていたゆんゆんが急に振り向き顔の前に手をクロスに構え爆発魔法をモロに受けた。

 

「………ッ!!そ、そんな馬鹿な…!!ゆんゆん!!ゆんゆんッ!!」

 

 未だ熱波の残る爆発後に私は駆けゆんゆんの名を呼ぶ、返事は返ってこない。

 

 アーネスの事など忘れ目の前でモクモクと黒い煙が立っている爆発後に手を伸ばす……焦げ臭い。

 

 目の前にあった感触を何とか煙から引き摺り出し姿を確認……私は息を呑む。

 

 そこに居たのはモロに爆発魔法を受けたのだろう、血だらけで所々皮は削り取られ肉が見えヒューヒューと薄い呼吸をするゆんゆんが居た。

 

 ……生きている、まだ生きている…!!

 

「誰か!!誰か回復魔法が使える者はいませんか!?ポーションでも何でも、誰か!!誰かまだ立てる者は……ッ!?」

 

 一人、私達を見下ろすかの様に立つ者が居た。

 

 ………が、それは人等とは到底言えない者であった。

 

 馬鹿な、あれだけゆんゆんの魔法を受けていたのだ、あれだけ魔力を消費させたのだ、あれだけ最高の場で爆裂魔法をぶつけたと言うのに……そこには、所々穴の空いたアーネスが立っていた。

 

 まさか詠唱を間違えたのか、いやそんな訳がない、ならなぜ……あれだけの爆発の中心地に居て尚立ち上がる事が出来るのか。

 

「フ、フフッ……アハハ、アハハハハハハハハハッ!?危うく負ける所だった……けど、貴方そのお嬢ちゃんが巻き込まれない様少し魔法を遅らした様ね…?ギリギリ生き延びれる所まで逃げれたわ……まぁ、羽はモガれちゃったけどね!!」

 

 狂気的笑い。

 

 勝利を完全に確信したその様子に私はゆんゆんを抱き寄せるしか無かった。

 

 バレていた、もし巻き込みでもすればと邪推した私はほんの少しだけ爆裂魔法の発動を遅らした……それが、それが此方に爆発魔法を撃つ隙を作り、逃げる余裕を残してしまった。

 

 あれだけ身を挺してゆんゆんを守っていた冒険者の頑張りを、私に最高の舞台を用意してくれたゆんゆんの頑張りを無駄にした。

 

 無い瞳から流れるのは果たして血であってか、涙であったか、私は恐怖で一杯であった。

 

「ふぅ……それじゃあ、まずは其処のお嬢ちゃんから……ね?」

 

「……ッ!!」

 

 私が抱き抱えるゆんゆんに手を向け魔法の詠唱を始めるアーネス、私はゆんゆんを抱き寄せ庇う事しか出来なかった。

 

 そんな不甲斐ない主人だからこそ、ゆんゆんだけに飽き足らず被害を拡大させてしまう。

 

「さよなら、強き紅魔族のお嬢ちゃん。来世では上級魔法を覚えれると良いわね?……『インフェ」

 

「なーおッ!!」

 

「ルノ』ッ!?ウォルバク様ッ!!」

 

 目を閉じ死を覚悟していた時、何処に隠れていたのかちょむすけが私とアーネスの間に割って入る。

 

 そんなちょむすけを狙っていたアーネスはちょむすけを傷付けまいとギリギリで魔法をずらそうと……ちょむすけの片耳を抉り取る。

 

「なぁぁぁッ!!」

 

「ちょむすけッ!!」

 

「あぁ違うんですウォルバク様!!貴方を、貴方を狙った訳では……ッ!?」

 

 わざとではないにしろ、ちょむすけを傷付けてしまい狼狽えるアーネス。

 

 私は未だ炎で侵食するちょむすけの片耳をローブで叩き炎を消す………このまま私は身内に被害を出し続けるのだろうか。

 

 どうしようもないこの状況で私が出来るのはゆんゆんを抱え、ちょむすけに生暖かい風を送る事だけ……何処か天才魔法使いなのだろう。

 

「お前のせいで……お前のせいでウォルバク様を…!!決めた、まずはお前からだ小娘ッ!!」

 

 標的を私に変え手を向けるアーネス。

 

 ……これで良い。

 

 私は足を引き摺りながら倒れたゆんゆんとちょむすけの前に立ち尽くす。

 

 二人が私を守ってくれたのだ……次は、私の番だ。

 

 刹那スローモーションの様な感覚に陥り私は紅魔の里での出来事、此処に至るまでの旅の出来事を思い出す。

 

 そして今更になって気付く……その思い出には何処にでもゆんゆんが居た。

 

 腹が減り貧しい思いをしていた時は、ゆんゆんの弁当を貪り食っていた。

 

 レッドプリズンで異端な目で見られていた時は、ゆんゆんが私の隣りでワタワタとしていた。

 

 こめっこの為に海に食材を取りに行って居た時は、ゆんゆんが生魚の感触に嫌悪を示していた。

 

 私が爆裂魔法の為にスキルの取得を渋っていた時も………ゆんゆんが代わりに隣りで中級魔法を笑顔で使っていた。

 

 悪態はつけど絶対に感謝を述べなかった私に、多種多様な表情で着いてきてくれていた。

 

 そんな私を信じてくれていたゆんゆんは今、私を信じて倒れている。

 

 ……何を、何をしているのだろう私は。

 

 後ろにグッタリとしているちょむすけを抱え震える足を手で叩き立ち上がる。

 

「………?何だ小娘、その汚らしい手でウォルバク様に触るな。」

 

 ゆんゆんが今この状況に陥っても決して手放さないでいる杖をスルリと取り出しポケットに入れると、近くに落ちていた冒険者の物であろう剣を持ちちょむすけの首に当てる。

 

「……き、貴様ぁッ!?」

 

「交渉です、そのまま魔法を放てばちょむすけも道連れ、かと言ってゆんゆんや他の人に手を出せばちょむすけの首を切り落とします。それが嫌なら……ここから離れて下さい。」

 

「フンッ、その様な状態で切り落とすだと?」

 

「本気ですよ。貴方ももうボロボロ、お互いに人質が居て此方に分があるこの状況……引き分けだと私が言っているのです。受け入れる以外に選択肢はありますか?」

 

 更に剣をちょむすけに近付ける……私はこの時、本気でちょむすけを殺すつもりであった。

 

 そんな私の様子に説得は無理だと分かったのか、二三歩後退りすると羽を伸ばし空を浮く。

 

「……覚えていろ小娘、次こそウォルバク様は返してもらう。」

 

 そう捨て台詞を残したアーネス、飛び去っていくその背中をただ見守るだけでは何処か虫の居所が悪かった為小石を数個投擲しておいたが効いたかどうかは分からない。

 

「お姉ちゃんッ!!」

 

 そう女の子の声が聞こえ振り向くと、後ろには街の門番や冒険者が多々向かってきていたのを最後に私は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___これが、私の無い片目の経緯と友人と言う言葉に反応した正体です……。」

 

「………。」

 

 想像していたよりも数倍思い事情が絡んでいた。

 

 もっと軽い事柄であると睨んでいた俺はその話を聞き冷や汗が止まらない。

 

 話し終え俺からの反応を待っているのか、何処か怯えた様子で俺を見つめるめぐみんさん……いや、うーん…。

 

 いやまぁ一応職員さんのお願いを請け負った身であるから、多分この事情をどうにかしろって事だろうけど……ちと期待し過ぎと言うか。

 

 俺の力じゃどうにも解決のしようがないと言うか、果たして何をどうして欲しいのか非常に疑問であった。

 

「……あの、その…無言なままで要られるのは少し気不味いのですが……。」

 

「ん?あ、あぁ悪い悪い。……いやまぁめぐみんさんが話してくれたんだから俺も言うけどよ、あの日あの場所に行ったのはご存知ギルドの職員さんの差し金何だがな?期待してるって言われて渡された物だからてっきり俺でも解決出来る問題かと思ったんだが……。」

 

「………まぁ、初心者冒険者である貴方には厳しすぎる内容ですね。だからこそ、何を思ったのか分からないのですか。」

 

 後俺に残された普通の人にはないアドバンテージと言えば………あ。

 

「いや分かった、分かったぞ!!俺がめぐみんさんの手伝いが出来る事ってのが!!」

 

「!ほ、本当ですか…?」

 

「あぁ、そのゆんゆんとやらの敵討ち…今はその赤い点の強い魔物が出る場所を虱潰しに探しているって状況だよな?」

 

「えぇ、残念ですが未だかすりもしてないですが。」

 

 成る程成る程見えてきたぞ、姉ちゃんに出来なくて俺に出来る事、ギルドに出来なくて俺に出来る事、それはズバリ……!!

 

「めぐみんさん、いやめぐみん!俺と付き合え!!」

 

「ど、何処へですか?」

 

 頭にハテナを浮かべ本気で理解出来ないと言わんばかりに頭を傾けるめぐみんさん。

 

「何処へじゃない、俺だ!俺と付き合えって事!!」

 

「……へっ…?」

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