あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン!   作:おふざけちゃん

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あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 紅色の片目 5

 

 

 

「第五章 この仮初め彼女と逢引を!」

 

 

 

「___ど、え…?つ、つまりどういう意味ですか?」

 

「どういうも何も、俺とめぐみんさんが付き合えば良いんだよ。」

 

「……一体何故?」

 

 パチパチと瞬きを高頻度で繰り返し疑問をぶつけるめぐみんさん、成る程もう少し分かり易く伝えた方が良いのだろうか。

 

「良いか?まずそのアーネスとやら、何故今の今まで姿を現さなかったか分かるか?」

 

「……これはあくまで予想ではありますが、直ぐに羽を修復しなかったり私の片目を打ち抜いてきた時の様な高速詠唱をしなかった所を見るに……少なくとも、私の爆裂魔法でかなり消耗していた筈。それが完治しなかったからでしょうか。」

 

「俺も概ねその考えに同意だ、だがもしめぐみんさんがアーネスの立場であった時……果たしてめぐみんさんを視界の片隅にすら入れずに回復に専念するか?」

 

 そう俺の言葉に少し考え込む様に押し黙り、暫しの沈黙が流れる。

 

「いえ、何かしらの手段を用いて監視、又は邪魔を送り込みますね。………つまり、何処かに私を監視している者が居ると言いたいのですか?」

 

「あぁ、そう思う。」

 

「………ですが、それが私と貴方が…そ、その…だ、男女の仲になる事の関連性は無いと思うのですが。」

 

 もじもじと口ごもりながらチラチラと俺を見てくる、正直先程からめぐみんさんの様々な態度に少し動揺しているのだが………まぁそれは良いだろう。

 

 ここからだ、俺が真に伝えたい事と言うのは。

 

「簡単だ、俺は此れでも貴族の端くれ……結婚式をするとなればそれはまぁ大層な物をやろうと思えば出来る………多分。さぁそんな俺の結婚相手はあの宿敵のめぐみんさん、アーネスの立場からすればそんな油断だらけの瞬間を逃すまいと仕掛けに……!そこをドンって訳だ。」

 

 まぁもしかしたら、て言うかほぼ確実に姉ちゃんに止められるだろうが……そこは未来の俺に任せる事にしよう。

 

 俺の作戦内容を聞き先程のおどおどしていためぐみんさんは何処へやら、真剣な面持ちでブツブツと独り言を呟きながら俯く。

 

 だが本人も過去述べていた様にやはり天才と言うのは間違いないのだろう、直ぐに顔をバッと上げ俺に見つめ直す。

 

「そもそも、監視されていると言うその状況で私が置かれていると言うのはそうだとして、貴方と結婚するのが相手の耳に確実に入るとは思えません。結局無駄に結婚式を上げるだけならもっと別の目立つ案を考えた方が……んぐ!」

 

 と、煩い口を人差し指で止める。

 

 此方をジト目で見るめぐみんさんには悪いが何時までも平行線な話を繰り広げるつもりは毛頭ない。

 

「だから付き合うんだよ、まぁこんななりでもここじゃなけりゃそこそこ顔が知れてるんだ……それを活用させて貰う。」

 

 それにもし博打で結婚式を上げるだけのつもりなら最初から結婚してくれと頼む、わざわざ付き合えと言ったのにも理由があるのだ。

 

 だがまだ分からないと言いたげな目で俺を睨むめぐみんさん、俺は人差し指を服で拭いながらアクセルの街とは正反対の方へ指を指す。

 

「ベルゼルグ王国、まずは其処に行く。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついこの前まで訓練と言う名目で城の中をウロウロしていた俺は、何だかんだ本格的に街を詮索するのは初めてだなと思いつつ馬車から降りる。

 

 セレブ気取りの為に姉ちゃんの部屋からこっそり拝借したサングラス、服に興味が無かった俺に何時も仕立てしていてくれたメイドさんにとびっきりの服を選んでもらい、胸元にはこれまた姉ちゃんの部屋から拝借した家紋入りのペンダント。

 

 家の者に頼み何時もイグニスさんが手配している高級な馬車の馬を撫でながらもう片方の扉の方へと歩く。

 

 此れでもかと教えられた貴族の作法をここで遺憾無くハッキするべく、メイドさんからの地獄のレッスンを日々を思い出しながら扉を開け手を差し出す。

 

「………あ、有り難う御座います……カ、カ、カズ……君…!」

 

 プルプルと震えながらサングラス越しにでも分かる程に顔を真っ赤にしためぐみんさん、改めめぐみんが緊張しながら手を取り馬車を降りる。

 

 運転手にウィンクで合図を送るとエールを送るかのグッと親指を立てその場から去って行く、何時もは口の軽い人間しか周りに居なかったのを不便に思っていたが……今だけは感謝だな。

 

「あ、あの…。」

 

「ん?どうしためぐみん。」

 

「わ、わわ私もカズマと呼ぶのではなく………カ、カズ君と呼ぶ必要はあるのでしょうか…?」

 

 何を言ってるんだこの女は、俺のモチベーション維持の為に必要に決まっているだろうに。

 

「当たり前だろう、もしアーネスに俺達が偽物の恋人だとバレたらどうするつもりだ?俺だって恥ずかしいんだ、我慢してくれ。」

 

「の割には随分とノリノリな様ですが…っ!!」

 

 と煩い口を封じるべく今度はめぐみんの空いて手に絡める様に、昔本で見た俗に言う恋人繋ぎとやらを実行する。

 

 そのまま周りの好奇な目など何処吹く風、俺は掛けていたサングラスを少し上にずらし周りに俺の顔の全体が分かる様に辺りを少しだけキョロキョロ……お、何人かは気付いた様だ。

 

 そんな目に耐えられないとばかりに先程から俯きがちなめぐみん、まぁ別に今はめぐみんが顔を晒す必要はないから良い。

 

「うし、そんじゃ其処の道を右に曲がった場所に貴族御用達のお洒落なカフェが有るらしいぞ。多分パパラッチも大量に潜んでるだろ、ほら行くぞ。」

 

「………。」

 

 グイッと引っ張る様にめぐみんの手を引き道を突き進む。

 

 ざわざわと道の端で噂をする貴族や一般人や冒険者達、俺の顔を知っている者は黄色い悲鳴を、知らない者は見ず知らずの男がダスティネス家のペンダントを掲げながら知らない女を連れてセレブ気取り……どっちにしろ噂は絶えないだろう。

 

 後からびっくりする位にイグニスさんに説教、姉ちゃんには拳骨を貰うだろうが……まぁそれもまた未来の自分に任せよう。

 

 俺は困った女性を出来る限りの力を使って救おうとしているだけなのだから。

 

 と、道すがら見知った顔を発見した……いや、してしまった。

 

「……何をしてるんですかカズマさん、ララティーナ様に怒られますよ。」

 

「よぉ久しぶりだなレイン。此方は俺の……うん、俺の女のめぐみん。」

 

「……ど、どうも……。」

 

 そんな俺の言葉に理解が出来ないとばかりに硬直、その後疑わしい目で俺を見つめるレイン。

 

「今度は何を企んでるのかは知りませんが、見てしまった以上ララティーナ様には御報告させて頂きますよ。はぁ……クレア様が報われませんね……。」

 

「どうぞどうぞ、寧ろアイリスにだって言ってくれても良いんだぜ?お兄ちゃんの晴れ舞台を見せてやりたいからな。」

 

 まさか広めろと俺に言われるとは微塵も思っていなかったのか、驚いた顔から一変何かきな臭い事柄に巻き込まれたと面倒くさそうな顔に変わる。

 

 レインも俺と同じで変に頭が回るタイプの人間、ましてや昔から俺と関わっているのだから己の置かれた状況を瞬時に理解したのだろう。

 

 チラリと俺の横のめぐみんに目を移し、その正体が誰か分かったのか少し目を広げると背を向ける。

 

「まぁ、分かりました……。では、私は御使いの途中でしたのでそろそろ……また何処かで、カズマ様、めぐみん様。」

 

 此れで更に敵の耳に入る確率が上がったであろう、持つべき者は深くまで探ってこない察しの良い友人なのだ。

 

 さてここで立っていてもあまり意味がない、俺の狙いはカフェに居るパパラッチどもなのだから。

 

 レインに時間を食われたが時間にあまり余裕は無い、出来るだけ相手が回復しきってない内に仕留める為早く事を実行する必要があるのだ。

 

 その事を内心では理解しているのか、気恥ずかしそうにしながらも俺に手を引かれ後を着いてくるめぐみん。

 

 突き進んでいた道を右に曲がり二三軒見逃し、看板に何も書かれていない店の前に到着。

 

「……あの、本当に此処なんですか?」

 

「貴族御用達なんだからそんな外見から分かる様にしてる訳ないだろ、こう言うのは扉を開ければ分かるんだよ。」

 

 一見空き飲食店にしか見えないこの店も、少し重い扉をグッと押せば……中は外からは想像の付かない位に広がっていた。

 

 外のワイワイガヤガヤとした雰囲気からは一転、存在がお洒落に固められた様な見た目をした金持ちが静かに飲み物を楽しんでいた。

 

 当たり障りのない会話の様に見えるが、それは多分裏で示し合わせた暗号の様な物なのだろう……楽しそうな会話をしている者の顔は何処か憂鬱である。

 

 そんな周りの客を眺めるのも面白いが、俺達はここに皆と同様演技をしに来たのだ。

 

 上品なウェイトレスに案内され奥の方のほぼ個室の様な場所へと、めぐみんを奥に座らすと対面に俺も腰を落とす。

 

 先程の店員の俺の胸元を見る仕草、もしこれがなかったらこんな良い席へは行けなかっただろう。

 

 慣れない雰囲気にこれまたぎこち無い動きで俯くめぐみん、正直もっとリラックスして欲しいのだが……まぁ良いか。

 

「ほら、取り敢えずガヤが集まって来るまで普通に食い物でも食ってようぜ……お、見ろよめぐみんこの見るからに高そうな飲み物。これ一つで十数桁万エリスはするらしい……たけぇな。」

 

「じゅ、十数万エリス……ですか…?私には縁のない飲み物ですね……。」

 

 テーブルに置いてあったメニュー表を青白い顔で見るめぐみん、大物討伐でアホ程稼いでいるだろうに何を言っているのだろうか。

 

「そう心配しなくてもここは俺が払うよ。こう言う時じゃないと普段溜まりに溜まってるエリスの使い道が思いつかないからな。」

 

「い、いえ流石に其処までして貰う訳には……!!唯でさえこの様な服を仕立てて貰って置いて、更に高級そうな馬車を手配して貰っている立場なので……。」

 

 何処か遠慮ガチな姿、めぐみんは実力に伴った報酬を受け取っている筈なのでエリス自体には使い切れない程に持っていても不思議ではない……では、彼女の生い立ち等が関係するのだろうか?

 

 事実ゆんゆんとやらと片目については知っていても、彼女自身を知らない自分は推測する事しか出来ない。

 

 唯常に横暴で居られるよりも、どちらかと言えば引き気味な人間の方がエリスの払いがいがあるって物だ。

 

「まぁ遠慮すんなって。俺から手伝わせてもらってる立場なんだ、少なくとも俺の出来る限りの事はさせてくれ。」

 

 そう、俺はあくまで職員さんに紙を渡されただけで手伝えと指示された訳ではない……俺がこの目で見て、この耳で聞いて、手伝おうと判断を下したのだ。

 

 そんな俺を理解してくれたのか、今だ渋り顔で有りながらもスッと一つのメニューに指を伸ばす。

 

「では、此方の飲み物をお願いします……好意を無下にする訳にもいきませんからね。」

 

「はいよ。」

 

 テーブルの横隅の方に置いてあったボタンを押し、店員に注文を終えると俺達は良い加減邪魔くさいサングラスを取り胸ポケットに掛ける。

 

 そしてめぐみんは冒険服の時とはまた違ったキャップを外し髪を整える……さて、めぐみんの顔もまぁそれなりに知れ渡っている筈だ……ダスティネス家の御曹司と今話題の天才魔法少女の密会、それを見つけれる運の良いパパラッチは居るのだろうか。

 

 まぁ居て貰わないと困るんだけどな。

 

「あの、改めて作戦会議といきたいのですが……良いですか?」

 

「あー、幾ら個室紛いと言えど周りにも客が居るからなぁ……そうだ、俺もそっちに座るわ。」

 

「え?あ、あぁど、どうぞ……。」

 

 そそくさとめぐみんの隣り腰掛ける、この距離感であればもっと声を落としても良さそうだ……それに、距離感が近ければそれっぽく見えるだろう。

 

「それで?何か気になる事が………まだその格好恥ずかしいのかよ。」

 

「そ、そう言う訳ではないのですが……。」

 

 未だ着慣れない服に照れた様子で縮こまっているめぐみん、まぁ話す上で支障が出ないのであれば何でも良い。

 

「そ、そのですね…改めて流れを確認したいのです。急に説明されて完全に理解していた方が何かあった時の為の軌道修復もしやすいと思うので。」

 

「そうだな、確かにあの説明だけじゃまだ足りない部分もあったしな……んじゃ良いか?耳穴かっぽじって聞いとけよ。」

 

 顔を赤く照れていたのは何処へやら、真剣な面持ちへと変貌し俺の話を聞く体勢に。

 

「まず、この後俺達が男女の仲だと王城に、アクセルに、世界中に知らせる為に見せつけるんだ……ここはその為の準備その一見たいな所だな。」

 

 と、説明していると何やら此方を伺う人物の影が見える……もう聞きつけたのか。

 

「ここを出たら街の中心部に出たり、まぁ兎に角そこら辺を歩き俺達の関係を匂わすんだ………その時に写真でも撮られたら最高だな。確たる証拠としてなるからな。」

 

「あの、そこでふと疑問に思ったのですが、貴方のお姉さんと貴方のお仲間は御自身が貴族であると言う事は隠されていましたよね?事実ダクネスと言う名のクルセイダーが居るのは知っていましたが、彼女がダスティネス家の令嬢であるのは今日初めて知りました。」

 

「本人はバラすつもりは無かったんだろうな、でも大好きな弟に女が出来たと思って其処まで頭が回ってなかったんだろ、俺自信は別に貴族である事を隠そうとは思ってなかったしな……今頃、落ち込んだ姉ちゃんが自分の行動を思い出して頭を抱えてると思うよ。」

 

 ブラコンも大概にして貰いたい物だ………、だからこそめぐみんとの関係を説明する時に面倒くさいのだが。

 

「………随分と愛されてるのですね。ただ姉弟を心配すると言うのは私も分かりますよ、私にも妹が居ますからね。」

 

 まぁそちらと違って血は繋がってないけれど。

 

「んじゃ話戻すぞ、貴族バレはまぁ良いとして……その後、実際に写真が撮られたり噂が広まったその時、俺達二人が実際に一緒に仲睦まじくギルドへ入って行き一緒に依頼を受け、一緒に帰り道へ着く……もうここまですれば完璧だな。」

 

「成る程……結婚のタイミングは何時発表する予定ですか?」

 

「そうだな……出来るならギルド職員が全員揃っているタイミングが良いな、如何せん検討が付かないからな。」

 

 と、又も理解出来ないとばかりに首を傾げる。

 

「何かギルド職員に関係が?」

 

「え、そりゃだって半年前って言えば俺はまだアクセルの実家に居た時。日課にしてる新聞にそんな話が載っていた事に覚えはないし、それだけの被害があったのにまるで噂になっていない……逆に怪しまなかったのか?」

 

「………当時はそれ所じゃなかったので、寧ろ今何故その考えに辿りつかなかったのか不思議でありません。」

 

 当時……となると、ゆんゆんとやらに庇われたその後か。

 

 結局その後どういう経緯があって今の彼女になったのか、気になってはいるが……まぁ今はまだ聞かない方が良いだろう。

 

 唯でさえ無理矢理聞いた様な物なのだ、その続きは本人が必要だと判断した時に任せるとしよう。

 

 さて、そろそろか。

 

「めぐみん、帽子貸して。」

 

「?えぇ、そもそもこれは私のでは……へッ!?」

 

 出口側に帽子を向けめぐみんに顔をグイッと近付ける。

 

「静かに。」

 

 カチ、そうスイッチを押す様な音が聞こえた様な聞こえなかった様な………チラリと出口側に目を移すとサングラスを掛け、マスクをした如何にもな人間が小型カメラを掌で隠し此方に視線を送っていた。

 

 まるで良い物が撮れたとばかりにそそくさと荷物を片付け店を出て行く……良し。

 

「写真はバッチシ撮られたぞ、次はそうだな………商店街にでも行こうか。」

 

 目元と口がギリギリ隠れる様に上手く帽子で隠していたのを降ろしめぐみんに被せる、それはまるでキスでもしているかの様に見える写真、スクープ他ならないだろう。

 

「………?おい、めぐみん?」

 

「………はい…。」

 

 フイッと顔を逸らすめぐみん、その片目は爛々と赤く輝いている……良い加減慣れて欲しい。

 

 財布から適当にエリスを取り出し会計を済ませると一言。

 

「釣りはいらん。」

 

 言ってみたかった言葉の内の一つを言い残し店を後に……と、そう上手く物事は運ばない。

 

「いえ、キチンとお釣りは受け取っておきましょう。昔知人がバイトしていた時にお釣りを渡されてもその後の集計を合わせたり店長に報告したり、と色々とトラブルが起きると聞きました。」

 

「……はい。」

 

 逆に俺が顔を背ける羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___今。」

 

「はい。」

 

 俺の合図に合わせスルリと腕を絡ませるめぐみん。

 

 暫くその状態を維持した後タッタッタとカメラを隠し持った人物が去るのを確認し、端の方へと退けて行く。

 

「……はぁ、流石に疲れてきましたね。」

 

「まぁ彼処のカフェ以降ずっと立ちっぱなしだしな、時間も良い位だしそろそろ宿を取って明日はアクセルへ帰るか。」

 

 良い加減演技ばかりして慣れてきたのか、恥ずかしさはもう殆ど残っていなく今は心身共に披露した様子。

 

 俺も常に周りに気を配りながら演技をしつつ、尚且つ不自然に見えない様厚底靴を履いてい中歩き続けて良い加減何処かで腰を降ろしたい。

 

「そうですね、私も明日はアーネス探しに戻りたいですし……あ、彼処何か良いんじゃないですか?見るからに高そうって訳でもなければ、訳ありそうな場所でもありませんし。」

 

「え?あ、あぁ……う、うーん……彼処かぁ…。」

 

「?何ですか歯切れの悪いですね。もう私は良い加減足が痛いです、カズ君も良い加減その厚底靴じゃ足が痛いんじゃないんですか?」

 

 見栄を張ってる訳じゃないのだが、指摘されるのもそれはそれで恥ずかしい気持ちになってくる。

 

 しかしめぐみんが指を指している宿はその、所謂………。

 

「ほら、さっさと歩いて下さい!!」

 

 背中をバシッと押され渋々王城に相応しい宿へと入る、俺のめぐみんへと印象は初な生娘で照れ屋だと思っていたのだが……どうやら、本来は大雑把な紅魔族と行った所だ。

 

 だからこそ、そんな目立ちたがりな自信家な自分を抑えるキッカケになったゆんゆんとやらが気になって仕方がないのだが。

 

「すいません二部屋空いてますか?」

 

「………いや、今空いてるのはダブルベットの一部屋だけだな。」

 

「そうですか、ではそこでお願いします。さぁカズ君行きましょう、もう足が限界です。」

 

 部屋の鍵を受け取りズンズンと奥の方へと進んで行く、店主の俺を見る目が情けない奴を見る目であったのは頂けない、俺が情けないのでは無くめぐみんが気付いていないだけなのだ。

 

 数秒もしない内に部屋の前につき鍵を差し込み足を踏み入れ……やっと、めぐみんは此処がどういう場所か分かった様だ。

 

「何ですかここは……随分と甘ったるい匂いが満遍していますね。」

 

「本気で分かってないのか?」

 

「何がですか。少なくとも私が泊まっている宿はこんな変な匂いはしていませんでしたよ。」

 

 成る程、そもそも存在を知らないのか。

 

 周りに貴族育ちしか居なかった為この宿の存在は知っていて当たり前、と思っていた脳の情報を新しく上書きする必要がありそうだ。

 

「ここはほら……あれだよ、所謂男女の関係を更に深く、というか繋がる場所だよ。」

 

「………?あぁ、成る程。なら心配いらないですね、それじゃあ先にどうぞカズ……いや、今はカズマで良いでしょう、先にお風呂に入ってきて下さい。」

 

 コイツは本当に分かっているのだろうか。

 

「いやおい、俺だって男だぞ?もしかしたら寝てる隙に、何て思わないのか?」

 

「えぇまぁ、と言うより私の方が強いので抵抗出来ますし。それとも何ですか、手伝ってやってる代わりに身体を……何て言いたいんですか?」

 

 酷く呆れ顔でやれやれと言わんばかりに肩を竦めるめぐみん。

 

 いやまぁ俺の方が弱いのは事実何だけど、身体も要求はしないけど……もっと危機感を持った方が良いと思うのだが。

 

 これも貴族育ちが故の杞憂であるのだろうか、色んな意味で経験の無い為正解を導き出せない。

 

「はいはい分かった分かった、ほんじゃ先に入るわ。」

 

「はい、溺れない様に気を付けて下さい。」

 

 舐めんな。

 

 そんな罵倒とも言える言葉を聞き流しながら風呂場へと向かい、服等を雑に畳むと風呂の戸を開け………あ、そういや俺魔力の注ぎ方とか分からねーわ。

 

 時偶俺の授業をしに来てくれていた人との内容等微塵も覚えていないし、かと言って冒険者になった今でも魔法自体はまだ習得していない。

 

 経験値自体は今まで食べてきた新鮮な野菜等でそこそこあるだろうが、役職が役職な為自分から自発的に魔法を覚えられていない。

 

 ポケットにしまっていた役立たずな冒険者カードを暫し見つめた後、めぐみんを呼ぶ事に。

 

「めぐみーん!!そういや俺魔力注げれないからめぐみんが代わりにやってくれ!!」

 

 そう少し大きな声で告げるとガチャガチャと扉を回し開け、俺の姿を見て即閉じた。

 

「………先に服を着てください。本当に最悪です、そんな粗末なモノを見せられる此方の気持ちにもなって下さい…!!」

 

「そう冷たい事言うなよ。本来ならお互いに見せ合う場所だぞ?」

 

「良いから早く来てくれませんかッ!?ソレに向けてエクスプロージョンしますよッ!?」

 

 おぉ怖い怖い、エクスプロージョンってのは確か………爆裂魔法の事だったか、今にして思えば何でコイツそんなお巫山戯魔法憶えてるんだ。

 

 色々と不思議な女ではあるが、まぁそれもまた後で聞くとしよう。

 

「ほら、着たから早くしてくれ。このままじゃ風呂に入るのがかなり遅れちまう。」

 

 ギイッとゆっくりと開けられた扉からはジト目で俺を見るめぐみんが顔を覗かせると、俺の姿に胸を撫で下ろし風呂場の方へと歩いて行く。

 

「………いてっ。」

 

 とついでに拳骨も下ろされた。

 

 本来はめぐみんの方が身長が高い為上から綺麗に拳骨を入れられる、此れでもかなり手加減されているのだろうめぐみんのレベルの高さが伺える。

 

「そこで見守るだけで無く見て憶えて下さい、せっかく里一番のてんさ………いえ、此れでもアークウィザードです、魔法はある程度は教えられますので。」

 

「なぁ、やっぱりその無理矢理な謙虚心はやっぱりゆんゆんが関係してるのか?」

 

「………。」

 

 本人は謙虚な人間である、と言ってはいたがやはり先の発言や言葉の節々に見える自信家な所、アーネスとの戦いの時を語る過去の彼女は自分を天才だと信じて止まない、そんな少女に思える。

 

 だからこそアーネスの戦いの後、そんな自分を封印しているのだろう。

 

 戦いを語る彼女の言葉は後悔と自責の念に駆られていて、全て自分の責任だとそう言いたげな………それでも遠回しな所を見るに、残っているちっぽけなプライドが邪魔をしているのだろう。

 

「………あの後、私はとある宿で目を覚ましました。」

 

 無言で魔力を送り湯を貯める彼女が、ポツリと言葉を溢す。

 

「視界はボヤケ、頭も上手く回らず……まぁ片目を魔法で撃ち抜かれたのを長時間放置、ボロボロな身体を無理矢理動かした挙げ句爆裂魔法を撃ちましたからね………逆に死んでいなかったのが不思議で仕方がありませんでしたよ。」

 

 髪で隠れた片目に空いている手を上から抑え付け、苦しそうな顔で過去を語る。

 

「慣れない視界で辺りに手を伸ばしながら其処が何処であるのかを探りました。幸い何度か宿に泊まった事があった為すぐに其処が宿だと気付きましたが、次はゆんゆんが何処へ居るのか探しに行こうとしたその時、隣にもう一つ私が寝ていない方のベッドがありました。」

 

 ギュッと魔力を注ぐ腕を抑えプルプルと震える手を見つめながら、その時の心境を鮮明に思い出していく。

 

 とても辛そうで、とても悲しそうで、とても悔しそうで……それでも、それを止める訳にはいかなかった。

 

「寝息が聞こえました。その時は良かった、生きていた、死んでいなかった、安堵の思いでいっぱいでした………でも、彼女の姿を見てからはとても安堵何てしていられませんでした。」

 

 やがて魔力を注ぎ終わったのか、ポチャンと暖かそうな湯を張った風呂を見下ろしながらその場に蹲るめぐみん。

 

「………唯一救いだったのは、ゆんゆんの端正な顔立ちは無事だった事でしょうか。それでも、全身包帯で巻かれ隣に複数人のプリーストが座って眠っていたり、立ったまま寝ていたり……と、その悲惨ぶりは包帯の内側を確認するまでもありません。」

 

「………それで、ゆんゆんは無事だったんだな?」

 

「分かりません、今も尚その宿で眠り続けています。半年間、一度たりとも目を覚ます事はありませんでした。それは身体の損傷からくるものか、はたまたアーネスによる呪いの様なものか、定かではありませんがハッキリ無事だとも言い切れません。」

 

 つまり、めぐみんがアーネスを探し続ける理由は只の復讐なのではない。

 

 もし呪いが掛けられているのだとすれば、アーネスを倒せばその呪いは強制的に解かれる事となる……が、もし呪いなどではなくまた別のモノだとした場合、めぐみんはまた別の問題を解決しに行くだろう。

 

「それで、その後はどうなったんだ?その時の話を聞く感じ、爆裂魔法以外使えなかったんだろ?だったら今みたいに上級中級魔法を使える様になるまで合った事とか。」

 

「その後……ですか。まぁ、色んな冒険者に頼み込んで何とかコツコツスキルポイントを稼ぎましたよ。……最も、爆裂魔法しか使えない無能な私を入れてくれるパーティー等限られていましたが。」

 

 フッと自虐的に過去の自分を嘲笑う……何だか、そんな姿を見たくなかったと言う気持ちが湧いてくる。

 

「へぇ、聞く感じ爆裂魔法とやらは相当使えない魔法なんだな。昔何かの授業かで覚える必要が無いだとか言われた事があったが、本当だったんだな。」

 

「………ッ!!…え、えぇ……実際に使っていた私が言うので間違いないです。仲間を盾にしないと、犠牲にしないと使えない……た、只のネタ……ま、ほう……です…!!」

 

 ギュッと悔しそうに手を握る、やはり身体は正直何だな。

 

 もし今のめぐみんがアーネスと出会った時、上手く作戦通りに行った時彼女はアーネスと相打ちしてでも倒そうとするだろう。

 

 実際どちらが強いか何て分からない………が、最初から自分が負ける事を考える奴は勝てる筈が無い。

 

 そんな考えは過去の彼女なら大嫌いだっただろうに、今は自分を抑えて大嫌いな人間になろうとしている。

 

「……そうか、ならしょうがない。そんなネタ魔法を使う仲間を持ったゆんゆんは無駄な犠牲だったと」

 

「カズマッ!!」

 

 ドンッと鈍い音が鳴りながら俺を風呂場の床に押し倒す殺気に満ちためぐみん、あの時胸ぐらを掴まれた時とは比にならない程の怒りを見せながら俺を睨みつける。

 

 首に手を掛け今にでもシメれる……と言うか若干締まっているので少し、いやかなり苦しいのだがこのまま俺は悪役に徹しなければならない。

 

「な……んだよ、使えない魔法を覚えたお前が悪いんだろっ!?お前のせいで、爆裂魔法のせいでゆんゆんは昏睡状態になったんだろッ!?違うかッ!!」

 

「違います…!!違います違います違いますッ!!!私のせいでは、爆裂魔法のせいじゃありません!!使えない魔法何かじゃありません!!爆裂魔法は、爆裂魔法は最強の魔法何です!!」

 

 ギリギリと首を締め上げる……もう少し、もう少し何だ耐えてくれ俺の身体!!

 

「じゃあお前が無能だな!!お前の様な紅魔族で随一の落ち零れのせいかッ!?」

 

「わ、私は……私は紅魔族随一の爆裂魔法の使い手!!めぐみんです!!里一番の天才で、神童で、いずれは魔王にだって…!!」

 

 ハッと気付いた様に髪で隠れていた見下ろしていた顔を上げ手を緩める。

 

「……言えたじゃねぇか、今のめぐみんをゆんゆんは待っていたんじゃないか?」

 

「あ…、あ…、で、でも私は……そんな傲慢なせいで……ゆんゆんを……!!」

 

「死んでねぇんだろッ!!」

 

 パンッとまた俯きがちなめぐみんの顔を頬を持ち上げ目線を合わせる。

 

「ゆんゆんは死んでなんかいねぇ!!待ってんだ、お前がアーネスを、敵討ちしてくれるのを……そんな弱気なめぐみんをゆんゆんは信じてくれるか!?あの時、アーネスに敗れた時、ゆんゆんはめぐみんを信じてくれていたから!!爆発魔法から身を張ってめぐみんを守ったんじゃねぇのかよ!!」

 

 ハッキリ、実際の所どうだったのかは知る由もない。

 

 もしかしたら俺の予想通り信じていたのかも知れないし、はたまたまた別の目論見があったのかも知れないし……だが今は確認のよちがない。

 

 ならば尚更へこたれる暇など無い筈だ。

 

「そんなに悔やみたいなら敵を取ってからにしろ!!ゆんゆんが目を覚ましたその時、あの時はごめん……友達だったら、親友だったらそれ位許してくれるだろ!!多分!!」

 

「………あ…うぅ…ゆ、許してくれるでしょうか…?」

 

「あぁ当たり前だろ!!………多分。」

 

 うるうると瞳を潤しながら、俺の足に縋るように見上げる。

 

「う…あぁ……えぐ…っ!!」

 

「………。」

 

 等々我慢出来なくなったのか、めぐみんは涙を見せた。

 

 ここで風呂場で良かったと心底思う、昔姉ちゃんが言っていた……風呂は汗と汚れだけでなく、涙を流してくれると。

 

 ポタ、ポタ、と俺の服の様に涙が落ちるのを感じながら……俺は姉ちゃんの言葉を信じきれないままでいた。

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