あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン!   作:おふざけちゃん

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あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 紅色の片目 6

 

 

 

「第六章 この手遅れ姉ちゃんに弟成分を!」

 

 

 

 チラチラと俺を見る周りの目を受け、どうやら上手く噂が広がったのだと安堵していたのも束の間……ダンッ!と机から物凄い音が鳴りそちらに目を奪われる。

 

 俺は今、アクセルの街へ帰って来て絶賛ギルドへと入り浸っていた所だ………姉ちゃんとクレアと共に。

 

 目の前に座るのは俺からサングラスを奪い真顔で俺を見下ろす姉ちゃん、そして呆れ顔で素知らぬ顔とばかりに他所を見るクレアとの対比が凄かった。

 

「………で?結局、アイツとはどういう関係なんだ?カズマ。」

 

「あ、あの姉ちゃん俺はカズマじゃなくてコリウスだって……」

 

「それは今!!この話に関係があるのか?」

 

 又も机を叩き本気で破壊するつもりなのかミシミシと音が鳴るのも気にせず拳を振り下ろす、嫌関係があるも何も姉ちゃんが隠せって言ったんじゃん…。

 

 確かに俺がダスティネスの家紋を首に掲げている事がバレた今、コリウスと名乗る必要は無くなった……が、それが姉ちゃんの怒りを更にヒートアップさせる結末となっている。

 

「し、信じてくれ姉ちゃん…!!これも必要な行動だったんだ!!」

 

「ほう?ならどう必要だったのか、その口で説明してみろ。うん?」

 

「……カズマ、悪い事は言わん。全て話した方がお前の為だ。」

 

 本気で俺の身を案じた上の言葉なのか、同情を含んだ声色で俺に説明を促すクレア。

 

 ……が、俺は決してめぐみんとの間に合った事情を話す訳にはいかない。

 

 一つ、単純にめぐみんのメンツを守る為にも昨夜の事は話せない。

 

 二つ、敵がギルド内部の人間だと仮定した時ギルドと深い関わりのある貴族、特にこのアクセルの街だと姉ちゃんやギルド職員にゆんゆんの居場所、状態、めぐみんとの偽りの関係を話す訳にはいかない。

 

 姉ちゃんと深い関わりだと言う所で、クレアも該当してしまう。

 

 三つ、もし話して姉ちゃんが仮に話を誰にも漏らさず、何処にも漏れなかった所で俺がこの後とんでもない目に合うのは確定しているのだ。

 

 ならば乙女の秘密は守る主義のカズマ様はここで口を割る訳にはいかない。

 

 四つ、めぐみんの考えで出来るだけこの事情に人を巻き込みたくない。

 

 もし姉ちゃん達も手伝ってくれるとなると、それはもう心強いのだが……先も述べた通り二つ目の事も相まってい何時、何処で敵が聴き耳を立てているのか分かったもんじゃない。

 

 そんな事を考え口を割らないで居ると、良い加減痺れを切らしたのか姉ちゃんが俺の頬を片手で握りギリギリと空中に持ち上げる。

 

「良し分かったカズマ。お前は少々甘やかし過ぎた様だ、今からここで訓練の続きをしてやる。もし耐えれたらこれ以上は聞かないと約束………っ!?」

 

 周りのざわざわ声はシンッと静まり皆の目線は俺達の痴話喧嘩から、話題の中心である二人目へと注がれる事となる。

 

 何時の間に来ていたのか、ついぞ姿を表す事のなかったアクセルの天才魔法少女……件俺の愛人と噂されているめぐみんが姉ちゃんの腕を掴んでいた。

 

「落ち着いて下さいお姉さん、ここは私から説明させて頂きます。」

 

「……ッ!!き、貴様に姉と呼ばれる筋合いは無い!!」

 

 何処にキレてるんだと言わんばかりに声を荒げる姉ちゃん、しかしそれによって顔を上げた事により今自分が周りにどう見られているのか理解したのだろう。

 

 少したじろぎながらも俺からソッと手を話まるで怒られる前の子供の様に、俺を怯えた目で見下ろす。

 

 だが、お陰で姉ちゃんが冷静になれる時間が出来た……ナイスタイミングだと叫びそうだ。

 

「周りの皆も聞いて下さい。ハッキリ、ここで言わせて貰いたい事があります。」

 

 そう言い俺に微笑むと俺の腕に慣れた手付きで絡みつき、ギルド職員が居る方へと目を向けながら口を開く。

 

「私、アクセルの天才魔法使い事めぐみんは。コリウス改め、ダスティネス・フォード・カズマ……いや、カズ君と此の度男女に関係になっている事を発表させて貰います!!」

 

 そう大きな声で告げ、周りが唖然とする中駄目押しとばかりにめぐみんが俺の頬にキスを一つ……それが引き金となった。

 

「「「うぉぉぉぉぉぉッ!!!」」」

 

「まじかすげぇ!!てかあの子ってあんな可愛かったんだな、俺初めてその顔見たかも知れねぇ!!」

 

「ひゃー!まさかこの前ここに冒険者登録しに来てた子がまさかダスティネス家の御子孫だとは……うん?てことは姉って呼ばれてたあの問題児のダクネスって…。」

 

「……!!だ、誰かラ……ダクネスが!ダクネスが泡を吹いて倒れたぞぉぉぉぉ!!誰か、誰かプリーストは居ないのかッ!!」

 

 顔を隠し滅多に表舞台に現れためぐみん、だけで無くそんな彼女の男は実はダスティネス家とそこそこ大きな貴族の息子、この一瞬でこれだけの大ニュースを聞かされた冒険者の面々は阿鼻叫喚としていた。

 

 だが今めぐみんが作ったこの隙を見逃さない、何か、不自然な反応を見せる奴を探すのだ。

 

 此方を好奇な目で見る奴、驚愕な目で見る奴、泣き崩れる奴、様々な反応を見せる人々の反応とは裏腹に何か変な感覚を見つけ様と辺りをぐるぐると目を回す。

 

 まるでチャンスとばかりに、弱みを握ったとばかりに、不適な笑みを浮かべる人物、限りなくアーネスに近い人物………まぁ、そう簡単には見つからないか。

 

 めぐみんへと目を移すとどうやら収穫無しな様で首を横に振る。

 

 まぁ此れはあくまで敵が油断したら良いな程度に仕掛けただけに過ぎない、本来ならここでもそれとなく噂を広める為に周りを無視し一緒に依頼を受けたり……といった作戦内容だったが、それはそれで色々と問題があった為こうして大々的にする事に。

 

 クレアに抱えられ白目を剥いて倒れている姉ちゃんには申し訳ないが、お互い暫くの間姉弟離れといこう。

 

 唯でさえ最近は禁断の関係のブランコとシスコンだとか言われてるのだ、まぁ強ち間違ってはいないから否定はしないが今はまだその時ではないのだ。

 

「さて、それじゃあ私はこの後カズ君とデートして来ます。さぁ行きましょうカズ君!」

 

 グイッと俺を引っ張り後ろから黄色い悲鳴を受けながらギルドを後にし、路地裏へと辿り着くと腕から離れる。

 

 やっぱりコイツ本当は照れ屋じゃなくて自分から行くタイプだよな……最初の印象が強すぎて未だ俺がびっくりしてしまう。

 

「ふぅ…では、今から私の宿に行きましょう。ゆんゆんの顔も見てやって下さい、私に負けず劣らずの美人なので。」

 

「自分で言うのかそれ。」

 

「えぇ?貴方が言ったのではないですか、『お前の本当の姿を見せてくれッ!!』って、熱い眼差しで。私はこう言う人間です。」

 

 少し誇張が混ざっている、あくまで俺は本来のめぐみんに戻って欲しかった為に悪態を付いてい元気付けただけに過ぎない。

 

 そんな事全く言ってないし、熱い眼差しも……いやまぁ間違ってはないか。

 

 そんな事を考えながら慣れた様に路地裏を突き進むめぐみんに続きながら、俺は少しゆんゆんに期待していた。

 

 肯定する訳ではないが、確かにめぐみんの顔はそれなりに整っている方だと思う。

 

 そんなめぐみんが認める位なのだからそれなりには可愛いのだろう、少し期待したって良い筈だ。

 

 ただあの後めぐみんが語ってくれた爆裂魔法取得までの話、その中ではゆんゆんはめぐみんをライバル視していたと言っていたのを覚えている。

 

 もしそれが本当なのだとしたら……あの胸をライバル視するゆんゆんの胸は期待出来ない。

 

 ましてや俺は姉ちゃんのせいで胸に関しては目が肥えているのだ、そうそう期待通りに行くとは思っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で此方が目を覚まさないゆんゆんです。」

 

「デッ………いや、確かに眠っているな。」

 

「デカいですねおっぱい。結局この半年で成長したのは身長だけでしたよ……えぇ何故ゆんゆんはこんなにもデカいんでしょうかねッ!!えぇえぇ私の胸は何故こんなにも貧相なのでしょうかッ!!」

 

 とこの前まであれだけ心配していた人物と同一人物だとは思えない豹変っぷり、寝ているゆんゆんの胸へと掴み掛かる。

 

 まぁもしかしたらこれで起きるかも知れないし、見ていて揺れるおっぱいは目の保養なのでそれを止める訳にはいかない。

 

 やがて満足したのか荒い息を整える為ベッドに腰を降ろすと、真剣な表情で俺を見上げる。

 

「とまぁ冗談はさて置き、作戦会議です。」

 

「ん、結局敵は尻尾を見せなかったな。」

 

「そりゃそうでしょう。あの程度でボロを出されては私のこの半年間が無駄過ぎるので逆に安心しています。」

 

 と、何かを思い出したかの様に俺に向き直る。

 

「そう言えば、ギルドの職員さんにこの紙を渡された時。私の過去の事を少しでも話していましたか?」

 

「?いや、何も言われずに渡されたぞ。」

 

「そうですか……私はこの話を今までカズマにしかしていません、もしゆんゆんと言う言葉が出てくる人が居るとすれば。それは紅魔族かカズマか私か……アーネスかでしかありません、覚えておいて下さい。」

 

 成る程。

 

「ここの宿主にも言っていません、もしかしたらあの時巻き込まれた一般人の中に覚えている人が居るかも知れませんが、基本的にはゆんゆんを知っている人物はアーネスの可能性が高いと見て良いでしょう。」

 

「了解、他にはあるか?」

 

「いえ特にはありません。後は作戦内容の見直し、とかでしょうか。」

 

 内容の見直し……今の所これといった支障は起きずにこれている、この後はタイミングを見計らって結婚を発表。

 

 結婚式当日にアーネスが来た所を出来るならめぐみん一人で、もし無理そうなら冒険者達や俺が手伝って討伐……といった所か。

 

「まぁこれといった物はないな、取り敢えずは結婚発表のタイミングをどうするかよ。」

 

「ですね……因みに気になったのですが、もし実際結婚式をしてアーネスを倒した時。その後はどうするのですか?」

 

「ん?そりゃ作戦を皆にバラしてそのまま解散。籍も入れない様にして置くけど……もし入ってたら貴族権限で消し去るよ。」

 

 実際一人それで消した奴居るしな。

 

 まぁもしかしたら文句言われたりするだろうが、人の命には代えられないと皆納得してくれる事を祈るしかない。

 

 最悪周りの目に耐えられなかったら噂の回ってない、何処か遠くの街に行く覚悟は出来ている……そんな半端な気持ちで手伝っていない。

 

 俺の覚悟を言わずとも受け取ったのか、それ以上は聞いてこず互いに沈黙の時間が流れる。

 

 俺は窓の外を眺めめぐみんはゆんゆんの髪を撫で悲しそうな面持ち、それを励ませる程俺は薄情ではない。

 

「……さて、それでは私は依頼を受けに行ってきます。」

 

 そう言って立ち上がり外へ出ようと、ふと顔を出しニヤリと俺を見る。

 

「幾らゆんゆんが可愛くても、寝ている病人に手を出してはいけませんよ?」

 

「はよ行け。」

 

 手をひらひらして扉をガチャリと閉めトタトタと階段を降りる音が聞こえる。

 

 特にする事もなく、かと言って今姉ちゃん達と顔を合わせるのも気不味いし……どうしたものか。

 

 ゆんゆんにしてやれる事もなく暇を持て余した俺はこの部屋を詮索する事に。

 

 女性の部屋を漁ると考えれば些か抵抗も生まれるものだが、姉ちゃんの部屋を勝手に漁れる俺にそんなものは生まれてこない。

 

 寧ろ何かこの状況を良い方へと変化するものが無いのか探すのだ……うだうだ言ってられない。

 

 そも結婚しないで済むのであればそれが一番良いのだ、付き合ってる事を公言した所でそれはただ付き合ってるだけ……結婚と違いそんなものは何時でも解消出来るのだ。

 

 いや、もしかしたら貴族はそれすらも縛られてるのかも知れないが。

 

「……お、何だこれ。」

 

 取り敢えず片っ端から机を開けまくっていると、一冊の日記を見つける。

 

 しめた、もしかしたらめぐみんの物かも知れない……何か面白い事が書いてないか隅々まで読んでやる事としよう。 

 

 日記の一番最初のページに手を掛けると、案の定女性特有の文字で紙に綴ってあった。

 

 日付は……丁度話していた半年前か。

 

『◯月◯日 ゆんゆんは目を覚まさない。何故私の身体は動くのにゆんゆんは動かないのか、何故私は片目が動くのにゆんゆんは閉じたままなのか、何故私は魔法を唱えられるのにゆんゆんは唱えられないのか、何故……何故……何故___』

 

 どうやら、自責の念に駆られた衝動で綴らているみたいだ。

 

 ここから半年間、彼女の心は蝕まれていったのだろう。

 

『〇月〇日 宿屋の店主の御懇意でただで泊まれせて貰っているが、ここ最近は私もゆんゆんも部屋から出てこないのをかなり心配していた。私もこんな所でずっとくすぶったる訳にはいかない、ゆんゆんが目を覚ます方法を探さなければ。』

 

 頭が良いと自負している所を見るに、行動は早いみたいだ。

 

 俺がもしめぐみんの立場であったのならば……もっと腰を上げるのにかなりの時間を有しただろう。

 

 それ程までに、悲痛さをこの文面から感じざるを得ない。

 

『〇月〇日 爆裂魔法しか使えない私を受け入れてくれるパーティーはかなり少ない。早急に中級魔法を覚えなければ、だがそれでは私の憧れた爆裂魔法は何だったのか、しかしそれはゆんゆんの命に変えてまで……だが……それでも___。』

 

 葛藤、その一言に過ぎる。

 

 最初から今の様に上級魔法を覚えていたのかとも思ったが、どうやら本当に爆裂魔法一本で名を轟かねるつもりだったらしい。

 

 ハッキリ、不可能に近い事柄であるが故何故ここまで葛藤するのか理解し難い……が、何やら思い入れがあるのも分かる。

 

 それ程までに悩むめぐみんが上級魔法を取得するに至ったゆんゆんの存在、彼女もまためぐみんなとっての第二の爆裂魔法なのかも知れない。

 

 其処からかなりの間日付が飛び、約二月前程から又付け始めていた。

 

『〇月〇日 私の生い立ちを聞き何とか受け入れてくれたパーティーにより上級魔法を所得する事に成功。これがあれば、あの忌々しいアーネスを探しに行く事も可能……ゆんゆんはまだ目を覚まさない。』

 

 其処からの内容は至ってシンプルであった。

 

 ギルド職員からあの手紙を受け取り片っ端から強い魔物を仕留める日々、途中その生活を心配した元パーティーメンバーから止められもしたがその静止も振り切り今に至る。

 

 活動時間を深夜に変更したのも、そのパーティーと顔合わせをしたくないのが大元を占めているみたいだ。

 

 ……何だか、これを見るとめぐみんが卑屈になるのも分かる気がする。

 

 あれだけの力と自身を持っためぐみんですらあそこまで自分を卑下するのだ、相当自分自身にショックだったのだろう。

 

 だが惜しいな、もし爆裂魔法でアーネスを倒せてさえいれば……あのまま爆裂魔法のみを極めていずれは魔王すらも鎮める強大な爆裂魔法使いになっていたかも知れないと考えると、世界を恨んでしまう。

 

 もしくは彼女が他の魔法を所得するその前に、彼女を上手く扱えるそんな人物が現れてさえいれば……と、夢見る自分がいる。

 

 実際に爆裂魔法を見た事がある訳ではないが、その存在を知った当時の俺は酷く憧れていた……そんな爆裂魔法を極めた存在………まぁ、あまりにもロマンが過ぎるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___ただいまー。」

 

 時刻は夕方を迎えた頃、俺はめぐみんの宿屋を後にし屋敷へと戻っていた。

 

 門番はイグニスさんがとても心配していたと言っていたが、まぁ外に出たばかりなのだ……少しくらい我が儘なのは許して欲しい。

 

 それよりも問題なのはあの二人だ。

 

 めぐみんに手を引かれあの場を後にしたまでは良かったのだが、あの交際発表により倒れた姉ちゃんとそれを介抱するクレア……もし今出会えば本当に殺されてしまうかも知れない。

 

 その為忍び足で屋敷を歩き自分の部屋を目指している、使用人の連中に変な目で見られるが殺されるよりも余っ程マシだと言えるだろう。

 

 そうして物音一つしない姉ちゃんの部屋を通り過ぎ、元々は物置きであったクレアの部屋も通り過ぎ……やがて、自分の部屋の扉前へと辿り着く。

 

 歩き慣れた道だと言うのに今日はかなり遠く感じてしまった……が、そんな心配もここ迄だ。

 

 明日の朝飯で顔を合わせる事等今は考えず、そっと部屋の扉を一応誰も居ない事を確認。

 

「………はぁ、疲れた。」

 

 そう独り言を溢してしまうのも仕方が無いだろう、そう思う程に個々最近は忙しかったのだ。

 

 訓練が終わったと思えば早速実践へと駆り出され、そのまま魔物を倒せと言われれば傷心した女性の相手、其処から復讐する為にあれこれと……此処は物語かと問いたくなる。

 

 忙しいのは訓練までで、冒険者にさえなれば可愛い女の子と姉ちゃんに囲まれるチヤホヤキャッキャウフフ……そんな生活を想像していたのに、可愛い女の子が居るしか今の所該当していない。

 

 と、愚痴を吐いていても仕方が無いとは思いつつもやはり深い溜め息は出てしまう。

 

 そんな疲労困憊の心身を休ませてやろうとベッドに腰を掛けそのまま寝転ぼう……と、ふと違和感に気付く。

 

 俺の部屋にあるベッドの掛け布団は毎日メイドさんが整えている筈だ。

 

 つまり今帰って来た計りにである俺の部屋の掛け布団はキチンと整えられていなければいけない、だと言うのに少し崩れまるで中にもう寝ている人間が居るのでは無いかと思える程に膨らんだこの状況は可笑しいのだ。

 

 早まる鼓動を抑えつつそっと掛け布団を捲り……綺麗な金髪を無造作に垂らし私服のまま眠る姉ちゃんが其処に居るのを確認。

 

 その状況に上手く頭が回らない内に肌寒くなったせいか瞑っていた目をゆっくりと開け眠そうに俺を見つめる姉ちゃん、パチパチと瞼を数度閉じ開ける。

 

「………。」

 

「………。」

 

 そうして気不味い雰囲気が流れる……と、姉ちゃんが動き出す。

 

 バッと先程まで寝ていた人間とは思えない速さで布団ごと俺に覆い被さる、あまりの手際の良さに声にする間もなく俺は俺の布団に引きずり込まれてしまった。

 

「な、何だよ急に…!おいちょ!あ、熱いって!!」

 

「………。」

 

 無言で俺に抱き着き、と言うより締める様な強さで俺にしがみつく。

 

 唯でさえ狭い布団の中で二人も居る状況、むさ苦しくてとてもじゃないが長時間は居られないだろう。

 

 そんな中だと言うのに無言を貫き通し俺に抱きつく姉ちゃん、一体全体何だって言うのか言葉にしてくれないと分かったもんじゃない。

 

「……カズマは。」

 

 そうポツリと俺の名を呼ぶ。

 

「カズマは……本当にアイツと、あの女と付き合っているのか…?」

 

 鬼気迫る……と言うよりも、何処かションボリとした子犬の様な、か弱く、助けを求める生物の様な姉ちゃん。

 

 何時もの凛とした気の強い姉ちゃんは何処へやら、少し涙目で俺を至近距離で見つめながらそう問う。

 

 ………それはズリぃよ。

 

 此方から背中に手を回し姉ちゃんの顔を胸元へと引き寄せる。

 

 何時ぞやもこうして、落ち込んでいる姉ちゃんを励ましたか助けたかがあったっけな。

 

 助けた事も、助けられた事も、数多過ぎてあまり覚えていないが……こうして互いに身を寄せ合った事は覚えている。

 

「……今は、可愛い弟を信じてくれ……としか言えないんだよ。」

 

「それは……姉である私にも言えない事か…?」

 

「……アイリスにも、クレアにも、女神エリス様にも。」

 

 その俺の言葉に返す言葉が見つからないのか静寂の一時が流れる。

 

 そりゃそうだろう、今の今までシスコンだの何だの言われていた弟が自分に、友に、王女に、女神に、決して口を割れない秘密を抱えているのだ。

 

 しかもそんな弟に出会った計りだと言うのに深い仲になっている女も出来ている、もし俺が姉ちゃんの立場であるとすれば気が気じゃない。

 

 だからこそギルドであれだけ気が動転していたのだろう。

 

「私は、お前を信じている。」

 

 ポツリと姉ちゃんが口開く。

 

「お前を知っているからこそ、信じている……それと同時に、心配もしている。」

 

「………。」

 

「まだ十四である事を時偶忘れる位にはお前は大人びていて、二つ上である筈の私が助けられる事も多い。」

 

 目に涙を溜めつつ、俺の頭を愛おしそうに撫でる。

 

 姉ちゃんは良く、自分の不甲斐無さを自覚した時にこうして自分を卑下する事が多い。

 

 つまり今は弟に頼られない姉としての自責の念を感じているのだろう……こうして理解していても尚、事情を説明出来ない歯痒さに俺も思わず涙を浮かべる。

 

 何故この状況で俺が泣くのか、姉ちゃんからしたら不思議で仕方が無いだろうに少し驚いた表情から一変、涙を人差し指で拭い微笑む。

 

「あの子は良い子だ……我が儘な私を、歳上だからと、姉だからと贔屓せず、お前の為に立ち向かって来る……もし事情があろうが無かろうが、二人が良き仲だと言うのは嬉しく思う。」

 

 と、今度は姉ちゃんがその豊満な胸で俺を向かい入れる。

 

「半面、大事な大事な弟が旅立つと言う事実に……胸を痛ませると言うのもあるのだ。」

 

「姉ちゃん……。」

 

「だからこそ、もし、今行っている隠し事が躓いた時、どうしようも無くなった時……私を頼って欲しい。」

 

 ……それが、姉ちゃんが俺を信じる条件なのだろう。

 

 言われずともどうしようも無くなった時に真っ先に頼ろうとは思っていたが、こうして本人の口から何とかしてやると言われれば自由に出来るものだ。

 

 罪悪感から少しぎこちなくしていては作戦に支障が出ていたかも知れない、そんな心配をしなくても済むと言うのはかなり有り難いのだ。

 

 こうして姉ちゃんからの有り難いお言葉も聞けた為、そろそろ蒸し暑いこの布団から抜け出そうと姉ちゃんから離れ様……と、ピクリとも腕が動かない。

 

「……姉ちゃん、暑いからそろそろ解放して欲しいんだけど。」

 

「ん?そうだな……もう少し、離したくないな。」

 

「ぐえっ!?」

 

 そう言って更に俺を抱き寄せる姉ちゃん。

 

 クスクスと笑いながら俺を撫で抱きしめる、正直その胸を堪能出来る為その行為事態は嬉しいのだが……その物珍しい姉ちゃんの様子に今は胸はどうでも良い。

 

 こんな姉ちゃんはまぁまぁ…いや、かなり珍しい。

 

 元来姉ちゃんは非常に甘えん坊な人間、であった筈だ。

 

 今よりも幼い頃何処へ行くにも姉として、心配だから、そう口癖の様に言い聞かせ俺に着いてきていた。

 

 何か良い事が、悪い事が、何でも真っ先に俺に報告しにきていた。

 

 俺が適当に褒めようが慰めようが、全てにこやかに嬉しそうにしていた。

 

 そんな姉ちゃんが今の様にキリッとした、大人な女性へとなったのは何時だったかは覚えていない……が、気付いたら今の姉ちゃんへと変貌していた。

 

 だからと言って急に手厳しくなったとかそう言う訳では無かったが、今みたいに甘える事は殆ど無くなってしまっていた。

 

 だからだろうか、本当に時偶こうして甘える姉ちゃんはとても珍しく思う。

 

 そして何よりも……可愛い、と弟ながらに思うのだ。

 

 姉ちゃんが誰よりも美しい事も、綺麗な事も、変態な事も知っている……が、あまり可愛いと言う褒め言葉が当て嵌まる人物では無かった。

 

 と、言うより本人が少し嫌がっていた節がある。

 

 本人的には姉として、大人として、と言う事なのだろうが……こうして甘える姉ちゃんは可愛いとしか表現が出来ない。

 

 そんな物珍しい姉ちゃんにむさ苦しい布団の中で抱き着かれながら、普段の凛とした顔からは想像出来ないニコニコとした笑顔で俺を撫でる姉ちゃんに包まれ段々と意識が遠のいて行くのだった。

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