あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン!   作:おふざけちゃん

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あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! しがらみの剣乙女 3

 

 

 

「第三章 この婆娑羅な姉弟に手ほどきを!」

 

 

 

「___ズマ!カズマッ!!」

 

 クレアの俺の名を呼ぶ声で飛び起きる。

 

 辺りを見渡すと、甲冑に包まれたむさ苦しい男共の怒号、剣と剣のぶつかり合い………あぁ、思い出した。

 

 あの後昼飯を食べ終わり、早速訓練と称してクレアと打ち稽古を始めたのだが___

 

「はぁ…全く、これ如きでその状態だとこの先思いやられるな。」

 

 呆れ笑い気味のクレアに見下されながら俺は立ち上がる。

 

 今まで筋トレと素振りしかしてこなった俺には、実戦形式の模擬戦紛いな物はちと早すぎたらしい。

 

 クレアの剣筋は見えてもそれを捉えるスピードを俺は持ってないため、もろに木刀を頭に叩き下ろされ失神。

 

 兜をも貫通する衝撃に耐えられずそのまま……って訳だ。

 

「いやいやお前が強すぎるのもあるだろ!」

 

「フンッ、だから手加減しろと?なら魔物は手加減してくれるとでも思っているのか?」

 

 ぐぅの音も出ない程の正論、実際そうなのだ。

 

 生まれてこの方、守衛さんにでも頼めば模擬戦でもしてくれだろう。

 

 それを疎かにしてきた自分の責任なのだ……なのだが、やはりコイツに打ち負かされたと言うのはやはり納得いかない。

 

「クッ…!もっかいだ!今のは遊びだ遊び!!」

 

「ほう?なら次は本気でいこう。コテンパンにしてアイリス様に顔向け出来ない面にしてやろう!!」

 

 そう私念の込められた言葉と共にクレアの木刀が喉目掛けて付いてくる。

 

 何処が面だよ!!

 

「あっぶね!お前殺す気か!?」

 

「黙れ!実戦ではそんな悠長な事など言ってる暇はないのだぞ?とっとと私に一太刀でも浴びせてみろ!!」

 

 何度も的確に俺の弱点を狙ってくるクレア、確かに訓練としては最適なのかもしれないが……今の俺には手に余る相手なのは間違いない。

 

 今俺はこの場で勝てる相手など精々実践経験のない執事やメイドか、攻撃が全くと言って良い程の姉ちゃんだけだろう。

 

 その姉ちゃんにすら耐久負けして何だかんだ負けそうなのに、昔から訓練されたこの女にどうやって勝てというのだ!!

 

「ほら、ほらどうしたカズマ!!昔の様な悪知恵は何処へいった!?随分怠けていたみたいだな!!アイリス様の前で恥を掻かせおって!!」

 

「やっぱり私怨じゃねーか!?クソが…!あ、アイリスのパンツ。」

 

「なに!?」

 

「馬鹿が!!そんなのこの場にある訳ねーだろ!!」

 

 俺がクレアの後ろに指を指すと綺麗に後ろを振り返ったクレア、コイツは熱くなると周りが見えなくなるのは変わってないみたいだな。

 

 良い意味で本能のまま生きているから疑わない……俺が言うのもなんだが、それを相手に知られていたらそれこそ実戦で致命的じゃないか…?

 

 俺は多少の罪悪感を持ちつつ、思いっきり木刀をクレアの頭目掛けてフルスイング___!!

 

 が、直ぐ様振り返ったクレアにそれを受け止められる……うそだろこいつ、幾ら力がなくても俺の木刀のフルスイングを素手で受け止めやがった!!

 

「フッフフ…ハッハッハ!!その程度の力で私にダメージを負わせようなど、百年早いわ!!」

 

 そう言って俺の木刀を掴み思いっきり投げ飛ばす。

 

 俺は手を離すかこのまま手を離さずに投げ飛ばされるか悩んだ結果……中途半端に離したせいで投げ飛ばされるし剣から手を離すしで、一番最悪な結果になった。

 

 鬼の形相で俺を叩き潰そうとにじり寄ってくるクレア。

 

「………まぁ落ち着けクレア、昔俺の事が少し気になってるからって毎日の様に部屋にアイリスよりも遊びに来てたのは黙っと___」

 

「わぁぁぁぁッ!?貴様という奴は!貴様というやつはッ!!」

 

 思いっ切り頭からクレアの打撃を受け、俺は本日二度目の失神を受け入れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後またすぐ起こされたと思うと今度は別の人と打ち合いになった。

 

 名前はなんて言ったっけな………なんか隣の国の下級貴族で、ここベルゼルグ王国の偵察で来たとかなんとか言ってたな。

 

 そんな事を俺に言っちまって大丈夫なのかと心配になったが、本人曰くそんなお硬い物ではないし……なにより、俺には何か特別な縁を感じるらしい。

 

 勿論初対面だし、男色の趣味はないからソッチ系なら是非とも遠慮したい所だが……まぁ良い奴ではあった。

 

 そんな彼は偵察に来たというには俺とどうレベルの剣の腕で、俺と泥試合を繰り広げたのだが………俺の勘が言っている、アイツは確実に何かある。

 

 何故なら動きが俺とは段違いに場慣れしているのだ、俺が剣を握って必死にソイツを見ている間に、アイツは俺そのものを見ていた様だった。

 

 ま、これ以上考えたら面倒事に巻き込まれそうだし考えない事にしよう。

 

「おいカズマ、どうした体調でも悪いのか?」

 

 一日目の訓練も終わり、姉ちゃんと晩食へと向かっていたのだがずっと黙っているせいで心配されてしまった。

 

「ん?あぁいや大丈夫、ちょっと考え事をね。」

 

「そうか。」

 

 チラリと姉ちゃんを見ると少し土で顔が汚れたかな?くらいのダメージしか負ってない事に気づく。

 

 そう言えば訓練中姉ちゃんの方全く見てなかったけど、果たして一度でも剣を当てられたのだろうか?

 

 姉ちゃんの力強さを知っている身からしたら、いくら甲冑があって訓練された肉体だろうとただ痛いじゃ済まないダメージがくると思うのだが。

 

 鈍い音も騎士の悲鳴も聞こえなかった所をみる限り、俺がひ弱なのか一度も当てられなかったのどちらかだろう。

 

「なぁ姉ちゃん、剣当てられた?」

 

「ん!?い、いやーまぁ…な?ほら着いたぞ!!あぁお腹が空いたなぁ!!」

 

 当てられなかったみたいだな。

 

 俺は扉を開けると見慣れた光景が広がっている、皆各々喋りながらご飯を食べているみたいだ。

 

 アイリスは居ないかのと辺りをキョロキョロと探していると、別の人間を見つけた。

 

 さっき言った例の男だ。

 

 一人黙々とご飯を食べ何かを見ているみたいなので、驚かしてやろうと背後まで忍び足で近付く。

 

 そろそろ良いだろうか、そう思った距離まで近付くと___

 

「さて、カズマは一体何をしてるのかな?」

 

 見ていた物をパタンと閉じると柔らかい笑顔でこちらに振り向く男………何故気付かれた。

 

「嫌なに、折角お前の言う特別な縁を大事にしようと思ってな。ここで一つ親睦でも深めようかと。」

 

「ハハッ。それは嬉しいけど"コレ"は見せないよ?」

 

 そう言って一瞬だけ側を見せるとポケットにしまってしまう、ロケットペンダント…?

 

「なんだ、隣の愛しの待ち人でも入ってんのか?」

 

「まぁそんなトコかな。それよりその話は秘密にしておいてくれないか?一応秘密裏なんだよ。」

 

 釘を刺されてしまった、お硬い物ではないけれども大っぴらに話す物でもない訳か…。

 

 アイリスにでも言って詳細を聞こうとでも思ったがやめておこう。

 

 俺は男の隣に座ると、またもや他の貴族連中に絡まれている姉ちゃんを尻目にテーブルにある飯を食い始める。

 

 ……ってあ、名前聞くの忘れてた。

 

「なぁ、お前の名前ってなんだっけ?ど忘れしちまったんだよ。」

 

「ん?あぁ、私の名前はシェイカー。ライン・シェイカーだ、一度は聞いた事くらいあるんじゃないかな。」

 

 ライン・シェイカー……あ!

 

「お前アレか!!最年少のドラゴ___」

 

「おっと、名乗った私から言うのも何だけどこれも秘密なんだ。普通は偽名を答えるんだけど……何故かカズマには私を知ってもらおうと思ってね。」

 

「うぇ、俺にはソッチの趣味はねーぞ…?」

 

「なぜそうなるかな!?」

 

 頭を抱えるシェイカーをフル無視し俺は飯を食べ進める。

 

 はぁ、今日みたいなのが三ヶ月朝から晩まで続くのか……憂鬱とはこの事だろう。

 

「てゆかその偽名を教えて貰わねーと、お前を呼ぶ時困るんだけど。」

 

「あ、確かにそうだね。私の偽名はダストって言うんだ。」

 

「ふーん……なんかダセェな。」

 

「私も思っているから口に出さないでくれ…!」

 

 ってな言い方を見るに自分で付けたんじゃないんだろう、さっき言ってた待ち人にでも付けられて断る訳にもいかないから渋々…って感じと予想。

 

「まぁこれから少しの間だけどよろしくな?ダスト。」

 

 俺はそう言って右手を差し出す。

 

「あぁ、こちらこそ。」

 

 ガッシリ握られたその手は、とても今日みたいな剣裁きをしていた人間には思えない程シッカリしていた。

 

 やはり使う武器が違うと一気に世界が変わって見えるのだろう。

 

「……所で、カズマのお姉さん?かな、さっきから絡まれているけど助けにはいかないのかい?」

 

 そう言って姉ちゃんの方に目を促すシェイカー、改めダスト。

 

 俺はチラリとそちらに目を向けると、昨日と変わらず言い寄られる姉ちゃんの姿。

 

 なんか……もう見慣れたな。

 

「ま大丈夫だろ、それより飯だ飯。今日の訓練で疲れてんだ。」

 

「そ、そっか。」

 

 あいも変わらず俺に助けを求めていたが無視だ無視、あんなのごまんといるのに一々構っていられるか。

 

 俺は今日の訓練で擦り減った分を取り戻そうと、目の前にあるご飯をかき込むのに必死になってその日は終わった。

 

 

 

 ___あれから三日後。

 

 

 

 俺は今二列になって騎士団の皆さんと一緒に走り込み中。

 

 やはりどんな訓練も基礎が大事だからな、身体作りを疎かにした人間は巨大な力を持ってもそれに蝕まれ終わる。

 

 その巨大な力に耐えうる肉体を今の内に作っておかねば、冒険者になった時にもしもの事があっては困る。

 

 目指せ姉ちゃんくらいの腹筋!!打倒姉ちゃん!!この目標を掲げ重い足を無理矢理動かす。

 

 隣で走っている姉ちゃんはまだまだ余裕なのか胸を張って綺麗な姿勢を保ったままだ。

 

 俺はブルンブルンと揺れる姉ちゃんの胸に釣られ、ほぼ横を見ながら走っている状況へとなっていた。

 

「……おいカズマ。転けるぞ。」

 

「お構いなく、これしきで転ける程やわじゃないのぐへ!」

 

「ほれ言った事か。」

 

 急いで立ち上がりまた姉ちゃんの横に並び今度は前を見て走る。

 

 最後尾で良かった、危うく俺のせいで後ろに居る奴が怪我でもしたらクレアに怒られちまう。

 

 少し前の方で走っているダストがチラリと苦笑しながら後ろを振り返った。

 

 いやこれは俺悪くねーだろ!!だって隣にこんなバインバインな胸がある方が悪いと俺は思うんだよ!!

 

 心の中で弁解しつつ、また同じ轍は踏まない様に前を見つつ時々チラリと見ることにした。

 

 そんな俺に視線に気づいているのか溜め息を隣で溢す姉ちゃん、また転けるぞとでも言いたいのだろう。

 

 しかし俺は諦めない、そこに男の夢がある限り。

 

 その後はなんなく走り込みが終わり一時休憩を挟んでの訓練再開、俺は模擬戦相手にダストと組む事に決めた。

 

 俺の記憶が正しければダストの本来の力はかなり強い、強い人間を参考にするのも自分が強くなる為の一歩だろう。

 

 ダストの目線、位置取り、構えに関しては素人も同然らしいが、俺からしたらそんな素人同然すらも参考になるレベル。

 

 息を整えダストに斬り掛かる。

 

 が、やはりスピードも力も何も足りない俺の攻撃は躱され、受け止められ、逆に腹に打たれる始末。

 

「グハッ!」

 

「あ!すまない強く打ちすぎた…。」

 

「い、いや良いんだ。寧ろもっとその調子できてくれ…!!」

 

「………カズマは、その…ドMなのか?」

 

 失敬な!!ドMなのは姉ちゃんであって俺は至ってノーマルだよ!!

 

 失礼なダストの言葉を無視して俺は斬り掛かる、やはり簡単に受け止められるがめげずに何度も打ち続ける。

 

 三ヶ月というのはかなり短い、そんな短い期間をどう活かすかは当人しだい……泣き言を言うのは帰ってからで十分だ。

 

 まだ見ぬ美少女を求めて俺は目に闘志を燃やす。

 

 ふと姉ちゃんが気になり吹き飛ばされた拍子にチラリと目を向けてみる………どうやら、攻撃が当たるのは当分先になりそうだ。

 

 果たしてこの三ヶ月で姉ちゃんは攻撃を当てれる様になるのだろうか?最早その次元の心配になるが、あまり人を心配出来る程俺に余裕がないのもまた事実。

 

 ダストに時折心配そうな目で見られながらも、何度も立ち上がり木刀を持つ手を握りしめる。

 

「凄いねカズマは。私はそこまで頑張れる気がしないよ。」

 

「ハッ!天才様の嫌味かそりゃ?俺は目標の為なら何でも頑張れるぜ!!………多分!」

 

「目標?どんな目標か聞いても良いかい?」

 

「あぁ勿論。俺の目標は姉ちゃん、天才魔法使い、後一人は可愛けりゃなんでも良いが、そんな感じのハーレムを築く事だ!!」

 

 そう大きな声で俺は宣言するとダストは動きをピタリと止め、肩を震わせる。

 

 ……なんだよ、何かおかしいってのかよ。

 

 俺は誰であろうとこの目標を否定する人間はぶっ殺すって決めてんだ、もしここでダストが何か言おうもんなら今まで以上の力で潰しにかかるつもりだ。

 

 木刀を握り直し、ありったけの力を込めながらダストの言葉を待つ。

 

「___フ、フフ…アハハハハッ!!良いねその目標!私も混ぜて欲しいくらいだ!!」

 

「おっと残念だが男は俺一人って決めてんだ、ダストの席はねーよ。」

 

「それは残念だ。良いね、その目標に出来るだけ近付ける様私で良ければ力を貸そう!!さぁ続き……を…。」

 

 段々と尻すぼみになっていったダストが、青ざめた表情で俺………ではなく、俺の後ろの方を見上げている。

 

 俺はなんとなく所か滅茶苦茶嫌な予感をしつつゆっくり後ろを振り返ると___

 

「そんな恥ずかしい事を大声で言うんじゃない!!この大馬鹿者()がッ!!」

 

 普段は絶対当たらない木刀を大振りで俺に振り下ろすと、思いっ切り顔から木刀を叩きつけられる。

 

 良かった、多少は訓練の成果が出ているみたいだ。

 

 突っ立っている人間に当てれる様に進化した姉ちゃんに感動しつつ、俺は地面に顔から叩きつけられる形で俯せにされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___悪かったねカズマ、私があの場であんな事を聞いてしまったが故の出来事だ。」

 

「いや良いんだよダスト。それに見ただろ?あの真っ赤な顔の姉ちゃん、内心照れてたぜ絶対!なぁ姉ちゃん!!」

 

 少し後ろを歩いていた私に笑顔で振り返りそう聞いてくるカズマ。

 

 全く…何も学んでないみたいだ。

 

「また地面とキスしたくなかったらその口を閉じておけ。」

 

「ひゃー怖い怖い!おっかない姉ちゃんだこと!!」

 

 思ってもない事を言ってダストと言われた男と共に走って逃げて行く……どうやら新しい友達が出来たみたいだ。

 

 普段家に閉じ込めてしまっているせいで、マトモな友人が居ないカズマだったが…こうして内側を曝け出せる友人が出来た様で何よりだ。

 

 まだ此方に来て三日程ではあるが、家の中に居たカズマより今のカズマの方が心底楽しそうだ。

 

 ………随分と酷な事をカズマには強いていた様だ。

 

 そもそも私がそういう経験をしてきたのに、同じ様に我慢させるってのは些か姉としてどうかと今更ながら考えさせられるな。

 

 そしてこの後更に考えさせられる事が待っている___それは、夕食時の男性方のアプローチだ。

 

 自分の言うのも何だが私は容姿が人より優れている、何より家柄も良いときた……嫌に成る程男性に声を掛けられてしまう。

 

 マトモに食事を取れたもんじゃない、これがアクセルなら逆に私に話しかけよう等と思う人間は変人扱いされるというのに。

 

「……趣味全開に振り切ってやろうか…。」

 

 なんて考えてしまう事を咎められる人間はいるのだろうか。

 

 そんな事をしたら逆に貰い手がいなくなってしまうかもしれない、それはそれで困るのだ。

 

 貴族である以上最低限の貴族らしさは必要なのだ、己の趣味に没頭出来る程の自由は与えられない。

 

 だからこそカズマにはもっと自由でいて欲しい…私が跡取りさえ作ってしまえば、カズマはもっと自由に伸び伸び出来るだろう。

 

 不器用な姉なりに一番アイツに出来る姉らしい行いは、これだ。

 

 しかしそれすらもその弟に止められてしまっている現状、嬉し戸惑いの半分半分だ。

 

 ___最悪、もう本当に最悪、カズマが良しとするならば、いっそのこと………

 

「おや?ダスティネス様、ご不沙汰ですな。」

 

 あまり嬉しくない人物との再開。

 

「……お久しぶりですアルダープ殿。」

 

「いやはや三ヶ月程王都に滞在すると聞き飛んできてみれば、まさか特訓の為とは……常に上を目指す心意気や惚れ惚れしますよ。」

 

「それはどうも、アルダープ殿もこれから夕食を?」

 

「それは勿論。宜しければ御一緒よろしいかな?」

 

「……えぇ、良いですよ。」

 

 そう言って肩をピトリと付け横に並ぶこの男……アレクセイ・バーネス・アルダープ。

 

 私の愛して止まないアクセルの街の領主にして、私が幼き頃から求婚を求める相手でもある。

 

 凄く肥満体型で嫌味ったらしい顔でニチャリと口角をあげ、私の胸をカズマとはまた違ったベクトルの目で見てくる。

 

 これは身内贔屓もあるのかもしれないが、アルダープとカズマとでは不快度が天と地ほどの差があるのだ。

 

 何時もより早足で食堂へ向かうもピタリと横を付いてくる、何時もは早く着くと感じる食堂も今はかなり遠くに感じてしまう。

 

「それで、ダスティネス様。私奴の求婚はやはり受けてもらえぬか?」

 

「え、えぇ。やはり年の差と言うのもありますし、何より私はまだ相手も求めてない故……。」

 

「それはそれは勿体無い!……ならば、私がダスティネス様に男を教えて差し上げても良いのですよ?」

 

 そう言って短い腕を私の肩に回そうと___

 

「___おいおっさん、手洗ったか?」

 

 私が目を閉じ甘んじて受け入れようとしていると、いつの間に戻ってきたのかカズマがアルダープの手を掴んでいた。

 

「……これはこれはカズマ殿!相変わらず姉離れは済んでない様子で。」

 

「すまんなおっさん、俺は重度のシスコンだから…な?」

 

 そう言って小さな手で私を自分の胸へと引き寄せる。

 

「……ッ!カ、カズマ!」

 

「ん?あぁごめんごめん、おっさん、じゃなくてアルダープ殿、だったな。ごめんな?アルダープ殿。」

 

「い、いや大丈夫だともカズマ殿…!さ、さぁ食事へとまいろうではないか。」

 

 そそくさと私達から離れて行くアルダープ、やがて食堂の扉を開け名残惜しそうにこちらをチラリと振り返り、食堂へと入っていった。

 

 尚も私を放そうとしないカズマ、私はチラリとカズマを見上げる。

 

 そこには悲しい様な、少し怒った様なカズマが私を見下していた。

 

 ………どうやら、私はカズマに頭が上がらないみたいだ。

 

「___すまない、助かったカズマ。」

 

「はぁ…全く、何時もの強い口調は何処にいったんだよ姉ちゃん…。」

 

 そう言って優しく手を離し私を解放する。

 

 今の私はとても人様に見せれる顔をしてない為カズマから顔を少し逸らす…名残惜しい等と思ってはいけないのだ。

 

 カズマはこういう節がある。

 

 ホントに、魔性の女誑しだ。

 

 お互い黙ってその場に突っ立っていると、カズマが私の手を取り食堂とは真逆の自室へと歩き始める。

 

「?お、おいカズマ、そっちは食堂じゃないぞ?」

 

「分かってるよ。友人に頼んでご飯を運んでもらうから、姉ちゃんは今日は部屋で一緒に食べようぜ?アイリスも呼んで、ゆっくり談笑しながら食べよう。」

 

 楽しそうにそう話しながら私を引っ張るカズマ。

 

 ………シスコンな弟には困ったものだ。

 

 私はカズマの手を振りほどきその場に立ち止まる。

 

「…?姉ちゃ___」

 

 カズマが此方に振り返ろうとするのを阻止し、私は後ろからカズマに抱き着く。

 

 ………私も、重度のブラコンで困ったものだ。

 

 十八にもなって、苦手な人間を四つも下の弟に追い払ってもらう事しか出来ない、不甲斐ない姉だ。

 

「………」

 

 こうやって急に抱き着いてくる姉を、何も聞かずに黙って抱き返してくれる大きな背中の小さな弟。

 

 このまま力を込めたら折れてしまうのではないかと感じる小さな男に、私は頼ってしまっている。

 

 頼ってしまっているのはこれだけじゃない、普段から私の目の見えない所で………私は本来、カズマに物を言える立場ではない。

 

 それを姉だからと…たかが産まれたのが早いだけで、手本を見せなければと頑張らないといけない。

 

 カズマがポンポンと私の背中を撫でてくれるのを感じ、甘えては駄目なのに、姉らしい振る舞いをしなければいけないのに。

 

 ポツリポツリと、瞳からは涙が零れ落ちてしまう。

 

 カズマの方が何倍も苦労してるだろうに、私は自分のキャパオーバーをカズマになんとかしてもらってしまっている。

 

「………なぁ姉ちゃん、自分一人で抱え込むのは簡単だけど、人に相談したりする方がもっと簡単だぜ?皆気付かないだけなんだよ。アイリスだって最初は自分で喋ろうともしなかっただろ?俺達は貴族だからと、貴族らしくしなくちゃいけないって。」

 

 そう言って私の肩を手で押し離れる。

 

 私の涙でクシャクシャな名残惜しそうな顔を見て、苦笑してまた口を開く。

 

「もっと自由で良いんだよ姉ちゃん。今のアイリスみたいに我儘言ってみたり、そりゃある程度は貴族の振る舞いもしなきゃいけねーよ?でも嫌って言っちゃいけないなんてのは貴族の振る舞いじゃない。あんな男はこっちから願い下げだと、もっと筋肉が引き締まった、金持ちのイケメンを寄越せ!って。」

 

 ___やっぱり、カズマには敵わない。

 

 私がお父様に怒られた時だって、カズマは裏で守衛さん達と口を合わせ許してやる雰囲気を作ったり。

 

 カズマと一緒に懲りずに森に遊びに行った時も、迷子になって泣いていた私を見つけスルスルと草木をすり抜け家へと戻ったり。

 

 その際も私が誘ったのに、カズマの我儘のせいとホラを吹いてヘイトを私に向けないようにしたりと、些細な事から大きな事までカズマは私を守ってくれる。

 

 カズマはその歳には見合わない聡明さで、『しょうがねぇなぁ』と私を何時も救ってくれる。

 

 多分、本人はこれからも救ってくれるつもりなのだろう……何処までもシスコン思考なカズマだが、私はそんなカズマが___

 

「あ!ここにいらしたのですか!!」

 

 そう言ってアイリス様とクレア殿、レイン殿、カズマの友人が私達の方へと向かってくる。

 

 どうやら結構な時間が経っていた様だ。

 

「ってダスティネス卿、目が少し腫れておるではないか!」

 

「まぁ!大丈夫なのララティーナ?」

 

「え、えぇ大丈夫です…!埃が目に入った為少々目を掻いていたので……。」

 

 在り来りな理由しか出てこなかった、でもなんとなく察しは付いているのだろう。

 

 それ以上の事は追求してこなかった。

 

 結局そのまま六人で私の部屋へと談笑しながら向かう事に。

 

 ご飯は少し冷めていたが、何だか気分が軽くて何時もより味わってご飯を食べられた私は、危うくまた泣き出す所だった。

 

 それもいち早く気付いたカズマに口元にソースが付いてると、少し大きな紙で涙(ごと)拭き取られた。

 

 端から見たらただの姉思いの弟なのだろう、こんな事を平然としてしまうのだからこの男には頭を悩ませてしまう。

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