あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 作:おふざけちゃん
「第六章 このたらし姉弟の非日常を!」
「___ズマ…!おい!カズマッ!!」
そうクレアの呼び掛けで俺はハッと顔を上げる。
目の前には心配そうな表情で俺を見つめるクレア、その奥には楽しそうにカードを手に取り考え込むアイリスと姉ちゃん。
あぁ、少しばかり昔の思いでに浸り過ぎていた様だ。
今はアイリスと一緒にカードゲームをしている最中、クレアに束を作るのは任せているからと言ってボーっとしすぎていた。
「ん、わりぃちょっと昔の事を思い出してな。」
「ふむ、そうか……もう思い出す程に我々は歴史があるのか。」
そう言ってこちらから目を逸らしカードに目を戻すクレア。
「そりゃかれこれ十年来の仲じゃねーか、俺達。」
「それは出会ってからの年数であろう。実際に会ってした事など時間にして一月も立たない位でしかない。」
相変わらず冷たい奴だ。
それこそ初めてアイリスと会った時なんか、もっとこうデレていた………いや待て、そう考えるとコイツ等全員チョロくないか…?
姉ちゃんは言わずもがな、アイリスは出会いが今でも鳥肌の立つ出会いだと言うのに今ではお兄ちゃん呼びに至る程に懐いてくれ、クレアもクレアでアイリスと同じくらいには早くデレていてくれた様な……。
良く姉ちゃんからお前の将来が心配だと口酸っぱく言われる俺だが、正直俺からしてもこの三人はチョロ過ぎて心配である。
まぁ姉ちゃんには俺やイグニスさんが居るから良いとして、アイリスはクレアが居ると考えれば……クレアは誰が守るのだろうか。
何だかんだ出会って長い間柄ではあるが、シンフォニア家の娘と言う事しか知らない。
曰くダスティネス家と同じ位の家柄だとは噂で聞くが、クレア以外のシンフォニア家をこの目で見た事が無い。
多分食事会等で出席して居るのであろうが……如何せんクレアが家族と絡んでいる場面も見た事が無い為良く分からない。
まぁ気にした所で何が変わると言う物でもないが。
「………なぁ。」
「何だカズマ。」
「お前ってさ、結婚とか考えてんの?」
ここ最近の疲労している姉ちゃんを見て、ふと疑問に思う。
姉ちゃんが今年で十六、貴族間ではもう結婚を考える歳なのか少し前から良く見合いを迫られている状況だ。
前まではイグニスさんが乗り気じゃなく殆ど断っていたが、最近ではイグニスさんも未来の事を見据え見合いをセットしてみないかと姉ちゃんに説得している所も見掛けた。
まぁ、姉ちゃんに張っ倒されているのが現状だが。
「結婚……か。」
カードを集めるのをピタリと止め、空を見上げながら考え込むクレア。
クレアは俺達の中で最年長の十八歳、姉ちゃんであの様子ならクレアはそろそろ結婚していても何ら不思議ではない年齢だ。
「実を言うと、親からもそろそろどうだと言われているんだ。」
「まぁ、だろうな。」
「アイリス様も今年で十四歳、まだまだ心配な所はあるが……中々、成長という物は早い物だ。」
そう言いながら俯いてしまったクレア。
やはり、貴族である以上はしがらみに囚われるのは確定事項の様だ。
「………何だ、私に気合を入れ直してくれないのか?」
「?何の事だよ。」
「だから、この様に。」
顔を上げ疑問だと言わんばかりの顔で俺を見つめると、俺の頬を両手で包み目線を合してくる。
「『綺麗な顔なのに勿体ない』……だったか?今にして思えば随分とマセた子供だったなお前は。」
「けっ、良くもまぁんな昔の事を覚えてらっしゃる様子で。」
少し前に思い出したばかりの状況を再現され顔が少し熱くなるのを感じる。
してやられた……だが、負けっぱなしってのも納得いかねぇよなぁ?
「おい、まだ忘れてる事があるぞ。」
俺はクスクスと笑うクレアの後頭部を優しく掴み、次いでにカズマさん特製の顎クイをアレンジして顔を近付けてやる。
「………っ!」
そんな俺の行動は予想だにしなかったのか、一瞬驚いた表情をすると目を瞑り___
「___いっ!?」
「馬鹿が、本当にする訳ないだろ。」
顎クイしていた手を離しデコピンを額にくれてやる。
「俺は何処ぞの誰かさんと違って無理矢理キスしねーからな!何処ぞの誰かさんと違ってっ!!」
未だ状況が上手く掴めないのか、目をパチクリとさせているクレアに言い放ち俺は立ち上がる。
全く、何故少し雑談するだけでこの様な雰囲気にならなければいけないのか、俺はチラリと姉ちゃんとアイリスの方を見る。
どうやらカードに夢中で此方に気付いていない様だ………アイリスは。
チラチラと此方を少し赤い顔で確認している姉ちゃん、安心して欲しいアイリスの前でそんなふしだらな教育はしないと決めているのだ。
まぁ、過去レインにその様な事を言えば『存在がふしだらなのでどうかと……』と毒舌で切り捨てられたが。
アレでいてレインは物事をズバズバと言う節がある。
……俺限定で。
何故か姉ちゃんやクレアやアイリスには遜っているが、俺には遠慮がない。
まぁ悪い事ではないのだが……一応俺もダスティネスなんだけどな。
「………なぁ。」
何てここに居ないレインの事を考えていると気を取り直したのか俺に問いかけるクレア。
「ん?なんだよ。」
「お前から見て、アイリス様は立派だと思うか?」
そう言われ俺はアイリスに目を移す。
どうやら面白そうなカードを見つけたのか姉ちゃんにワクワク顔で相談している………立派、か。
何をどう捉え立派と考えるかは人それぞれではあるが、俺から見たアイリスは___
「___立派だよ。お前や姉ちゃんの話しでは俺と会うまで内気な娘だったんだろ?今のアイリスを見てみろよ。」
とても俺の知らないアイリスを想像出来ないが、どうやら六歳の誕生日会で俺と出会うまであまり喋らないお淑やかな娘だったらしい。
つまり俺の貴族の端くれにも置けない無礼な態度は必要な人間には必要なのだ。
お陰でどんな相手にもフレンドリーな可愛らしい王家の娘、と言う良い印象を手に入れている。
力は可愛らしくないが。
前何て『そろそろドラゴンスレイヤーの称号を取ろうかと思って居るのですが』……と言われた時は度肝抜いた事を覚えている。
「独り立ちはまだ厳しいとしても、過保護はそろそろ卒業する頃だと思うぜ?」
「………そうか。」
何処か寂しそうな、遠い目でアイリスを見つめるクレア。
そんなクレアの視線に気付いたのかニコニコと笑い手を振るアイリス。
二人はまるで本当の姉妹の様で、そんな妹の門出を寂しく思いながらも祝う姉の様で、お互い姉離れ妹離れする時期が近付いてきたと言うべきだろうか。
俺も姉ちゃんも離れられてないけど。
「カズマ。」
「おん?」
改めて俺の方に身体を向けるクレア。
「これからも、アイリス様と仲良くやっていってくれ。」
「何を当たり前の事を。」
クレアに手を差し出し、俺もクレアに身体を向き直す。
「お互いに、アイリスを見守ってやろうぜ?」
「………あぁ。」
ガッシリと差し出した手を掴みお互いに握手をする。
その時のクレアは、普段の様な力強い握手とは又何処か違い緊張によって肩に力が入った手に力の籠もった握手であった。
そして、俺はこの時の握手の感触を忘れる事が無かった。
朝六時に起床。
流石王都と言わんばかりに舌が肥える美味い飯を食い運動着に着替える。
朝は少し弱いのか寝癖が所々残っている姉ちゃんを梳かし、騎士団の皆さんが集まる訓練所へと足を運ぶ。
ただでさえ三ヶ月と微妙な準備期間な為皆よりも早く起き早く訓練する事を心掛けている……姉ちゃんが。
あくまでそれに付き合う形ではあるが、個人的にはここにきてからかなり身体が作られていっている感覚がある。
何を隠そうそろそろ二ヶ月に差し掛かる頃なのだ、寧ろ成長の兆しが見えなければ色々と悲しい。
ここに来た頃よりかは遥かに剣の扱いも上達し、今ではあのライン・シェイカー改めダストに剣の打ち合いで三割の勝率を誇る。
皆からすれば大した物ではないかもしれないが、俺は寧ろ日に日に勝つ確率が上がっている俺自身が誇らしい。
これは冒険者として活躍しモテモテハーレムptを結成出来る日もそう遠くない。
「「一ッ!!二ッ!!三ッ!!四ッ!!」」
屋敷に居た頃から続けていた素振りも格段に疲れるまでの回数が増え、強くなっている実感が湧く。
………まぁ、姉ちゃんが剣を当てる日はまだ遠い先の様だが。
別に剣の扱いが下手でも無ければ持ち方が変でも無い、巫山戯てる訳でもないし本人は至って大真面目な様だが………何故当たらないのか。
段々と騎士団の皆が集まる頃合いになるまで素振りを続け、少しばかり休憩をしてから走り込みを開始。
疲れない呼吸法なる物も教えてもらい、姉ちゃんの横で走り胸をガン見。
「………おい、毎回言っているが。」
「おかまいなぶへぇっ!?」
「………」
最早こうれい行事となりつつあるこの行い、俺もただ馬鹿みたいに同じ事をしているのではなく予期しない衝動に受け身を咄嗟にとる為の練習でもある。
毎日の日課であるこの行いをしている俺は受け身も格段に上手くなっていった。
騎士団の皆さんからクスクスと聞こえつつも、俺は咄嗟に前転をしながら身体を起こしそのまま姉ちゃんの隣で走り続ける。
中にはおぉと感心する声も聞こえてくる、やはり努力は無駄ではないのだ。
そうして城周りの走り込み兼見回りを終え昼時になる。
最近は城内に戻りアイリス達と食べるよりも騎士団の面々と食べ色々とアドバイスを受けたり雑談したりと、この前久しぶりに食堂に行けばアイリスに怒られてしまった。
だが許して欲しい、俺は確かにアイリスと遊ぶ事も好きだが俺には冒険者になる夢があるのだ。
心で一筋の涙を流しながら俺は騎士団の面々と一緒に騎士寮へと行き飯を食らう。
ここの飯も中々に美味い、城で食う様な高級感溢れる飯も好きだがやはり庶民派である弊害なのか野生感溢れる工夫された飯というのも捨て難い。
そうして今日も今日とて皆と雑談しながら飯を食っていると、突然ダストがフと思い出したかの様に顔を上げた。
「どうした?ダスト。」
そう問いかけると、何処か気不味そうに頭を掻きながら苦い顔で俺に振り向き。
「………すまないカズマ。言い忘れていたが、私は今日でここに居るのは最後なんだ。」
「「「えぇっ!?」」」
俺、と言うより寧ろ騎士団の面々の方が驚いている。
そりゃそうだろう、皆ダストがあのライン・シェイカーだと言う事には気付いてなくとも、そもそもの人柄が良く好かれていたからだ。
嘘だろと嘆く奴や男泣きをする者、ただ決まった事は変えられない。
「そうか……それは寂しいな。俺からしたらお前は初めての男友達だったんだが。」
「私もカズマと居る時間は心地が良かったさ。出来る事ならもう少し、せめてカズマが冒険者になる所を見てみたかった。」
「うぇっ、だから俺にんな趣味はねぇって………。」
「だから…!なんで…っ!!」
出会った時を思い出す様なやり取りを終えた後、俺達は皆で少量の酒を飲み簡易的なお別れ会を開いた。
その時のダストは寂しそうな表情で俺達を見ていたが、心配する様な表情でもあった。
多分、いやきっと元の国にいる待ち人に何か合ったのだろう。
その相手や素性、ダストの思いや関係を深くしらない上あまり突っ込んで話す事をせず、かと言って相談も受ける事は出来なかったが……良くない事が起こらない事を祈るばかりだ。
ただまぁ皆感情が込み上げ予定していた酒を過剰にオーバーする形で浴びる様に飲んだ奴がでてきたせいで、クレアにそれはもう恐ろしい表情で怒号を飛ばしながら怒られてしまった。
姉ちゃんも呆れて俺を見ている……いや、俺は飲んでねぇよっ!?
朝六時頃に目を覚ます。
私自身、あまり朝は得意な方ではないのだがここに居る以上早く起きる習慣を今の内に身に着けて置くのもまた一つの訓練と考えている。
………まぁ、カズマに寝癖をクシで解いてもらっている人間が言うセリフではないか。
ここに着て早二ヶ月とちょっと、屋敷に居た頃から良く私の髪を良い意味でも悪い意味でも弄っていたカズマの髪の扱いの腕は上達していた。
その器用さを少し分けて欲しいと切実に願うが現実は残酷で、未だ剣を止まっている標的に当てる事すらままならない。
後少ししたらここから出て又冒険の毎日に戻る、ともう一つカズマと一緒の生活になると言うのにこの体たらく………このままではカズマに失望されてしまう。
ただでさえ『姉ちゃんの取り柄はエロさとそれに見合わない冒険者と言う職業』と言われてしまっているのに、憧れの冒険者であると言う状況ですら剥奪され様ものなら私はただエロい女になってしまう。
……それも悪くないな。
良い加減私の趣味をカズマに隠し通す為の案を無い知恵絞り考えているのだが、如何せん何も思い付かない。
半ば諦め状態のまま私はカズマと共に訓練所へと足を運ぶ。
すっかりここの生活にも慣れたカズマは私と共に剣の素振り、ランニング、そして転ける。
カズマ曰くこれも一種の様式美だと言っていたが、受け身を取るのが上手くなっていくカズマを私はどの様な感情で見守れば良いのだろうか。
何時でもどんな事にも備えて素晴らしい?将又もっと走る時のフォームを意識しろ?……正解は私の胸を見ず前を向け、だ。
良くもまぁ飽きずに二ヶ月も続けるものだ。
お陰でただの訓練でしか無かったランニングに面白さが足された、と騎士団の皆さんが言っていたが非常に複雑である。
そうして午前の訓練も終わり、私はここ最近は一人で食堂へと向かう。
カズマは色々と新しい男友達を作っている様で、そこに姉が居たとすれば邪魔でしかないだろう……いや、カズマなら逆に居て等と言ってくれる、と考えるのはブラコンだからだろうか。
私は深い息を一つ吐き、食堂の扉を開ける。
「………!ララティーナ!一緒に食べましょう。」
「あぁアイリス様、お気遣い有難う御座います。」
そうしてアイリス様、クレア殿、私と三人で並び食事を開始。
カズマは来なければこうしてアイリス様に誘われて同じテーブルで食事をする為、私に好奇な目を向ける男共を相手にしなくて済むから非常に助かっている。
「それでですねララティーナ、ララティーナも姉としてお兄ちゃんに一つ言って置いて下さい!!妹を放ったらかしにして食う飯は美味いか!!……と!」
「ハハハ!分かりました。可愛いらしい妹がお兄ちゃんとご飯を食べれなくて拗ねている、と伝えておきます。」
「なっ!?べ、別に拗ねている訳ではありません…!!」
「ほらアイリス様行儀が悪いですよ。ダスティネス郷もあまり誂わないで上げて下さい。」
「それはそれは、申し訳ありません。」
………正直、アレを見てしまってからクレア殿と少し気不味い雰囲気が流れている。
アイリス様が気付いていなかったのが何よりの幸いではあるが、クレア殿の心境を考えると姉としては少し居た堪れない気持ちになってしまう。
そんな私の表情に気付いたのか、片目を閉じ口に指を当て口元を上げジェスチャーを取るクレア殿。
彼女も彼女でカズマと引けを取らない程に悪い人だ、二人を知っている私に気にするな口に出すなと言う等……生殺しも甚だしい。
「………?どうかしましたかララティーナ?」
「!い、いえ。今日の料理は一段と美味しいなぁ…と。」
「分かりますかララティーナ!!実はですねぇ新しく雇ったシェフが___」
意気揚々とこの料理の美味い秘訣を教えてくれるアイリス様の話しを聞きつつ、チラリとクレア殿に目を向けると何時ものアイリス様を見守る顔へと戻っていた。
掴めない人だ……故、カズマの凄さが分かるのだが。
やはりアイツは貴族として上に立つべき人間だ、本人は庶民派だと主張しているがあの人に好かれる才能、言葉選び、何処かマセた様子、冒険者として行き遅れた女に喰われるより貴族として人を操る方が向いているだろう。
「___と、言う事なんです!!」
「ほう、その様な事が…!!」
正直、話半分で聞いていたが仕方ないだろう。
私の立場で物事を見れば、この現状が如何にむず痒く……どうにも出来ない不甲斐ない自分を嫌いになるか。
先程から考えが二転三転してしまうが、やはりカズマは庶民として生きた方が幸せなのかも知れない。
カズマなら貴族として上に立つ事は容易だろう、だが貴族と言う者は上になれば上に成る程肩身を狭い思いをしなければいけない。
自由奔放なカズマとは総反対な世界、どうも受け入れがたいであろう。
………アイリス様と食事をしている、と言うのにカズマの事ばかりを考えてしまう私はもういよいよであろうか。
コンコン、そう心地よい音が静かな廊下に響き渡る。
何を緊張しているのか、私は此方に歩いてくる足音一つ一つで心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
ガチャリと扉を開けたその先には___
「___おや?ダスティネス郷、こんな夜遅くにどうなさいました?」
ネグリジェを着たクレアがキョトンとして私を見ていた。
ゴクリと唾を飲み込み、私は後ろに隠していた酒を見せる。
「なに、旧友に会いに来たのだ。」
「………!」
ソロリと顔だけを部屋から出し周りを確認すると、首をクイッと部屋に向ける動作をする。
その動作に私はホッと胸を撫で下ろしクレアの部屋に入り、扉の鍵を閉める。
最後に見たクレアの部屋とは一風変わっており、印象的だった縫いぐるみも何処かへいってしまっていた。
「……あの冬将軍の縫いぐるみは何処にやったのだ?"クレア"。」
そう言うとフッと鼻で笑いコップを二つ持って来る。
「売りに出した。此処に来るのにそんな物は要らないだろう?"ララティーナちゃん"?」
「なっ!?そ、その呼び方はやめろ…!!」
「何だ、旧友に会いに来たと言うから呼び名も戻してやったと言うのに。」
クックックと笑い酒を注ぐクレア。
良かった、私の知るクレアは健在だった様だ。
「なら、私もクーちゃんと呼んだ方が良いか?」
「……それで、どうしたんだララティーナ。」
やはりお互い良い歳、昔の呼び名では恥ずかしさが勝ってしまう。
「いや何、少し昔に戻りたかっただけさ。」
「そうか。」
二人で酒を飲み、昔を思い出す。
まだカズマが今よりも更に幼い頃、私が八歳だとかその頃、クレアが十歳にいっているかどうかな頃、私達は親しい友人であった。
特別親同士が仲が良かった訳ではなかったが、初めてアイリス様と会いに行った時の会場で出会った。
当時は幼すぎるアイリス様は国王と王妃に抱かれそれぞれと簡易的な挨拶を交わす程度で合った。
当時から家柄も良く早々に挨拶を済ませた私は、暇を持て余し美味しそうな食事を貪り食っていたのを思い出す。
その時、隣に座り私を眺めている存在に気付いた………それがクレアである。
『それ、美味しいですか?』
私は今まで女性に話しかけられた事が無かった。
だからクレアと言う存在は私にとって希少な存在であった。
私に話し掛ける人間は殆どが男性ばかり、それも腰を曲げ遜りお父様につけ入れようと考える親の指示による。
クレアも同じ様な境遇であったのだろう。
だから気晴らしに私に話し掛けた、興味の無い飯の話題でもなんでも良いから、気を紛らわせたかったから。
そんな似た者同士の私達は、当時私達が思っていた以上に意気投合する事に。
それからは早かった、直ぐにお互い親に伝え会場を出て暗い庭で色々な話しをした。
彼処の家の男の子はやめておいた方が良い、彼処の家の男の子は親に無理矢理言われてやらされているだけで悪い子ではない、彼処の家の男の子は槍の腕の良い将来有望な子、等など。
貴族が皆居る会場から離れたのは正解だった、話の内容の殆どは貴族の悪口であったから。
でも、だからこそ意気投合したのだろう。
そのパーティーが終わった後も時折お互いの家に行く間柄に。
普段は外に出る事をあまり良しとしないお父様も、この時ばかりは嬉々として連れて行ってくれた。
それに、母親の存在もデカかっただろう。
初めての女友達なのだからもっと会っても良いのよ、と寧ろ遊びに行く事を催促していてくれた。
そんな私達は互いに『ララティーナちゃん』『クーちゃん』と呼び合う仲に。
………だが、そんな事も長くは続かなかった。
クレアが王都に移動し、アイリス様の教育兼面倒見係として家を出る事になったからだ。
しかし私達はそこまで危ぐしていなかった、家を出ると言っても王都、会おうと思えば何時でも会える、何よりアイリス様の誕生日会で嫌でも顔を合わせる羽目になる。
私は笑顔で送り出したさ、クレアも寂しそうな顔をしながらも、また会おうねと言いながら王都に飛び出て行った。
「………それで、こうしてお互い素で話すのは実に何年ぶりだ?」
「さぁ?分からない、それ程までに長ったのは確かだな。」
次のアイリス様の誕生日会で出会った時、アイリス様の直ぐ横で立つクレアは私を見付けてパァッと顔を綻ばせたのを今でも覚えている………その後、直ぐに引き締めたのも。
私はその時に初めて気付いたのだ、これは遊びなんかじゃなく立派な仕事なんだと。
「しかし、お前の弟には肝を冷やすな。初めてカズマを見た時は本当にお前の弟か疑った程だ。」
「その件は随分と迷惑を掛けた。」
「いや何、お陰で手を焼いていたアイリス様があの様子だ。結果的には良かったさ。」
そう言ってグビグビ酒を飲み進める私達。
やはり気を張らずに話せる相手が居ると言うのは心地の良いものだ、私は酒を持って勇気を出した過去の私を褒めてやりたい。
………でも、だからこそ、私は聞かなければいけない。
「………それで、何を聞きたいんだ?悪いが幾らララティーナと言えど国家の秘密は言えないぞ?」
「そうか、それは何とも残念だ。」
「あぁ、強いて言うなら……この前国王が王妃と喧嘩していたな。理由は確か……国王の好き嫌いが激しいから、だったか?」
「何とも、その歳になっても…か。」
そんな下らない……と言ったら国王に怒られるか、雑談をしながら刻々と時間は過ぎ去って行く。
そこまで長い時間ではなく、決められた時間しか無いのにどうも聞き出せないでいる。
そんな私を見て何か深く考え込んだ後、後頭部を掻きながら深い溜め息を吐く。
「………結婚、する事になった。相手は隣国のそこそこな御身分のお坊ちゃんだ。」
「………!」
「直ぐにとは言わない。アイリス様の教育に一段落付いたら、その時改めてプロポーズさせてくれ……だと。随分と粋な事をする奴だ。」
長い沈黙が流れる。
私は何か喋ろうとして、声が出せない。
お陰で時計の音だったり鳥の鳴き声、小さな音まで耳が拾ってしまう。
扉からギィと聞こえてきたり、風の音で窓がガタガタと、耳鳴りまでし始めるしまつ。
そんな私に眉を顰め困った顔で見つめるクレア。
「………確かに、アイリス様はスクスクと育ってはいるが…クレアの目から見て立派になったのか?」
「あぁ、アイリス様は随分と立派に育ったさ……それに、私の次にアイリス様を良く知る人物も……過保護は卒業と言う程には、な。私の仕事は過保護な程にアイリス様を守り、教育する事。つまりもうそろそろなんだ。」
「そう、か…。」
「ただ少なくともお前達が居る内はまだここに留まるつもりだ。だからそう悲しそうな顔をするなララティーナ、別に生き別れになる訳でもない……ただ、少し顔を合わせ辛くなるだけだ。」
そう言って俯いたままの私を優しく抱擁するクレア。
私は、そんな私が悔しくて涙止まらない。
ポタ、ポタ、とホコリ一つないクレアの部屋に涙を落とし、私は顔を上げクレアに面と向かい合う。
「……でも、それでもお前は…!………カズマの、事を…!!」
「ララティーナ。」
より一層強く抱き締め、私の背中を擦るクレア。
そこで私はハッとする、私の肩にポタポタと何か水が落ちる感覚………それはそうだ、クレアだって悔しくてしょうがないのだ。
悔しくて悔しくて、それでも何も出来ない自分自身が悔しくて、貴族として生まれたばかりに自由な恋愛も出来ず、親同士の取り決めで将来の相手を決められる。
その相手の事は嫌いになってはいかず、好きにならなければいけず、自我を出さず押し殺し子を産む………それが貴族に与えられた仕事。
庶民よりも良い物を食べ、良いベットで寝、良い物を与えられ、そして最後は縛り上げられる。
絶望も希望も許さず、ただ幸せな貴族の妻を演じ朽ちてゆく。
お母様の様やお父様の様に本当に愛し合っている人間と結ばれる貴族等希少も希少、物珍しいすぎる程だ。
「それになララティーナ、私は親友には結婚を笑顔で見送ってもらいたいんだ。私はこれでいて満足している………アイリス様と出会えて、カズマと出会えて、レインと出会えて___ララティーナ、お前と出会えて私は幸せだ。」
そう愛おしそうに私の頬を撫でるクレア。
そんなクレアの瞳は青く、痛い程に綺麗で、透明で美しい涙を流していた。
私達は夜通し泣きあった。
もう流れる水分などないだろうと、身体中の水分という水分が無くなろうと、貴族という宿命を受け悲し、悔し、受け入れがたい涙を。
そんなクレアとの時間は、酷く残酷な事に過ぎ去って行き………三ヶ月が経った。