あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 作:おふざけちゃん
「第七章 この眠れる乙女にお目覚めを!」
ギャンブル大国エルロード。
武力で成り上がったベルゼルク王国とは真逆で、ギャンブルただ一つでここまで国が大きくなったと言われる程に成金の住処。
そんなエルロードの第一王子事レヴィ王子と私は、向き合っていた。
ここはエルロードにあるそこそこ大きな教会。
そんな中で私は純白ドレスに身を包みとても幸せな花嫁を演じる。
あれから早い物で三ヶ月、ララティーナとカズマが特訓する最後の日に私はここエルロードで結婚式を挙げていた。
本当は最後まで面倒を見ると約束したのだが……如何せんこれは予め決められていた日にちなのである。
つまり元より嘘をついていた訳ではあるが……まぁたかが一日ズレた所で何も変わりはしない。
「クレア………とても、美しいよ。」
そう言って私を褒める目の前の相手、レヴィ王子。
これは只の結婚ではない……今後のベルセルク王国の命運を決める大事な結婚なのだ。
だからこそアイリス様を差し出そうと言う意見も出たし、だからこそその様な事にアイリス様を使う等と言語道断。
だからこそ、私がこうして代わりの外交を結び付けるカードとして嫁入りする。
しかしそこに不満などない、私はこの身体を使い主君も守れるのだ……それに、そんな主君の愛してやまない国との架け橋的な存在として居られるのだ。
貴族として見ればあまりにも立派な存在、皆が目指すべき理想形ではないか。
………いや、シンフォニア家の娘として不満はなけれど、クレア、としての不満なら幾つかあるな。
もっとアイリス様の成長を見守り、いずれは一緒に酒を飲んでみたかった。
もっとララティーナと遊び、普通の女の子らしくはしゃぎたかった。
もっとレインと会話をし、あの様な縦関係ではなく普通の友達としていたかった。
……もっと、カズマと一緒に、馬鹿な事を言い合い、遊び、酒を飲み、友達として………いや、それ以上の関係性に___
「___それでは、新郎、新婦。誓いのキスを……。」
そう物思いに耽っていると、牧師の言葉に我に返る。
私は何をこの期に及んで高望みをしているのだろうか、そんな事はシンフォニア家の娘としても、クレアとしても、割り切ったではないか。
何時までも過去にウジウジしていれば折角の外交のチャンスを己の手で潰す事になる。
……だと言うのに、何なのだろうな…この涙は。
「………どうしたんだい?クレア。」
「……!いや、何でもないさ…ただ少し、感極まってな……。」
何が不満だと言うのだ私、こんなにも心配してくれる優しい王子だと言うのに。
腑抜けた私自信の心に鞭を打ちレヴィ王子とキスをするべく顔を上げる。
そうしてベールに手を掛け持ち上げられ、私は出来るだけ自然な顔でレヴィ王子と目を合わせようと___
「___何故ですかっ!?何故クレアの居場所を言ってくれないのですか……!!」
「すいませんアイリス様。王様にも城を止めたその後は聞かれても答えてはならない、と言われていますので……。」
道行く使用人を捕まえクレアの居場所を吐かせようと躍起になるアイリスに帰ってくる答えは、全て等しく答えられない…と。
今朝方急に姿を消したクレアの行方を探るべく、アイリスと共に城内を彷徨いているのだが……。
「…なぁアイリス、使用人に当たってもクレアの居場所は分かんねぇぜ?」
「分かっています!そんなのは分かっていますよ……!!」
そう怒鳴りぶつぶつと考え込む……困ったな、反抗期だ。
何か知ってそうな姉ちゃんも残念そうな顔で分からない、とだけ言うだけで本当に誰もクレアの居場所を言ってくれない。
何もそんなに隠す事があるのか、何故アイリスには話さないのか、考えれば考える程不思議な状態だ。
結局アイリスに付き合わされているので最後だと言うのに今日は訓練も中止、騎士団の皆さんに姉ちゃんも聞いて来てはくれていたが皆分からない、本当に何処行っちまったんだよクレア……。
このまま俺一人で反抗期の武力娘に抗えるほど俺はまだ鍛えられていない。
「___これこれアイリス、何をそんなに気が立っているのだ?」
「……!お父様っ!!」
どうしたものかと悩んでいると久々に姿を現した王様、つまりアイリスの親父さんがこちらに向かって来ていた。
しめた!そのまま反抗期の娘さんを落ち着かせてあげて下さい。
「クレアは!クレアは何処に行ったのですかっ!?」
「………使用人から聞かされているであろう、クレアは今日限りで教育係を降りる事になったのだ。今はまた新しく教育係が来るまでは大人しくしていなさい。レインも今は家族と旅行中、寂しいとは思うが暫し辛抱してくれんか。」
「……でも…!でも、何の連絡も無しに、しかも私だけ、何処に行くのかも教えてくれないのは不義理ではありませんか!!」
「アイリスッ!!」
初めて聞くレベルの大きな声でアイリスの名を呼ぶ親父さん。
あまり王様をこの目で見た事が無かった為、アイリスにはデレデレで甘い親としか聞いた事のなかった俺からすればかなり意外な光景だ。
アイリスも初めてちゃんも怒られたのかビクッと身体を震わせるとその場に立ち尽くす。
「………今日は部屋で落ち着いてなさい。」
「………はい、お父様。」
もう見る限り落ち込んでますよ感を醸し出しながらトボトボと部屋へと戻るアイリス。
………き、きまじぃ…。
このまま王様とここに居るのは色々と気まず過ぎる、どちらかと言えばアイリスを慰めに行く方が幾分か楽なので俺もここはおいたまさせて………
「カズマ君。」
「ひ、はい…!な、なんでしょうか…?」
「少し話がある、着いてきてくれないか。」
そう言って踵を返しカツカツと来た道を戻る王様。
………いや断れる訳ねーだろ!?何が着いてきてくれないかだ、着いて来いと意味違わねーよあんた程の人間が言ったなら!!
という訳で否が応でも断れない雰囲気のまま俺は王様に着いていく事に。
その王様として大きな背中には圧倒されるものがある、だと言うのにアイリスにはデレデレ……そ、想像つかねぇ…。
さっきの光景を見てしまったせいかイグニスさんよりも厳しい印象を受ける。
そんな失礼だか何だか良く分からない事を考えながら、俺は王様が行く方向に何となく目星をつける。
これ……王様の部屋じゃね…?
馬鹿みたいにだだっ広い王城にはまだ行った事のない箇所があり、その一つが今向かっている王様の部屋だ。
「あ、あのぉ…何故私が王様の部屋へ…?」
「なに、少しばかり人に聞かれたくない話だ。それに口調もアイリスと居る様な砕けた口調で構わん。」
いや無理だろ。
「まぁ与太話は良い。さぁ、ここが私の部屋だ。」
そう言ってドアノブに手を掛け捻る。
そんなドアの向こう側はそれはそれはもう広い、食堂くらいあるんじゃないかと思うくらいには広い。
ここまで広いと逆に居心地悪そうだなぁ…という印象を受けるが、決して口には出さない。
俺は初めて女性の部屋に入る様な気持ちで中に入ると、意外と質素なソファに指をさされる………座れ、という事だろうか。
王様と対面でソファに腰を掛けると、カチ…カチ…と進む時計の針の音が耳に残る。
「そ、それで…話したい事とは…?」
「………」
手を組み暫し考え込むと、覚悟を決めたのか一息吐き俺に見つめ直す。
「何となく分かってあるだろうが、クレアの事についてだ。」
「………!」
なんだ、アイリスには言えない俺には言えるクレアの事…?
「ではまず、何故クレアが居なくなったか……だが。それは我が国ベルセルクの隣国である、エルロードが深く関係しておる。」
「……エルロード…?」
「うむ。我が国とエルロードは親密な関係でな、武力で成り上がった我が国には金が足りぬ。だが逆にギャンブルで成り上がったエルロードには魔王軍に対する力ご足りぬ。」
「そこを二つの国で協力する事によって……。」
「そう、お互い持ちつ持たれずの関係性であったのだ……前までは。」
と、声のトーンを落とし続ける王様。
「しかし最近、向こうの王様と話し合いになってな……お互いの王子王女を繋ぎ合わせ、これからの未来を見据えないか?と提案があってな…。」
………成る程、話が見えてきた。
「だが此方としてはアイリスを嫁に出すのはまだ早いと言う意見もあってな………それに、ほら。家のアイリスは世界で一番可愛いから……。」
「……お、おう。」
全然デレデレじゃねーか、さっきの勇ましい父の背中は何処へやら。
「とそこで代わりにと言ったのがクレアだったのだ。それこそアイリスとまではいかなくとも優れた美貌、申し分ない貴族としての地位、向こうもそれならばと受け入れてくれたのだが……。」
「……その事は、アイリスには話すな…って?」
「………。」
無言で頷く王様。
成る程ねぇ……つまるてーっと、行き過ぎたアイリス愛が更に加速した結果自分を犠牲にする選択を選んだ……と。
「でもどうするんだ?いずれアイリスもエルロードに行く予定が出来るかも知れない。そん時には遅かれ早かれバレると思うけど?」
「そこは対策してある。何やら婚約相手とクレアは別の城からは少し離れた地域に移住する予定らしい……これがその場所である。」
そう言って俺に一枚の紙を渡してくる王様………おぉ、思ったよりも離れた位置に行くつもりなのか。
つまりそんなクレアの我が儘も向こうが受け入れてくれているこの現状、下手にアイリスに場所を伝えてバレようものなら向こうの手間を無下にする事となる。
そんな事で下手に両国の溝を深くしたくもないし、だからこそ皆黙っているのか……。
「………それで?その事を俺に伝えてどうするつもりなんだ。俺はどちらかと言うとアイリス寄りの意見だ、この紙持ってアイリスの部屋に行くかもしれねーよ?」
本当にするつもりなどはない。
俺だってこの国が好きだ、この国が好きだからこそクレアの頑張りを否定する様な事はしたくない。
そんな脅しの様な言葉を王様に告げながら紙をヒラヒラと持ち上げていると、手を組むのを止め自分の膝に置く王様。
「………寧ろ、その為にカズマ君を呼んだのだ。」
そう言いながら頭を軽く下げる王様。
………え、いやいやいやいや!?何俺にそんな軽々下げてくれてんの王様っ!?
「え、ちょ誰かに見られたら洒落になりませんから!!こっちこそ頼みますから頭上げて下さいよぉ!!」
下手にこの現場だけを見られあらぬ噂を流され様ものなら姉ちゃんから本気のグーが飛んでくるかもしれない。
俺はそんな王様に対抗するべくソファーを立ち土下座を決める。
「いや!これが私の本気なのだ!頼む!!この通り!!」
そんな俺に対抗心が芽生えたのか王様もソファを立ち上がり土下寝……土下寝っ!?な、なんて高度な土下座なんだ……!!
負けてられない、男というものは一度初めた勝負は勝つまで終わらないのだ!!
「クッ…!な、ならば……!!くらえ!!パンイチ土下寝だぁぁぁぁぁっ!!」
恥も外聞も捨て、俺は見事服とズボンを一瞬で脱ぐ事に成功……これが三ヶ月の特訓の成果だ!!
「なにぃ…!?流石ダスティネス家の息子だ、一筋縄ではいかぬか……!!ならば、これならどうだぁぁぁぁっ!!!」
土下寝を止め立ち上がったと思うと、脱ぎ捨てた俺の靴を自分の口元に近付けたと思えば……ま、まさかっ!?
「く、靴舐めだとぉぉぉっ!?」
「あの、次こんな事していたら二人ともララティーナ様と王妃様を呼びますからね?」
「「すいませんでした」」
結局お互いにパンイチになるまで続いた謝罪バトルは、何故か此処に居た旅行中である筈のレインによって終止符が打たれる事となった。
しかし、この王様思ったよりもやりおる。
ただの親バカ野郎かと思えば父親としての厳しい一面も持ち、自分よりも身分の低い相手であろうと服を脱げる潔さを持っている……流石王と呼ばれるまで登り詰めた男だ。
「………それで、レイン。どうだったんだい?」
先程の情けない姿は何処へやら、急に真面目な顔をしたとなるとレインもそれに応える。
「概ね黒確定でしょう。それも………第一王子、レヴィで。」
「………そうか。」
………え、ちょっと待てカズマさんが良く分からない会話は辞めてほしい。
「……?あれ、カズマさんには説明されなかったのですか?」
「いや、しようと思った結果があの結末だね。」
「そうですか………じゃあ、お久しぶりですねカズマさん。元気してましたか?」
「……なぁ、俺だって一応ダスティネス何だぜ?姉ちゃんにはあんな畏まってんのに……何で俺にはそんな舐め腐った態度なんだ?」
「さぁ、やっぱり気の所為じゃないですか?昔から言ってますけどそれ。」
そう言ってやれやれと言わんばかりに溜め息をつくレイン……こ、こいつぅ…!!
「まぁそれは今は置いといて、ひとまず簡潔に………エルロード王国の第一王子レヴィ王子、つまりクレア様の婚約相手なのですが……魔王軍の手先である可能性が出てきたんですよね。」
……え。
「それ、まじ?」
「大マジです。だからこそ私が家族旅行と言う名目でエルロードに調査しに行ってたんですが……。」
「………それで、どうだったんだ?」
「先程も言った通りほぼ黒です。魔王軍と会話している様子を見た事がある、や元々可愛らしかったのに急に大人びた、等など………不明点が幾つもあり、良く良く調べて見ればアイリス様と同年代だった筈なのに、今はララティーナ様と同じ年齢……つまり、二歳も上になっているんですよね。」
「それ、普通に気付かねぇか?」
流石に二歳も急に伸びているのであれば嫌でも気付きそうだが。
「まぁあそこの国はギャンブル狂いが多いですからね……マトモに周りを見る人間の方が少ないんですよ。」
何処か遠い目をしながらそう告げるレイン……成る程、情報収集をするのにもかなり苦労した様子だ。
「てか止めろよ王様!!怪しいなら!!」
「そうは言うけどねぇカズマ君…貴方の息子さんはとても怪しいので嫌です!と、言えるのかい?」
「まぁ、確かに無理ですね……。」
「だからこそ、クレア様も自分の身を張ってアイリス様を守ったのではないでしょうか?」
アイリスを愛する気持ちは親にも引けを取らないレベルなのかアイツ……尚の事アイリスだけに隠しているのが可哀想過ぎるな。
「さて、ここで話していても変わりません。それじゃあ行ってきます。」
「あぁ、頼んだよレイン、カズマ君。」
「え?」
そうレインが告げると、俺の服をズルズルと引っ張り王様の部屋から放り出される。
「……どういう事?レイン。」
「あれ、レインちゃんとは呼んでくれないんですか?………まぁ、向こうに行ってから説明しますよ。」
こいつ……いや、こいつに限らず何故クレアだったりも昔の事を弄ってくるのか…。
そんな事を考えながら立ち上がると、コツコツと少し離れた所から足音が此方に向かって来ていた。
あれは………って、
「姉ちゃん!!」
「カズマ!レイン!!二人が居るって事は……。」
「えぇ、行きましょうララティーナ様。」
此方に小走りで向かって来ると、レインが何かブツブツと杖を構え立ち止まる。
……結局何処に行くんだ俺達。
「なぁ、これから何処行くん?姉ちゃん。」
「ん?そんなの決まってるだろう。」
フッと何処か覚悟の決まった目で俺を見下ろす姉ちゃん。
「それじゃあ…行きますよ?」
「最後の訓練だカズマ。クレアを助けに行くぞ!」
「『テレポート』ッ!!」
「なぁ、騎士団とか連れて大人数で行った方が良かったんじゃねーの?」
「何言ってるんだカズマ。そんな事すればバレるに決まってるであろう、今回の私達は密かに事を済ませにきたのだ。」
クレアが居るとされる家へと向かう為に歩いていた時、そんな会話をしていた頃。
急にテレポートでエルロードへと飛ばされた俺は辺りを見渡しながら向かっていた。
「そもそも今回のお相手である魔王軍ラグクラフトは、変装能力は上手けれど戦闘能力はそこまでないとされて居ます……が、その変装能力がピカイチ過ぎて強いのですが。」
「てことは、今のレインがラグクラフトの可能性もあるって事?」
「大いに。」
ほーん……。
「ちょ姉ちゃん剣貸して。」
「何刺そうとしてるのだお前!!そもそもベルセルク王国には結界が張られているのだ、戦闘能力の低い魔物は入る事すらままならない。」
だから武力の低い結界が張られてなさそうなエルロードで……って事か。
「……あ!ならよ、合言葉決めておこうぜ。」
「合言葉?」
「良いですね、もし誰かが気付かない内にラグクラフトと入れ替わっていた時様に私達だけ分かる突拍子のない言葉。」
うーんと頭を唸らせながら考える………合言葉、合言葉かぁ……。
「…誰かが『山』って言ったら他二人が『メソポタミア文明』って答えるのはどうだ?」
そんな俺の言葉に何処か苦笑気味の二人。
「確かに突拍子もないが……何処から出てきた言葉なんだそれは?」
「いや、俺自身も良く分からん。」
「まぁ、じゃあそれでいきましょう。訳が分からない程合言葉として機能していますので。」
そんな褒めてるんだか分からない言葉を掛けられていると、レインが急に立ち止まる。
「とか何とか行ってたらそろそろ見えてきましたね、あれが今回クレア様とラグクラフトが居る可能性の高い家です。」
そう言いレインが指を差した場所にはまぁまぁ立派な家が建っていた。
確かにあれなら王国育ちのお嬢様でも窮屈は感じない程には広く、アイリスがこちらに来ても違和感を感じないであろう。
良くもまぁそこまで精密に出来た物だと思いながら俺はアイリスも連れてきた方が良かったんじゃねぇか?とも思う。
多分あの城の中で一番強いのアイリスだろうし。
それに救出した後の事とかどうするんだろ、一応は教育係から降りてるんだから………実家にでも帰るのだろうか?
まぁそこは本人と折行って相談と言う形かな、今考えても仕方がない。
「良し、気合は十分か!カズマ!!レイン!!」
「勿論!!」
「はい!!」
皆準備万端と言わんばかりに鼓舞し、家の戸を叩く。
コンコン……と、木製の扉特有の音を鳴らしながら中からの返事を待つ。
もう一度戸を叩きドアノブに手を掛け……鍵が掛かっているのか。
「避けろカズマ。」
そう後ろから声が聞こえた為サッと左に移動すると、姉ちゃんが思いっきり扉を蹴りつける。
一度、二度、三度目で爆音が聞こえたとなると目の前には木の破片と共に扉の残骸。
………これ、もし違ったらどうなるんだろ。
「なーにそんな心配そうな顔をするなカズマ。ただ私は今、少しばかり気が立っているのだ……。」
そこに居たのは貴族としてのイロハを俺に教え込む鬼教官の姉ちゃんでもなく、訓練時の大真面目な雰囲気の姉ちゃんでもなく……ただ、ただ友達の身を感じる気迫迫る姉ちゃんであった。
そんな姉ちゃんの後に続き俺達は玄関へ脚を進める。
「随分と、小洒落た玄関だな。」
「逆に不気味な感じしねえか?」
「怖気づいたんですか?カズマさん。」
そんなレインの煽りは無視だ無視。
一先一階のリビングに繋がるであろう扉に手を掛ける……。
「………姉ちゃん、出番。」
「あぁ。」
そう言ってもう一度扉を蹴りつける姉ちゃん。
見た所鍵の必要な扉ではない、つまりこの扉が開かないのは俺の力が非力過ぎるのかはたまた……。
「バリケード、ですかね?」
「だとしたら勘付かれているな……此処からは慎重に行こう。」
あんな爆音で二度も扉を壊しておいて今更感はあるが、トラップを警戒するに越した事はない。
姉ちゃん、俺、レインといった順番で部屋へと入る。
そんなバリケードで防がれていたリビングらしき所は、やはりと言うべきかキッチンとテーブル以外に何も置かれていない。
強いて言うなら窓に引かれた少し揺れる花柄のカーテン、そして机の上に置かれた花。
俺の世界では婚約した時に役所から花が贈られると聞いたが、その類だろうか?
………しかし、考えれば考える程不思議だ。
何故バリケードを建てる必要があったと言うのか……外敵から守る為自分の居る場所の扉に建てる、なら理解は出来る。
だが殆ど何も置かれていない、誰も居ないといったこの場所でバリケードを建てる必要はあるのか…?
「何か見つけたか?カズマ。」
「……いや、この不自然なバリケードについて考えてたんだよ。」
「確かに、何故此処にバリケードを建てる必要が……。」
「一先全ての部屋を見て回りませんか?もしかしたらそこに居るかも知れません。」
そのレインの言葉に俺も姉ちゃんも頷きリビングから出る。
その後一階のもう一つの部屋にもいったが家具一つも置かれておらず、残った扉はトイレと風呂場だけであった。
一応便座カバーを上げたり風呂場の隅々まで観察したが、何も情報を得る事は出来ないでいた。
「………なぁ、凄く怪しくないかアレ。」
二階の階段を登り、そこにあるのはただ一つだけの扉。
変な家だと言えばそれだけなのだが、如何せんクレアが攫われた可能性の高い家と考えればあまりにも怪しさ満点の扉である。
緊張感の走るこの空気、姉ちゃんが先導して扉のドアノブに手を掛ける。
「…開いている、用心しろ二人とも。」
「おう。」
「はい。」
バンッと勢い良く開けた扉の先には……。
「クレア!!大丈夫かクレアっ!?」
それはそれは綺麗なウェディングドレスを身に纏ったクレアがベッドに拘束されていた。
何度もクレアの名を呼ぶ姉ちゃんには反応せず、どうやら深い眠りについている様だった。
………と、なると。
「クレアが見つかったから一先は安心だが、問題のラグクラフトは何処だ?」
「……気を付けて下さい、カズマさん。この部屋から異様な雰囲気を感じます……!決してクレアさんに危害を加えさせない様慎重に辺りを探索しましょう……。」
俺はクレアと姉ちゃんの事を常に視界に捉えながら、机の引き出しやクローゼットを開ける。
………しっかし、本当にラグクラフトとやらは何処にいったんだ。
俺はこの家へ入った事を思い出しながら辺りを見渡す。
未だ心配そうにクレアの手を握る姉ちゃん、眠りこけるクレア、そんな二人を心配そうにしながら俺と同じくあちら側を探索するレイン。
………あれ?
俺はレインの方へと近付きレインの肩に手を置く。
「?どうかされました?カズマさん。」
「いや、えっとあれだけ眠りおけてるのって何か理由分かったりする?レインってほら、魔法使えるからそういう事に精通してないかなって。」
「あぁ……多分、ではありますが……クレアさんはきっと『スリープ』と呼ばれる魔法で眠ってるのではないでしょうか?それもとびっきり強力___」
「『山』っ!!」
俺はレインの言葉を遮り二人の言葉を待つ。
相手が此方に変装出来るという状況、何処で聞いてるかも分からない為一度しか使えない合言葉……もし、もしこれが杞憂であればどれ程良いだろう。
そんな俺の叫び声に、二人の反応は真反対であった………いや、真反対であってしまった。
「……急に何を言いだし___」
「___『メソポタミア文明』。」
俺は腰にぶら下げていた真剣でレインに振り下ろす。
それはここ三ヶ月所か昔から姉ちゃんと続けていた素振りと同じ動作。
慣れに慣れた俺の腕は、本番一発目だというのにそれは緊張も何もなく綺麗にレインの首元へと振り下ろされる。
刹那見えるレインの顔には、しまったと言わんばかりの焦り顔で俺を睨んでいた………だから、俺は、今世紀最大のドヤ顔で返してやったよ。
レインを切り落とす感触は、とても人間を斬ったとは思えない感触でスパッと止まる事なく地面に刃先を向ける。
目の前で切られたレインはドロドロと黒い液体で溶け、俺の足を侵食するかの如く床へ広がった。
「………っ…ら、ララティーナ…?」
それと同時に、こいつに魔法を掛けられていたであろうクレアが目を覚ます。
「…!クレア!!大丈夫か…?」
「私は…一体……?」
「こいつだよこいつ、この黒い液体が………あーと、誰だっけか。レヴィだっけか?の正体。」
そんな俺の言葉にクレアがヨロヨロと身体を起こし、俺が指をさしたラグクラフトの成れの果てを見つめる。
「………成る程、そういう事か…。」
そう言って起きたての身体を無理矢理動かし、クレアが俺の肩を掴んだくる。
「………?んだよ。」
「いやなに、また私はお前に助けられたのだな……と。」
まぁ厳密に言えば俺と姉ちゃんと……レインはそういや何処だ?
まさかこれまたレインも探さなきゃいけないとかじゃないよな…?何て少し面倒くさいなぁと思っていると___
「___んっ……はぁ…。」
「………っ!?お、おおおお前さぁっ!!」
「っ!?」
この野郎また俺の唇奪いやがった!!しかも姉ちゃんの目の前……って、何で俺より顔真っ赤にして指の隙間から俺を見てるんだよ姉ちゃん。
俺が言えた事じゃないが、随分とピュアな姉だ。
「フッ…まだ恥ずかしいのかカズマ。昔に一度した事があるというのに。」
「なっ!?そ、それは何時の事だカズマ!!私の知らない所でそんな……そんなふしだらな事っ!!」
と今度は姉ちゃんが俺の肩を掴みガクガクと揺らしてくる。
「………なぁ姉ちゃん。ウェディングドレスを着た人とキスしたらそれって誓いのキスの扱いになるかな?」
「そんな事はどうでも良い!!昔とは何時の事だ!?具体的に、事細かく!!」
そんな俺達の様子をクスクスと笑いながら見てくるクレア……あの野郎、目覚めのキスとは随分と姫様気分な野郎だ。
その日から、いや厳密にはもっと前からだったのかも知れない、俺を見るクレアの目が少しだけ変わった物になった。