あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン!   作:おふざけちゃん

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紅色の片目
あの愚か者にも脚光を!ダクネスのターン! 紅色の片目


 

 エピローグ「しがらみの剣乙女」

 

「___どうされました?クレア様。」

 

 あの後、玄関に置いてあった靴箱に丸め込められていたレインを探し出し王城へと帰還していた。

 

 そんなこんなで王様に顔を見せに行こうと王城の俺達がいる部屋から出ようとしていると、ドレス姿のクレアが足を止めていた。

 

 暫しの沈黙が流れると、俯いたままのクレアが顔を上げ俺を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「………な、なんだよ。」

 

 先程の事もありすこしどもり気味ではあるが、まさかその事に関してじゃないだろうな…?

 

 ただでさえ先程のキスのせいで姉ちゃんに非ぬ誤解を……いや、誤解ではないが顔を真っ赤にして怒られたばかりだというのだ。

 

 ここでまた変な事を口走ろう物なら今度こそ姉ちゃんに殺されてしまう。

 

「………カズマ、お前は確か冒険者になる為にここに訓練しにきたんだったよな?」

 

「お、おう。そうだな。」

 

「……ならば、私もそれに着いて行っても良いだろうか?」

 

「「はっ!?!?」」

 

 俺と姉ちゃんの声がシンクロして部屋に響き渡る。

 

 いやいやこいつは何言ってくれてんだ、まさか自分の仕事を忘れたとでも言うのか。

 

「し、しかしクレア。お前にはアイリス様と言う……」

 

「勿論、アイリス様の事も心配だ。………だが、やはりずっと一緒には居られない。ここいらでそろそろ、私の人生を歩むのも悪くないのでは……と思ってな。」

 

 と、何やら悟った事を言い始めるクレア。

 

「それに、私はもう仕事は辞めている。アイリス様も良い歳だ……何も心配する事等ないだろう。」

 

 ………クレアが居ないと知ってあの様子のアイリスを見た後じゃ、どうも共感は出来ない。

 

 が、寧ろアイリスもクレア頼りになっている節があるというのも事実……ここは兄としてそろそろクレア離れ、アイリス離れを促す良い機会だと割り切ろう。

 

「ま、良いんじゃねぇの?でも親はどう説得するんだ?この婚約が破棄になった所で、また別の奴と結婚しろ!!……って言ってくるんじゃ。」

 

「そんなもの張り倒せば良いだろう。事実今までそうしてきた。」

 

 成る程……やはり貴族のご令嬢の様式美とも言える張り倒しは共通なのか。

 

 その言葉も聞き姉ちゃんも確かにと言った表情………いや、少し青ざめているレインを見るにどうやらこの二人が特殊みたいだ。

 

 さしずめ私には到底出来ない…と言った所か。

 

 まぁ俺もイグニスさんに言われれば、拒否はすれど張り倒すまではいかないだろう。

 

「……それに、ただ友人と一緒に冒険したいと言うのもある。私は今まで女の子らしい事をしてこなかったからな。」

 

「クレア……。」

 

 そんな事を最も女の子らしい格好のクレアが言っているのは置いといて、俺は扉の方へ振り向く。

 

「___らしいぞ、アイリス。」

 

「「「えっ???」」」

 

「………。」

 

 驚愕の表情で扉の方へと振り向く三人、そこにはゆっくりと扉を開けアイリスが入ってくる。

 

「……何時から気付いてたんですか、お兄ちゃん。」

 

「最初から。」

 

 伊達に使用人が多い家で住んでないのだ、足音や気配を見極め一人ゴソゴソ……この十四年生きてきて身に付いた気配察知だ。

 

 ただ対象は聞き覚えのある足音、つまり知人にしか適応されない為戦闘などには微塵も使えない。

 

「アイリス様……。」

 

「……。」

 

 そんな馬鹿な事を考えていると、アイリスとクレアが見つめあい重苦しい雰囲気が流れていた。

 

 やはりアイリスとしてはまだ一緒に居たいのか、あまり良い顔はしていない。

 

「___て下さい。」

 

「……え?」

 

「手柄を立てて下さい、絶対に。その時、私は王娘として貴方達冒険者へ褒美を送る為招待させて頂きます。」

 

 ……粋な事を言う様になったな、アイリス。

 

 ほれ見ろ当事者でもないレインが目を抑え泣きながらこの光景を見送ってるぞ。

 

 姉ちゃんも真剣な顔で二人を見送り、何処か重苦しくも心地良い雰囲気だ。

 

「おにい………いえ、カズマさんもクレアを泣かせたら承知しません。」

 

「へいへい。」

 

 何時もクレアから言われていた言葉を、今度はアイリスに言われてしまった。

 

 そんな言葉を聞き何処か照れくさそうなクレアと、そんなクレアを慈愛の目で見守るアイリス。

 

 ……何だかんだ、綺麗に収まりそうで何よりだ。

 

「それでは、私からは以上です。」

 

 そう言い名残惜しそうな表情をしつつも部屋から出ようとするアイリス……と、何やら言い忘れていたのか此方に振り返るアイリス。

 

 その表情は何処か吹っ切れた様な、祝う様な表情であった。

 

「___御結婚、おめでとう御座います。二人共。」

 

 フフッと笑い部屋を後にするアイリス。

 

 俺はギギギと機械音が鳴りそうな位に顔を揺らしながらクレアへ振り返ると、俺と同じ事を思ったのか自分の服装を見ていた。

 

「ち、違うんだ『います』アイリスゥゥゥゥ『様ァァァァ』ッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一章 この侍らせショタに冒険を!」

 

 

 

「………まさか、信じて送り出したカズマが女性を連れて帰ってくるとは……大人になったんだね。」

 

 等と人聞きの悪い事を言ってくるイグニスさん、俺の後ろにはチラチラとクレアに視線を向ける姉ちゃんと何処か懐かしむ面持ちのクレア。

 

「と、冗談は置いといて……久しぶりだね、クレアちゃん。元気してたかい?」

 

「お久しぶりです、お陰様で不自由の無い生活をおくっておりました。」

 

 そんな社交辞令的な事を済ませていると、姉ちゃんが今度は俺を複雑そうな目で見てくる。

 

「……なんだよ。」

 

「いや何、これから新しく年頃の女性と同じ屋根の下で住むというのに、随分とお前は落ち着いてるんだな…と。」

 

「?どの口が言ってるんだよ。今更じゃねぇか。」

 

 そんなふしだらな身体した奴が一体何を心配しているのやら。

 

「し、しかし我々は姉弟だろう…?クレアは大人な女性で、私とはまた違った部類の……。」

 

 オロオロとしながらどっちを心配しているのか分からない姉ちゃん、俺が我慢出来ずに襲うとそう言いたいのだろうか?

 

 それこそ本当に今更だろう、俺は姉ちゃんとクレアの胸元を比べ確信を持つ。

 

「そんな邪推しなくても、姉ちゃんはクレアよりも可愛いと思うよ………胸もデカいし。」

 

「そ、そうか…!一言余計だが。」

 

 ホッと胸を撫で下ろしイグニスさんと話しているクレアに目を向ける……成る程、襲うとかそう言う心配じゃなく、俺が姉ちゃんから目移りしないかと嫉妬的な感情か。

 

 随分とブラコンチックで困った姉だ、俺が生きてきて十四年間…姉ちゃん以外に目移りして事など両手で数える位にしかないと言うのに。

 

 ましてやその目移りした女性は誰一人として姉ちゃんの胸に勝てる人間は居なかった、つまり心配する事など何もないのだ。

 

 俺は大人達のつまらない話しはこれ以上聞くつもりはないと久しぶりの我が家へと扉を開ける。

 

 やはり特に変わった所など何もなく、見知った顔しか居ない。

 

 戻ってきて早々ではあるがトレーニングでもしようかと進む道すがら、普段は気にもしない新聞に手持ち無沙汰だった俺は目を通して見る。

 

 最近の魔王軍の動きはどうだとか、何処何処の街で事件があっただとか、在り来りな事しか書いていなかった。

 

 そんな中端の方にポツリと書かれた文に目が止まり、俺はそこへ注目してみる。

 

「………アクセルの天才魔法少女、又も大型ドラゴンを単独撃破。彼女の通り名は……」

 

「坊っちゃん!!」

 

 急に後ろから抱き着かれたと思うと、そこに居たのは俺と一緒に短期間ではあるがトレーニングしていたガタイの良い守衛さんであった。

 

「おぉ?久しぶり守衛さん、元気してた?」

 

「ハッハッハこの通り更に筋肉をつけましたとも!!坊っちゃんも元気そうでなによりです!」

 

 俺を慎重に地面へと降ろし筋肉を見せびらかす守衛さん……相変わらずムキムキの一言が似合う人だ。

 

 俺は持っていた新聞に興味をなくし机へと置くと、守衛さんと一緒にトレーニング室へと向かう。

 

 王城で感覚が麻痺していたが、家も随分戸デカく広い家だ。

 

 トレーニング室へ向かう道中にメイドさんや執事と久しぶりと会話を広げ、俺は三ヶ月やり切った実感が湧いてくる。

 

 特に身体の変わった変化は見られないが、それでも気持ちは晴れやかだ。

 

「随分と気分の良さそうですな、坊っちゃん。」

 

「ん?あぁまぁな。」

 

「前までは何処か暗い面持ちであった為我々は毎日頭を悩ませておりましたが、今では胸を張って歩くその御姿に私は胸が打たれる思いであります。」

 

 そんな大袈裟に感動したと伝えてくる守衛さん、そりゃまぁ前まで家から出る事禁止されてましたからね……必然と飽きが来るってもんですよ。

 

 だがこの三ヶ月、厳しい思いもあったがお陰で身体を鍛えるという新しい趣味も出来た……更にクレアも家に来るってもんで新鮮な事ばかりだ。

 

「やはり、坊っちゃんの女性のお陰でありましょうか。」

 

 ………ん?

 

「守衛さん、その言い方だとまるでクレアが俺の女みたいな言い方だろ?」

 

「あぁクレア嬢でありましたか!!いやぁ随分とお美しく育った物で……全く、隅に置けませんな坊っちゃん!!」

 

 そう言ってハッハッハと高笑いして横を歩く守衛さん……成る程、さっきから話すメイドそん達の目が何処か生暖かったのも、執事の観る目が尊敬する人間を観る目だったのも、全部全部アイツが、クレアが俺の女だと思っていたから…?

 

 俺は訂正する気力も失せ、折角楽しみにしていた新鮮な要素も悪い意味で潰されそうな今後を考え頭を抱えたくなる思いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チュンチュンと小鳥の囀りが耳に入り、俺は目を覚ます。

 

 昨日は姉ちゃんが俺の部屋に夜這いに来る事などなく一人安静に過ごせたお陰で目覚めが良い。

 

 何時もベッドメイキングしてくれるメイドさん達に敬意を払い、訓練期間の事を思い出し自分である程度掛け布団を整え寝間着から着替える。

 

 随分と高そうな寝間着から運動着へと着替えると、洗面台へ向かい歯を磨きに。

 

 ランニング後の朝食を楽しみにしながら俺は姉ちゃんの部屋へ向かおうとして気付く……そういや、もう俺が姉ちゃんを梳かす必要無いんだった。

 

 それはメイドさんの仕事だと言う事を思い出し、慣れとは怖い物だと身に染みる。

 

 今日も朝早くから門を守る守衛さん達に挨拶を交わし、俺は家の周りを走り出す。

 

 今日から始めようと決めた物の一つ、早朝のランニング。

 

 これにどんな効果があるかは分からないが、訓練期間中の早朝のランニングは実に気分の良い物であった事は覚えている。

 

 もしかしたら姉ちゃんの胸が直ぐ横にあった事によっての効果だったかもしれないが、もしそうだったら又姉ちゃんを起こしに行けば良いだけだ。

 

 前までだったら直ぐにバテていたであろう自分の身体は小刻みに息を吐き、背筋を伸ばす事を意識しながらそこそこの速度で足を動かしていた。

 

 ……と、二周目に差し掛かろうとする時同じくランニングしようとしていたのか、昨日から家へ住む事に決めたクレアが門を開け俺の横に並ぶ。

 

「おはようカズマ。」

 

「……おう、久しぶりの家はどうだった?」

 

「特に変わりはなかったな、強いて言うなら物置きであった部屋がお前の部屋になっていた事だろうか。」

 

 その髪は邪魔じゃないのだろうかと思う程に長い前髪を揺らしながら俺と共に走るクレア。

 

「それにしても昨日のイグニスさんの顔は面白かったな。私が家に泊まらせてくれと頼んだ時、お前を少し好機な目で見ていた………フフッ、お前の慌てブリも中々だったな。」

 

「そりゃそりゃお陰様で、お前のお陰で俺に女が出来たと使用人の間では話題なんだと。」

 

 飯を食い終わった後の様子は地獄その物だった。

 

 俺が横を通る度に好機な目を向けてくる奴、微笑む奴、まるでお祝い事があったかのその様子に俺は疲労感を感じざるを得なかった。

 

 更に困ったのは姉ちゃんだ、怒る訳でもなく否定する訳でもなく、悲しそうな表情で落ち込むだけ……面倒くさい姉だ。

 

 俺は走りながらチラリとクレアの胸に目を向けながらそんな事を考えていたが………ほほぅ、コイツも中々に良い物を持ってやがるな?

 

 訓練期間中は先頭を走っていたり、そも鎧を着込んでいた為正確な大きさは測れていなかった。

 

 しかし今只の運動着で走るクレアの豊満なタワワは姉ちゃんには劣れど、家のメイド達よりも遥かに優れた物を持っていた。

 

「………お前、訓練中もそんな事をしていたから良くコケていたのか?」

 

「良くお分かりで。お陰で受け身を取るのが格段に上手くなったしな!」

 

「はぁ…ララティーナの苦労が計り知れないな。」

 

 何て失礼な奴だ、俺と姉ちゃんはお互いが一方に迷惑をかけるのではなく持ちつ持たれつの関係である。

 

 心の中でクレアに言い訳しつつ、俺達はある程度疲れてきた所で朝食を取る為ランニングをやめる事に。

 

 門に居る守衛さんに再度挨拶をし玄関扉を開けると___

 

「___随分と遅かったな?お前達。」

 

 腕を組み不機嫌そうな姉ちゃんが俺達を出迎えていた。

 

「何だよ姉ちゃん寝起きか?可愛い顔が台無しだぜ。」

 

「悪かったなララティーナ、随分と気持ち良さそうに寝ていたから起こすのに少し躊躇してな。」

 

「………。」

 

 無言で俺達の弁明を聞いていた姉ちゃん、急に俺の方へズカズカと歩き出すと俺をそのデカい胸で抱擁してくる。

 

「悪いがクレア、コイツは私の弟だ。」

 

 と何を危惧しているのか俺をギュッと抱き寄せると今度はクレアも抱き寄せる。

 

「そしてカズマ、クレアは私の数少ない大事な友人だ………だから、今度からは私も誘って…な?」

 

 そう悲しい事を言う姉ちゃんの顔は、先程の寂しそうな不機嫌顔は何処へやら微笑みで俺達を包んでいた。

 

「……クレア、随分と可愛らしい友達を持ったな。」

 

「カズマこそ、可愛らしい姉を持った様子だな?」

 

「全くお前達は………一人だけ仲間外れってのは寂しい物なんだぞ?それに二人共、今日はお前達の………」

 

「「冒険者登録の日」」

 

 姉ちゃんの言葉に続いて俺とクレアの言葉が重なる。

 

 そんな俺達にフフッと笑い抱擁をやめると食堂方面へと歩き出す。

 

「分かっているなら良いが……カズマ、お前はあまりはしゃぎ過ぎない様にするんだぞ?」

 

 と釘を刺してくる姉ちゃん。

 

「無理、多分目茶苦茶気分上がると思う。」

 

 しょうがないだろう、念願の冒険者になれると言うのだから。

 

 昨日はイグニスさんにも再三と言われている、心配するのは結構だが信じて送り出してくれても良いと思う。

 

「まぁララティーナ、私達も居るのだからそう心配が起こる事は無いであろう。」

 

「………あ……あッ!?そ、そうかカズマお前今日冒険者になるんだよなっ!?」

 

「だからそうだって言って……」

 

「不味い不味い不味いっ!!今不味い事が二つ出てきてしまったぞ二人とも…!!」

 

 今まで見た事のない姉ちゃんの狼狽え位……い、一体何がそんなに不味い事なんだってんだ。

 

「クレア、お前そこそこ顔が知れてるから変装か何かしないと不味くないか…?」

 

「………た、確かに…。」

 

 そこは盲点だったと言わんばかりに口元に手を寄せるクレア……ん?それ自体は確かに問題ではあるが、其処まで狼狽える程の問題でも無いであろう。

 

 変装何て幾らでも出来るし、最悪髪を染めればそれだけである程度のカモフラージュになる。

 

「それで、もう一つの問題ってのは?」

 

 そう俺が姉ちゃんに問い掛けた時、しまったと言わんばかりに自分の口を抑える姉ちゃん。

 

 ………なーんかきな臭いな。

 

 まるで俺に、他人にも知られては不味い何かが冒険者になるに当たってバレる事柄があるかの様な反応。

 

 そしてこの慌て具合的に姉ちゃん自身のその事柄が当て嵌まるかの様な……一体何を隠しているのか。

 

 そんな俺の視線気付いた姉ちゃん、目をキョロキョロと泳がしオホンと一つ咳払い。

 

「ま、まぁそれは私の方で解決しておくとしよう………さぁ朝食だ!!二人共ランニングでお腹が減っただろう!?」

 

 と自分で作った訳でも無いのに今日の朝食の内容をベラベラと説明しだす……いやまぁ、長年同じ場所に住んでるだけあって今日の朝食の内容など知っているのだが。

 

 何処か焦った様子の姉ちゃん……まぁ、ギルドに行けば分かる事か。

 

 同じく訝しんだ目で見ていたクレアと目が合うと、お互い肩を竦めこの場は一旦聞かないで置く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___れ物は無いかい?変な人に着いて行っちゃいけないよ?もしお姉ちゃん達と逸れてしまったら勇気を出して周りの人に助けを求めるんだよ?」

 

「俺は五歳児か。」

 

 そもそもアクセルの街へ行こうと言った時、俺の身を必要以上に案じてくれるイグニスさんによって停滞していた。

 

 俺を本当に心配する様な表情でオロオロしているその様子、使用人も姉ちゃんもクレアも苦笑いしつつ見守っていた。

 

 何か、もしも、例えば、まだ言葉の拙い子供を案ずるかの様に俺にお教えを説く……いや心配してくれるのは嬉しいけど……。

 

「……そこら辺にしときましょうイグニス様。また戻って来た時にお話すれば良いではありませんか。」

 

 そんなイグニスさんをムキムキの守衛さんが優しく……いや、後ろからガッシリと動きを止めに掛かってるな。

 

 俺達にパチパチとウィンクしてくる……今行けと言う事だろうか。

 

「そ、それじゃあ行ってくるはイグニスさん。夜迄には帰ってくる………と、思う。それじゃあ!!」

 

 手を伸ばし未だ心配そうな表情のイグニスさんと使用人達に手を振り、俺達はアクセルの街へと向かう事に。

 

 本日三度目の門番への挨拶を済ませると、俺は二人に挟まれる形で道を歩く事に。

 

 一度脱走した事はあるが、本格的に許可を得て外に出る事は殆ど初めてに近い為興奮冷めやらぬ如く俺は周りをキョロキョロと見渡していた。

 

 姉ちゃんも初めて脱走した時、即ち俺を見つけた時はそれはもう兎に角興奮して自然の音に耳を傾けていたと言っていた。

 

 俺は姉ちゃんの言っていた事を思い出し小鳥の囀りに耳を貸し、肌身に風を感じ、家から解放された我が身の羽を広げていた。

 

「………あんなにはしゃぐカズマは久しぶりに見たな、初めて王城に行った時以来か?」

 

「それだけ奴にとって雁字搦めの生活だったのだろう、かく言う私も久しぶりに自分の意思で外を歩いているからな……気持ちが晴れやかな気分だ。」

 

 まだアクセルの街に着いていないと言うのにこの気持ち……一体、街へ着いたら俺は正気でいられるだろうか…?俺が俺じゃ無くなってしまうかも知れない。

 

「そう言えばララティーナ、もう一つの不安要素は解消されたのか?私は取り敢えず髪の毛を染める事にしたが……。」

 

 そう言って自分の髪の毛をくるくると弄るクレア、今のクレアは金髪青メッシュではなく白髪金メッシュと……前よりも目立ちはするが何処か神々しい姿へと変貌。

 

 曰く金メッシュにした理由は俺の髪を真似したと……ちょっと恥ずかしいな。

 

 そんなクレアから不安要素について聞かれた姉ちゃん、その顔は何処か悟りを開いた様な、諦めた様な、祈る様な表情であった。

 

 あ……解決しなかったのだと、そこに触れる程俺達は野暮ではない。

 

 何とも言えない空気が流れ出した頃、俺の耳は聞き逃さなかった。

 

 ワイワイガヤガヤと人の居る所特有の音、ここから聞こえると言う事は相当多い人数がその場所に留まっていると言う事。

 

 俺は先程の空気は何処へやら顔をバッ見上げ走り出す。

 

「あ…!おいっ!!」

 

 後ろから姉ちゃんが呼び止める声が聞こえてきたが、残念ながら右耳から左耳へと流れ出る。

 

 俺は周りをキョロキョロし過ぎていて気付いていなかったが、目の前には様々な建物が立ち尽くしていた。

 

 光射す小脇道へと身体をねじ込み抜け出したその先には……一度だけ見た事のある風景が俺の目に映っていた。

 

 周りには只の人間や猫耳の生えた獣人、野菜や肉等が売ってある店や馬を引き付ける商人。

 

 そんな皆にある共通点は腰に剣を携えていたり、デカい杖も小さい杖も様々な杖を持っていたり、弓を担いでいたり、騎士団では見られる事の無かった多様性が其処には満ちていた。

 

「来たんだ……アクセルに…!!」

 

 前出た時はこんなに落ち着いて周りを観る事は出来なかったから俺は気付く、偶にチラチラ俺を……俺の後ろを見る人々を。

 

 俺は不思議に思い後ろを振り返ると……そこには、急に走り出した俺に追い付く様急いで来たのだろう息を切らした苦笑いしているクレアと、冷たい目で俺を見下ろす姉ちゃん。

 

「………おい、お前はまた私の熱い抱擁が欲しいのか?」

 

「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」

 

 誰もが目で追いつけないであろう速度で頭を下げる……が、残念ながらそれだけでは許してもらえなかった様でゴツンと俺の後頭部に痛みが走る。

 

「っ…!?」

 

「全く、その直ぐ調子に乗る所は直さないとな?カズマ。」

 

「フッ…まぁララティーナ、コイツも今回限りだけだろう。ほら何時まで頭抑さえてる、さっさと冒険者登録するぞ。」

 

 クレアの助け船もあって俺は姉ちゃんの長ったらしい説教は回避された。

 

 しかしクレアこれは落ち込んでるから頭を抱えてるんじゃなく、本当に死ぬ程いたいか抑えているのだ……お前も食らってみたら分かるさ。

 

 未だヒリヒリする頭から手を離し俺はバッと顔を上げ姉ちゃんの後を着いて行く事に。

 

 すると何かを思い出したかの様にハタと止まると、姉ちゃんが此方に振り返る俺達に近寄れと手をちょいちょいと。

 

「良いかカズマ。クレアは分かっていると思うが、基本的に私達は貴族だと言う事は明かしてはならない……何故だか分かるか?カズマ。」

 

「さぁ……何で?」

 

「第一、我々は冒険者の収入から一部受け取り良い思いをさせて貰っている……勿論、我々も冒険者にその分色々と手厚い恩恵を送ってはいるのだが……。」

 

 気不味そうな姉ちゃんの表情、多分俺にあまり聞かせたくなかったのだろう。

 

「やはりあまり我々貴族を良く思わない連中も居るのだ、これは理屈でどうこうでは解決出来ない……だから敢えて貴族と言う事を公表する必要は無いのだ。」

 

 成る程……まぁハッキリ言って良く分からないが、姉ちゃんが無駄な事を言った事等殆ど無いから間違っていないのだろう。

 

「だから私はこの街ではララティーナ、ではなく『ダクネス』と、そう名乗っている。二人もそう言うのを考えるべきだったのだが………忘れていた。」

 

 そんなおっちょこちょいの姉ちゃんには申し訳ないが、俺はふと疑問に思う。

 

「でもよ、姉ちゃんとクレアはしっかりとした貴族だけど俺は拾い子だろ?だったら二人程名前は知られていないんじゃ……て、そんな悲しそうな顔するなよ姉ちゃん…。」

 

 何時まで経っても拾い子である事に少しでも触れれば泣きそうになる姉ちゃん、いい加減割り切って欲しい物だ。

 

「ふむ……ならそうだな、私がカズマの名前を決めるから、カズマが私の名前を決めてくれ。センスの良い名前を期待しているからな?」

 

 半ば無理矢理決まった名付け、俺はクレアの二つ目の名前を決める事に。

 

 クレアか……クレアねぇ…?………アリス、はちょっとアイリスに影響受け過ぎだし、クリス……ってアイリスしか頭に出てこねぇな。

 

 俺からクレアに対しての印象がアイリスとキスしかない、如何な物か。

 

 ………待て、いっその事全く関係の無い花の名前とか付けたら良いんじゃないか?

 

 俺はクレアに似合いそうな花が無いかと少ない頭の中の本のページを読み進める。

 

「どうだカズマ決まったか?」

 

「………カトレア、カトレア何かどうだ?」

 

 そう言うと少し驚いた様子で俺を見るクレア、少し興味ありげな姉ちゃんが俺に身体を向ける。

 

「どういう意味が込められたんだ?」

 

「えーとな、確かカトレアって花の意味が……優美だったか魅力的だったか…兎も角、大人な女性、って感じだからなぁ?俺の中で。」

 

「っ!!フフッ、そうか、魅力的か……。」

 

 ニマッと笑う顔を隠す様にクレアが顔を逸らし、それを少し照れた様子で見守る姉ちゃん……だから何で姉ちゃんが照れてんだよ。

 

 確かに口に出したら案外気恥ずかしくはあったが、今にして思えば俺は良くクサイ台詞を良く吐いていた記憶がある為今更だろう。

 

「……ならば、カズマはそうだな………コリウス、何てどうだ?」

 

「ふーん、それってカトレアと同じで花なの?」

 

「あぁ、意味は善良な家風……お前達ダスティネスにピッタリだな。」

 

 善良な家風……ねぇ、随分と粋な花を選んでくれた様だ。

 

 そんなクレアの表情は何処か満足気であり、自分の中で何か納得のいく回答であったのだろう。

 

 カズマ、ララティーナ、クレア、改め……コリウス、ダクネス、カトレアとして俺達三人は冒険者登録をしに行くのだった。

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