負け犬の逆襲 ―UNDER DOG'S PARADE―   作:家葉 テイク

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Chapter 03

 敵の登場を認めたヘイヴィアは、冷や汗をかきながら身をかがめた。

「クソったれ……、ありゃ『正統王国』の屋内制圧装備だ! セミオートのショットガン、銃身下部に九ミリフルオートの軽機関銃を無理矢理装着してる‼ 散弾で壁やドアを破壊して、侵攻ルートを確保した後は九ミリをばら撒いてぶっ殺すっつー奴だぞ‼」

 同じように銃撃に備えて身をかがめたクウェンサーも、銃声の音に負けないような大声でヘイヴィアに問い返していく。

「いやに詳しいじゃないか⁉」

「一応軍学校は出てるからな! 流石に『正統王国』の正式装備くらいは分かる。それより、何だって『正統王国』軍の正式装備を持った連中がこっちを襲ってきてるんだ⁉ どこぞの馬鹿な『貴族』が謀反でも起こしたってのか⁉」

「それは違う」

 答えたのは、傍らに何人かの部下を引き連れたフローレイティアだ。彼女は駆け寄るようにして二人に近づくと、テーブルを蹴倒して盾にしている部下達に時間稼ぎを命じながら言う。

「これほど強力なジャミングを使っているとなると、自分自身の部隊だってジャミングの影響を受けて統率の取れた行動なんて不可能なの。もしも正規の軍隊なら、それはまず一番最初に切り捨てる作戦よ」

「そいつは結構! だが根本的な問題が解決してねえぞ爆乳! 何だってコイツらは俺達相手に攻め込んできてるんだよ⁉ 第一世代のお姫様を除けば『フォレストローラー』、『スペクタクルハット』、『トラッキングソーサー』、『カッターオクトパス』と四機の第二世代が揃ってんだぞ⁉」

「だが、その四機は動くことができないの」

 噛みつくようなヘイヴィアに、フローレイティアは落ち着き払って返す。

「第二世代が主流の今の時代、オブジェクトは核爆弾といった当たり前な火力に注意を割く必要はなくなった。ただひたすらにオブジェクトを破壊する為だけの武装を詰め込んだのが第二世代よ。そしてそれはつまり……対人兵装を持ち合わせていないという意味でもある」

「……!」

 その言葉に、クウェンサーの目の色が変わる。

「……つまり、四機の第二世代はこの場では動かせない。もしそんなことをすれば、正義の巨人はうっかり街並みをバラバラに壊してしまう。…………そうなれば、待っているのは『クリーンな戦争』を前提とした社会の崩壊よ」

「ってことは『ベイビーマグナム』しか動かせない…………」

「が、お姫様は今此処にいる。連中が私達を優先的に狙っているのも、そのせいかもしれないわ」

 フローレイティアは流れ弾に注意して身を低くしつつ、

「だが、さっきも言ったように敵の作戦には不備がある。とすれば、敵の素性として考えられるのは無線連絡なんてなくても大して行動に支障を来たさない集団……、軍としての性質を持たないテロリストなどといった武装集団の可能性が高いの。見てみなさい、連中、銃を連射しているだけで大した連携はないわ」

「だからどうしたってんだ⁉ いつもみたいにその小さな穴を利用して倒せってわけかよ⁉ 冗談じゃねえ、こっちにはあの屋内制圧装備を超える武装なんてねえぞ!」

「勿論、私だってこの状況から敵を皆殺しにして勝利できるとは思わないわ」

 噛み付くように叫ぶヘイヴィアに、フローレイティアは首を振って応じた。

「でも、だからと言ってここで大人しく全滅してやるつもりもないの。ここから無事に撤退してやるくらいなら、その『小さな穴』を突く事で成功させることもできる」

「……、」

 いつになく真剣な調子で言うフローレイティアに、ヘイヴィアは少しばかり押し黙った。ヘイヴィアも自身の生存を諦めている訳ではない。フローレイティアに策があるのであれば、多少の危険は承知で乗るつもりではあった。もちろん、クウェンサーの方もそれは同じだ。

「で、どうするんだ?」

「具体的に言うと、クウェンサーとヘイヴィア、お前達がどうにかするのよ」

「クソッたれ! そんなこったろうと思ったよチクショウ!」

 真顔で言い放たれた言葉に、ヘイヴィアは思わず毒づいた。勿論バレたらマズイので小声だ。

「勘違いするな。別に拳銃一つ持たないお前達を最前線に送り込もうっていう訳じゃないわ」

「どう考えたってそうとしか取れないだろうが!」

「まあ待てってヘイヴィア。フローレイティアさんの話を聞こう」

「チッ、テメェはこんな時でも本当にお利口さんだなクウェンサー……」

「敵の練度は低いから、ライフルだけの私達でも三〇分くらいなら足止めは出来そうなの」

 ごねるヘイヴィアを無視して、フローレイティアはそう言う。ライフルだけで『正統王国』の制式装備一式を持った相手を足止めできるのは相当な練度ではないかと思わなくもないクウェンサーだったが、その分向こうの練度が低いというのもあるのだろう。実際、いまのところこちらの側に大した被害がないことからもそれは分かる。

「……わざわざ障害物ごと吹っ飛ばす為の兵装を使ってるのに通路の陰に隠れずこのパーティホールに入ってたり、自分達で電源を落としてるくせに暗闇に対策してないせいで殆ど無駄弾しか撃ってない時点で、向こうの錬度がどれほどなのかは分かりますけど。それとこれで何の関係があるって言うんです?」

「つまり、無線さえ使えるようになれば問題はなくなるのよ」

 ヘイヴィアのある意味当然な疑問に、フローレイティアは簡潔な答えを返した。

「此処、一階のパーティホールは私達が使っているけど、その上にはまた別の部隊がいることは知っているわね? 上から騒音が聞こえてこないところを見ると、この耳障りなジャミングのせいで無線が繋がらないから応援はしていないようだけど、これで無線が使えるようになれば、上の部隊とも連絡が取れる。そうすれば援軍を呼べるわ」

「そんな簡単に事が進むんですか?」

 フローレイティアの説明に懐疑的な意見を述べたのはクウェンサーだ。

「もしも本当に上の部隊が連絡を入れたくらいで援軍に向かえるのなら、とっくに来ていてもおかしくないはずですけど。自分達に襲い掛かってないから様子を見てる、っていう考えもありますけど、それにしたって自分達もいるホテルの電気系統を潰されてるんですから、それだけでとりあえず威嚇、くらいの戦闘に発展してもおかしくないと思いますが」

「この騒音が原因でしょうね」

「……騒音?」

 クウェンサーは怪訝な表情を浮かべた。確かにこの難聴になりそうなほど大きな銃撃戦の音は二階にも届いているだろう。

「ええ。これだけ派手な音を立てる兵器なら、壁抜きだって簡単に行える。実際に我々も壁抜きで奇襲を仕掛けられたからね。それくらいは上に陣取っている部隊も分かっているはずよ。下手に手を出そうとして、先制攻撃されたら目も当てられないの。だから手を出しあぐねてるんでしょう」

「でも、それでこちらが潰されたら次は上階が狙われるんですよ?」

「その時は、銃撃音が終了したタイミングで準備ができる。確かに我々は自軍の仲間同士だけれど、かといって自分の身体を張ってまで助け合うような関係ではないの。下手な正義感に突き動かされて部隊を一部でも危険にさらすのは、指揮官としては有り得ない選択よ。…………でも、無線が使えるようになりさえすればこちらの情報を照らし合わせて待ち伏せのリスクを減らせるから解決できる問題よ」

 フローレイティアの説明を聞いたクウェンサーとヘイヴィアは少しだけ黙り、その意味を頭の中で反芻する。

 この状況は、決して打開できない問題ではない。襲撃者達の包囲網を潜り抜け、無線の電波をジャミングしている何らかの装置を破壊することが出来れば、状況は打開できる。心もとない武装で『正統王国』の制式装備を持ったゲリラ集団と戦わなくても良いという抜け道の存在を、強く意識していく。

「やってくれるわね?」

「『やるしかない』の間違いだろ」

 ヘイヴィアは吐き捨てるようにそう言うと、さらに続けて問いかける。

「具体的に、どこを行けばいいんだよ? 二つの出入り口は両方とも敵の部隊に占領されちまってるが」

「緊急脱出口がある」

 ヘイヴィアの質問に、フローレイティアはそう答えた。

「一応、此処は普段、『貴族』のVIPも利用するようなパーティホールだから、もしもテロが行われたりした場合、VIPを速やかに安全な場所まで逃がす為の緊急脱出口が存在しているの。安全の為に脱出口の出口は位置情報を隠蔽されているから、錬度の低い襲撃者の部隊では把握できていない可能性のほうが高いわ」

「なるほど、そこから出れば」

「この包囲網を抜け出すことが出来るわ」

「その後は?」

「これを使え。状況を鑑みて、お前達の判断で行動して良いわ。基本的にはこのクソったれのジャミングをどうにかする方向で」

「つまりはアドリブじゃねえかド畜生‼」

 小口径の拳銃を手渡されて毒づくヘイヴィアだが、他に手がある訳でもない。仕方がなく、フローレイティアが立っていた位置の床をずらす。ガコン、という音と共に隠し通路が現れた。

「おい、あんまり音を立てるなよ」

「文句あるならヘイヴィアがやったら?」

(格好的には)レディファーストということなのか、先に潜り込んだクウェンサーの後からヘイヴィアが続く。流石に『緊急脱出』というだけあって、中は狭い。人間一人がくぐるのが精いっぱいといったところか。爆乳の上官なんかは胸のあたりが詰まりそうだった。

 せっかくのパーティだったというのにやることはいつもの戦場と変わらないという事実に軽くめげそうなダメ男ヘイヴィアだったが、気を取り直して顔を上げるとそのただでさえ情けない顔をさらに情けないことにした。

「……おい、おい。ご令嬢のクウェン子ちゃん」

「何だよヘイヴィア、そのイジリさらに続くようなら俺にも考えがあるぞ」

「そうじゃねえ。()()()()()。ぶっちゃけ今のテメェは女にしか見えねえが、男だって分かってるから『そういうの』に対してどうリアクションすればいいのか分からねえんだよ」

「ばっ……‼‼」

 クウェンサーは咄嗟に自分の尻に手をやってみた。狭い通路のせいか、スカートがめくれ上がった状態のまま移動してしまったらしい。クウェンサーはその丸見えのパンツ(くまさんである)を凝視していたホモ一歩手前男ヘイヴィアの処遇について一瞬考えたが、円滑な人間関係を維持するにはこれしかないと考えた。

「おい馬鹿やめ俺はテメェの為を思ってぶげるちゃ⁉」

 次の瞬間、ヘイヴィアの顔面に高きこと山の如しなヒールが突き刺さった。

「ごおおおお…………! テメェ、ひょっとしてクウェンサーの癖にヒロイン気取ってんじゃねえだろうな……!」

「いやゴメン、なんかこうしないといけない気がして」

 メタ理論を持ち出されては空気の読める男ヘイヴィアとしては言い返す訳にはいかない。仕方ないそれで手打ちにしてやるということにして、馬鹿二人は先を急ぐ。クウェンサーが尻に気を遣っているのはご愛嬌だった。

「で、此処からどうする。敵のジャミング環境を掻き乱すっつったって、外の状況は俺らにはさっぱりなんだぜ」

「さっきウチの電子担当が『強力なジャミング』とか言ってたろ。つまり、敵のジャミング装置はかなりでかい。でかいっていうのは良いことだらけだよ。探しやすいし壊しやすい」

「壊すって、この拳銃を使ってか? ジャミングが敵の作戦の要なら、警備だって厳重のはずだぜ」

「人材の有り余ってる軍隊ならな。でも、フローレイティアさんは連中はゲリラだって言っていた。なら、人的資源はそれほど豊富じゃないはずだ。そもそもこっちに身動きを取らせないためのジャミング兵器なんだし、警備は手薄になってる可能性の方が高い」

「それもそうか……。あの爆乳が俺ら二人だけで行かせたのも、そういうことなのか? 大人数で行かせると却って相手を警戒させちまうとか」

「多分。まあそれでも無茶振りではあると思うけどさ」

 そうこう言っているうちに、出口についた。クウェンサーは身長にゆっくりと蓋を外し、外の様子を伺っている。流石に此処に脱出口があるとは判明していないらしく、あたりに人はいなかった。出入りしている人間も当然ながらいないので、警備が全体的に手薄というクウェンサーの推測はドンピシャリだったらしい。

「いけそうだ」

「ちょっと退いてろ、テメェの確認だけじゃ不安だし」

 そう言って、ヘイヴィアはクウェンサーを押しのけて外を確認する。クウェンサーが確認しきれていなかったところまで確認するが、それらしい人影は全くない。脇でヘイヴィアの確認を眺めていたクウェンサーが得意そうに言う。

「な? 何もないだろ」

「みてえだな。行くぞ」

 迅速に外に出たヘイヴィアは、そのままクウェンサーを引っ張り上げて蓋をする。

「次はジャミング兵器だな。どこにあると思う?」

「セオリー通りなら開けた場所。っていうか、大型のジャミング兵器が置ける場所って言ったら……このホテルの中庭とかじゃないか?」

「だろうな。だが面倒臭せえぜ。中庭ってことは視界が開けてやがる。隠れ潜みながらジャミング装置を破壊するのはちと厳しいんじゃねえか」

「ううむ……」

「俺としちゃあ一旦撤退して外部の協力を求めるのが一番安全かつ確実だと思うんだがどう思うねクウェンサー君」

「それだとフローレイティアさん達が間に合わなくなる」

 だよなあ、とヘイヴィアは溜息を吐く。上官を見捨てて助けを求めに行ったとあっては、それが成功した時は良いが、失敗して上官が死んだ時は最悪だ。ヘイヴィアの『貴族』としての立身出世はそこで途絶えてしまうことになる。

 とはいえ、中庭に突撃しても待っているのは名誉の討死だけである。ヘイヴィアとしては名誉は生きてるうちに手に入れたいので、討死だけは勘弁だった。

「……いや、待て。そういや、この手があるか……」

「ん? どうしたヘイヴィア、珍しく閃いた?」

「ああ。敵がまっとうな『正統王国』の人間なら、確実に倒すことができる」

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