負け犬の逆襲 ―UNDER DOG'S PARADE―   作:家葉 テイク

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Chapter 04

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 その時、巨大ジャミング装置の警備をしていた兵士は退屈していた。

 今回の作戦の全貌はこうだ。ジャミング装置で以て軍隊の連携を乱し、第三七機動大隊を孤立させる。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼らにとって、オブジェクトの戦力はそこまでの脅威ではない。特に、ベイビーマグナムを除くオブジェクトは殆ど脅威はゼロに等しい。

 何故なら、此処が『安全国』だからだ。

 オブジェクトによって管理されたクリーンな戦争では、『安全国』は絶対に安全で、戦争はその為の『戦争国』で行うことが前提になっている。それがなくなれば民衆は混乱し、今のオブジェクトによって管理された世界のシステム全体が狂ってしまう。

 唯一マルチロール機のベイビーマグナムは対人レーザーによって状況を打破する可能性があったが、このままならばその心配ももうじきなくなる。

 そうなれば残る問題はドラゴンキラーの二人組だ。オブジェクトの力に依らず状況を打破する力を持つあのイレギュラーは、この状況では世界最強の兵器よりも厄介な存在だ。だから、彼らの優先目標は馬鹿二人……ヘイヴィア=ウィンチェルとクウェンサー=バーボタージュになっているのだった。

 とはいえ、それは組織全体の方針であって兵士の男にとっては重要な要素ではない。というか、二人の顔なんてゴシップ系サイトの粗い画像でしか見たことなどないのだし、本人確認なんて早々できやしないのだ。実働でない兵士の男にとっては、この状況は退屈なだけの消化試合だった。それは、彼を含めた四人の警備役にしたって同じことだろう。

 しかも、この兵器は断熱効果も完璧らしく、おかげで警備役の彼らは早春の夜にただ突っ立っているだけという素敵な仕事を賜っているのだった。

 そんな時だった。

 カツン、カツン、と足音が聞こえて来る。

 ガシャシャッ‼ とすぐさま四人はライフルを音の方へ構える。ひぃ! という声が物陰の向こうから聞こえてきた。

「出て来い、何者だ」

 仲間の一人が声を上げると、おずおずとあらわれたのはタキシードを身に纏った茶髪の少年だった。

「もう一人もだ」

 あの足音はハイヒールでなくては出ない。そう考えた仲間の一人が言うと、物陰から金髪の少女が現れた。大きなピンク色のリボンがアホみたいだが、それを除けば可愛らしい少女だった。ぷるぷると震えて、タキシードの少年にしがみ付いている。

「……パーティに参加していた『貴族』か? 確か今日は軍隊が集まるパーティだったと思うが……」

「し、親族がパーティに参加していたんだ。普段は会えないから、私のフィアンセを紹介するつもりでお忍びでやってきたんだ……」

 軍隊としては頭の痛い話だが、あり得ない話でもないだろうと兵士の男達は思った。何せ此処は平和ボケした『安全国』だ。ちょっとした規律くらいなら、『貴族』の力で捻じ曲げられるだろう。

「か、金ならやる! だから、助けてくれ……私はダメでも、せめて彼女だけでも……!」

「っ‼」

 金髪の少女は少年の悲壮な覚悟に目を見開き、ぶんぶんと首を振る。その様子をよそに、兵士の男は思った。

(これは、どうしたものか? イレギュラーだが危険度はそれほど高いものじゃない。捕縛だけして解放してやれば、解放後にこちらの『正義』を宣伝する為の材料になり得るのではないか)

 彼らなりの判断理由を鑑みた結果、兵士の男達は全員集まって二人を捕縛することに決めた。

「安心しろ。お前達を殺すことはない。ただ、人質にはなってもらう。作戦が終了したら解放してやる。我々の掲げる『正義』を喧伝してもらう為にな」

「そ、そうか。ありがとう……見逃してくれてありがとう……!」

「礼は要らない。我々には我々の目的があった」

「……ところで、此処で監視している人員はこれで全員なのか?」

 タキシードの少年は、緊張がほぐれたからかあたりを見渡しながらそう問いかける。金髪の少女は、そんなタキシードの少年の背中にしがみつくようにしていた。やはり、この状況では恐ろしさが勝るのだろう。そういえば、先程から一言もしゃべっていない。

 突然の問いかけに、怪訝な表情を浮かべながらも兵士の男は答える。

「ああ、そうだが……」

「そうか、ありがとう。()()()()()()()()()()()()()()()

「は? それはどういう、」

 タキシードの少年の言葉の意味を理解する間もなく。

 『貴族』の少年は懐から小口径の拳銃を抜き取り、過たず四人の額に弾丸をブチ込んだ。

「最近思うけど、ヘイヴィアって実はガン=カタとかできるんじゃない?」

「そりゃ試してみねえと分からねえな」

 殺した男からライフルを拝借しつつ、『貴族』の少年は答える。

 お分かりの通り、先程の二人組はヘイヴィアとクウェンサーだった。適当に『貴族』のカップルを演じることで、敵を油断させてその隙に全滅させたのだ。あえて真正面から突っ込んで行ったのは、民間人を装えば少なくとも相手は出会い頭に射殺したりしないと思ったからである。

「でも、作戦って言う割には穴だらけだったよね今の。敵が民間人でも構わず殺しちゃうような連中だったらどうするのさ」

「それならもっと直接的にやってくるだろ。わざわざこんなドデカいジャミング兵器を使うくらいなら、ここいら一帯にミサイルをブチ込めばそれで終了だ。逃げ場もねえ。そうしないってことは、少なくとも民間人を殺しちゃマズい理由を持ってる連中ってことだよ。名誉とか正義とか、そういう『正統王国』らしい目的をな。それよりさっさと済ませよう。銃声はあたりに響いている。早いトコジャミング兵器をブッ壊しちまわないと、敵の援軍がやってきちまう」

「大概杜撰だよなぁこの流れも……」

 ブツクサ言いつつ、ヘイヴィアとクウェンサーは奪い取ったライフルを構えてジャミング兵器のアンテナ付近を撃つ。ガガガガ‼ という銃声の連続ののち、彼らの任務は完了する。

 ……はずだった。

「……何でだ。どういうことだ⁉ ライフル弾を食らってるのにコイツ傷一つついてねえぞ‼」

「えっとグレネードってこれで良いんだっけ」

 ドパッ‼ とクウェンサーがひっくり返りながらもグレネードを撃つが、これも効果なし。ジャミング兵器を破壊して味方同士の連絡を開通させるという作戦は、このままでは土台無理という話になる。

 ヘイヴィアの決断は早かった。

「くそっ‼ 逃げるぞクウェンサー! このままだと敵が来る‼」

「待て、待ってくれ! ジャミング兵器さえどうにかすれば良いんだ……このままだとフローレイティアさん達はなぶり殺しになる‼」

「そんなの俺達の命にゃ代えられねえだろうが‼ そもそもあの人の立案が間違ってたんだ、俺らがそのしわ寄せを受ける必要はねえぜ‼」

「クソ、操作盤の類はなしか……完全な無人機だ! ケーブルの類もない。遠隔操縦で指令を送っているのか……‼」

「ああチクショウ‼ この馬鹿、もうこのモードに入っちまった!」

 ぱん、と片手で目を覆い、毒づくヘイヴィア。しかしクウェンサーはそんなことには見向きもせずに巨大なジャミング兵器を探っていく。

「装甲だ。これは……オブジェクト用の耐火装甲⁉ なんでこんなのがただのジャミング兵器に使われてるんだ⁉」

「今のご時世、建物の外壁にだってオブジェクト用の装甲技術が流用されているって話だろ。ジャミング兵器に使われていたって何らおかしくねえだろうが」

「く……無人機な上にオブジェクト用の耐火装甲なんて使ってるんじゃ、俺たちの装備で物理的に破壊するのはどうあっても不可能だぞ」

「そんなの気にしてる場合じゃねえだろうが! 分かったら逃げるぞ! 逃げてからでも作戦は練れる! 俺らが死んじまったら全部終わりだぞ‼」

「何か、何かあるはずなんだ……突破口が……、……いや、待てよ?」

「なんだどうした、何か思いついたかねヒーロー君‼」

「よく考えてもみろよヘイヴィア、こんなドデカい機材が置いてあるってのにさ」

 そう言って、クウェンサーは夜風を感じ取るように手をかざす。

「まったく暑くない。動いている機械が熱を持つっていうのは昼間いやってほど思い知っただろ?」

「だからどうした?」

「かといって、こいつには尉官が身に着けている服にあるような服飾モーターがあるわけでもない。つまり、熱がこもる一方だってことだよ」

「だからどうしたっつってんだ! 熱がこもるからなんだ? 冷却用の機構が要らねえってことは、そういう構造が備わってるってことだろ! こいつが熱暴走するのを待ってたら、その前に俺たちが冷たくなっちまうぞ!」

「違う、そうじゃないヘイヴィア」

 ほとんどかみつくような勢いになっているヘイヴィアに、クウェンサーはあくまで冷静に言う。

「電子機器ってのは、熱にはかなり脆弱なんだよ。だから排熱するための機構は絶対に必要になる。科学っていうのは何でもアリの魔法じゃない。こいつが一切の熱を放たないっていうのはおかしなことなんだ」

「……、」

「おそらく、こいつは継続使用を目的としたタイプじゃない。システムが熱暴走を起こす前に電源を切って、内部を冷却させてから再使用するようなタイプだろう」

「待て、おい待て。仮にそうだとしても状況は変わらねえぞ。俺たちが冷たくなる前にこいつが熱暴走を起こしてくれるなんて素敵なラッキー、敵が認めるはずがねえ!」

「俺だって最初から熱暴走なんか狙っちゃいないさ」

 クウェンサーはそう言って、不敵な笑みを浮かべる。

「だが、オンオフの切り替えを頻繁に受け付ける関係上、こいつはどうにかして親元からの指令を受けなくちゃならない。……無人機で、ケーブルの類もないのに、だ」

 あ、とヘイヴィアは思わず声を漏らした。

「監視役の男たちがメンテを担ってるのかとも思ったけど、見る限りこいつらはただの兵士。整備兵って感じじゃない。つまり……こいつ自身も、ジャミングがかかわらない例外帯域で電波の送受信を行っているはずだ!」

「……その帯域付近に無線の周波数を調節すれば、ジャミングの効力を無視できるってことか?」

「それどころか、その周波数に合わせた無線を飛ばすだけで電波が混線してジャミング兵器が無力化できる! 多分‼」

「クソったれ……相も変わらずいつも通りのギャンブルかよ!」

 毒づき、ヘイヴィアは改めてライフルを抱え直す。現代のライフルというのは複数のセンサーの恩恵でちょっとした探知網を張ることができるのだが、このジャミング兵器のせいでそれらは全部カットされていた。だが、それは相手側にも同じことが言えるはずだ。少なくとも目視確認しなければ、クウェンサーやヘイヴィアを狙うことは難しい。そしてこの宵闇の中では、命中率も下がるはずだ。……尤も、囲まれてしまえばそれでおしまいなのだが。

「だがどうやって調べるんだ⁉ さっき見てみたがあの爆乳の見立て通りコイツら連携をはなから考えてねえ‼ 無線機なんて持ってなかったぞ‼」

「思い出せよヘイヴィア、いまどきのライフルっていうのは複数のセンサーの恩恵でちょっとした探知網を張ることができる。勿論電波式のアクティブセンサーも備えてるんだ。その帯域を調節すれば電波を放つことくらいはできるはず‼」

「さっきから仮定形ばっかで本当にしたがって良いのか不安になって来るぞチクショウ‼」

 言いながら、クウェンサーがライフルのセンサー系をいじっているのを横目に周囲を警戒するヘイヴィア。

 まだ敵の足音は聞こえないが、残された時間はそう長くないだろう。じりじりと、ヘイヴィアの心を焦燥感が焼いていく。頬を汗が伝っていく感覚が妙にクリアに感じられ、それがさらにヘイヴィアの神経を逆なでしていた。

「まだか……まだなのかクウェンサー⁉ クソったれ、こっから先はもうどうしようもねえぞ‼ テメェの作戦が成功しなけりゃ俺も諸共に蜂の巣だ‼」

「待ってくれ、もうすぐ……‼」

 と、その時、カツン、という音が聞こえた。ヘイヴィアの心臓が、氷の手で鷲掴みにされたように飛び跳ねた。今ので心臓が口から出ないのが幸運としか思えないほどだった。

「もう限界だクウェンサー‼ これ以上は……‼」

「出来た‼ 間に合ったぞ、ヘイヴィア‼」

 そう、クウェンサーが言った瞬間だった。

 ドパン‼ とホテルの方から猛烈な爆発音が響き渡り、同時にヘイヴィアが現れた人影に精密な射撃を繰り出す。

 額に風穴を開けられた敵兵をよそに、ヘイヴィアはクウェンサーのことを肩に抱え上げ、一目散にホテルの中へと逃げ込んだ。

 

   6

 

「ご苦労だったわね、二人とも」

 馬鹿二人がホテル内を歩いていると、ホールでフローレイティアが待ち構えていた。周囲にいる面々は怪我をしている者こそあれど死者はいないようだった。

「ホントですよ。毎度のことですがあともうちょいで死ぬところでした」

 げんなりとしているヘイヴィアだったが、フローレイティアの方は全く取り合ってくれなかった。おそらくこの分ではボーナス報酬とかもないのだろう。ノーダメクリアしたのにやっぱりこの世はクソゲーだ、とヘイヴィアは本気で思う。

「でも、一体今回の相手は何だったんですか?」

「分からない。敵兵は皆殺しにしてしまったからな。情報は得られていない。だが、ヤツらの装備は『正統王国』の正規装備だった。ゲリラでハンドシグナルなどの仕草からは所属を知ることはできなかったし、偽装している可能性もあるから明確な判断をくだすことはできないが、ヤツらの経済範囲は『正統王国』の勢力内で収まっている可能性が高い」

「『正統王国』内の犯罪組織ってことですか……。面倒臭せえな。普通、そういう連中は『戦争国』で(たむろ)しているモンだと思うんだがよ」

「まあパレードで色々と浮足立ってるもんね」

 このパレードで、各地に人が集まりすぎて警備が緩くなっているというのは、人工浮揚島テーマパーク『アヴァロン』の例を挙げるまでもない。馬鹿二人が話していた『テロリストの温床』と言うヤツが、予想通り生まれてしまったということなのだろう。

 爆乳上司は早速危機感が欠如して他人事になりつつあるクウェンサーを横目に見ながら、

「そういうこと。今敵兵の本拠地を探索しているけれど、おそらくパレードの影響が出ているところにあると睨んでいるわ」

「まあ、そうなるでしょうね」

「それで、やっぱり報復するんですかね」

 そう問いかけたのは、軍人のヘイヴィアだった。戦闘はんたーい、なんて叫びそうだなと思ったクウェンサーだったが、意外にもヘイヴィアの瞳にはギラついた戦意が宿っていた。そして当然、その視線を受けるフローレイティアにも。

「当然よ。今回の一件は我々の顔に泥を塗られたようなものなの。『安全国』だろうが知ったことか。お姫様さえ出さなければ大義名分は守れる。馬鹿どもがどんな猛獣の尻尾を踏んだのか思い知らせてやるぞ」

「へっ。まあ俺としちゃあどんと来いって感じですがね。ちゃんとした装備さえ揃ってりゃああの程度の素人集団なんかちっとも怖くねえし」

「物騒だなぁ。まあオブジェクトが関連しないなら、派遣留学生の俺に出番はないと思うけど」

 そもそもクウェンサーは整備兵見習いである。なんか最近爆薬を使う工作兵みたいなポジションになりつつあるが、本業はもっとインテリジェンスな方向なのだった。

 と、やる気の再確認をして解散する流れになっていた二人に乗っかって歩きながら、クウェンサーはふと解決されなかった疑問を脳裏に思い浮かべていた。

(そういえば、あのオブジェクトの装甲を使ったジャミング兵器は一体なんだったんだろ?)




FACTS

・『正統王国』オブジェクト凱旋パレード
『正統王国』にて戦意高揚のプロパガンダの為に行われるイベント。年に一回、主要な『安全国』にて行われ、付近の任務に就いているオブジェクトが街道を練り歩く。
 基本的に准尉以上の士官しか参加できないが、馬鹿二人は特殊な戦果を挙げている為特別に参加することになった。作中ではエディンバラ方面にて開催されている。

・人工浮揚島『アヴァロン』
 グレートブリテン島の近海を周回しているテーマパーク。オブジェクト凱旋パレードに合わせてエディンバラ方面に寄港している。
 管理は厳重だが、今回に限ってはオブジェクト凱旋パレードによって人通りが多くなっている為、客の回転率を上げる目的で管理が多少緩くなっている。それでも通常なら問題ないレベルなのだが、セキュリティに穴が出来ている部分もあるらしい。
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