負け犬の逆襲 ―UNDER DOG'S PARADE―   作:家葉 テイク

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第二章 世にも騒がしい狂想曲  >> アヴァロン島方面陽動戦
Chapter 01


   1

 

「…………で、俺は何でまたこの格好なわけ?」

 翌日、昼。

 スカートを穿くかどうかで見た目の性別が変わっちゃいそうな少年ことクウェンサーは、何故か薄ピンク色のドレス姿で佇んでいた。今日も頭のてっぺんで輝く大きなリボンが眩しい。ちなみに今日のリボンはオレンジ色だった。

 そんなクウェン子ちゃんの横で同じくわなわなしているのは、全然礼服が似合わない系『貴族』の御曹司ことヘイヴィア。彼もまた何故か昨日と同じタキシードを身に纏っていた。首元の蝶ネクタイが死ぬほどイカすナイスガイと化したヘイヴィアもまた、この状況を仕組んだ張本人である爆乳上司に吠えた。

「一体これはどういうことだ爆乳‼‼ っつか今日は昨日のうちに突き止めたゲリラ部隊の本拠地に攻め入るって話じゃなかったのか? 何でまた嬉し恥ずかしコスプレタイムなんだよ‼ いい加減ちょっとコイツの女装姿を見慣れて来ちまってんぞ‼‼」

「――管轄の問題があったのよ」

 コメディタイム全開のヘイヴィアをよそに、フローレイティアは沈痛な面持ちでそう切り出した。

 ニヤニヤしている腐った女性兵士たち(メイク担当)をバックにして、フローレイティアは続ける。

「敵の本拠地に目星をつけることはできたわ。連中が潜伏していたのはこのエディンバラ方面に停泊している人工浮揚島テーマパーク『アヴァロン』よ」

「しっかりテロリストの温床になってるって訳か。無駄に伏線回収しやがって……」

「しかし、では攻め入ろうというところで現地警察から待ったが入ったの」

「警察??」

「ええ。何せ此処は『安全国』。『安全国』の治安を守っているのは警察であって軍隊じゃない。にも拘らずゲリラ部隊の襲撃を許してその追討作戦を軍隊にやらせたら、警察の面目は丸潰れなの。確実に作戦指揮を取っている地位にいる人間の首が飛ぶでしょうね」

「そのお偉方の首を守るために、何で俺が女装する必要があるんですか?」

「そうだそうだー‼」

「お偉方の首を守る為ではないわ。真っ当に行動すれば、向こうから圧力などの妨害がやってくるから、それを回避する必要があると言っている」

 フローレイティアは馬鹿二人を窘め、

「でも、向こうに面子があろうがなかろうがそんなことは我々の知ったことじゃないの。こっちもコケにされておいて引き下がることなんてできないからね」

「フローレイティアさんが引き下がれないことと俺達がコスプレすることに、いったい何の因果関係があるって言うんですか⁉」

「そうだそうだー‼」

「だから、管轄の問題だと言っているでしょ。面子があるから引き下がれないと言っても、馬鹿正直に追討作戦なんて打って出たら十中八九警察から面倒な横槍が入って来るに決まっている。だから、表向きには『貴族』のカップルとその護衛の部隊、さらにその裏側にそういう体で部下を使って遊んで休日を満喫する軍隊、という形で二重三重にカモフラージュを施すことで、警察の目を誤魔化すのよ」

「非常に杜撰な上に結局最後の最後まで俺が女装する必然性がない‼‼」

「そうだそうだー‼」

「あと、昨日のクウェンサーの女装が意外と部隊全員に好評だったから何かとこじつけてまた見てみたいってリクエストが多発していてね」

「このカマ野郎クウェンサーテメェのせいで俺まで巻き添えを‼‼」

「ぐええ⁉ やめろヘイヴィア、今の俺にその構図は明らかにリョナ……ッッ‼」

 一瞬にして掌を返したリョナ紳士ヘイヴィアと取っ組み合いの喧嘩に発展しつつ、何とか状況を呑み込んだクウェンサーは言う。

「で、でも、そんなことをしたってどう考えても俺達は注目を集めますよね。警察の目だって確実には誤魔化せないでしょうし……」

「そんなことは最初から織り込み済みよ。本当の目的は、明らかに目立つお前達に全体の注目を集めておいて、諜報部門の連中に害虫共の巣穴を見つけてもらうことだし」

「囮って訳ですか……」

 なるほどそれなら道理に適っている。ただでさえ隠密行動の得意な諜報部門の連中を動かしておくだけでなく、別働で囮まで行うと言うのだからフローレイティアの本気っぷりがうかがえるだろう。これは、クウェンサーとヘイヴィアがどれほど文句を言っても聞き入れられる可能性は万に一つもなさそうだった。

「でも、流石にこれは……」

 クウェンサーは、それでもなお渋らずにはいられなかった。

 前回は部隊の中の内輪でだけ盛り上がっていたからまだ許容できたが、今回はパレードで人のごった返している大人数の前で、しかもヘイヴィアとカップルを装い、さらには部隊の連中が護衛のSPみたいについてくるのでアホほど注目を集めるのである。女装がバレたらと思うだけでクウェンサーは卒倒したくなった。

 誇りを重んじる『正統王国』において、文化祭の出し物ならいざ知らず、こんな『公的』な場所で女装趣味(厳密には趣味ではないのだが)がバレるなど……ある意味、死よりも恐ろしい結末だ。

「安心しろ。お前の女装は多分早々バレないわ」

「ああ。この作戦はまったくクソったれだが、そこに関しちゃ俺も同意するぜ」

「ああっヘイヴィアお前寝返ったな⁉」

 何だかんだ言ってもクウェンサーは既に女装してしまっている上に『アヴァロン』の入場チケットは確保してしまっているのでやるしかないのであった。

 項垂れたクウェンサーは、そのままホテルから出ようとする。

「あ、そうですクウェン子ちゃん」

「クウェン子ちゃん言うな‼ ……って、クリスティーナか。……君も凄いカッコしてるね」

 黒服にサングラスとかいうSP丸出しの格好をしたクリスティーナは、無言でクウェン子ちゃんの手を掴み、ヘイヴィアの手に重ねさせた。クリスティーナが主導という点を除けば、まるで婚約者のような絵面だった。

「設定としてはクウェン子ちゃんはヘイヴィアの婚約者ってことなのでー、ちゃんとそれらしく振る舞ってくださいねー☆」

「嫌だ‼‼ 設定だけならともかく今日一日演じ続けなくちゃいけなくてしかもそれを警察関係者から監視されてるとか死ねる‼‼」

「っていうかちょっと待て、クウェンサーはともかく俺の変装なんてたかが知れてる訳だしバレたら命の危機的なアレ方面でマズイんじゃねえか……ッッッ⁉」

 最後に不服を申し立てた馬鹿二人だったが、結果は見え透いていた。

 少数派というのは、いつの世も無残に切り捨てられるものである。

 

   2

 

 一方その頃、『正統王国』の『本国』、ノルマンディー方面にて。

「ハッッッ‼‼‼ 何やらどこぞの泥棒猫がヘイヴィア様とイチャついている予感ッッッ⁉⁉⁉」

『正統王国』有数の『貴族』バンダービルド家のご令嬢にしてヘイヴィアの『現状では非公式にせざるを得ない』婚約者の少女が妙な電波を拾って立ち上がるが、流石にエディンバラ方面まで直行する時間的余裕はないのでご安心なのであった‼

 

   3

 

「やって来たなぁ、やって来ちゃったなぁ『アヴァロン』」

『アヴァロン』の入場ゲートで事前に購入しておいたチケットを見せたクウェンサーとヘイヴィアは、ようやっと園内に入ることが出来た。『アヴァロン』は『正統王国』のテーマパークらしく『貴族』用のファストパスが用意されていたりするのだが、パレード中ということもあり『貴族』用のゲートも軽く込み合っていたのだ。

 その上クウェンサーやヘイヴィアの他に護衛用のSP(に偽装した部隊の面々)までいるので、入場処理をするだけで軽く二〇分近くかかってしまっていた。クウェンサー的には軽く人酔い中である。

 気を取り直して、ヘイヴィアは自分の立つ地面を確かめながら言う。

「確か、潮力と太陽光、風力などによる複合発電システムとそれらを使った動力による海流に逆らった周回軌道でこのエディンバラ方面のあるグレートブリテン島の近海を周回してる人工浮揚島だったか?」

 人工浮揚島――つまり巨大なフロートで海上に浮かんでいる人工の島でありながら、波で揺られるというような感覚は一切ない。その程度のヤワなつくりはしていないということだが、知らなければただの島と勘違いしてしまいそうなくらいだ。

「そ。まあ同じ人工浮揚島でも、あの『死の祭典』の舞台になってる『オリンピアドーム』と違って発電の殆どは周回軌道の方に回しているらしいけど」

「一つの島を動かせるほどの動力をフリーにしているとしたらそれこそオブジェクト並の動力を持ってるってことになるし、オブジェクトの集中砲火の餌食になりかねねえよな。『正統王国』周辺を周回しているとはいえ、このへん『信心組織』の国もあるんだし」

「実際、一部じゃ陰謀論もささやかれているらしいけどね。『再生可能エネルギーだけで海流に逆らった周回軌道なんて作れない。まして園内のアトラクションの動力を確保できるはずがない。実は動力にオブジェクトの動力炉を使っていて、グレートブリテン島周囲の環境情報を収集して「正統王国」に戦争を仕掛けるつもりなんじゃないか』とかね」

「仮にそうだとしても、パレードにオブジェクトがわんさか参加してる現状で戦争を仕掛けようなんて馬鹿はいねえわな。一発で消し飛ばされるのがオチだ」

 適当に言い合いつつ『アヴァロン』を歩いて行くクウェンサーとヘイヴィア。周りには黒服のSPに扮した第三七整備大隊の面々が歩いており非常に目立っていたのだが、『黒服による壁』があるので一般利用客の注目はあまり気にならなかった。総合的な悪目立ち度を考えると、クウェンサーも気分が重くなってくるのだが。

 そして、絶賛世間話中の馬鹿二人の話題は些細な言葉から切り替わっていく。

「そう言えば、この後のスケジュールってどうなってんだろ? SPに囲まれたままコーヒーカップでグルグルしてればいいの?」

「やめろよ。野郎と一緒にコーヒーカップとか、後の世にまで残る恥だぜ。そんなことするくらいなら自決用の毒杯(コーヒーカップ)を呷るぞ」

「そういうのってチョー凄い『貴族』しか出来ないイメージあるんだけど、ヘイヴィアも持ってたりすんの? 自決用の毒杯」

「ああん? 宇宙最強級の完璧イケメン超人であるヘイヴィア様がそんな負け犬用アイテムを持っているわけがねえだろ。ものの喩えだよ」

「まあコーヒーカップはないとして、それじゃあ観覧車とか?」

「だからそれも同じようなモンだろ! 何だテメェは! 俺とイチャコラしたいってのか⁉」

「純粋な学術的好奇心だよ。観覧車なんて『アヴァロン』を一望するのにピッタリじゃないか。上から眺めれば『アヴァロン』の構造とかよく見えるし」

「いや、この状況でギーク丸出しになられてもリアクションに困るんだがよ……」

 と、そこでSPに扮したクリスティーナが口を挟んできた。

「盛り上がっているところ悪いですがー、既にプランなら決まってますよー」

「おいおい。聞いたかクウェンサー、どうやら俺達今日一日中ずっとオモチャ確定みてえだぜ」

「あのですねヘイヴィアー。貴方たちは本来の目的を忘れているんですかー? 今回の作戦の肝はあくまで諜報部の方々ですー。なら、諜報部の方々の行動に合わせて『目を惹かせたい場所』を事前に設定しておくのは当然でしょうー?」

「そういう名目で公然とオモチャにされそうだって言ってんだよ俺は!」

「ヘイヴィアやめとけ、こういうのは一度レールに乗っかっちゃったら下手に暴れるだけ怪我が増えるモンなんだ」

「何だその達観した風な態度は……?」

 ヘイヴィアに怪訝な目を向けられたクウェンサーは、ふっと陰のある笑みを浮かべた。男にはいろいろあるのであった。具体的には『安全国』の学校に通っていた時の文化祭で看板娘クウェン子ちゃんとして活躍していたりしていなかったりなサムシングである。ズボンを穿くかスカートを穿くかで見た目の性別が変わりそうな外見という触れ込みは伊達ではない。

「ではー、スケジュールを確認しますがー」

 そう言って、デキるSPこと腐女子クリスティーナは話を進めていく。

「まずこの後、お二人は『アヴァロン』中心部分にあるジェットコースター……『アップルコースター』に並んでもらいます。並ぶ時間が少なくて済むように『貴族』用ファストパスは既に確保してありますので、我々SPを伴い十分に周囲の視線を惹きつつお二人は周囲の目を欺くために多少露骨でも良いのでラブラブしてください」

「ラブラブって必須なのかよ?」

「『アップルコースター』……確か『正統王国』でも十指に入る絶叫アクティビティだったよね。何でそんなのにヘイヴィアと一緒に乗らないといけないのさ……」

 愚痴る馬鹿二人だが、そもそもクリスティーナを初めとしたSP軍団は二人の意見など聞いていない。

「ちょうど最後のカーブのところで写真撮影があるのでー、そこでの写真写りを意識した表情を用意してくださいねー。絶叫系とはいえあられもない顔面で写真に写るのはー『正統王国』の女子的にはちょっとどうかと思いますのでー」

「俺は男だぜ、このカマ野郎と違ってな」

「ヘイヴィア、お前も女装させるぞ……? でも、いまどき写真なんか画像加工ソフトでちょちょいと加工すれば良いじゃないか。いまどきのソフトはコンピュータ計算で表情の作りも変えられるって聞いたことあるけど」

「顔の形を編集するとかそんなの『情報同盟』じゃないですかー! 『正統王国』の淑女のやることじゃーないですよー!」

「そもそも俺は淑女でもないんだけど……」

 肩を竦めるクウェンサーだったが、クリスティーナの語気は一向に弱まらない。SP連中の視線も熱いものなので、彼女の言うことに全面同意という形なのだろう。此処まで問答を続ければ、流石にクウェンサーとヘイヴィアも一定の諦めがついていた。

「『アップルコースター』に乗った後は予約しておいた『木陰のレストラン』で昼食。その後海中展望ゴンドラ『レディ・オブ・ザ・レイク』に乗っていただきますー」

「『レディ・オブ・ザ・レイク』って、確か『アヴァロン』の外周をぐるっと一周するんだっけ? 海の中から『アヴァロン』の下をじっくり見れるって話だったよね。水車の原理を利用して、潮力で発電する機能も兼ね備えてるとか」

「テメェはそこで食いつくんじゃねえよ……。っつか、海中ゴンドラなんか人目を集めることもできねえじゃねえか。作戦遂行できねえってんなら俺は乗らねえぞ」

「そこについてはご安心をー。海上から船で追跡するので、下手人的には悪目立ちすること間違いなしですしー」

「身動きできねえ海中で敵の視線を集めるとか、テメェら実は俺らのことを殺しにかかってねえか?」

 思わず問いかけるヘイヴィアだったが、クリスティーナはフフッと笑い肩を竦めるだけだった。お話にすらならないということらしい。順調にこめかみがひくつくヘイヴィアである。

「しかもあれ、陰謀論とかあったよね。予測される内部構造に比して公開されている部分があまりにも狭すぎるから、何かが隠されてるんじゃなか………………って」

「よくある話だろ。お化け屋敷で行方不明になった女の子がお化けの仲間入りしてしまいましたみたいな。『信心組織』の連中なら信じるかもしれねえな」

 ヘイヴィアはつまらなさそうに肩を竦めるだけだった。

「ともあれ、とりあえず今はさっさと『アップルコースター』を済ませよう。で、中に入ったらどうすれば良いんだ? 俺『アヴァロン』行ったことないから知らないんだけど」

「テメェはインテリなところしか興味ねえんだな……」

「『アップルコースター』はコースターそのものに到達するまでの順路もアトラクションですのでー、『貴族』用の道は豪華になっていてー、いくつかの道に分かれた立体迷路の様相を呈していますよー」

「……それ、迷ってコースターどころじゃなくなるんじゃねえか?」

「一応最短ルートは明示されているのでそちらを見て頂ければー」

「まあそこらへんは考えてるよね」

 そんなこんな言い合っていると、一行の目の前に巨大な木が見えて来た。

 いくつもの林檎が実った、巨大な木。

『アヴァロン』の語源にもなった楽園の象徴。

 全高は五〇メートルにも及ぶだろうか。遠目に見ると木そのものの質感なので、何か遠近感の狂う光景だった。

「さて、では早速第一のアトラクションです。思う存分お楽しみください」

「それ、本気で言ってる?」

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