アングラ系ヒーローは逃げられない   作:ピ・ポポ

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少女説得中

 てなわけで、ぐちゃぐちゃな部屋の中、俺はサイバルと対面して向き合っていた。

 頭を悩ます俺に対し、彼女はただひたすらじっと顔を見つめてくるのみ。

 

 どうしたものか、と悩んで横目で博士の方を見るも、博士は相変わらずテレビをいじっており、会話に混ざる余裕もなさそうだった。

 

 まぁ、博士にはやらねばならない事があるから、仕方ないとして置いておこう。

 

 兎にも角にも、話をつけて置く必要がある。

 間違いなく。

 

 しかし……この感じでは説得だけでは聞いてくれなさそうだな。

 

(どうしよっかなぁ……)

 

 ……と、いったところで昔、俺に剣を教えてくれた人と話したことを思い出す。

 

『は? 喧嘩した時? ……うーむ。取り敢えず、世間話からすればいいと思うんじゃが……てか、ワシに聞くな。そー言うことはだなぁ……──』

 

 当時のロリババアの声が脳に響く。

 ダメだ、あの人の話は一個も役に立った覚えがねぇ。

 剣の腕前は確かなのになぁ。

 

 しかし、他に当てがあるかと聞かれると、これと言って思い浮かぶはずもなく。

 

 何かあったかなぁ、と考えつつも俺は口を開くことにした。

 

 

「あー……俺がいない間、そっちはどうだった?」

 

 

 話題と言えば思い当たるのはこれぐらい。

 ここから話を広げられるか……と思ったが、俯いたままのサイバルはこう答える。

 

 

「……寂しかった」

「…………ん?」

「会えなくて……寂しかった……」

 

 

 …………いや、もう、ね。

 うん。

 

 返す言葉がない俺は、硬直し視線を逸らす。

 進むかなぁ、と思った会話は完全にストップ。

 一切の進展はなし。

 

(話が続かないのは非常にまずいし、そもそもこの空気感に俺が耐えきれない……)

 

 なんでもいい、なんでもいいからと、俺はとにかく口を開く。

 

 

「さ、サイバル。お前どうやってA.ウェポンを切り抜けたんだ?」

「お互いに、ガスを突破して、捕まえるまでは、協力するって約束で……」

「あー……なるほど?」

 

 

 まぁ状況が状況だ。

 

 生存を最優先に考えるならば咎めることもできないだろう。

 それにあの状況下、奴の兄弟が暴れている状態で、奴自身も混じって一緒に暴れる、なんてのは考え難い。

 

 ……R一人だけが暴れてるなら話は別だが。

 

 ともかく、事情は分かった。

 わかったが……しかし、話が進展しない。

 

 ……そもそも俺が聞きたいのはなんだ? 

 はっきりしたいこと、させたいこと……そうか、それなら最初からこう聞けばよかったんだ。

 

 

「……サイバル、お前は何がしたいんだ?」

「……え?」

「その身一つでこっちまで飛んできたんだ。なんかやりたいこと、やるべきことがあってこっちに来たんだろ?」

「私、は……」

 

 

 顔を上げることなく俯いたままだったが、サイバルは少ししてから顔を上げた。

 

 

「……たい」

「ん?」

「一緒に、いたい……」

 

 

 一緒にいたい、と。

 

 俺が引退を選んだのは、そもそももうヒーローとしてやっていく必要性がないからだ。

 やつ……あいつを監獄にぶち込んで、俺の目標は達成されたから、ヒーローを辞めた。

 

 別に、かつての仲間たちが嫌いだったわけでも、一緒にいたくないわけでもない。

 どちらかと言うと、彼奴等との日々は楽しかったほうだ。

 

 まぁ、意味不明な仲間割れだったり、チーム決裂で殴り合いだったり、大変だったことのほうが多い気もしなくはないが。

 

 ……それでもだ。

 

 追ってこれないようにしたのも、ヒーローを辞めるという意思の表れでだったしな。

 

 ともかく。

 そういうことならば、取れる手は一つだ。

 

 

「……わかったよ、一ヶ月。お前にもヒーローとしてやることがあるんだから、取り敢えず一ヶ月の間だけ、休業という形にしとけ」

「……!」

 

 

 今、人手が足りなくて大変らしいが、多分何とかなるだろう。

 いつもなんとかしてきたんだから、今回も大丈夫だ。

 ……多分。

 

 サイバルは俺の発言に驚きつつも、顔を上げて赤く腫らした目元を拭う。

 

 

「う、うんっ、わかったっ」

 

 

 取り敢えず話は決した。

 一人、というのは望めなさそうだが、まぁサイバル一人程度ならば大丈夫だろう。

 

 俺は立ち上がり博士の方を見る。

 博士はテレビから作り上げた何かの機械を放置して、テレビをそこら辺にあったガラクタで修理していた。

 

 テレビの中身はスッカスカだ。

 

 

「博士、中身スカスカだぞ」

「ふっ、前より高性能にしてやるわい」

「同じでいいだろ、どうせ出ていくんだから」

 

 

 と言って散らかった部屋を見渡す。

 部屋は……言葉にし難いほど酷い状況だ。

 

 最初のサイバルの突撃、あれが主な原因ではあるが、それでも酷い光景である。

 

 俺はそんな部屋に背を向けて、半壊するバルコニーに出ると夜明けを迎え始めた外の景色を見る。

 そんな景色とともに、俺はこれからのことについて考えるのだった。

 

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 

 夜明けを迎える海上。

 そこでは別々の場所で二つの出来事が起きていた。

 

 一つは海上凍結。

 

 

「うふふふっ。ノーネーム様、待っていてくださいまし……今すぐ、ワタクシが参りますわ」

 

 

 そしてもう一人は無数の船による爆進であった。

 

 

「正義は我らにありっ!! 無名のもとへ、いざっ!!!!」

 

 

 世界に目を向ければ、出来事は一つだけではない。

 ハロワナの地下に目を向ければ、白衣が一人、口枷が一人。

 

 

「……食欲は治まったかね」

「まだだ。まだ、喰い足りない……ノーネーム、あいつの、あいつの肉がっ……」

「それは結構。常に食欲で満たしておくといいさ」

 

 

 だが無名たちは知らない。

 脅威は、それだけでは終わらないことを。

 

 海上を移動する『無限』。

 

 

「進め」「進め」「海を」「越えて」「山を」「越えて」

「屍を越えて」

「「「「「「進み続けろ」」」」」」

 

 

 星を観測する『不安』。

 

 

「あ、あ、あ、ほ、星が、星が傾いている!!! せ、せか、世界がっ!! 私がっ、なんとかっ、しなくちゃ!! 名無しが私を止める前にっ!!!」

 

 

 偽りの感情で動く『廃棄』。

 

 

「あいタい、アいたイよ。わたシたチはなにモ、ワかラないけド、それデも、会いたい」

 

 

 誰も知らない。

 誰にもわからない。

 

 されど確実に。

 

 世界の歯車は周りだしていた。

 

 一人の男を中心として。




解説集(A記者調べ)
【第一弾∶ノーネーム】
ヒーロー∶ノーネーム
本名∶不明
仮面と黒コート、刀一本携えて驚異的な身体能力と行動力で常に裏方に徹するヒーロー。
故にその名はあまり広まっておらず、ヒーローの中でも上位層のみ彼の実力を知っているという状態になっている。
実はその戦闘能力の大部分はとある博士のガジェットによって補われており、自前の戦闘能力は持ち前の技術や、剣術のみとなっている。
身体能力に関しても、鍛えている部分を除けば博士のガジェットによるものらしい。
まれに戦闘後、蛸の足が落ちていたり、和紙が舞っていたり、変な匂いや印が残ってたりするそうだが、その理由は分かっていない。
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