アングラ系ヒーローは逃げられない 作:ピ・ポポ
「で、どういうこった?」
Gとサイバルに挟まれて、甘味を堪能する博士を見ながら、俺は視線を隣に座るGへ向ける。
恐らくサイバルは睨んでるだろう、それはもう物凄く。
俺はもう、視線を向けないことにした。
「シュコォ〜……なにが〜?」
「さっきの話の続きだ。博士も話を聞け」
「ん、なんじゃ。せっかくハロワナのパンケーキを堪能しとるというのに」
「なんでそう乙女なんだよ。じゃなくて、コイツが、話があるって」
そう言ってGを指差すと、博士も訝しげにしつつパンケーキを食べながら耳を傾ける。
Gは俺と博士を見て、後ろで恐らく睨んでいるであろうサイバルを一瞬だけ見た後、ポケットから何かを取り出して机の上に置いた。
USBメモリー、一つ。
それだけだった。
「博士〜。これ、欲しい〜?」
「なんじゃ、そんなよう分からぬもの欲しくはないわ」
「Mの話だとしても〜?」
その瞬間、博士の手が止まる。
M……Mって言うと、奴らの兄弟の一人のはずだ。
確かにスーパイトからMの話を聞いたとき、博士はなにか考え込んでいる様子だった。
そのとき、俺はやることができたんじゃないのか? と聞いたが、それがこのことだろうか。
Mを追うことが博士のやること?
……Mか。
M.ドクター。
マッドの名を冠した彼女は、俺と同じ非M.T。
ミュータントではないのだが、非常に卓越した頭脳を持ち、その頭脳で数多のヒーローを地に落としてきた、特級ヴィランだ。
やってきたことだけ見ればB級なのだが、彼女の真髄は絶対に捕まらないことにある。
基本ヴィランたちのフィクサーを努め、俺たちと戦うことはない。
故に情報も残すことはなく、常に取り逃していたような状況だったのだが。
俺は一つの予想に突き当たる。
「お前ら、Mとも行動してたな?」
「……だとしたら〜?」
「何かがあって、お前ら側が裏切った……いや、逆か。
「…………」
「何があってそうなったか、については正直興味はねぇし、関わりたくもない。俺は引退したしな」
「そうであっても、助けてもらわなきゃ困るんだよねぇ〜」
そう言って自らのガスマスクに手を掛ける。
アレを外されちゃ困るのはお互いだ。
……最悪だな。
しかしまぁ……考えてみれば。
上手くやれば早期に決着をつけられるんじゃないだろうか?
早期決着は俺の望むところだ。
とっととケリをつけて休みたい、ってのもあるし。
早ければ早いほど、俺が他人から見つかる可能性は低くなるだろう。
……もし完全に見つかったらどうするかなぁ。
次はメリアデ辺りにでも逃げるか。
「……分かった。分かったよ、一旦その手を降ろせ」
「じゃあ、助けてくれる〜?」
「……サイバル、お前はどう考える?」
「えっ、あ、えーっと……まぁ、いいんじゃない?」
なんも考えてなさ過ぎる。
こいつこの先どうやって生きていくんだ……?
「博士は……あー、もう見てるのか。どっから持ってきたんだ? そのPC」
博士の方に視線を向ければ、机の上にはガラクタで形成されたPCが1台。
差し出されたUSBを差し込んで見ていた。
「そこら辺にあったゴミで組み立てたわい。モニターと中身さえ作れれば容易いことじゃな」
「さいですか……」
「わしはこれを見るのに忙しいからのう。細かいことはお前さんに任せるわい」
と言ってPC画面に釘付けになってしまった。
ああなったなら、もう一旦放置でいいだろう。
と、なれば。
「分かった。今回だけだぞ」
「……ありがとぉ〜」
ガスマスクから手を外し、Gはホッとしたような顔をする。
助けたい、ってのは本心からだったのだろうか。
まぁ、そこ考えても仕方あるまい。
問題はどうやって助けるか、だ。
まず間違いなくチェシャとジャンヌ・ダルクの接敵は免れないだろう。
仮にオーバーレインとフィッシャーの助けを借りたとして、サイバルの力があったとしてもジャンヌ・ダルク相手にするには心許ない。
あいつを相手にするのであれば100%混戦状態に陥るからな。
奴の持つM.Tの力が、紛れもなく状況を混沌とさせる。
と、なれば。
もう少し力が欲しいところだ。
……いや、冷静に考えてみれば。
こいつがいるのか、Gが。
「ジャンヌ・ダルクとの戦いではお前にもやってもらうからな」
「わかってる〜」
「しかし場所とか、どこにいるのか分かってるのか?」
「一応ね〜」
そう言うと、また何か取り出して机の上に置く。
今度はなにかセンサーのようなものが取り付けられた機械のようだ。
「……発信機か」
「これでお互い何処にいてもわかる〜」
「なるほどね。それで捕まった奴らの居場所が分かる、と。取り外されてたりする心配は?」
「Rのだからねぇ〜……」
Rのか。
だとすればやつが体内に埋め込んでいる可能性がある。
それを考えれば、取り外されているとは考え難いだろう。
ならやることは決まった。
とっととRとWを探し出し、ジャンヌ・ダルクと決着をつける。
それで終いだ。
話を終えて作戦に移るための準備を始めようと、みんなに伝えようとした時だった。
後ろから突然、声がする。
「悪いが、その作戦。俺も乗らしてもらうぜェ」
「なっ……A!? テメェ、今まで何処にッ!?」
俺が驚き立ち上がると、周囲の視線が一気にこちらへと向く。
サイバルも突発的に能力を扱って、周囲に浮いていたドローンを差し向ける。
Gは睨みながらも動かない。
博士に至っては画面に釘付けだ。
「おいおいおい、落ち着けよォ。おおごとにしてェならそれでいいんだが。今はそれどころじゃねェだろォ?」
「……テメェに正論を言われるとはな。それで、なにしにきた?」
俺が落ち着きを取り戻したのを機に、周囲の視線をバラけていく。
サイバルも能力を解除して、席について睨みつける。
さっきからずっと睨んでいるが、目は痛くならないのだろうか。
「言っただろ? 作戦に乗らしてもらうってよォ」
「何が目的だ?」
「まぁちと、個人的になァ」
「……まぁ、ジャンヌ・ダルクとやり合うからな。頭数は多い方がいい」
俺はここに集まった顔触れを見回す。
凄まじく奇妙なメンツではあるが、悪い戦力というわけではない。
どちらかと言うとやり合うにはちょうどいいかもしれない。
「んじゃ、明日。昼の12時にまたここで合流な」
という約束と共に、俺たちはその場を別れるのだった。