アングラ系ヒーローは逃げられない 作:ピ・ポポ
「それで、どうやって俺を?」
「言っただろう? A.ウェポンの気配を察知したからさ。まぁ、君の気配も察知できたけどね」
俺はサイバルを担いでスーパイトとともにホテルへと戻ってきた。
一連の事件の直後ということもあり、ホテル内ではまだ避難民が多く、落ち着かない様子だった。
(これは落ち着く前に出ていく必要があるな……)
なんて考えつつも、一先ずは部屋へと戻ってきたのだった。
ちなみにサイバルはベッドの上で寝かせている。
「ふぅむ。なかなかめんどくさそうな状況じゃな」
「めんどくさいの一言で片付けられるかよ……」
「ま、引退も意味がなかったってことじゃな」
ぐはははっ、と笑う博士だが、俺は全くもって笑えない。
状況は最悪だ。
この街だけで特級指定のヴィランが四人も確認できている。
それに加えて、サイバルのこと。
そしてスーパイト曰く、混沌とした様子のJ.S協会。
まぁ、要するに。
何もかもめちゃくちゃ、ってわけらしい。
最悪だ。
はぁ、とため息をつく俺に、スーパイトは聞いてきた。
「戻ってくるつもりはないのかい?」
「戻りませんよ。流石に引退くらいはさせてほしいんですけど……」
「……そうか。まぁ、こればかりは君の判断だからね。僕からは何も言わないよ」
「助かります」
しかし、ヴィランが俺を追って、となると、どうにかして決着はつけないといけない。
さもなくば被害は増える一方だろうし、後々めんどくさいことになるのは考えなくてもわかることだからだ。
世の中、色んな人がいるように、ヒーローに対して批判的な人もいる。
不要論を唱える人もいるが、そういう人は基本的にヴィランからの被害に遭ったことのない人だ。
対岸の火事とはよくいったもので、そういう人はヒーローの必要性を知らない。
知らないからこそ、批判的になれる。
つまりは引退してまで、あーだこーだ言われたくない、ってこと。
(あの捏造記者が現れないことを祈りたいが……)
まぁ、そう言ったよくわかんない人たちのことは考えても仕方ない。
一先ずは俺のことだ。
「……あの。俺のこと追ってきている人って、どのくらいいるんすか?」
「今確認できているだけでも、相当数いるね」
「……マジすか」
曰く。
まず海上を数多の船とともに来ているヴィランが一人、特級の『ジャンヌ・ダルク』。
捕まっていたはずだが、J.S協会の混乱に乗じて脱獄したとのこと。
そしてA,G,R,W。
この四人。
危険性はもう言わずもがな。
「それとMがここに来ている情報も入っている」
「……そうか。やはり……」
「……他には誰が?」
「Mに連れられてHも確認済みだ。その中には彼らとともに脱獄したA級、B級のヴィランも十数人は確認されている。そのうち何人かは僕のほうで確保に動いているが、正直M相手には僕も動きづらくてね……」
スーパイトは最強だと話したが、実のところ明確な弱点が存在している。
それはとある薬品による弱体化だ。
一時的とは言え、肉体の強度が一般人レベルまで落ち、身体能力も落ちた上に、能力のほとんどを喪失する。
故にMに近づくことはできない。
やつはそう言うヴィランだから。
「……でもまぁ、こっちの方でもヒーローが動いてるんでしょう?」
「動いてはいるが、人手が足りなくて新人まで働かされている状態だよ。日本からの新人もこっちに来ているはず」
「人手が足りない? そんなはずは……」
……そこで俺は、一つだけ嫌な予感がした。
自然と視線はサイバルの方へと映る。
「……まさか?」
「…………概ね予想通りだよ。ヒーローが何人か失踪している」
A.ウェポンがサイバルと対峙した時、お前たち、と言っていたが、俺はそういうことだったらしい。
つまり。
俺のことをヒーローたちも追っている、というわけだ。
いやいやいや、全くもって意味不明だ。
なぜ俺を追っているのか、俺は追われているのか。
何をしたらこんなことになるんだろうか。
(俺、何か悪いことしたかなぁ……)
「……参考までに聞いときたいんすけど。今のところ確認できている失踪したヒーローって」
「ローベルシア出身のヒーロー、『コーレント』。『I.ガール』に、『UNDフラン』。そしてサイバル。現状、君繋がりで確認できているのはこの四人だ」
「……俺繋がりで、ですか」
それ即ち、俺の関係ないところでも失踪している、ということだろうか。
だが今の状況では何が起きているのか、さっぱり分からない。
しかし……よりにもよってその四人かぁ。
「うーん……めんどくさいことにならなきゃいいんだが……」
そんな事を考えながら、失踪したというヒーローたちのことを思い浮かべる。
それぞれがかなり強力な能力を保有しており、一人だけでもかなりの戦力になる。
特にコーレント。
彼女は一人で複数のヴィランを一瞬のうちに鎮圧できるほどの力、能力を持っている。
はぁ、ともう一度ため息をつく。
スーパイトは苦笑いしながらも立ち上がると、窓の方へと向かって歩き出す。
「もう行くんすか」
「ああ、こうしている今も助けを求めているものがいるからね。そうだ、ノーネーム。もし戻るというならば……」
「俺は戻るつもりありませんよ、何言われようとも」
自分勝手だと言われようが、知った話ではない。
今はただ、自由に生きていたい。
「……わかった、なら今は君に任せるさ。それじゃあ」
と言って飛び降りると、そのまま空中を浮遊して飛んでいってしまった。
それを見送ってから博士の方を見ると、博士は何か考え込んでいる様子だった。
俺は適当に椅子を引っ張って座り、博士に向かって話しかける。
「博士。考え込んでいるとこ悪ぃが、やることができた」
「……む。ああ、そうか」
「博士、アンタにもやることができたんじゃないのか?」
「……そうじゃな。ワシも、動かねばならんな」
そう言うと考え込むのをやめて立ち上がる。
近くのテレビを突き倒し、テレビの背中を開いて中身を取り出していく。
何をするか……なんて、聞かなくてもわかる。
俺も俺のやるべきことをやらねばならない。
立ち上がって散らばった荷物と部屋を整理しながら呟く。
「さて……やることは山積みだぞ。武器の調達は最優先だろ。情報の方を片っ端から集めて、それと──」
「んっ……」
「あっ」
そうだった。
どデカい爆弾を忘れていた。
サイバルと言う名の爆弾を。
「……あー、おはよ──」
う、を言う終わる前に、勢いよく飛びついてきたサイバルによって、俺の体はひっくり返るのだった。