転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

1 / 97
初投稿です。
何番煎じかわからない設定ですが、お付き合いいただけますと幸いです。


根を張る者の章
第一話:転生、木の中で


いつものように音楽を聴きながら歩いていたその日。

お気に入りの曲が流れる中、私はふと前方の横断歩道に気づいた。

普段なら左右を確認するけれど、その日はどこか気が緩んでいたのだろう。

 

「危ないっ!」

 

誰かの叫び声。

反射的に顔を上げたときには、視界の端に大型トラックの車体が迫っていた。

 

(あ……)

 

衝撃。身体が宙に投げ出される。

遠ざかる地面、反転する世界、そして、冷たいアスファルトが視界いっぱいに広がって――

 

「……痛……」

 

 

視界がぼやける。音が遠のく。

 

痛い。苦しい。冷たい。息ができない。全身が鉛のように重く、まるで地面に沈んでいくみたいだった。

 

(やば……もしかして、死ぬ……?)

 

動かない身体。誰かに助けを求めようとしても声にならない。

自分の存在が、ゆっくりと溶けていく。

 

(……いたい……楽になりたい……身体とかいらんから)

 

――そのときだった。

 

《確認しました。物質体(マテリアル・ボディー)の生成を放棄。これにより、余剰魔素が発生》

 

頭の奥で、誰かが喋ってる。

無機質で、無感情で、感動もなにもない声。

 

《余剰魔素を使用し、精神体(スピリチュアル・ボディー)の強化、能力向上およびスキルを獲得……成功しました。「魔力感知」「念話」を新たに獲得しました》

 

また声。今度はもっと近く、響く。

 

もう考える余裕なんかない。

言葉の意味すら、頭には入ってこない。

ただ、雑音のように、繰り返し響く。

 

(生まれ変われるなら……次はちゃんと周り見る……)

《ユニークスキル「先見者(ミトオスモノ)」――》

(………さっきからうるさい……)

 

声は止まない。何かを言い続けてる。

でも、それを受け取るだけの思考も、意志も、もう残っていなかった。

 

(……どうでもいい……どうせ……)

 

もうすぐ終わる。

心も、身体も、ひとつずつ崩れていくのが分かる。

 

(……もう一回……やり直せたら……今度こそ――)

 

光が、世界を包む。

感覚が、溶けて消える。

 

 

 

 

 

――すべてが消えて、ただ白い世界に沈んだはずだった。

終わった。そう思った。

 

(…………まぶし……)

 

光。まぶしすぎる。

感覚が、ある。目が、開く。

……待って。目が、開く?

 

「……えっ……」

 

視界に広がるのは、淡く青白く光る葉の天蓋。幻想的で、神殿みたいで、でも妙に……あたたかい。

不思議な場所。夢みたいな空間。

 

「え? は? どこここ……」

 

私は、ゆっくり身体を起こした。いや、“起こせた”。

 

(……え、動ける? でも、なんか……変)

 

自分の身体を見下ろして、ふと首を傾げた。

 

(心臓……バクバクしてない……?)

 

いや、絶対にしてるはずなんだ。

さっきまで、トラックに轢かれて、死にかけてて、訳の分からん場所で目覚めたってのに。

普通なら、心臓破裂するレベルの混乱。

 

でも。

 

(……脈、ない?)

 

自分の胸に手を当てても、何も感じない。

体温はあるっぽいけど、血が巡ってる感じがしない。呼吸もしてるのかしてないのか、よくわからない。

いや、呼吸してる感覚がある。でもなんだろう、違和感。

 

試しに呼吸を止めてみた。…………苦しくない。

 

「……これって、まさか……幽霊?」

 

そんな独り言を呟いた瞬間、頭の奥にまた“あの声”が響いた。

 

《解。(マスター)は精神生命体です》

 

……この声、聞き覚えある。死ぬ直前に、うるさいって思った、あのノイズ。

 

「あなた誰?」

《解。ユニークスキル「先見者(ミトオスモノ)」です》

「……スキル? 喋ってるの? スキルが!? え、なにここRPG!? どこぞのファンタジー!?」

先見者(ミトオスモノ)は、(マスター)が生得的に備えている能力です》

「待って。ちょっと待って。まさか転生? 私、死んだんじゃ……死んだよね? あれ夢じゃないよね!? トラックにドーンてなったよね!? 現実だったよね!!?」

 

間違いなく、死んだ。息もできなかった。

それが、なんで。なんで、私、起きてるの?何がどうなってんの?

 

「ていうかここどこ!? 何ここ!?」

《解。現在地は大霊樹(ドリュアス)の内部です》

「は? ドリュアス?」

大霊樹(ドリュアス)とは、この世界の自然を守り司るものであり、また、樹妖精(ドライアド)の精神が宿る大樹であり、彼らの本体となるものです》

「……まんまRPGじゃん」

 

ふと周りを見渡した。青白い空間に、葉っぱや木の根、蔦なんかがそこらじゅうに絡まってて……なんだこれ、閉鎖空間?こんなの二次元でしかお目にかかれないだろ。

 

「はあ……で、私どうなったの? 精神生命体だっけ? 幽霊ってこと?」

《否。精神生命体とは、魔素を核とし、物理的構造に依存せず存在する自律意識体です。現在の(マスター)は肉体情報を魔素で模倣した再構成体となります》

「……わからん」

《要するに、物質的な肉体を持たない存在です》

「めちゃくちゃ幽霊寄り……!」

 

でもちゃんと動けてる。触れるし、歩けそうだし……一応“形”はある。

 

「なるほどねー……じゃあこの変な感覚、幽体離脱バージョンの“現実”ってわけだ……うっわ、じわじわくるなコレ……」

 

仰ぐように見上げたとき、声が続いた。

 

《説明を継続します。(マスター)は現在、樹妖精王(ドリュアス・ロード)として存在しています》

「……はい? なんて?」

樹妖精王(ドリュアス・ロード)とは、ここ大霊樹(ドリュアス)に魔素を供給し、自然を守護する存在です》

「ちょっと待って? 自然を守る? 称号か? ジョブか? 私なに、転生して女神になったの? ていうか"まそ"って何!?」

《魔素とは、この世界における根源的なエネルギーであり、あらゆる物質に含まれています》

「ふーん……で、その魔素をこの木に供給? どうやんのそれ」

《魔素の供給に特別な動作は必要ありません。(マスター)が存在するだけで、自動で大霊樹(ドリュアス)へ魔素の供給が行われます》

「それって勝手に吸われてるやつじゃん!ドロボー!」

《それが樹妖精王(ドリュアス・ロード)である(マスター)の役割です。(マスター)大霊樹(ドリュアス)へ魔素を供給することで、自然の保全に貢献しています》

「え、なにそれ。エコライフ? グレタさん*1もびっくりだよ!! でもある意味理想じゃん……て、そういう話じゃなくて!!」

 

……私、死んだよね? なのに、生きてる?

でも人間じゃなくなってて、異世界っぽくて、木の中で……?

え、これほんとに……転生したってやつ……? フィクションじゃなくて……?

 

「……いやもう、思考が追いつかなくなってきた」

 

ほんとに、頭がパンクしそうだった。

世界観、死んだこと、謎スキル、そして“今の私”――わかんないことが多すぎて、脳が処理落ちしてる。いや脳はないのか。精神生命体ってやっぱ意味わからん。

 

《問。"思考加速"を使用しますか?》

「は? 何?」

 

いきなり投げ込まれた謎の提案。いやいや待って、なんかゲームみたいな選択肢出されたんだけど!?

 

先見者(ミトオスモノ)の権能の一つ、"思考加速"により、(マスター)の思考の補助が可能です》

 

いや、待って、スキルって思考補助までしてくれるの!?

ていうか、さっきから自然に“このスキルには機能があります”みたいに言ってくるけど、私そんな高性能頼んだっけ!?

 

「待った待った待った。え、先見者(ミトオスモノ)だっけ? スキルだよね? 権能の一つってことは、他にもあんの?」

《解。本スキルには三権能が付与されています。一つ、思考加速――知覚と判断を高速化します。二つ、森羅万象――秘匿されていない情報への網羅的アクセス。三つ、未来予測――現在の情報をもとに最も高確率の未来を視認します》

「えー、なんか全部すごそう! ていうか未来、見えるんだ!? やば! それちょっと使ってみたい!!」

 

私の目はキラキラしてたと思う。めちゃくちゃ期待してた。だって“未来予測”だよ?

 

《解。現在の(マスター)はこの世界の基礎情報を十分に所持していないため、予測精度が著しく低下しています》

「え、なにそれ、役に立たないってこと!?」

《是。現時点での未来予測は無意味です》

「クソ仕様ー!! おもんない!」

 

スキルに全力でツッコむなんて人生初だよ。……いや、もう人生終わってるんだけどさ。

ていうかこれもう霊生?精神生命体ライフ?もうなんでもいいよ。マジで。

 

結局、情報が足りないなら、知っていけばいい。

ゼロからなら、積み上げるしかない。

 

「未来を知るために、今を知るしかないんだよね。うん。わかった」

(マスター)の情報について補足があります。(マスター)はこの場に留まり続けることで、大霊樹(ドリュアス)の命を保ち、世界の自然秩序を維持できます》

「……つまり、外出るなってこと? この場所で静かに供給しろと?」

《是。(マスター)が外部へ移動した場合、大霊樹(ドリュアス)の魔素供給は停止し、最悪の場合枯死に至ります。影響範囲は世界各地に及ぶため、被害規模は甚大です》

「なにそれ、引きこもり確定エンド!?」

 

生き返ったと思ったら、謎の空間で木に魔素吸われて、動くと世界レベルの影響が出るって、どんな理不尽ゲーよ。

そもそも、まだ死んだことの整理もついてないんだけど!?!?

 

「……ふざけんな……って言いたいけど……」

 

スキルも声も状況も、全部バグってて、笑うしかなかった。

こんなわけのわからない話、納得なんてできるわけない。

 

……もう、何もわからん。

 

「ま、いっか。考えたって答え出ないし!」

 

私は両手をぱん、と打ち鳴らす。誰も見てないけど、自分に喝を入れるように。

 

「私がここにいれば、自然が守られるんでしょ?動いちゃダメってんなら、引きこもり上等!」

 

世界がどうとか、魔素がどうとか、もう難しい話は置いといて。

 

「なんかもう、なるようになるっしょ!」

 

――うん、やるしかない。

ここが私の居場所で、ここにいるだけでいいって言うなら。

 

それ、ある意味イージーモードってやつじゃない?

 

ちょっぴり不安で、ちょっぴりワクワクする。

でも……今はそれで、いい。

 

私の第二の生は、ここから始まった。

*1
グレタ・エルンマン・トゥーンベリ。スウェーデンの環境活動家。




ご覧いただきありがとうございました!
評価・感想などいただけるとめっちゃ励みになります!気軽にぽちっとお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。