何番煎じかわからない設定ですが、お付き合いいただけますと幸いです。
第一話:転生、木の中で
いつものように音楽を聴きながら歩いていたその日。
お気に入りの曲が流れる中、私はふと前方の横断歩道に気づいた。
普段なら左右を確認するけれど、その日はどこか気が緩んでいたのだろう。
「危ないっ!」
誰かの叫び声。
反射的に顔を上げたときには、視界の端に大型トラックの車体が迫っていた。
(あ……)
衝撃。身体が宙に投げ出される。
遠ざかる地面、反転する世界、そして、冷たいアスファルトが視界いっぱいに広がって――
「……痛……」
視界がぼやける。音が遠のく。
痛い。苦しい。冷たい。息ができない。全身が鉛のように重く、まるで地面に沈んでいくみたいだった。
(やば……もしかして、死ぬ……?)
動かない身体。誰かに助けを求めようとしても声にならない。
自分の存在が、ゆっくりと溶けていく。
(……いたい……楽になりたい……身体とかいらんから)
――そのときだった。
《確認しました。
頭の奥で、誰かが喋ってる。
無機質で、無感情で、感動もなにもない声。
《余剰魔素を使用し、
また声。今度はもっと近く、響く。
もう考える余裕なんかない。
言葉の意味すら、頭には入ってこない。
ただ、雑音のように、繰り返し響く。
(生まれ変われるなら……次はちゃんと周り見る……)
《ユニークスキル「
(………さっきからうるさい……)
声は止まない。何かを言い続けてる。
でも、それを受け取るだけの思考も、意志も、もう残っていなかった。
(……どうでもいい……どうせ……)
もうすぐ終わる。
心も、身体も、ひとつずつ崩れていくのが分かる。
(……もう一回……やり直せたら……今度こそ――)
光が、世界を包む。
感覚が、溶けて消える。
――すべてが消えて、ただ白い世界に沈んだはずだった。
終わった。そう思った。
(…………まぶし……)
光。まぶしすぎる。
感覚が、ある。目が、開く。
……待って。目が、開く?
「……えっ……」
視界に広がるのは、淡く青白く光る葉の天蓋。幻想的で、神殿みたいで、でも妙に……あたたかい。
不思議な場所。夢みたいな空間。
「え? は? どこここ……」
私は、ゆっくり身体を起こした。いや、“起こせた”。
(……え、動ける? でも、なんか……変)
自分の身体を見下ろして、ふと首を傾げた。
(心臓……バクバクしてない……?)
いや、絶対にしてるはずなんだ。
さっきまで、トラックに轢かれて、死にかけてて、訳の分からん場所で目覚めたってのに。
普通なら、心臓破裂するレベルの混乱。
でも。
(……脈、ない?)
自分の胸に手を当てても、何も感じない。
体温はあるっぽいけど、血が巡ってる感じがしない。呼吸もしてるのかしてないのか、よくわからない。
いや、呼吸してる感覚がある。でもなんだろう、違和感。
試しに呼吸を止めてみた。…………苦しくない。
「……これって、まさか……幽霊?」
そんな独り言を呟いた瞬間、頭の奥にまた“あの声”が響いた。
《解。
……この声、聞き覚えある。死ぬ直前に、うるさいって思った、あのノイズ。
「あなた誰?」
《解。ユニークスキル「
「……スキル? 喋ってるの? スキルが!? え、なにここRPG!? どこぞのファンタジー!?」
《
「待って。ちょっと待って。まさか転生? 私、死んだんじゃ……死んだよね? あれ夢じゃないよね!? トラックにドーンてなったよね!? 現実だったよね!!?」
間違いなく、死んだ。息もできなかった。
それが、なんで。なんで、私、起きてるの?何がどうなってんの?
「ていうかここどこ!? 何ここ!?」
《解。現在地は
「は? ドリュアス?」
《
「……まんまRPGじゃん」
ふと周りを見渡した。青白い空間に、葉っぱや木の根、蔦なんかがそこらじゅうに絡まってて……なんだこれ、閉鎖空間?こんなの二次元でしかお目にかかれないだろ。
「はあ……で、私どうなったの? 精神生命体だっけ? 幽霊ってこと?」
《否。精神生命体とは、魔素を核とし、物理的構造に依存せず存在する自律意識体です。現在の
「……わからん」
《要するに、物質的な肉体を持たない存在です》
「めちゃくちゃ幽霊寄り……!」
でもちゃんと動けてる。触れるし、歩けそうだし……一応“形”はある。
「なるほどねー……じゃあこの変な感覚、幽体離脱バージョンの“現実”ってわけだ……うっわ、じわじわくるなコレ……」
仰ぐように見上げたとき、声が続いた。
《説明を継続します。
「……はい? なんて?」
《
「ちょっと待って? 自然を守る? 称号か? ジョブか? 私なに、転生して女神になったの? ていうか"まそ"って何!?」
《魔素とは、この世界における根源的なエネルギーであり、あらゆる物質に含まれています》
「ふーん……で、その魔素をこの木に供給? どうやんのそれ」
《魔素の供給に特別な動作は必要ありません。
「それって勝手に吸われてるやつじゃん!ドロボー!」
《それが
「え、なにそれ。エコライフ? グレタさん*1もびっくりだよ!! でもある意味理想じゃん……て、そういう話じゃなくて!!」
……私、死んだよね? なのに、生きてる?
でも人間じゃなくなってて、異世界っぽくて、木の中で……?
え、これほんとに……転生したってやつ……? フィクションじゃなくて……?
「……いやもう、思考が追いつかなくなってきた」
ほんとに、頭がパンクしそうだった。
世界観、死んだこと、謎スキル、そして“今の私”――わかんないことが多すぎて、脳が処理落ちしてる。いや脳はないのか。精神生命体ってやっぱ意味わからん。
《問。"思考加速"を使用しますか?》
「は? 何?」
いきなり投げ込まれた謎の提案。いやいや待って、なんかゲームみたいな選択肢出されたんだけど!?
《
いや、待って、スキルって思考補助までしてくれるの!?
ていうか、さっきから自然に“このスキルには機能があります”みたいに言ってくるけど、私そんな高性能頼んだっけ!?
「待った待った待った。え、
《解。本スキルには三権能が付与されています。一つ、思考加速――知覚と判断を高速化します。二つ、森羅万象――秘匿されていない情報への網羅的アクセス。三つ、未来予測――現在の情報をもとに最も高確率の未来を視認します》
「えー、なんか全部すごそう! ていうか未来、見えるんだ!? やば! それちょっと使ってみたい!!」
私の目はキラキラしてたと思う。めちゃくちゃ期待してた。だって“未来予測”だよ?
《解。現在の
「え、なにそれ、役に立たないってこと!?」
《是。現時点での未来予測は無意味です》
「クソ仕様ー!! おもんない!」
スキルに全力でツッコむなんて人生初だよ。……いや、もう人生終わってるんだけどさ。
ていうかこれもう霊生?精神生命体ライフ?もうなんでもいいよ。マジで。
結局、情報が足りないなら、知っていけばいい。
ゼロからなら、積み上げるしかない。
「未来を知るために、今を知るしかないんだよね。うん。わかった」
《
「……つまり、外出るなってこと? この場所で静かに供給しろと?」
《是。
「なにそれ、引きこもり確定エンド!?」
生き返ったと思ったら、謎の空間で木に魔素吸われて、動くと世界レベルの影響が出るって、どんな理不尽ゲーよ。
そもそも、まだ死んだことの整理もついてないんだけど!?!?
「……ふざけんな……って言いたいけど……」
スキルも声も状況も、全部バグってて、笑うしかなかった。
こんなわけのわからない話、納得なんてできるわけない。
……もう、何もわからん。
「ま、いっか。考えたって答え出ないし!」
私は両手をぱん、と打ち鳴らす。誰も見てないけど、自分に喝を入れるように。
「私がここにいれば、自然が守られるんでしょ?動いちゃダメってんなら、引きこもり上等!」
世界がどうとか、魔素がどうとか、もう難しい話は置いといて。
「なんかもう、なるようになるっしょ!」
――うん、やるしかない。
ここが私の居場所で、ここにいるだけでいいって言うなら。
それ、ある意味イージーモードってやつじゃない?
ちょっぴり不安で、ちょっぴりワクワクする。
でも……今はそれで、いい。
私の第二の生は、ここから始まった。
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