ふと、視界の隅に映ったのは、自分の髪だった。ふわりと揺れた長い髪――薄緑がかったその色は、まるで朝露に濡れた新芽のようで、やけに柔らかそうに見える。
「……私、前はこんな髪じゃなかったのにね」
前世の私は平凡な黒髪で、肩にかかる程度の長さ。見た目も、性格も、どこにでもいる普通の女だった。なのに今は……。
「そういえば、私ってどんな姿になってるんだろう?」
今さらながら、自分の姿をしっかり確認したことがないことに気づいた。
「ねえ、
《解。魔力感知の視点を外部に切り替えることで、客観的に自身を観察可能です》
「魔力感知…」
確か、周囲の魔素を感知して様子を認識できるんだっけ?
この前
「魔力感知を使えば、自分を外から見れるの?」
《是。コツとしては、自分を他者として捉えるイメージを持つことです》
「なるほど……」
私は教えられた通り、魔力感知の視点を切り替えることに挑戦してみることにした。自分を外から見るというイメージを頭に描きながら、ゆっくりと意識を集中させる。
「自分を……他の誰かとして見る……」
頭の中でそう繰り返しながら、周囲の魔素の流れを感じつつ、自分を観察するように視点を外部に持っていく。
「……うーん、難しい……」
なかなか上手くいかず、何度か失敗してしまう。それでも何度か挑戦しているうちに、ふっと視界が変わり、ようやく外部から自分を見る感覚が得られた。
「…あ、できたかも」
目の前に現れたのは、私自身……だけど、前世の私とはまるで別人だった。
腰まで伸びる薄緑色の髪、透き通るような白い肌、翡翠色の瞳。しなやかな四肢に、どこか自然と調和した雰囲気をまとった少女。
その顔立ちは整っていて、自分で言うのもなんだけど、かなりの美人だった。
「……えっ、誰……いや、私か……」
呆しばらく呆然と見つめてしまった。あまりにも前の自分とかけ離れていて、他人のようにしか思えない。でも確かに、今の私はこの姿なんだ。
「なんか……ちょっとだけ、かっこいいかも」
そう思って、こそばゆくなって視点を戻したそのときだった。
ズドン!!
「おおおおー! ここが例のラミリスお気に入りの
突如、
「あの、どちら様ですか……?」
「おお、いたいた! お前がリンだな! ワタシはミリム・ナーヴァ! 魔王だぞ!」
「えっ……ミリム・ナーヴァ……? 魔王?」
――魔王。魔王って、あの魔王!? ギィさんと並ぶ、世界最強クラスの存在!? それが目の前でにっこにこしてるの、どういう状況!?
「ラミリスが、『リンは面白いやつだから!』って言っててな。だから遊びに来てやったのだ!」
「え、うん……と、とりあえずよろしくお願いします……?」
困惑しながらも返すと、ミリムはご機嫌で
「ふむ、ここ、けっこうすごいではないか! おー、この根っこ、太くて立派だな~! どれ、試しに――」
「えっ」
バキィッ。
軽く蹴っただけのように見えたのに、
「おおー、なかなか頑丈だな! 穴くらい空くかと思ったのだが」
ミリムは悪びれた様子もなく笑っていたけれど、私の中で何かが静かに切れた。
「ミリム」
「ん? なんだ?」
私はゆっくりと、しかし確実に怒りを込めた声で彼女の名前を呼んだ。ミリムは私の声に驚いたのか、キョトンとした表情で振り返る。
「……ここはね、私が守るって決めた場所なんだ。だから、傷つけることは、絶対に許さない」
自分でもびっくりするほど低い声だった。ミリムは目をぱちくりとさせて、私の方を見た。
「……悪かったのだ」
しょんぼりと項垂れるその姿に、私は拍子抜けしながらも少しだけ肩の力を抜いた。
「わかってくれたなら、いいよ。でも、次からは気をつけてね」
「うむ! ちゃんと気をつけるのだ!」
それからというもの、ミリムは妙に私に懐いた。遊びに来るたびに大はしゃぎして、でも何かしようとするたびに私の顔を見て「ダメだったな!」と自制する姿はちょっと可愛かった。
「リン、今日も探検するのだ! ちゃんと壊さないから!」
「はいはい、見張ってるからねー」
こうして、私は新たな「騒がしい友達」を得ることになったのだった――。