転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第十一話

大霊樹(ドリュアス)の中、私は今日も例によってごろごろしていた。空気は澄んでて、静かで、涼しい風が蔦の間をすり抜けていく。こんなに居心地がいいと、ついつい怠け癖が顔を出す。

 

ふと、視界の隅に映ったのは、自分の髪だった。ふわりと揺れた長い髪――薄緑がかったその色は、まるで朝露に濡れた新芽のようで、やけに柔らかそうに見える。

 

「……私、前はこんな髪じゃなかったのにね」

 

前世の私は平凡な黒髪で、肩にかかる程度の長さ。見た目も、性格も、どこにでもいる普通の女だった。なのに今は……。

 

「そういえば、私ってどんな姿になってるんだろう?」

 

今さらながら、自分の姿をしっかり確認したことがないことに気づいた。大霊樹(ドリュアス)の中には鏡なんてないし、水源はあるけれど、その場所は風が常に吹いているせいで水面が揺れて、姿を映すには向いていない。

 

「ねえ、先見者(ミトオスモノ)。私って今、どんな姿してるの?」

《解。魔力感知の視点を外部に切り替えることで、客観的に自身を観察可能です》

「魔力感知…」

 

確か、周囲の魔素を感知して様子を認識できるんだっけ?

この前先見者(ミトオスモノ)にスキルについて色々教わったときに聞いたやつだ。

 

「魔力感知を使えば、自分を外から見れるの?」

《是。コツとしては、自分を他者として捉えるイメージを持つことです》

「なるほど……」

 

私は教えられた通り、魔力感知の視点を切り替えることに挑戦してみることにした。自分を外から見るというイメージを頭に描きながら、ゆっくりと意識を集中させる。

 

「自分を……他の誰かとして見る……」

 

頭の中でそう繰り返しながら、周囲の魔素の流れを感じつつ、自分を観察するように視点を外部に持っていく。

 

「……うーん、難しい……」

 

なかなか上手くいかず、何度か失敗してしまう。それでも何度か挑戦しているうちに、ふっと視界が変わり、ようやく外部から自分を見る感覚が得られた。

 

「…あ、できたかも」

 

目の前に現れたのは、私自身……だけど、前世の私とはまるで別人だった。

腰まで伸びる薄緑色の髪、透き通るような白い肌、翡翠色の瞳。しなやかな四肢に、どこか自然と調和した雰囲気をまとった少女。

その顔立ちは整っていて、自分で言うのもなんだけど、かなりの美人だった。

 

「……えっ、誰……いや、私か……」

 

呆しばらく呆然と見つめてしまった。あまりにも前の自分とかけ離れていて、他人のようにしか思えない。でも確かに、今の私はこの姿なんだ。

 

「なんか……ちょっとだけ、かっこいいかも」

 

そう思って、こそばゆくなって視点を戻したそのときだった。

 

ズドン!!

 

「おおおおー! ここが例のラミリスお気に入りの樹妖精王(ドリュアス・ロード)の住処かー!」

 

突如、大霊樹(ドリュアス)の中に飛び込んできたのは、ピンク色のツインテールを揺らした少女だった。無邪気な笑顔とキラキラした瞳。だけど――その存在感は明らかにただの少女ではなく、どこか圧倒的な力を感じさせるものだった。

 

「あの、どちら様ですか……?」

「おお、いたいた! お前がリンだな! ワタシはミリム・ナーヴァ! 魔王だぞ!」

「えっ……ミリム・ナーヴァ……? 魔王?」

 

――魔王。魔王って、あの魔王!? ギィさんと並ぶ、世界最強クラスの存在!? それが目の前でにっこにこしてるの、どういう状況!?

 

「ラミリスが、『リンは面白いやつだから!』って言っててな。だから遊びに来てやったのだ!」

「え、うん……と、とりあえずよろしくお願いします……?」

 

困惑しながらも返すと、ミリムはご機嫌で大霊樹(ドリュアス)の中をうろうろし始めた。

 

「ふむ、ここ、けっこうすごいではないか! おー、この根っこ、太くて立派だな~! どれ、試しに――」

「えっ」

 

バキィッ。

 

軽く蹴っただけのように見えたのに、大霊樹(ドリュアス)の太い根に亀裂が入った。私は慌てて駆け寄り、裂けた部分を確認する。大霊樹(ドリュアス)にとって、この傷はかなり深刻かもしれない。

 

「おおー、なかなか頑丈だな! 穴くらい空くかと思ったのだが」

 

ミリムは悪びれた様子もなく笑っていたけれど、私の中で何かが静かに切れた。

 

「ミリム」

「ん? なんだ?」

 

私はゆっくりと、しかし確実に怒りを込めた声で彼女の名前を呼んだ。ミリムは私の声に驚いたのか、キョトンとした表情で振り返る。

 

「……ここはね、私が守るって決めた場所なんだ。だから、傷つけることは、絶対に許さない」

 

自分でもびっくりするほど低い声だった。ミリムは目をぱちくりとさせて、私の方を見た。

 

「……悪かったのだ」

 

しょんぼりと項垂れるその姿に、私は拍子抜けしながらも少しだけ肩の力を抜いた。

 

「わかってくれたなら、いいよ。でも、次からは気をつけてね」

「うむ! ちゃんと気をつけるのだ!」

 

それからというもの、ミリムは妙に私に懐いた。遊びに来るたびに大はしゃぎして、でも何かしようとするたびに私の顔を見て「ダメだったな!」と自制する姿はちょっと可愛かった。

 

「リン、今日も探検するのだ! ちゃんと壊さないから!」

「はいはい、見張ってるからねー」

 

こうして、私は新たな「騒がしい友達」を得ることになったのだった――。

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