ギィさんが去っていった後も、私はまだその場に座り込んだまま、震える手を見つめていた。さっきまで感じていた異様な気配が消えたとはいえ、緊張がすぐに抜けるわけでもなく、喉の奥がじんと焼けるような感覚が残っている。
「……怖かった……ほんとに……」
そんな呟きが口をついて出た、その時だった。
《警告。このままでは、
「え……魔素、枯渇……?」
一気に顔が青ざめた。
もし魔素の供給が止まったら、
「それは……まずい……!」
私は急いで立ち上がり、
淡い緑の実、黄味がかった実、赤みのある実――。とにかく手当たり次第に口に入れていく。
「ん、この実は甘くて……魔素の戻りが早い……こっちはちょっと酸っぱいけど……身体が軽くなる感じ……?」
夢中で食べ進めるうちに、私はふと気づいた。
「……もしかしてこれ、実によって効果違うんじゃない?」
味と体感を照らし合わせて、私は小さく頷いた。もしかすると、それぞれの実に異なるパッシブ効果があるのかもしれない。そう考えると、少し楽しくなってきた。
「こういうの、ちゃんと調べられたらいいのに……」
そう呟いた瞬間――頭の中に、鋭く、澄んだ声が響いた。
《エクストラスキル「解析鑑定」を獲得しました》
「……ん?
《否。今のは
「えっ……じゃあ、今の声は何? 「解析鑑定」を獲得とか聞こえたけど…」
《解。世界の言葉です》
私はなるほど、と頷く。
スキルの獲得が伝えられたということは、どうやら新しい能力を手に入れたらしい。
「まあ、いっか……とりあえず、解析鑑定ができるなら、さっそく試してみよう!」
私は手近な実を手に取って、スキルを発動してみた。
【
「……おおお!? マジで効果が出てる!!」
驚きとともに、私は次から次へと実を手に取り、「解析鑑定」を繰り返した。
でも――すぐに問題にぶち当たった。
「……うっ、情報多すぎて頭が痛い……! しかも、知らない単語だらけだし!」
見たこともない数値や専門用語がずらりと並んでいて、情報の処理が追いつかない。すぐに私は
「
《解。解析鑑定の結果を解説することは可能です。しかし、大量の情報を処理するための演算能力は
「えぇ……でも、どうしても効率よく解析したいんだよ!
私は
《検討します――……
「うん! いいよ! 全然使って!」
私は即決で魔素の使用を許可し、
何度かの失敗のあと――世界の言葉が、再び響く。
《エクストラスキル「並列演算」を獲得しました》
「やったああああ!」
《以後、「解析鑑定」と「並列演算」は
「頼もしいー!」
これで私のスキル運用はさらにパワーアップした。私はさっそく、「解析鑑定」で判明した実の効果を分類して、
「甘いのは魔素回復……酸っぱいのは身体強化……黄色っぽいのは……ん? これは……眠くなる効果? よし、これは寝つけないとき用!」
ちょっとした図鑑づくりみたいで、すごく楽しい。
「解析鑑定」や「並列演算」獲得から数日後、私は
実際は
そしてふと、ラミリスさんにこのことを報告したくなったので、念話を使ってラミリスさんに声をかけた。
(ラミリスさん、聞こえる?)
『聞こえるよ~! リン元気~?』
(うん、めっちゃ元気! 実はね、スキル手に入れたんだよ。「解析鑑定」ってやつ!)
『なにぃ!? すごいじゃん!!』
ラミリスさんの声は驚きつつも、どこか誇らしげな感じだった。褒められた私は少し嬉しくなって、にやけてしまう。
(でね、「並列演算」も取って、いっぱい
『めっちゃ楽しそう!』
ちょっと誇らしい気持ちで話しているうちに、私はふと、面白いことを思いついた。
(あ、ラミリスさんのこと、私の「解析鑑定」で見てもいい?)
『うーん……いいけど、たぶん無理かも?』
(え、なんで?)
『能力差があると、鑑定が制限されるんだよ~。全部は見えないと思うな』
(……能力差? 私と……ラミリスさんの?)
私は驚きで固まった。まさか、自分とラミリスさんに、そんな大きな差があるなんて思っていなかった。
(やっぱり、ラミリスさんってすごいんだね……)
『えへへ……ま、まぁね! アタシ、魔王だし!』
(……魔王!?)
またもや衝撃。
(えっ!? 魔王って……ギィさんやミリムと同じ!?)
『そーだよ!? え、言ってなかったっけ!?』
(……聞いてない……)
私は一瞬、世界がひっくり返ったような気分になった。
あの、いつもわちゃわちゃしてるラミリスさんが……魔王。あのギィさんと同格の存在。
(そっか……ラミリスさん、すごいんだ……本当に)
そう呟くと、ラミリスさんの声がちょっと照れていた。
『ふふん! でしょ? アタシに任せておけば、だいたい大丈夫なんだから! なんでも頼っていいよ!』
(うん、すごく頼りにしてる!)
私は素直にそう伝えた。今の私は、スキルも少しずつ増えて、
(……私も、早くラミリスさんに肩を並べられるくらい、強くなりたいな)
心の奥でそう誓いながら、私は新しく実を手に取り、「解析鑑定」の光を走らせた。