転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

13 / 97
第十三話

ギィさんが去っていった後も、私はまだその場に座り込んだまま、震える手を見つめていた。さっきまで感じていた異様な気配が消えたとはいえ、緊張がすぐに抜けるわけでもなく、喉の奥がじんと焼けるような感覚が残っている。

 

「……怖かった……ほんとに……」 

 

そんな呟きが口をついて出た、その時だった。

 

《警告。このままでは、(マスター)の魔素が枯渇し、大霊樹(ドリュアス)への供給が途絶えます。早急な魔素の補充を推奨します》

 

先見者(ミトオスモノ)のいつも通りの淡々とした声が、私の頭の中に響く。

 

「え……魔素、枯渇……?」

 

一気に顔が青ざめた。

 

もし魔素の供給が止まったら、大霊樹(ドリュアス)にだって影響が出てしまう。それだけじゃない。私自身、精神生命体として維持されているこの身体も、崩壊してしまうかもしれない。

 

「それは……まずい……!」

 

私は急いで立ち上がり、大霊樹(ドリュアス)の枝から実をもぎ取って、そのままがむしゃらに口に運んだ。

 

淡い緑の実、黄味がかった実、赤みのある実――。とにかく手当たり次第に口に入れていく。

 

「ん、この実は甘くて……魔素の戻りが早い……こっちはちょっと酸っぱいけど……身体が軽くなる感じ……?」

 

夢中で食べ進めるうちに、私はふと気づいた。

 

「……もしかしてこれ、実によって効果違うんじゃない?」

 

味と体感を照らし合わせて、私は小さく頷いた。もしかすると、それぞれの実に異なるパッシブ効果があるのかもしれない。そう考えると、少し楽しくなってきた。

 

「こういうの、ちゃんと調べられたらいいのに……」

 

そう呟いた瞬間――頭の中に、鋭く、澄んだ声が響いた。

 

《エクストラスキル「解析鑑定」を獲得しました》

 

「……ん? 先見者(ミトオスモノ)、今なんか言った?」

《否。今のは先見者(ミトオスモノ)ではありません》

「えっ……じゃあ、今の声は何? 「解析鑑定」を獲得とか聞こえたけど…」

《解。世界の言葉です》

 

先見者(ミトオスモノ)曰く、世界の言葉は進化した時や新たな能力を得た際に、その本人の脳内に響く声で、周囲の者にも聞こえる場合があるらしい。

 

私はなるほど、と頷く。

スキルの獲得が伝えられたということは、どうやら新しい能力を手に入れたらしい。

 

「まあ、いっか……とりあえず、解析鑑定ができるなら、さっそく試してみよう!」

 

私は手近な実を手に取って、スキルを発動してみた。

 

大霊樹(ドリュアス)の実。属性:風/パッシブ効果:身体強化(軽度)・魔素回復(中)】

 

「……おおお!? マジで効果が出てる!!」

 

驚きとともに、私は次から次へと実を手に取り、「解析鑑定」を繰り返した。

でも――すぐに問題にぶち当たった。

 

「……うっ、情報多すぎて頭が痛い……! しかも、知らない単語だらけだし!」

 

見たこともない数値や専門用語がずらりと並んでいて、情報の処理が追いつかない。すぐに私は先見者(ミトオスモノ)に泣きついた。

 

先見者(ミトオスモノ)、このスキルの情報、なんとか読みやすくならない? ちょっと整理してほしいな」

《解。解析鑑定の結果を解説することは可能です。しかし、大量の情報を処理するための演算能力は先見者(ミトオスモノ)にはありません。情報整理には時間を要します》

「えぇ……でも、どうしても効率よく解析したいんだよ! 先見者(ミトオスモノ)がいてくれれば、もっと早くいろんなことがわかると思うんだ……そこをなんとかしてくれない?」

 

私は先見者(ミトオスモノ)に懇願し、何とかしてほしいとごね続けた。

先見者(ミトオスモノ)は少し間を置いてから答えた。

 

《検討します――……(マスター)の魔素の一部を使用し、スキル獲得に挑戦することは可能です》

「うん! いいよ! 全然使って!」

 

私は即決で魔素の使用を許可し、先見者(ミトオスモノ)に頼み込んだ。

 

何度かの失敗のあと――世界の言葉が、再び響く。

 

《エクストラスキル「並列演算」を獲得しました》

 

「やったああああ!」

《以後、「解析鑑定」と「並列演算」は先見者(ミトオスモノ)が補助・管理します》

「頼もしいー!」

 

これで私のスキル運用はさらにパワーアップした。私はさっそく、「解析鑑定」で判明した実の効果を分類して、先見者(ミトオスモノ)にまとめてもらうことにした。

 

「甘いのは魔素回復……酸っぱいのは身体強化……黄色っぽいのは……ん? これは……眠くなる効果? よし、これは寝つけないとき用!」

 

ちょっとした図鑑づくりみたいで、すごく楽しい。

 

 

 

 

 

「解析鑑定」や「並列演算」獲得から数日後、私は大霊樹(ドリュアス)の実を次々と食べて、魔素を回復しながら「解析鑑定」を駆使する日々を送っていた。

実際は先見者(ミトオスモノ)に頑張ってもらってるだけだが、新しいスキルを手に入れたことはとても嬉しかった。

そしてふと、ラミリスさんにこのことを報告したくなったので、念話を使ってラミリスさんに声をかけた。

 

(ラミリスさん、聞こえる?)

『聞こえるよ~! リン元気~?』

(うん、めっちゃ元気! 実はね、スキル手に入れたんだよ。「解析鑑定」ってやつ!)

『なにぃ!? すごいじゃん!!』

 

ラミリスさんの声は驚きつつも、どこか誇らしげな感じだった。褒められた私は少し嬉しくなって、にやけてしまう。

 

(でね、「並列演算」も取って、いっぱい大霊樹(ドリュアス)の実を調べてるんだ~)

『めっちゃ楽しそう!』

 

ちょっと誇らしい気持ちで話しているうちに、私はふと、面白いことを思いついた。

 

(あ、ラミリスさんのこと、私の「解析鑑定」で見てもいい?)

『うーん……いいけど、たぶん無理かも?』

(え、なんで?)

『能力差があると、鑑定が制限されるんだよ~。全部は見えないと思うな』

(……能力差? 私と……ラミリスさんの?)

 

私は驚きで固まった。まさか、自分とラミリスさんに、そんな大きな差があるなんて思っていなかった。

 

(やっぱり、ラミリスさんってすごいんだね……)

『えへへ……ま、まぁね! アタシ、魔王だし!』

(……魔王!?)

 

またもや衝撃。

 

(えっ!? 魔王って……ギィさんやミリムと同じ!?)

『そーだよ!? え、言ってなかったっけ!?』

(……聞いてない……)

 

私は一瞬、世界がひっくり返ったような気分になった。

あの、いつもわちゃわちゃしてるラミリスさんが……魔王。あのギィさんと同格の存在。

 

(そっか……ラミリスさん、すごいんだ……本当に)

 

そう呟くと、ラミリスさんの声がちょっと照れていた。

 

『ふふん! でしょ? アタシに任せておけば、だいたい大丈夫なんだから! なんでも頼っていいよ!』

(うん、すごく頼りにしてる!)

 

私は素直にそう伝えた。今の私は、スキルも少しずつ増えて、先見者(ミトオスモノ)との連携も良くなってきた。でも――まだまだ未熟だ。だからこそ、ラミリスさんみたいな存在がそばにいてくれるのは、本当に心強かった。

 

(……私も、早くラミリスさんに肩を並べられるくらい、強くなりたいな)

 

心の奥でそう誓いながら、私は新しく実を手に取り、「解析鑑定」の光を走らせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。