転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第十四話

転生して、早くも一年が経とうとしている。 

 

ここは外界の時間の流れが曖昧な、大霊樹(ドリュアス)の内部。普通なら季節も時刻も曖昧になるはずなのに、私は日々の時間の経過をしっかり把握していた。

 

理由は簡単。先見者(ミトオスモノ)がいるからだ。

 

先見者(ミトオスモノ)、今って昼? 夜?」

《解。現在時刻は午後一時二十四分、天候は快晴に近い穏やかな状態、気温は二十三度。湿度は低く、魔素濃度も安定しています》

「ふむふむ……あと、今の旬の食べ物は?」

《解。現在の旬の果実として、栗・柿・葡萄が挙げられます》

「……栗、いいなぁ」

 

そんな調子で、私は毎日のんびりと大霊樹(ドリュアス)の中で過ごしていた。特別なことは何もない。だらだら寝転がって、魔法の練習をして、合間に樹妖精(ドライアド)の魂に話しかける。彼らはまだ生まれたばかりの魂の状態で、返事はない。でも、それでもいい。

 

「おはよう、みんな。今日も元気にしてる?」

 

誰も答えない。でも、話しかけるたびに少しだけ温かい気配を感じる。大霊樹(ドリュアス)が、ちゃんと彼らを守っている。私もその一部なんだ、って思えるのが、なんだか嬉しかった。

 

そんな穏やかな時間を破るように、元気すぎる来訪者がやってきた。

 

「リンー! いるかー! 元気してるかー!」

「あ、ミリム」

 

元気な声が響いたと思ったら、次の瞬間には頭上からふわっと現れていた。ピンクのツインテール、眩しいほどの笑顔。そして、見た目と裏腹なとんでもない魔素量。

 

「リン! 遊びにきてやったぞ!」

「いらっしゃい」

 

私は笑いながら、手にしていた大霊樹(ドリュアス)の実を差し出した。ミリムは即座にパクリ。

 

「おおー! うまっ! これ、何個でも食べられるのだ!」

「……食べすぎたら、あとでお腹痛くなるよ」

 

そんな会話を交わしながら、いつものようにのんびりおやつタイムを過ごす。

 

「リン、そういえば、普段は何してるのだ?」

「うーん……寝て、食べて、寝て、散歩して、寝て……あと、魔法の練習?」

「ほう! 魔法の練習か! 見たいのだ!」

「……あー、ここじゃ危ないから、練習用の異空間に移動しようか」

「おおーっ! そういうのあるのか! さすがリン、準備がいいのだ!」

 

異空間に移動すると、案の定ミリムは目を輝かせて大はしゃぎ。飛ぶ、転がる、実を食べる。自由すぎる。

 

「ねえ、ミリム、そんなに興奮しなくても……」

「いやいや、ここなら思いっきり暴れられるではないか! よーし、ちょっとワタシもやってみるぞ!」

 

ミリムは言うや否や、膨大な魔素を手に集中させ、遠慮なく強力な魔法を放った。彼女の手から放たれた魔素の波動が空間全体を揺るがし、凄まじいエネルギーが広がった。

 

「う、うわ……!」

 

その圧倒的な力に、私は思わず圧倒されてしまった。ミリムの魔素の凄まじさに、私が今まで感じていたものとはまったく違う次元の力を目の当たりにした瞬間だった。

 

「どうだ? すごいだろ!」

「すごすぎる……っていうか怖い……」

「はっはっは! さて、リンも見せるのだ!」

 

ミリムにそう促され、私は少し緊張しながらも、風の魔法を使ってみることにした。

一筋の鋭い風が空間を切り裂く。静かに、けれど確かな威力を持っていた。

 

「これが私の魔法……」

「おおー! なかなかやるではないか!」

「……やっぱり、ミリムと比べると私、まだまだなんだよね……」

 

落ち込む私に、ミリムはバシッと背中を叩いて言った。

 

「ならば鍛えればいい! ワタシが直々に修行をつけてやるのだ!」

「えっ、いいの?」

「任せておけ!」

 

その笑顔に、私は思わず「はい」と頷いてしまった。

こうして、私のミリム直伝の修行が始まることになった。

 

 

 

 

 

――数日後。

 

「ラミリスー! リンに修行つけてやることになったのだ!」

「……えっ、は?」

 

ラミリスは一瞬、何を言われたのか理解できず、目を丸くした。そして、その意味を理解すると同時に、目をさらに大きく見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

「はァァァ!? ミリム、今なんて言ったのよさ!? リンに!? 修行!? あの子に!?」

 

ラミリスは両手で頭を抱えながら叫んだ。 

 

「やめときなさい! アンタの修行は、修行じゃなくて破壊活動なのよさ!」

「大丈夫だ、ちゃんと手加減するぞ!」

「信用ならない!手加減とか一番縁遠いでしょうがー!」

 

その直後、ラミリスはリンに対して、念話でいきなり叫び声を送った。

 

『リン!! 気をつけて! ミリムの修行はやばいからね!? 無理しないでよ!? アタシだって本気出せば強いんだから!』

(え、えぇ……?)

『アタシはね、成長すればもっと強くなるんだよ! 今はちょっとだけ子供なだけで! ほんとは超強いんだから!』

(……"成長すれば"ってどういう……?)

『うっ……うーん、まあ……細かいことは省くけど、アタシって、転生と成長を繰り返すんだよ』

(えっ、転生?)

『そ。成長して大人になって、寿命が来たら今みたいな小さな姿に転生。その繰り返し』

(じゃあ、今のラミリスさんは……成長していない状態?)

『ま、まぁ、そういうことになるかな? あと10年くらいしたら大人に成長してうーんと強くなるんだから! ミリムだけじゃなくて、アタシだってすごいんだから!』

 

ラミリスの声は少し自信なさげだったが、それでも誇りを持っているようだった。彼女がどれだけの力を持つ存在なのか、リンは改めて考え直した。

 

(じゃあ、成長したらラミリスさんが私に修行をつけてくれるの?)

『もっちろん! 任せなさい!』

 

――果たしてその修行がミリムのそれより安全なのかは謎だったけれど。

 

リンはラミリスとミリムという二人の魔王に囲まれながら、これからもきっと、慌ただしくも楽しく、そして成長していけるのだと、なんとなく思ったのだった。

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