転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

15 / 97
第十五話

ミリムとの修行が始まった。

 

その初日――私は早々に思い知ることになる。

これ、想像の五倍くらい過酷。

 

「リン! もっと速く動け! 風を感じろ! 風と一体になるのだーッ!」

「えっ、ええええ!? ちょっと待って、説明が雑すぎるよミリムぅ!!」

 

ミリムの指導は、理論?何それ食べられるの?と言わんばかりのスパルタ感覚主義。

「感覚で覚えるのだ!」という魔王の金言が空を舞う。

対する私は、無数の攻撃に翻弄され、もうすでに瀕死――いや、精神生命体だから物理的に瀕死にはならないけれど、魔素はゴリゴリ削られていく。

 

先見者(ミトオスモノ)、ヘルプ! ミリムの言ってることって何となくわかる!?」

《解。個体名ミリムは、魔素を風と同調させて身体を滑らかに動かすことを推奨しています。具体的には、脚部への魔素の集中と、風流との調和を求めています》

「……いや、分かったようで分からないんだけど!?」

 

私はミリムの突進を必死で避けながら、先見者(ミトオスモノ)の指示を頼りに魔素の流れを調整する。脚に意識を集中させ、風の流れに身を預けるように――。

 

「とぉっ!」

 

スレスレでミリムの飛び蹴りを回避できた。奇跡かもしれない。

 

「おおっ! 少しは掴めてきたな!? でも! まだまだ!」

「えっ、まだやるの!? というか感覚じゃ限界あるってばぁー!!」

 

容赦ないミリムのスパルタ特訓は続く。私は涙目になりながら、「未来予測」に頼ろうとした。

 

先見者(ミトオスモノ)、未来予測で動きを読めば――」

《否。個体名ミリムとの能力差が大きすぎるため、予測が成立しません》

「……うそ……未来すら読めないの……?」

 

私は心が折れかけた。

けれど、それでも私はやるしかなかった。

 

拳に魔素を集中し、風の流れに乗せるように魔素を圧縮。先見者(ミトオスモノ)の指示に従って一気に解放した。

 

「はっ!」

 

風の刃が拳に宿り、小さな突風が巻き起こる。ミリムはにこにこと笑っていた。

 

「おおーっ、やればできるではないかーっ! リン、いいぞーっ!」

「ぐぅ……体力というか、魔素が……っ」

《警告。魔素の過剰使用が確認されています》

 

先見者(ミトオスモノ)の冷静な声が、限界を迎えた身体に追い打ちをかける。

私はその場にへたり込み、空を見上げて息を吐いた。

 

「も、もう……今日は無理ぃ……」

 

ミリムはそんな私を見て、満足げに頷いた。

 

「よし! 今日はここまでにしてやろう! 明日もガンガン行くぞ!」

 

……明日も、あるのか……。

 

 

 

 

 

大霊樹(ドリュアス)に戻った私は、ぐったりと寝転がりながら、大霊樹(ドリュアス)の実をかじっていた。横にはミリムがいて、相変わらず元気いっぱいだ。

 

「今日の修行、どうだった? ワタシの教え、よかっただろ!」

「……うーん、ミリムの感覚で教えるやり方、(先見者(ミトオスモノ)のおかげで)なんとかついていけたけど、正直言って難しかった……」

「えー! 感覚で覚えればいいだけなのだぞ!」

 

ミリムはふくれっ面で言うが、私は苦笑いしながら実を口に運んだ。

 

「でも……ミリムの力はすごすぎるよ。あの、『多重結界』って言うんだっけ?あれを打ち破るなんて、当分無理だと思うけど……」

「まあ、それが目標だぞ! リンも結構やるではないか! もっと感覚を掴めば、きっとすぐに魔王級になれるぞ!」

「……いや、そこまではちょっと……」

 

でも、実際に身体の感覚は変わってきている。魔素の扱いが以前よりずっとスムーズになっていた。あの圧倒的なミリムの攻撃を、一度でも避けられたというだけでも、大きな進歩だ。

 

「……ありがとう、ミリム。ほんとに」

「ふふーん、任せておけ! 次はもっと面白い特訓を考えてあるのだ!」

 

そう言って笑うミリムの無邪気な笑顔に、私は思わず笑ってしまった。

 

「こわ……いや、楽しみにしてる……たぶん」

 

 

 

 

 

その夜。

私はだらだらと寝転がったまま、大霊樹(ドリュアス)の実をかじりつつ、ラミリスさんに念話を送った。

 

(ラミリスさん、聞こえる?)

『リン? なに~? って、あれ? なんか声、疲れてない!?』

(うん……ミリムに修行つけてもらって……疲労困憊……)

『やっぱりぃ!? ミリム絶対手加減とかしないし! 感覚で覚えろ!とか意味わかんないこと言って、全力で殴ってくるでしょ!?』

(……おっしゃる通り……)

 

ラミリスさんの怒りが念話越しでも伝わってきて、思わず笑ってしまった。

でも、そんなラミリスさんの優しさが、心にしみる。

 

(でもね、少しずつだけど、魔素の流れがわかってきた気がするんだ)

『……ふーん。まぁ、そうやって成長してるならいいけど……あんまり無理しないでよ? アタシが修行つける日まで、ちゃんと元気でいなさいよね!』

(うん。ありがとう、ラミリスさん)

 

私の言葉に、ラミリスさんは少し照れたような声で返してきた。

 

『べ、別に……アタシはリンの主でもあるし……あたりまえのことよ!』

 

 

 

***

 

 

 

一方その頃、ラミリスはギィの元でぷんすか怒っていた。

 

「ギィ~! 聞いてよっ! ミリムがリンに修行してるって!」

「ん、あぁ、そういや言ってたな。……で、何が不満なんだ?」

「アタシだって修行つけたいのにーっ! なんか負けた気がするじゃん!」

 

ギィはふっと笑った。

 

「お前、結構気にしてんだな。……でもまぁ、ラミリスが本気出したら、ミリムと違った意味でやばそうだが」

「それ、褒めてる!? 貶してる!? どっちよさっ!!」

「どっちもだ」

 

ギィの曖昧な返事に、ラミリスはふんすっと鼻を鳴らした。

 

「いいもん! そのうちアタシも成長して、リンにバッチリ修行つけてやるから! ミリムなんかに負けないし!」

「……そうかい。まぁ、リンも苦労するな」

 

ギィの苦笑は、どこか楽しげだった。

 

 

 

***

 

 

 

私の修行の日々は、こうして始まったばかり。

厳しくて、しんどくて、全力で泣きたくなるときもあるけれど――

 

それでも私は、前へ進みたい。

強くなって、守れるようになりたい。

 

「ミリムの修行……しんどいけど……でも、ちょっとだけ楽しいかも……」

 

風が私の髪を揺らす。

大霊樹(ドリュアス)の中、優しい光の下で、私は今日も強くなるために歩みを進めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。