リンとラミリスは並んで寝そべりながら、まったりとした時間を過ごしていた。
「リン、やっぱりアタシたち相性バッチリだよねー!」
「ふふ、ラミリスさん、くすぐったいってば……!」
小さなラミリスがリンの胸の上にちょこんと乗り、両頬をつつく。リンもそれに笑いながら応え、軽くラミリスの体を持ち上げてゆらゆら揺らす。
ふたりだけの、穏やかで幸せなひととき――。
だが、そんな平和をぶち破るように、空間が揺れた。
「修行するぞーッ!!」
轟音のような声と共に、ピンク色の髪を翻してミリムが突撃してきた。
「また来た……」
ラミリスがむすっと眉を寄せる。
「ミリム!」
リンは驚きながらも、すぐに起き上がり、ミリムに目を向けた。ミリムは両手を腰にあて、にっこりと笑いながらリンを見つめている。
「今日もガッツリ鍛えてやるのだ! さあ行くぞ、異空間へ!」
ミリムが高らかに叫ぶと、ラミリスはその後ろ姿をじっと見つめてから、ふと視線を伏せた。
(……リンが強くなれば、運命を変えられるかもしれない……)
迷いはあった。だが、今は背中を押すと決めた。
「リン、修行……ちゃんとやりなさいよ!」
「うん!」
「よーし、いくぞーー!!」
三人は異空間へと転移する。
ミリムとリンが対峙し、ラミリスは少し距離を取って見守る側に回った。
「いくぞ、リン!」
ミリムの拳が空を裂く――
リンは風の魔法を駆使し、紙一重でそれをかわした。
「おお! いい感じなのだ!」
「は、はやっ……!」
圧倒的な力を前に、リンはかろうじて応戦していた。
「ちょっとミリム、手加減してよ!」
「リンならへっちゃらなのだ!」
ラミリスは手に汗を握って見守る。風の軌道が鋭く、以前よりも明らかに洗練されている。
ミリムとの修行は、確かにリンを鍛えていた。
「よーし、じゃあ本気でいくぞー!!」
「ちょっ、ミリム!? 本気はダメってば!!」
魔素の奔流が空間を揺らす。ミリムが拳に集めた魔素を解放――
リンは即座に防壁を展開するが、膨大な圧力に防壁はひび割れて崩壊寸前となる。
「くっ……!」
ついにリンは弾かれ、地に叩きつけられそうになる。だが寸前で自力を支え、耐えきった。
――その瞬間。
《告。エクストラスキル「魔力妨害」を獲得しました》
頭に響く、世界の言葉。
「魔力妨害……?」
《解。一定範囲内の魔素の流れを乱し、敵の魔法行使を妨げるスキルです》
「やったなリン! スキルゲットだ! いいぞー!!」
ラミリスも驚きつつ、彼女の頭を優しく撫でる。
「リン……すごい。でも、もう無理しちゃダメよ」
《警告。魔素の過剰使用が確認されました》
警告が届く頃には、リンは力尽きて地に崩れ落ちていた。
「……今日はもう限界……」
「よーし、じゃあ今日は終わりにしよう! リン、よくがんばったのだ!」
ミリムが力強く肩を叩くと――リンは再び倒れ込んだ。
リンはぐったり。ラミリスはその横でリンの頭を撫でながら、じと目でミリムを睨む。
「ちょっとミリム! 鍛えるっていうより、今のほとんど暴力よ!!」
「なんのなんの、リンは耐えきったのだ! これがスパルタ愛ってやつだな!」
「スパルタって言ってもねぇ……!」
ラミリスの頬がぷくっと膨れる。
「……アタシのリンなのに……」
その言葉は、ぽそりと漏れた嫉妬心そのものだった。
ラミリスはミリムとリンが修行するたびに、水晶越しにギィに愚痴をこぼしていた。彼女の表情はいつもの無邪気なものとは違い、どこか寂しそうで悔しそうな表情を浮かべている。彼女は、今まで感じたことのない不安に包まれていた。
リンが成長していくことはもちろん喜ばしいことだ。
あの運命を回避できるかもしれない。
しかし、彼女が強くなるにつれて、自分から離れていってしまうのではないか、そんな思いがラミリスの心の中に広がっていた。
『……だからさぁ! ミリムにばっかり構われて、アタシ……なんか寂しいんだよ!』
ギィは静かに話を聞いていたが、やがて肩をすくめるようにして言った。
「お前なぁ……リンが強くなるのは悪いことじゃねぇだろ。それに、あの運命を回避したいなら、鍛えるしかないんじゃねぇのか?」
ラミリスはしゅん……と項垂れるが、やがてふるふると拳を握る。
「……でも、アタシも助けたいのに……アタシだってリンのそばにいたいのに……!」
その声は、切実だった。
何度も見送ってきた
だけど、リンだけは、違った。
「ミリムに取られるなんて、絶対イヤ……アタシのリンなんだから……」
ギィは少しだけ、優しい目で彼女を見つめる。
「……ま、取り合いする元気があるうちは大丈夫だろ。お前が本気で守りたいなら、できることをすればいい」
ラミリスはハッと顔を上げる。
そうだ、自分にだって――できることがあるはずだ。
「うん……ありがと、ギィ」
ギィは「ったく、面倒くせぇ」と呟きながらも、どこか嬉しそうに鼻を鳴らした。
その夜、ラミリスはリンの寝顔をじっと見つめていた。
(強くなって……でも、遠くに行かないで……)
その願いは、心の奥底からあふれていた。