転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第十八話

大霊樹(ドリュアス)の内部にある静かな広間。

リンとラミリスは並んで寝そべりながら、まったりとした時間を過ごしていた。

 

「リン、やっぱりアタシたち相性バッチリだよねー!」

「ふふ、ラミリスさん、くすぐったいってば……!」

 

小さなラミリスがリンの胸の上にちょこんと乗り、両頬をつつく。リンもそれに笑いながら応え、軽くラミリスの体を持ち上げてゆらゆら揺らす。

ふたりだけの、穏やかで幸せなひととき――。

 

だが、そんな平和をぶち破るように、空間が揺れた。

 

「修行するぞーッ!!」

 

轟音のような声と共に、ピンク色の髪を翻してミリムが突撃してきた。

 

「また来た……」

 

ラミリスがむすっと眉を寄せる。

 

「ミリム!」

 

リンは驚きながらも、すぐに起き上がり、ミリムに目を向けた。ミリムは両手を腰にあて、にっこりと笑いながらリンを見つめている。

 

「今日もガッツリ鍛えてやるのだ! さあ行くぞ、異空間へ!」

 

ミリムが高らかに叫ぶと、ラミリスはその後ろ姿をじっと見つめてから、ふと視線を伏せた。

 

(……リンが強くなれば、運命を変えられるかもしれない……)

 

迷いはあった。だが、今は背中を押すと決めた。

 

「リン、修行……ちゃんとやりなさいよ!」

「うん!」

「よーし、いくぞーー!!」

 

三人は異空間へと転移する。

ミリムとリンが対峙し、ラミリスは少し距離を取って見守る側に回った。

 

「いくぞ、リン!」

 

ミリムの拳が空を裂く――

リンは風の魔法を駆使し、紙一重でそれをかわした。

 

「おお! いい感じなのだ!」

「は、はやっ……!」

 

圧倒的な力を前に、リンはかろうじて応戦していた。

 

「ちょっとミリム、手加減してよ!」

「リンならへっちゃらなのだ!」

 

ラミリスは手に汗を握って見守る。風の軌道が鋭く、以前よりも明らかに洗練されている。

ミリムとの修行は、確かにリンを鍛えていた。

 

「よーし、じゃあ本気でいくぞー!!」

「ちょっ、ミリム!? 本気はダメってば!!」

 

魔素の奔流が空間を揺らす。ミリムが拳に集めた魔素を解放――

リンは即座に防壁を展開するが、膨大な圧力に防壁はひび割れて崩壊寸前となる。

 

「くっ……!」

 

ついにリンは弾かれ、地に叩きつけられそうになる。だが寸前で自力を支え、耐えきった。

 

――その瞬間。

 

《告。エクストラスキル「魔力妨害」を獲得しました》

 

頭に響く、世界の言葉。

 

「魔力妨害……?」

《解。一定範囲内の魔素の流れを乱し、敵の魔法行使を妨げるスキルです》

 

先見者(ミトオスモノ)の声に、リンは息を呑む。ミリムにもスキル獲得時の世界の言葉が聞こえたのか、彼女は大喜びで両手を叩いた。

 

「やったなリン! スキルゲットだ! いいぞー!!」

 

ラミリスも驚きつつ、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「リン……すごい。でも、もう無理しちゃダメよ」

《警告。魔素の過剰使用が確認されました》

 

警告が届く頃には、リンは力尽きて地に崩れ落ちていた。

 

「……今日はもう限界……」

「よーし、じゃあ今日は終わりにしよう! リン、よくがんばったのだ!」

 

ミリムが力強く肩を叩くと――リンは再び倒れ込んだ。

 

大霊樹(ドリュアス)の中に戻った三人は、実をかじりながら一息ついていた。

リンはぐったり。ラミリスはその横でリンの頭を撫でながら、じと目でミリムを睨む。

 

「ちょっとミリム! 鍛えるっていうより、今のほとんど暴力よ!!」

「なんのなんの、リンは耐えきったのだ! これがスパルタ愛ってやつだな!」

「スパルタって言ってもねぇ……!」

 

ラミリスの頬がぷくっと膨れる。

 

「……アタシのリンなのに……」

 

その言葉は、ぽそりと漏れた嫉妬心そのものだった。

 

 

 

 

 

ラミリスはミリムとリンが修行するたびに、水晶越しにギィに愚痴をこぼしていた。彼女の表情はいつもの無邪気なものとは違い、どこか寂しそうで悔しそうな表情を浮かべている。彼女は、今まで感じたことのない不安に包まれていた。

 

リンが成長していくことはもちろん喜ばしいことだ。

あの運命を回避できるかもしれない。

しかし、彼女が強くなるにつれて、自分から離れていってしまうのではないか、そんな思いがラミリスの心の中に広がっていた。

 

『……だからさぁ! ミリムにばっかり構われて、アタシ……なんか寂しいんだよ!』

 

ギィは静かに話を聞いていたが、やがて肩をすくめるようにして言った。

 

「お前なぁ……リンが強くなるのは悪いことじゃねぇだろ。それに、あの運命を回避したいなら、鍛えるしかないんじゃねぇのか?」

 

ラミリスはしゅん……と項垂れるが、やがてふるふると拳を握る。

 

「……でも、アタシも助けたいのに……アタシだってリンのそばにいたいのに……!」

 

その声は、切実だった。

何度も見送ってきた樹妖精王(ドリュアス・ロード)

だけど、リンだけは、違った。

 

「ミリムに取られるなんて、絶対イヤ……アタシのリンなんだから……」

 

ギィは少しだけ、優しい目で彼女を見つめる。

 

「……ま、取り合いする元気があるうちは大丈夫だろ。お前が本気で守りたいなら、できることをすればいい」

 

ラミリスはハッと顔を上げる。

そうだ、自分にだって――できることがあるはずだ。

 

「うん……ありがと、ギィ」

 

ギィは「ったく、面倒くせぇ」と呟きながらも、どこか嬉しそうに鼻を鳴らした。

 

 

 

その夜、ラミリスはリンの寝顔をじっと見つめていた。

 

(強くなって……でも、遠くに行かないで……)

 

その願いは、心の奥底からあふれていた。 

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