リンとラミリスの距離は、日を追うごとにさらに近くなっていた。
「リン、今日はずーっと一緒にいようね?」
「もちろんだよ、ラミリスさん。最近ずっと一緒じゃない?」
そう言うと、ラミリスはご機嫌にふんっと鼻を鳴らし、リンの腕に小さな体をぴとっとくっつけた。その顔には隠しきれない満足げな笑み。最近のラミリスは、以前にも増して「ぴったりくっつき虫」と化しており、ちょっと目を離すとすぐに袖を掴んで引き戻してくる。
リンは、そんなラミリスに少し困ったような微笑みを返しながらも――内心では、暖かな安堵と嬉しさを感じていた。
だが、そんな静かな時間をぶち壊す存在が、またしても元気いっぱいに現れる。
「リン!修行するぞーっ!!」
爆裂元気玉が叫んだかのようなテンションで、ミリムが
「また来た……」
ラミリスの声は低かった。ものすごく低かった。
ミリムはお構いなしにリンに手を振り、「さあ異空間へ行くのだ!」と勝手に話を進めている。リンが困惑していると、ラミリスがぐいっと袖を引いた。
「……リン、アタシたちの時間だったのに……」
その小さな声に、リンは一瞬だけ迷いを見せた。けれど、すぐにラミリスが口を開いた。
「でも……行っておいで。もっと強くなれば、きっと……ううん、なんでもない。修行、頑張って」
少し寂しげな笑みと共に、ラミリスはリンの背をぽんっと押す。その手の温かさに、リンは決意を固め、ミリムと共に異空間へと移動した。
修行は、もう恒例となった肉弾戦から始まった。
「さあ来い、リン!今日こそ多重結界を打ち破ってみせるのだ!!」
「む、無理だよそんなのー!」
叫びながらも、リンは拳に魔素を込める。ミリムの拳を躱し、風の刃を放ち、無詠唱で魔素を炸裂させる――確かに、動きは格段に鋭くなっていた。
だが、ミリムはそんな成長も嬉々として受け止め、どんどん攻撃を強化していく。
「ほら!遠慮するな!もっと魔素をぐああああっと溜めて、どーんってぶつけるのだ!!」
(擬音多いよミリムさん!)
リンは内心で突っ込みながらも、言われた通りに魔素を集中させ、拳を放った。
リンとミリムの魔素がぶつかり合い、空間全体が震えるほどの力が交錯する。しかし、ミリムの多重結界に阻まれ、リンの攻撃はそらされてしまい、逆にミリムの拳がリンに直撃した。
「ぐっ……!」
リンは吹き飛ばされ、遠くまで飛ばされて地面に叩きつけられた。痛みは全くないが、悔しさがこみ上げてくる。
「惜しかったな、リン!」
ミリムは笑いながら手を叩き、楽しそうに声をかけてきた。
すぐにラミリスが飛んできて、リンの顔を心配そうに覗き込んだ。
「大丈夫?リン!」
リンは頷きながら、ムスッとした表情を作った。痛みはないのに、この悔しさが収まらなかった。
「……うん、大丈夫。でも……悔しいな……」
そんなリンに、ミリムがきょとんとした表情を浮かべたが、すぐに力強い声で言った。
「大丈夫だ、お前は強くなってるぞ!ワタシとここまでやり合えるやつなんて、そうはいないのだ!自信を持て!」
ミリムのその言葉に、リンは少し肩の力を抜き、安堵の笑みを浮かべた。続けて、ラミリスも優しい声でリンを励ました。
「そうだよ、リン!ミリム相手にあれだけやれるのって、本当にすごいんだからね!」
二人に褒められたリンは、やっと笑顔を取り戻し、
《解。まだ余裕があります》
その答えを聞いて、リンは再びミリムに向き直り、もう一回お願い、と頼んだ。
ミリムは目を輝かせて大笑いしながら、「本当にタフになったな!嬉しいぞ!」と言い、快くリンの頼みを引き受けた。
一方で、ラミリスは呆然とした表情で二人を見つめていた。
「まだやるの……?」と小声で呟いたが、ミリムとリンはすでに再び殴り合いを始めていた。
「魔法の練習はどうしたのよ……」
ラミリスは誰にも聞こえないようにそう呟いた。
その日の夕方。
「リン、大丈夫?今日もすごい…というか、大変な修行だったもんね。ほら、あーんして」
「……あーん……ありがとう、ラミリスさん……」
すると――
「ワタシもやるのだ!」
元気よく割って入ってくるミリムが、実を手に笑顔で割り込む。
「はい、あーん!こっちの実の方が甘いぞ!」
「はぁ!?今アタシが食べさせてたでしょ!!」
「いいのだ!リンはワタシにも実を食べてもらいたいのだ!」
「そんなことリンは言ってない!」
「言ってなくてもワタシがやるのだ!!」
ミリムはまるで競技のように実をリンの口元に運ぼうとするが、ラミリスはそれを阻止しようと必死になっていた。リンは二人のやり取りに戸惑いつつも、彼女たちが自分のために競い合っている様子をただ見つめるばかりだった。
(えっ……どっちも優しくて嬉しいけど、何これ……?)
リンは首を傾げながら、
ラミリスが「アタシがやるんだってば!」と怒り、ミリムが「ワタシがやるのだ!」と譲らずに、二人でリンに実を食べさせ続ける。
この不思議な状況がしばらく続いたある日、リンは通信用の水晶を使ってギィに相談することにした。
「ねえ、ギィさん……ラミリスさんとミリムが、私に実を競って食べさせようとしてくるんだけど……な、なんで?」
通信用水晶越しに相談するリンの声に、ギィは盛大に笑い声を上げた。
「はっはっはっ、ついに取り合い始めたか!」
「えっ、取り合いって……?」
「気にすんな。そのままされるがままになってろ。お前は、二人に甘えときゃいいんだよ」
「そ、そうなのかな……?」
「そうだとも。お前が笑ってりゃ、それでいいんだよ」
リンはその言葉を胸に、また今日もラミリスとミリムの間で、実をもぐもぐ食べさせられるのだった。
その様子をこっそり見ていたギィは、ひとりごちた。
「……やっぱりこうなるか。あいつら、見てて飽きねぇな」
彼の紅い瞳が柔らかく細められる。
そして、リンはまだ知らない。
この平穏の中で育まれる絆が、やがて彼女の運命を大きく左右することになることを――。