転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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転生して少し経った頃のリンの1日の過ごし方について。短めです。


根を張る者の章:短編
リンの一日


私の一日は、いつも穏やかに始まる。大霊樹(ドリュアス)の中で目を覚ますと、まず最初に向かうのは、まだ魂の状態で存在している樹妖精(ドライアド)たちが宿る場所だ。最近になって、彼らの存在感が少しずつはっきりしてきたことに、私は嬉しさを感じていた。大霊樹(ドリュアス)の中に漂うかすかな光のような彼らが、少しずつその輝きを増し、より存在感が強まってきている。

 

「おはよう、みんな。今日も元気かな?」

 

そう話しかけても、もちろん返事はない。それでも、少し成長した彼らの魂を見ていると、どこか親しみが湧いてくる。まだ実体を持たない彼らを、いつの日か本当の姿で愛でられる日が来るのだろうか……そんな期待を胸に、毎日こうして挨拶するのが私の日課だ。

 

「早くみんなとお話ししたいな……」

 

ふわふわと漂う樹妖精(ドライアド)の魂たちにそっと微笑みかけながら、私は彼らを愛でる時間を楽しんだ。

 

その後、私は大霊樹(ドリュアス)のてっぺんに向かう。そこからは、ほんのわずかだけど外の世界が見える。大霊樹(ドリュアス)の枝の隙間から覗く青空や、広がる森の風景は、私にとってちょっとした冒険のような気分を味わえる場所だ。

 

「今日も外はきれいだな……」

 

青空の下に広がる大森林の景色を楽しんでいると、小さな鳥のような魔物がふわりと近寄ってきた。鳥の姿をした魔物は、私の存在に気づいたのか、ちらちらとこちらを伺っている。

 

「こんにちは!」

 

私は笑顔で挨拶してみた。けれど――

 

「ピッ! ピッピッ!」

 

鳥の魔物は私を見た途端に驚いたように羽ばたいて、すぐに逃げてしまった。

 

「え……逃げられた……」

 

せっかく笑顔で挨拶したのに……。ほんの少し寂しさを感じつつ、外の景色をもう少しだけ眺めてから、私は大霊樹(ドリュアス)の内部に戻った。

 

その後はお待ちかねの修行タイムだ。私は異空間に移動し、まずは風の魔法の復習を行う。ミリムから教わった「感覚で覚える」という無理難題の練習は、今も続いている。

 

無詠唱で風の刃を生み出す練習を繰り返し、徐々に魔素を操作することに成功する。ミリムの修行が厳しいおかげで、少しずつ成長していることを実感できる。

 

その後、新たに挑戦しているのは水の魔法だ。水の魔法はまだあまり得意ではないけれど、練習すればきっと上達するはず。私は手のひらに魔素を集中させ、空中に水を生み出す。

 

「よし……次は、もっと大きな水の流れを……!」

 

魔素を集中し、水を形作ろうとするが、思ったよりも難しい。水は風と違って流れを掴むのが難しく、どうしても力加減がうまくいかない。

 

「もう少し……!」

 

何度も試行錯誤を繰り返していると――

 

《警告。魔素の過剰使用が確認されています》

 

先見者(ミトオスモノ)の冷静な声が響き渡り、私はその場に力なく座り込んだ。

 

「もう……ダメか……」

 

どうにかして少しでも成長しようと頑張るけれど、すぐに限界が来てしまう。今日はここで修行はおしまいにすることに決めた。

 

修行が終わった後は、大霊樹(ドリュアス)の実を食べながらのゴロゴロタイムだ。私はいつもの場所に寝そべり、大霊樹(ドリュアス)の実をひたすら口に運ぶ。

 

「んー……やっぱり、この実は美味しいなぁ……」

 

実の甘みを感じながら、疲れた体を癒す。この瞬間が一番幸せだ。何も考えず、ただゴロゴロして、実を食べる――それだけで満足できる。

 

魔素が回復してきた頃、私は心地良さからうとうとしだして、そのまま寝てしまった。そして目が覚めると、次にやることは決まっている。大霊樹(ドリュアス)の中を探検するのだ。

 

「さて、今日はどこを探そうかな……」

 

大霊樹(ドリュアス)の内部にはまだまだ私が知らない場所がたくさんある。私は歩きながら、周囲に目を凝らし、何か新しいものを見つけるたびに先見者(ミトオスモノ)に問いかける。

 

先見者(ミトオスモノ)、この木の根っこ、何か特別なものなの?」

《解。根は魔素の循環に重要な役割を果たしていますが、特に珍しいものではありません》

「そっかぁ……じゃあ、この葉っぱは?」

《解析鑑定結果……大霊樹(ドリュアス)の葉、属性:癒し。傷や疲労を和らげる効果があります》

 

先見者(ミトオスモノ)の冷静な解説を聞きながら、私は探検を続ける。新しい発見があるたびに解析鑑定をしてもらい、それが私にとっての「お勉強タイム」になっている。

 

探検が終わる頃には、再び眠気が襲ってきた。いつものように、大霊樹(ドリュアス)の中で静かに寝そべりながら、ゆっくりと眠りに落ちる。

 

そして時々、ラミリスさんと念話でおしゃべりするのも、私の一日の楽しみのひとつだ。

 

『リン、最近どう? 修行は順調?』

(うん、順調だよ。でも、ミリムの修行はやっぱり大変……)

『いや、あのミリムの修行についていけてるだけでもすごいじゃない! でも無理はしないでね! アタシもいつか修行つけてあげるから!』

 

ラミリスさんの明るい声に、私は少し笑顔を取り戻す。

また、通信用の水晶を手に取り、ギィさんに話しかけることもある。でも、大半は繋がらないことが多い。

 

「ギィさん、聞こえる……? 今日は何か面白いことあった?」

 

……返事がない。そう、だいたいこうなるんだよね。ギィさんは忙しいんだろうな、と思いながらも、たまに繋がると少しだけおしゃべりができる。そんな時は少し得した気分だ。

 

「ギィさん、今日はミリムにまた修行をつけてもらったんだけど、反撃の隙がなくて一方的にぶっ飛ばされたよ……」

『ふーん、そりゃ大変だったな』

 

簡素な返事しか返ってこないことがほとんどだけど、それでも少し話すだけでなんとなく安心する。

 

そんな一日を繰り返しながら、私は少しずつ成長している――そう感じられるようになった。樹妖精(ドライアド)たちと過ごす日々も、ミリムとの修行も、そして時折のラミリスさんやギィさんとの会話も、すべてが私の力になっている。

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