この胸にまだ残るのは、あの冷たい声。
ヴェルザードさんの言葉が、今も耳の奥でこだましている。
ギィさんの無情な“賭け”。
そして、何も返せなかった自分。
(……私は、本当に……)
私は震える唇を押し殺すように、問いかけた。
「
《可能です。未来予測を実行します》
声は変わらず、淡々と。
それが、逆に怖かった。
浮かび上がったのは、静かな終末。
力を使い果たした私は、やがて
葉が枯れるように、枝が折れるように、誰にも気づかれず、静かに、ゆっくりと。
「本当に……私は消えてしまうの……?」
問いかけた声は、誰よりも小さく、震えていた。
《解。現在の力のままでは、いずれその運命を迎えることは避けられません。ですが――運命を変えられる可能性は存在します》
「……どうすれば、変えられるの?」
《これまで得た情報より推測すると、最も可能性があるのは
その言葉に、胸の奥で微かに――ほんの、ほんの少しだけ――火が灯った。
(まだ……道がある……?)
たとえそれが、崖っぷちの細道でも。
足場が崩れそうな危うい選択でも。
(それでも……生きたい。消えたくない。誰かを守って、誰かのそばにいたい)
強くなりたい。
その願いは、前世から変わらなかった。
そして今、ようやくそれが“抗う”という形で、胸に芽生え始めたんだ。
私は、ふっと息を吐いて涙を拭うと――
伝えたくなった。
この“決意”を、誰かに。
誰よりも、今、一番伝えたい人がいる。
(……ラミリスさん)
迷いはなかった。
(ラミリスさん、今、会いに行ってもいい?)
『リン? もちろん! すぐに来なさい!』
即答の返事に、胸がきゅっとなった。
ああ、やっぱり――この人がいてくれて、本当に良かった。
私はすぐに準備に取りかかる。
分身体を座らせ、本体は
その瞬間――また、来た。
あの夢の感覚。
木の根が絡みつき、意識が引きずられていくような、静かな恐怖。
(やっぱり……私は、いつか……)
怖い。
でも、もう逃げない。
(……私、負けないからね)
そう告げるように、私は心の中で
返事はなかったけれど、それでよかった。
私は、外に出た。
風が、私の頬を撫でる。
さっきまで重かった胸が、少しだけ軽くなる。
(……行こう)
私は風を呼び、新たなスキル――
軽やかに、鋭く、一直線に――風を滑るように駆ける技、
「わあっ――!? はやっ……!」
風に乗る身体は、想像以上の速さだった。
思わず悲鳴を上げるも、すぐにそれは笑いに変わる。
(あははっ、すごい……!)
風に乗って、私はまっすぐ、ラミリスさんの迷宮へ――
迷宮に足を踏み入れた瞬間、小さな声たちがぱあっと弾けた。
「リン様だーっ!」
「また来てくれた!」
「あそぼー!」
「かくれんぼー!おにごっこー!」
「わっ、ちょ、待って、ちょっと落ち着いて……!」
妖精たちの突撃歓迎にちょっとたじろぎながらも、私は優しく微笑んだ。
「ごめんね、今日はちょっとだけラミリスさんとお話ししたくて。あとで、また一緒に遊ぼう?」
「えー……」と少し不満げな顔が並んだけど、みんな素直に頷いてくれた。
「ラミリス様呼んでくる!」
「こっちこっちー!」
そんなふうに案内されるより先に、視界の端から何かが突っ込んできた。
「リン!!」
「うわっ――!」
勢いよく飛び込んできたラミリスさんが、私にぎゅーっと抱きついた。
「また来てくれて嬉しいわ!ほんと、待ってたんだから!」
「えへへ……ありがとう。会えて、良かった……」
私は小さく笑って、ラミリスさんに目を向ける。
「ラミリスさん、少し……話したいことがあるの。大事なことだから、ちょっとだけ、時間もらってもいい?」
「……うん」
ラミリスさんはすぐに表情を引き締めて、真剣な眼差しで頷いてくれた。
「じゃあ、奥の方、静かなとこ行きましょ」
私たちは妖精たちの声が届かない迷宮の奥へ移動し、ひっそりとした空間に並んで腰を下ろす。
少しだけ沈黙が続いたあと、私はぎゅっと手を握って、深く息を吸った。
「……ギィさんから聞いたの。私が、
ラミリスさんの目が、ふっと揺れた。
「怖かったよ。今でも、めちゃくちゃ怖い。でも――それでも、私、抗いたい。消えたくない。強くなって、誰かを守れるようになりたい。そういうふうに、生きていきたいんだ」
言葉が震えて、視界が滲んだ。
それでも、言葉を止めたくなかった。
「運命に逆らうのは、たぶん無謀だと思う。でも、今の私には、それしかないから……」
「リン……」
ラミリスさんの表情は、切なげに歪んだ。
「アタシも、ずっと知ってたの。
その目が、静かに揺れていた。
「でも、リンに会って、話して、一緒に遊んで、笑って……アンタのこと、すごく大事になっちゃったのよ」
その言葉だけで、胸がぎゅっと締め付けられる。
「だから、もしリンが運命に抗いたいって言うなら……アタシは絶対に、背中を押す。だって、アンタが抗うって決めてくれたことが、アタシにとっても救いだから」
私は唇を噛んで、涙が止まらなかった。
「……ミリムとの修行も、本当はね……全然面白くなかったのよ。心配だったし、ヤキモチも焼いたし……!」
「えっ……そ、それは、ごめん……?」
「でも、アンタが“強くなりたい”って言ったから。だから我慢したの。見守るって決めたのよ!」
涙ぐみながら怒るラミリスさんに、私は思わず笑ってしまった。
「ありがとう……ほんとに、ありがとう……」
「リン」
ラミリスさんは私の隣にそっと寄り添って、私の頭をぽすんと撫でた。
「アタシはアンタの友達だから。どこまでも、ついてくよ。だから……もう、一人じゃないって思い出して」
「……うん」
私はその手に頭を預けながら、震える声で答えた。
「頑張るよ、私。絶対、負けない」
――この手が、まだ温かいうちに。
この心が、まだ燃えているうちに。
私は、生きる。