「ふーんふふーん♪ あれ~? ここにいるって聞いたんだけどな~?」
突然の声に私はぴたりと足を止めた。
……誰か、いる? この木の中に?
「誰……?」
思わず見上げると、宙に浮かぶ小さな光の塊が目に入る。よく見ると、その光の中に、小さな少女のような存在がいた。
金色の髪、背中には透明な翅。全体がふんわりと光に包まれていて――
(えっ……妖精!? テ◯ンカーb――いや、でもリアル!?)
「おーい! ここだってばー! アタシに気づかないのー!?」
「よ、妖精? え、マジ??」
「見りゃ分かるでしょ!?」
光の中から、ぴょこっと出てきたその存在――彼女は小さな指で勢いよくツッコミを入れてきた。
妖精って、こんなにノリ軽いんだ。可愛いな。
「えっと、もしかして私に……ご用、ですか?」
「うんうん! アタシ、ラミリス! アンタが新しい
小さな身体でくるくると宙を舞いながら、彼女――ラミリスさんは私の前にふわりと浮かんだ。
その瞳は、きらきらしていて、子どもみたいな無邪気さと、どこか威厳のようなものがが……まあ、あるような、ないような。
「え、あ、私は……たぶんそう、みたいです。
少し戸惑いながら答えると、ラミリスさんはぱっと笑って、ひらひらと手を振った。
「いーのいーの! 最初はそんなもんだって! アタシだって精霊女王だけど、毎日ずっと何かすごいことしてるわけじゃないしー!」
(さらっと肩書がすごい……!)
「困ったことがあったら何でも聞いてよ! しゃべるの得意だからね、アタシ! あ、それと敬語いらないから!」
彼女は明るく、遠慮なく、空間すら弾ませるようなテンションで話し続ける。
その元気っぷりに私は呆気に取られながらも、ちょっと笑ってしまっていた。
「それにしてもさー、アタシここに久しぶりに来たけど、相変わらずすごいわー!」
「私もさっきまで探検してた。全部は回れてないけど、面白い場所がいっぱいで」
「だよねー!
「あ、うん。見たよ。すごく、あったかかった」
そう言うと、ラミリスさんはふふんと嬉しそうに笑った。
「でしょでしょ? あの子たち、ちゃんと生まれたらきっとアンタに懐くよ!
彼女の明るさに、私はどんどん緊張がほどけていくのを感じた。
こうして誰かと話すのは、転生してから初めてだったけど、不思議と自然だった。
「あ、そうそう。アンタ、名前ないんでしょ?」
「え?」
突然の一言に思考が止まる。
「えっと、名前は――」
「ないでしょ? ないよね??
「(そんな制度があったの……?)えっと……じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん! じゃあね〜……ん〜……リン! アンタ、リンって顔してる!」
「リン……?」
思わず、その名を口にしてみる。
「そう! 響きもいいし、なんか似合ってる! よし、今日からアンタは“リン”!」
その瞬間、空気が一気に震えた。
ふわりと、ラミリスさんの身体から金色の光が溢れ出す。
それはまるで、風に舞う粉雪のように美しく、けれど確かに“力”の一部を失っていくような感覚だった。
「うっ……わわっ、やっぱり結構持ってかれるぅ〜……!」
ラミリスさんがふらついて、ふわっと後ろに浮きながらバランスを取る。
その額にはうっすらと汗が浮かび、さっきまでの軽さが一瞬だけ陰る。
「ラ、ラミリスさん!? 大丈夫……!?」
「だ、大丈夫大丈夫! ちょっと魔素がごっそり持ってかれただけだから! あははは!」
彼女は笑ってるけど、その笑顔は少しだけ、さっきより小さく見えた。
けれどその瞬間、私の胸の奥が、ぽうっと温かく脈打つ。
(これが――名前って、重みなんだ……)
力が、身体の内側に根を張るように広がっていく。
世界が、“リン”という名前で私を認識し始めたのだと、なぜか自然にわかった。
「……ありがとう、ラミリスさん。ちゃんと、伝わったよ」
「うんうん、いいってことよ〜。これでアンタは名実ともにリン! アタシの従者であり、
「えっ……主従関係?」
「そーそー! 安心して! 変な命令とかしないし! むしろ仲間って感じでさ!」
ラミリスさんはふわっと笑い、少し疲れたように翅をぱたぱたと揺らした。
「それにしても……アンタ、けっこう器がでかいねー。名付けるだけであんなに持ってかれるなんて、アタシもビックリしたよ〜」
「え、それ私のせい?」
「まぁ半分はねー。生まれたて+器でかい=消費ヤバい、って感じ? でも、それだけ価値がある存在ってことだよ、リン」
そう言って、ラミリスさんはふにっと笑った。
その言葉が、すっと胸に染みた。
「ふふ、よろしくね、ラミリスさん」
「うん、よろしくー! 今度一緒に探検しよっ! じゃ、またねー!」
ラミリスさんは軽やかに手を振って、ぱたぱたと翅を震わせながら飛び去っていった。
木の中の空間には、再び静けさが戻る。
私は立ち止まって、そっと胸に手を当てた。
「リン、か……」
それは確かに“私”に馴染む音だった。
新しい自分、新しい世界、新しい名前。
こうして私は、「リン」としてこの世界に根付き始めた。