転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第三話

大霊樹(ドリュアス)の中をのんびり歩いていると、どこか上の方から、軽やかな鼻歌混じりの声が響いてきた。

 

「ふーんふふーん♪ あれ~? ここにいるって聞いたんだけどな~?」

 

突然の声に私はぴたりと足を止めた。

 

……誰か、いる? この木の中に?

 

「誰……?」

 

思わず見上げると、宙に浮かぶ小さな光の塊が目に入る。よく見ると、その光の中に、小さな少女のような存在がいた。

 

金色の髪、背中には透明な翅。全体がふんわりと光に包まれていて――

 

(えっ……妖精!? テ◯ンカーb――いや、でもリアル!?)

「おーい! ここだってばー! アタシに気づかないのー!?」

「よ、妖精? え、マジ??」

「見りゃ分かるでしょ!?」

 

光の中から、ぴょこっと出てきたその存在――彼女は小さな指で勢いよくツッコミを入れてきた。

 

妖精って、こんなにノリ軽いんだ。可愛いな。

 

「えっと、もしかして私に……ご用、ですか?」

「うんうん! アタシ、ラミリス! アンタが新しい樹妖精王(ドリュアス・ロード)なんだね?」

 

小さな身体でくるくると宙を舞いながら、彼女――ラミリスさんは私の前にふわりと浮かんだ。

その瞳は、きらきらしていて、子どもみたいな無邪気さと、どこか威厳のようなものがが……まあ、あるような、ないような。

 

「え、あ、私は……たぶんそう、みたいです。樹妖精王(ドリュアス・ロード)……でもまだ全然わからなくて。ここにいればいいってのはわかるんですけど」

 

少し戸惑いながら答えると、ラミリスさんはぱっと笑って、ひらひらと手を振った。

 

「いーのいーの! 最初はそんなもんだって! アタシだって精霊女王だけど、毎日ずっと何かすごいことしてるわけじゃないしー!」

(さらっと肩書がすごい……!)

「困ったことがあったら何でも聞いてよ! しゃべるの得意だからね、アタシ! あ、それと敬語いらないから!」

 

彼女は明るく、遠慮なく、空間すら弾ませるようなテンションで話し続ける。

その元気っぷりに私は呆気に取られながらも、ちょっと笑ってしまっていた。

 

「それにしてもさー、アタシここに久しぶりに来たけど、相変わらずすごいわー!」

「私もさっきまで探検してた。全部は回れてないけど、面白い場所がいっぱいで」

「だよねー! 樹妖精(ドライアド)たちの魂とか見た? あの光の玉! あれキレイだよね~! アタシ、あれ見ると泣きそうになるんだ〜」

「あ、うん。見たよ。すごく、あったかかった」

 

そう言うと、ラミリスさんはふふんと嬉しそうに笑った。

 

「でしょでしょ? あの子たち、ちゃんと生まれたらきっとアンタに懐くよ! 樹妖精王(ドリュアス・ロード)なら当然だもんね!」

 

彼女の明るさに、私はどんどん緊張がほどけていくのを感じた。

こうして誰かと話すのは、転生してから初めてだったけど、不思議と自然だった。

 

「あ、そうそう。アンタ、名前ないんでしょ?」

「え?」

 

突然の一言に思考が止まる。

 

「えっと、名前は――」

「ないでしょ? ないよね?? 樹妖精王(ドリュアス・ロード)にはアタシが名付けるの! それが精霊女王ラミリスの特権だもん!」

「(そんな制度があったの……?)えっと……じゃあ、お願いしてもいい?」

「もちろん! じゃあね〜……ん〜……リン! アンタ、リンって顔してる!」

「リン……?」

 

思わず、その名を口にしてみる。

 

「そう! 響きもいいし、なんか似合ってる! よし、今日からアンタは“リン”!」

 

その瞬間、空気が一気に震えた。

 

ふわりと、ラミリスさんの身体から金色の光が溢れ出す。

それはまるで、風に舞う粉雪のように美しく、けれど確かに“力”の一部を失っていくような感覚だった。

 

「うっ……わわっ、やっぱり結構持ってかれるぅ〜……!」

 

ラミリスさんがふらついて、ふわっと後ろに浮きながらバランスを取る。

その額にはうっすらと汗が浮かび、さっきまでの軽さが一瞬だけ陰る。

 

「ラ、ラミリスさん!? 大丈夫……!?」

「だ、大丈夫大丈夫! ちょっと魔素がごっそり持ってかれただけだから! あははは!」

 

彼女は笑ってるけど、その笑顔は少しだけ、さっきより小さく見えた。

けれどその瞬間、私の胸の奥が、ぽうっと温かく脈打つ。

 

(これが――名前って、重みなんだ……)

 

力が、身体の内側に根を張るように広がっていく。

世界が、“リン”という名前で私を認識し始めたのだと、なぜか自然にわかった。

 

「……ありがとう、ラミリスさん。ちゃんと、伝わったよ」

「うんうん、いいってことよ〜。これでアンタは名実ともにリン! アタシの従者であり、樹妖精王(ドリュアス・ロード)として正式に認識されたってわけ!」

「えっ……主従関係?」

「そーそー! 安心して! 変な命令とかしないし! むしろ仲間って感じでさ!」

 

ラミリスさんはふわっと笑い、少し疲れたように翅をぱたぱたと揺らした。

 

「それにしても……アンタ、けっこう器がでかいねー。名付けるだけであんなに持ってかれるなんて、アタシもビックリしたよ〜」

「え、それ私のせい?」

「まぁ半分はねー。生まれたて+器でかい=消費ヤバい、って感じ? でも、それだけ価値がある存在ってことだよ、リン」

 

そう言って、ラミリスさんはふにっと笑った。

その言葉が、すっと胸に染みた。

 

「ふふ、よろしくね、ラミリスさん」

「うん、よろしくー! 今度一緒に探検しよっ! じゃ、またねー!」

 

ラミリスさんは軽やかに手を振って、ぱたぱたと翅を震わせながら飛び去っていった。

木の中の空間には、再び静けさが戻る。

 

私は立ち止まって、そっと胸に手を当てた。

 

「リン、か……」

 

それは確かに“私”に馴染む音だった。

新しい自分、新しい世界、新しい名前。

こうして私は、「リン」としてこの世界に根付き始めた。

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