リンとラミリスが心の中に秘めた思いを互いに打ち明け、絆を深めた後、迷宮の奥での深い話を終えた二人は、ふと穏やかな静けさに包まれていた。
「ねぇ、リン。ちょっとリラックスしない?」
ラミリスがふと微笑みながら提案する。
リンもそれに同調して頷く。
「うん、そうだね。少し遊びたい気分かも」
ラミリスが元気よく立ち上がると、リンも自然とその勢いに引き寄せられた。
二人が迷宮の広間に戻ると、すでに小さな妖精たちがリンを待ち構えていた。妖精たちがはしゃぎながらリンの周りを飛び回り、その姿にリンは思わず笑みがこぼれた。
「リン様!かくれんぼしようよ!」
「今度は鬼ごっこ!」
「また来てくれてうれしいー!」
妖精たちの無邪気な声が次々に響く中、リンは彼らの明るいエネルギーに癒されていた。
彼女の心の中に少しずつ溜まっていた疲れや葛藤が、妖精たちの明るさによって和らいでいくようだった。
「うふふ、リン。どうする?かくれんぼする?」
ラミリスが楽しそうに声をかけると、リンも微笑んで返した。
「じゃあ、かくれんぼにしようかな。私が鬼やるね」
「わーい!リン様が鬼だ!」
妖精たちが一斉に飛び散り、迷宮の隅々に隠れに行く。その様子にリンは微笑を浮かべながら、目を閉じて数を数え始めた。
「1……2……3……」
遊びに集中しながらも、リンは心の中に少しずつ暖かさが広がるのを感じていた。ラミリスや妖精たちとの時間は、彼女にとってかけがえのないひとときであり、運命に立ち向かうための力を少しずつ与えてくれるものだった。
数を数え終えると、リンは迷宮のあちこちを探索しながら、隠れている妖精たちを次々に見つけていった。
小さな妖精たちは笑い声をあげながらも、一人一人リンに見つかるたびに「また負けちゃった!」と悔しがる様子が可愛らしかった。
「もう、リン様は強すぎるよ!」
「かくれるの上手だと思ったのに……」
彼らの声にリンは微笑みながら、ラミリスに目をやった。
ラミリスもどこかに隠れているはずだったが、彼女だけはなかなか見つからなかった。
「ラミリスさん、どこに隠れてるの?」
ふと後ろから小さな声が聞こえた。
「ここよー!」
ラミリスがリンの背後から飛び出してきて、驚いたリンが軽く飛び上がる。二人は顔を見合わせて大笑いし、妖精たちもその笑い声に釣られて楽しそうに笑った。
「やっぱり、ラミリスさんは上手だね!」
「当たり前じゃない!だって、私は迷宮の主なんだから!」
そんな何気ないやり取りが、リンの心を軽くしてくれる瞬間だった。
遊びがひと段落し、リンは再び
ラミリスや妖精たちと別れを告げ、心に少しの温かさを抱えながら空へと飛び上がった。
「これ……やっぱりすごく速い……」
あっという間に
ここは、彼女が運命に向き合い続ける場所だった。
心を落ち着けようとしたその瞬間、近くから声が聞こえた。
「よっ、リンだったか?」
その声に振り返ると、そこにはディーノがいた。
彼はどこか飄々とした雰囲気を漂わせ、無造作に
「ディーノさん……でしたっけ。どうしてここに?」
リンは少し驚きながらも尋ねた。彼とは
「んー、別に深い理由はないよ。なんかここ、寝心地良さそうだったし?」
そう言って欠伸をひとつ。
あまりに軽い言葉に、リンは一瞬ポカンとして、それから苦笑した。
「……そうですか」
「お前、こんなとこに住んでるんだなぁ。樹の中って、なんか……お堅そうな場所じゃね?」
「うん……まあ、静かで落ち着く場所ですけど、重いです。いろんな意味で」
言いながら、リンは
その幹の奥に、自分の未来が絡みついている気がして、少しだけ胸が苦しくなる。
「でも、ここが私の居場所だから」
「ふーん……大変だな。
ディーノの言葉は軽いが、その裏にはほんの少しの共感が滲んでいるようだった。
「……ディーノさんは、そういうの、気にしないんですか?運命とか、役割とか」
リンの問いに、彼はしばらく空を見上げたまま沈黙した。
「んー、気にしたら生きてけねぇからな。俺は俺で、好きに生きてるだけさ。お前も楽にやれよ。無理してたら、折れるぞ?」」
ディーノはそう言って目を細める。リンはしばらく何も言えなかった。
でも――その言葉が、リンの心のどこかにすとんと落ちてきた。
「……ありがとうございます、ディーノさん」
ディーノは肩をすくめ、また欠伸をしながら「おう、気にすんな」と言った。
二人の間に特に深い会話があったわけではなかったが、ディーノの存在はリンにとって少し気楽な存在として感じられるようになった。
リンとディーノは、
「ディーノさん、
ディーノは軽く目を開け、少し驚いた表情を見せたが、すぐに興味なさそうに肩をすくめた。
「まあ入ったことはないな。別に行ってもいいけど、特に何か面白いことがあるわけじゃないんだろ?」
「別に、面白いものはないですけど……すごく静かで、落ち着くんです。ここ」
「ふーん」
ディーノは特に拒否する様子もなく、面倒くさそうに立ち上がった。
「ま、暇だし行ってみるか」
そう言うと、ディーノは気楽な足取りでリンの後を追い、
青白い光が周囲を柔らかく照らし、木の内部は神秘的な雰囲気を醸し出している。
リンは慣れ親しんだ場所だが、ディーノにとっては初めての光景だった。
「……思ったより悪くないな」
ディーノはぽつりと感想を漏らしながら、目を半開きのままゆっくりと周囲を見渡していた。彼の無関心そうな態度にもかかわらず、どこか居心地が良さそうにしているのが伝わってくる。
「ここにいると、不思議と心が落ち着くんです。怖いことも、少しだけ遠ざかる気がして」
彼女にとって
ディーノが少しでもその静けさを感じ取ってくれることを望んでいた。
「ここ、昼寝に最適だな……いや、マジで寝たくなってきたわ」
「まあ、私もよく昼寝しますけど……」
ディーノは
リンは苦笑しながら彼の様子を見つめた。
「……ディーノさんは、どうしてそんなにのんびりしていられるんですか?魔王なのに」
「んー、魔王だからって、ガチガチの義務とかあるわけでもねぇしな。俺は昔からこうだった。周りに流されず、自分のペースでやる。たぶん……それしかできねぇってだけかもしれねぇけど」
彼の言葉はあまりにも無頓着で、リンには少し驚きだった。彼は魔王として強大な力を持っているにもかかわらず、その態度はいつもどこか力を抜いている。
「……でも、それって素敵なことだと思います。私は、まだ迷ってばかりだから」
「迷ってる時点で、強いもんだろ。迷わねぇ奴よりよっぽどマシさ。お前はたぶん……いずれちゃんと答え出す。そんな気がする」
リンの顔を見もせず、空を見上げたまま。その言葉は、なぜだかすごく温かかった。
「……ありがとうございます」
それしか言えなかった。けれど、ディーノはそれに頷くこともせず、ふわーっと大きな欠伸だけ。
「んじゃ、そろそろ帰るわ」
「……また来てくださいね」
「気が向いたらな」
そう言い残して、ディーノはいつものだらしない足取りで
(――無理しすぎなくてもいい。抗う気持ちは、ちゃんと持ってる。なら、あとは進むだけ)
リンはもう一度、
(大丈夫。私なら――きっと)
そう呟いて、小さく目を閉じた。