武装国家ドワルゴン――その王宮にて、ガゼル・ドワルゴは報告書を静かに読み終えた。
重厚な鎧を纏った王の表情に、わずかな変化が生じる。
「……
「はっ。現在、街中を彷徨うようにして、地下の魔素の流れを探っているとのことです」
配下の報告に、ガゼルは少しだけ口元を引き締めた。
天魔大戦が迫るこの時期に、あの魔王ギィ・クリムゾンと通じる者が、自らこの国へ現れたのだ。放っておく理由はなかった。
「……ふむ。会っておこう」
短く放たれたその一言に、侍従たちはすぐさま動き出した。
***
ドワルゴンの地下都市は……ほんと、迷路みたいだった。
「うぅ……また同じ通りに出た……?」
私はため息を吐きながら、何度目かの通路を引き返していた。
岩と鋼でできた街の中には、独特な魔素の流れがあって、私の感知能力じゃ上手く
(
《否。地形構造が極めて複雑であるため、進行方向に誤差が生じています。現在位置を再構築中……》
(うう……心強いけど、やっぱり迷子になってるんじゃない……?分身体の魔素ってそろそろ危ないよね?)
《是。分身体の魔素が不足しています。補充を行わない場合、
(やっぱりか……でも、
ひとまず階段の踊り場で一息ついていた時だった。
「……お初にお目にかかります、
声をかけられて顔を上げると、そこにいたのは、銀色の鎧をまとったドワーフの兵士。背は低いけど、筋肉が鎧の下からでも分かるほどたくましい。
「えっ、ええと、こんにちは……?」
ちょっと不安げに返事をすると、彼はまっすぐ背筋を伸ばして頭を下げた。
「ガゼル・ドワルゴ陛下が、貴女に面会を求めております。王宮にお越しいただけますか?」
「えっ……陛下が? 私に……?」
思わず聞き返してしまった。まさか、王様に呼ばれるなんて思ってなかったから。
「はい。既に王宮でお待ちです」
私は一瞬だけ迷った。けど——この国の
「……分かりました。ご案内、お願いします」
そう言って、私はその兵士のあとをついて歩き出した。胸の奥が、ちょっとだけ、ドキドキしてた。
王城の中は、やっぱりすごかった。どこもかしこも厳粛で、無駄な装飾はないのに、どっしりとした重みがあって……その空気に、少し飲まれそうになる。
大きな扉の前に立つと、兵士がノックして、重々しく開いた。
中にいたのは——
「よく来たな、
——この人が、ガゼル・ドワルゴ陛下……。
黒髪に黒髭、威風堂々たる体躯に、全身を包む重厚な鎧。そしてなにより、その眼差しが……王の覚悟を感じさせるものだった。
「は、はじめまして。私はリンです。
少し声が震えたけど、それでもまっすぐ言った。
ガゼル陛下は私を見据えて、しばらく何も言わなかった。だけど、それは威圧じゃなかった。たぶん、見極める目……そんな気がした。
「……魔王ギィ・クリムゾンの配下ではないが、彼に協力している者か。ならば尚更だ。お前の目的はわかっている。この地も強化の対象だろう」
「はい。でも……
私は正直に言った。ここまで来て強化できなかったら、本当に意味がないと思ってたから。
ガゼル陛下は短く頷いた。
「この地下はな、あらゆる魔素が交錯している。外から来た者が探すのは無理もない。だが——お前が本当にこの地を守るために来たのならば、案内させよう」
ガゼル陛下の言葉に、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
(ちゃんと、信じてくれてる……)
私は頭を下げ、陛下の言葉に力強く頷いた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう答えると、王宮の奥からひとりのドワーフが現れた。鎧の肩には紋章が刻まれていて、どうやらかなり偉い人らしい。彼は軽く頭を下げて、私に歩み寄ってくる。
「私はグラッケと申します。陛下より、
「はい、お願いします、グラッケさん」
重厚な岩の扉を抜け、私たちは地下深くへと向かっていった。
地上とはまるで空気が違っていて、湿った魔素が肌にまとわりつくような感覚がある。
足元に敷かれた鉄板の通路を進みながら、グラッケさんが語ってくれた。
「ドワルゴンの地下には、かつて神話の時代に繋がる坑道が眠っており、地中深くに封じられた古代の魔素も我らの鍛冶技術を支えています。そして、その魔素の源のひとつが——貴女が探す
「……そんなに重要な場所なんですね」
「ええ。ゆえに、外部の者を簡単に通すわけにはいかなかったのです」
グラッケさんの言葉に、私は頷いた。
今まで見てきたどの土地とも違う。その奥底に眠る自然の命があるなんて、不思議だけどすごく美しいと思った。
やがて、巨大な石扉が現れた。両脇には封印用の魔法陣が刻まれていて、淡い赤い光が脈打つように輝いている。
グラッケさんが小さく呪文を唱えると、その光がふっと静まり、扉がゆっくりと開いた。
中には、静寂があった。
そして、圧倒的な存在感とともに——巨大な
「……ここが」
あまりの大きさと、静けさと、そして命の気配に、思わず言葉が漏れた。
岩と炎の世界の中にあって、ただひとつ、瑞々しい緑を纏うその樹は……まるで、深く眠る守護神のようだった。
私はそっと近づき、両手で幹に触れた。
(……いくよ)
最初は硬い岩のようだった
「……うん。感じる……ちゃんと、繋がってる」
魔素が枝へ、葉へ、根へと広がっていく。 それに合わせるように、地下全体の空気が震えた。魔素の流れが整い、大地そのものが息を吹き返していくような感覚。
「すごい……これが、この土地の命……」
私は目を閉じて、魔素の波動に意識を預ける。
熱が流れ、鋼が軋み、魔素が澄み渡っていく。
ここは、火と岩の国。だけど、だからこそ、この命は大切にされているんだと、心から思った。
やがて、同一化の感覚がゆっくりと静まり、魔素の波が落ち着いていく。
(これで……ドワルゴンも)
『——強化完了。土地の魔素の流れが安定しました』
身体にまだ残る、わずかな疲労。でも、それ以上に——やり遂げたという実感が、胸の奥にじんわりと広がっていた。
そして——
「見事だな、
低く、重みのある声が背後から聞こえた。振り返ると、ガゼル陛下がいつの間にかそこに立っていて、私をじっと見つめていた。
「お前の魔素は、この地に確かに染み込んだ。このドワルゴンは、お前の力によって守られるだろう」
「……ありがとうございます。ガゼル陛下の協力があったから、ここまでこれました」
私は深く頭を下げた。王としての威厳と、地を守る者としての覚悟。そのどちらにも、心から敬意を抱いていた。
「ふっ……この国は、力ある者には惜しまず敬意を払う。お前の力と意思は、本物だ。これからも、その力で世界を繋げ」
その言葉に、私は真っ直ぐうなずいた。
「はい。必ず」
この土地の強化を終え、私の分身体の魔素も限界に近づいている。 もうすぐ、帰らなきゃいけない。
(次の土地へ進む前に、少しだけ……休もう)
私は深く息を吸い、
「ありがとう。また来るね」
そして、私は風を纏い、空へと舞い上がった。
エルフのお店出したかった…いつか出します。
ちなみに