ラミリスさんが去ってから、私は再び
名も与えられ、“リン”としてこの世界に立ったはずなのに――まだどこか、ふわふわしている。
人間だったころと違う身体。違う感覚。違う時間の流れ。
少しずつ慣れてきたけれど、完全に“新しい自分”を受け入れきれてはいない気がしていた。
「……そういえば……」
この世界に来て数日、私は飲食をしていない。
こんなに歩いて、動いているのに、全然お腹が空かない。
普通なら、こんなに動き回ってたらお腹が空いてもおかしくないのに、不思議と空腹を感じない。
人間じゃないから必要ないとか?
「ねえ、
《解。
「……いや、なに? 生理的飢餓? 転換? え? え???」
言ってることの半分くらいが脳の外をすり抜けていった。
困惑の沈黙に、
《
「……なるほど、そういうことね! 最初からその説明でよかったじゃん!」
つまり“ご飯いらない体”になったということか。
「……でも、眠くなるのは変わらないんだよね」
《是。魔素消耗に伴い、精神活動が低下するため、休眠状態が必要です》
「つまり、寝るだけでチャージできる体……なんか、合理的すぎる……」
魔素を消耗すると、どうしても体がだるくなって、こうして眠気が襲ってくる。お腹は空かないけど、眠くなるたびに「寝る前に何か食べなきゃ」って思ってしまうのは、やっぱり前世の癖なのかな。
「……あれ、あの実……」
少し離れた枝先に、淡く光る緑の果実がぶら下がっていた。
透き通るような色合いで、まるで内側から輝いているように見える。
私はふらりと近づき、そっとそれを手に取ってみた。
手のひらに収まる小さな実。柔らかそうな皮。……美味しそう。
「……これ、食べてもいいのかな?」
確認する前に、好奇心が勝ってしまった。
私はそっと一口、かじってみる。
「……甘い……!」
ほんのりとした甘さが広がり、清涼感のある後味が喉をすっと抜けていく。
お腹は空いていないのに、なぜか心が満たされるような味だった。
「これ……毎日食べたい……」
食べた後に体が軽くなるような気さえする。おやつとしては完璧かもしれない。
しばらくしてから、思い出したように尋ねた。
「ねえ、
《解。
「ふぅ……よかった」
《なお、
「え、めっちゃすごい効果あるじゃん……おやつ感覚で食べてよかったのかな、これ……」
でも、そういうのってちょっとテンション上がる。
チートじみた回復アイテムが“果実”っていうのも、この場所らしくて気に入った。
というか、「魔力安定性」って、魔力と魔素は違うのか。
ついでに
つまり魔素がなければ魔力は使えないんだな。なるほどなぁ。
実を食べて体がふわっと軽くなった気がして、私は再び探索を始めた。
ねじれた根の隙間、幹を貫くような通路、天井のように広がる葉の奥……一つ一つが新しい。
ある日、さらに深く潜っていくと――ひっそりと湧き出す、小さな泉のような場所を見つけた。
「……水源……?」
静かに流れる水は、透明で冷たくて、まるで空気すら浄化してくれそうな清らかさだった。
私は手ですくって、口元に運ぶ。
「……美味しい……!」
驚くほどすっきりとした味わい。舌にまとわりつかない、まっさらな水の感触。
体の奥にまで浸透するようで、飲んだ瞬間、身体がほっとしたような気さえした。
《告。該当水源には微量の魔素が含まれています。
「うん……なんか、わかるかも」
気づけば私は、毎日を「眠る・歩く・見つける・味わう」のサイクルで過ごすようになっていた。
「お腹は空かないのに、美味しいって感じるんだなあ……」
それは、もしかすると――食事ではなく、“感情”で味わっているのかもしれない。
「この生活、悪くないかも……」
その日の夜――木の奥にある広い葉の寝床に身を横たえながら、私はふと思った。
この静けさと光の中で、何も起きない日も、何かが待ってる日も、きっと等しく“大切”なんだ。
(ここで、私は根を張るんだ)
そんなふうに思えたのは、今日が初めてだった。
私は