リンは、試練を終えた直後の疲労感に押しつぶされるように、いつもの寝床に倒れ込んだ。彼女の体はまだ重く、魔素も底を尽きそうな状態だった。だが、その反面、確かな手応えがあった。新たに手に入れたスキル「
「……やっと……終わった……」
重いまぶたを閉じて、リンはひとときの安らぎを感じようとしたが、その直後、土地の強化に向かっていた分身体が
分身体が
「よし……今日はもう休もう……」
リンは分身体を消し、魔素を体内に戻しながら、これで少しは魔素が回復するだろうとほっとした。それでも、彼女の体は限界に近い状態だった。思考は自然と次の行動に向かい、「
「リンー!!」
次の瞬間、ラミリスがリンの顔に飛び込んできて、勢いよく抱きついた。小さな妖精の体が勢いよくぶつかり、リンは思わず顔をしかめた。
「うわっ……ちょ、ラミリスさん……顔に……!」
なんとか引き剥がそうとするリンだったが、ラミリスの笑顔には抗えなかった。彼女を引き離しながら、リンは何があったのかを尋ねた。
「いったい、どうしたの?」
「どうしたも何もないって! リンが新しいスキルを手に入れたことがアタシにも伝わってきたのよさ! すごい! ほんっとにすごい!」
ラミリスの嬉しそうな顔にリンは少し照れくさくなりながらも、お礼を言った。
「……ありがとう。でも、どうしてラミリスさんにもわかったの?」
「いつもわかるわけじゃないんだけど、今回はリンの思念がすごく強かったみたいで、スキル獲得の瞬間がアタシにも聞こえたんだよ。ホント、手放しでお祝いよ!」
ラミリスの言葉に、リンは照れ隠しに笑みを浮かべながら「ありがとう」と返した。しかし、ラミリスはふとリンの様子に気づいた。ぐったりとして、動きも鈍いリンを見て心配そうな顔をする。
「ねえ、リン……アンタ、すっごい疲れてるみたいだけど、いったい何したの?」
ラミリスはそう言いながら、
「実は……私、自分をもっと強くするために、
リンは口に含んだ実を味わいながら、これまでの試練の内容をラミリスに話し始めた。
ラミリスはその話を聞くうちに次第に顔が強張り、驚きを隠せなかった。
「そ、そんな無茶なこと、しなくても……」
「いや、私はまだまだ弱いから……もっと強くならないといけないんだ」
リンは強い目をラミリスに向け、その覚悟を語った。その言葉にラミリスはため息をつきながら、半ば諦めたような声で答える。
「アンタってホント危なっかしいね……無茶ばっかり……」
「それ、ギィさんにも言われたなぁ」
リンは苦笑いしながら思い出した。ギィもまた、無茶をするリンを見てため息をついていた。そんな思い出にふけりながら、ふと彼女はミリムのことを思い出し、新たなスキルを使う機会が来るかもしれないと話した。
「今度、ミリムと修行するときに、この新しいスキルを試してみようと思う。だから、ラミリスさんにもぜひ見てほしい」
リンの言葉に、ラミリスは力強く頷き、笑顔で応えた。
「もちろん見るよ! アンタが頑張ってるのを、ずっと見守るって約束したからね」
「ありがとう、ラミリスさん」
リンは照れながらも、心の中でラミリスへの感謝の気持ちが溢れた。そして、ラミリスと一緒にいる安心感から、少しずつ疲れが取れていくような気がした。
二人はしばらくの間、楽しい談笑を続けた。土地の強化がどれだけ進んでいるか、どの国に行ったのかなど、リンはラミリスに報告した。土地の強化を始めてからほぼ一年が経とうとしており、リンはこれまで様々な国を訪れ、多くの魔物や種族と交流を重ねてきた。
「一年かぁ……もういくつもの土地を強化してきたけど、まだまだ先は長いね……」
リンは少し疲れた表情を見せながらも、これまでの成果を振り返った。
「でも、アンタよく頑張ってるよ」
「でも……大きな国だと、まだ神聖法皇国ルベリオスが残ってるんだよね。ちょっと厄介そう……」
「うーん、あそこは……確かに難しそうね。でも、アンタならなんとかなる!」
ラミリスは自信を持ってリンを励まし、リンもまたその言葉に力をもらった。彼女にとってラミリスの存在は、何よりも心強い味方であり、主であり、そして友人。
「これからも、しっかり頑張る。私、もっと強くなって、皆を守りたい」
リンは決意を新たにし、ラミリスとともにこの先の道を見据えた。
リンがぐったりと横たわっている
「修行だー!!」
ミリムの勢いある声が、リンとラミリスの会話を遮り、次の瞬間にはその小柄でパワフルな姿が飛び込んできた。ミリムは元気いっぱいに手を振りながら、勢いよくリンの前に降り立った。
「リン!修行の時間なのだ!」
リンは、疲れ切った体で少しだけ頭を持ち上げ、弱々しく笑みを浮かべた。
「ミリム……ごめん、今日はちょっと無理かな……」
ラミリスがすかさずフォローに入る。
「そうよ、ミリム。リンは今、すっごく疲れてるんだから。今日は無理無理!」
ミリムはしょんぼりと肩を落とし、残念そうな顔をする。
「そっか……今日はお休みなのか……」
それでも、ミリムはすぐに顔を上げ、リンの方をじっと見つめ始めた。
リンとラミリスは揃って顔を見合わせ、突然の無言の観察に少し戸惑った。
リンが目をぱちぱちさせながら、「どうかしたの?」とミリムに尋ねると、ミリムの目が鋭く輝き、まるでリンの全てを見通そうとしているかのように見つめてくる。
「……ミリム?」
ミリムはリンをしばらく見つめた後、突然顔を輝かせた。
「おおおおー!! すごいなリン!強くなったのだ!!」
その喜びように、リンは驚きつつも戸惑った。まさかミリムにも自分の新しいスキル「
その時、ミリムはリンに向かっていた視線をラミリスに移し、こっそりと耳打ちをした。
「え、何、ミリム………えええええ!?」
ラミリスは驚愕し、大声を上げた。ラミリスの驚きように、リンはますます戸惑いが深まる。
「ちょ、ちょっと待って、何がどうなってるの? 何の話?」
リンは困惑しながらもう一度二人に尋ねた。
ミリムとラミリスは一瞬、顔を見合わせ、視線だけで意思を交わすかのようにアイコンタクトを取った。そして、ミリムがあっけらかんと笑いながら言った。
「秘密なのだ!」
ラミリスもすぐに続ける。
「そうそう、秘密。ごめんね、リン。でも気にしないで。大したことじゃないから!」
二人の妙に息の合った秘密のやり取りに、リンは少ししゅんとした表情を浮かべた。
話してもらえないのはちょっと寂しい。でも、言えないこともあるんだろうと考えて、諦めることにした。
「そっか、まあ仕方ないね……」
再び横になり、目を閉じようとするリンだったが、突然、ミリムとラミリスが競い合うように
「はい! これ食べて元気出すのだ!」
「アタシが先よ、ミリム! ほら、リン、こっちの方が美味しいわよ!」
ミリムとラミリスが互いに張り合いながら、リンに実を食べさせようと必死になっているのを見て、リンは思わず笑ってしまった。
ミリムがリンの口元に押し込もうとする実と、ラミリスがそれを阻止しようとする姿——この二人との何気ないやり取りは、リンにとって安らぎそのものだった。
「もう……二人とも……落ち着いてよ……」
結局、リンは両方の実を食べる羽目になり、二人が満足そうな顔をしているのを見て微笑んだ。この時間はとても特別で、彼女にとっては何よりも大切な瞬間だった。リンは自分の身体が少しずつ回復していくのを感じながら、再び目を閉じた。
(ありがとう、ミリム、ラミリスさん……)
心の中で彼女はそっとつぶやいた。そして、二人の優しさに包まれながら、リンは穏やかな気持ちで休息を取ることができた。
ギィの居城の大広間。その荘厳な空間に、突如として扉が勢いよく開かれた。
「ギィー!!」
「ギィ!! 聞いてよ、ギィ!!」
飛び込んできたのは、ミリムとラミリスだった。ミリムは扉を破壊しかねない勢いで中に駆け込み、ラミリスもその小さな体で空中を飛びながら続いて入ってきた。扉がきしみ、今にも壊れそうになるが、ギィの居城はさすがにその程度ではびくともしない。
「騒がしいな……」
ギィは豪華な椅子に腰掛け、足を組みながら呆れたように眉を上げた。彼の赤い瞳がミリムとラミリスを見つめる。
しかし、ミリムとラミリスはそんなギィの反応をまるで無視して、一気に彼の前に飛び込んできた。まずはミリムが勢いよく声を上げる。
「ギィ! リンが……なんと『魔王種』を獲得したのだ!」
「——魔王種?」
ギィはその言葉を聞いて、やや驚いたように目を細めた。口角が僅かに上がるが、すぐに冷静さを取り戻し、無関心を装うように手を顎に当てた。
その間に、ラミリスも興奮気味に声を重ねた。
「そう! リンがあの『魔王種』になったのよさ!」
ギィはその言葉に耳を傾けながらも、内心でリンの成長速度に思いを巡らせていた。リンはまだ若い
だが、その時、ラミリスの表情が引き締まり、彼女ははっきりとした口調で言った。
「でもね、ギィ! アタシ、絶対に反対だから! リンが『真なる魔王』になることは、絶対に許せない!」
「真なる魔王?」
ギィはその言葉に反応を示したが、ラミリスの意志の強さに、興味を持って少しだけ身を乗り出した。
ミリムがラミリスに不満そうに言う。
「どうしてだ? リンが強くなるならいいじゃないか! ワタシはリンにもっと強くなってもらって、一緒に戦いたいのだ!」
ラミリスはその意見にすぐに反論する。
「確かに、リンが強くなるのは喜ばしいこと。でも、真なる魔王になるには、人間の魂が大量に必要なんだよ? そんなことをリンが望むわけがないし。あの子に人の命を背負わせるなんて、絶対にさせたくないのよさ!」
ミリムはしばらく黙り込んで考え込んだ。ラミリスの言葉に反発したい気持ちはあったが、リンがそんなことを望むだろうか、と心の中で疑問を持ち始めた。やがて、不満そうな顔をしていたものの、一応納得した様子でうなずいた。
「確かに……リンはそんなことは望まないだろうな……」
ラミリスもまた、ミリムの反応にほっとしたように息をつく。だが、その直後、ギィが冷静な声で口を開いた。
「まあ、覚醒するかどうかはリン次第だ。オレたちがどうこう言う問題じゃない。アイツ自身の決断が必要だろう。だから、見守ってやればいい」
ギィの言葉は、静かでありながらも重みがあった。ラミリスもミリムも、ギィの意見に反論することなく、静かに頷いた。確かに、リンが覚醒するかどうかは彼女自身の意志次第だった。
ラミリスは改めて決意を固めるように言った。
「わかった、見守る。でも、リンが自ら真なる魔王になるなんてことは、絶対にないと思う。彼女はそんな選択をしないはず」
ミリムも頷きつつ、「うむ、リンなら大丈夫だな」と自信を持って言った。
ギィは、そんな二人を眺めながら、心の中でリンのことを考えていた。彼女は確かに他の
しかし、リンは違う。彼女には他にはない強さがあり、何かを変えられる力があると感じていた。
そして、もしもリンがその強さを使って「真なる魔王」への道を選ぶとしたら——それは、リンの大切なものを守るための決断かもしれない。ギィは、そんな可能性を思い描きながらも、その強さがあるからこそ、リンを手放すことはできないと心の中で確信した。
「もし、きっかけがあれば……リンは自ら覚醒するだろう。だが、それはアイツの選択だ。オレたちは、それをただ見守ればいい」
ギィは静かにそうつぶやくと、再び椅子に深く座り直した。彼の言葉に、ラミリスとミリムも深く頷き、リンをこれからも見守ることを決意したのだった。
その後も、しばらくはラミリスとミリムがギィにリンのことを話し続け、ギィは興味半分にその話を聞きながら、彼女たちの賑やかさに軽く頭を抱える。しかし、内心ではリンという駒がこれからどう成長するのか、楽しみにしている自分を感じていた。