転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第四十一話

ルミナスは優雅に歩を進め、リンの分身体を聖神殿の奥の院へと案内していた。静寂が漂う中、聖神殿の周りには一種の緊張感が満ちていた。リンは無表情のまま、ただルミナスの後ろに従って歩く。本体であるリンは、大霊樹(ドリュアス)の中から分身体を通じてこの光景を見ていたが、その荘厳な雰囲気とルミナスの威圧感に、徐々に萎縮している自分を感じ取っていた。

 

(……こんなところに大霊樹(ドリュアス)があるなんて……)

 

心の中で呟くリンの気持ちは、分身体に伝わっているわけではないものの、どこか緊張した空気が漂っている。ルミナスが微笑を浮かべながら歩いていると、彼女はふと立ち止まり、背後に感じる気配に目を向けた。

 

「……ルミナス様、これは……?」

 

現れたのは、魔王ロイ・ヴァレンタインと、法皇ルイ・ヴァレンタイン。二人ともルミナスに対する敬意を払いつつも、目の前の異様な状況に驚きを隠せなかった。

 

「まさか、樹妖精王(ドリュアス・ロード)がここに……」

 

ロイはリンを一瞥し、その無表情な顔に何とも言えない感情を抱いていた。彼は魔王たちの宴(ワルプルギス)でリンのことを知っており、彼女の実力には敬意を払っていたものの、なぜここに分身体が現れたのか、その意図がつかめず警戒している。

 

「どういうことですか、ルミナス様。この樹妖精王(ドリュアス・ロード)を奥に入らせるなど……」

 

ルイもまた、ロイと同様に警戒心を募らせながらルミナスに問いかけた。しかし、ルミナスは至って平然とした様子で微笑みを浮かべたままだった。

 

「ふふ、気にしすぎじゃ。彼女は奥の院にある大霊樹(ドリュアス)と同一化しに来たのじゃ。土地を強化するためにな」

 

ロイとルイは顔を見合わせ、その言葉に驚きを隠せなかった。ルイは困惑した様子で再度尋ねる。

 

「……本当に、好きにさせてよいのですか?ルミナス様。彼女がどのような影響を与えるかはわかりません……」

 

その問いに、ルミナスは少し表情を和らげて答えた。

 

「決して手を出してはならぬ。それは妾の友の頼みじゃ。それに……貴様らも知っておるだろう?ギィたち最古の魔王三人が、彼女を守っておることを」

 

その言葉に、ロイとルイは息を飲んだ。ギィ・クリムゾン、ミリム・ナーヴァ、ラミリス。最古の魔王であり、絶対的な力を誇る者たちが背後にいるのだとすれば、彼らが下手に動けるはずもない。ロイは短く頷いた。

 

「……わかりました、ルミナス様。ですが、警戒は怠りません」

「それでよい。妾の意志に従うがよい」

 

ルミナスが軽く手を振ると、ロイとルイはそれ以上口を挟むことなく、ルミナスの後を静かに歩いた。

 

やがて、リンは聖神殿の奥深くにある、ルミナスの寝所、すなわち奥の院に辿り着いた。その一角には、堂々とそびえる大霊樹(ドリュアス)が根を張り、聖なる輝きを放っていた。

 

(……あれが……)

 

本体であるリンが、分身体の姿を通して目にした瞬間、彼女の心は歓喜と共に安堵感を覚えた。土地の強化ができる場所をようやく見つけたのだ。ルミナス、ロイ、ルイが見守る中、リンの分身体は無言のまま大霊樹(ドリュアス)の前に立ち、その幹に手を当てた。

 

ルベリオス全体に広がる魔素の波が、徐々に大霊樹(ドリュアス)とリンの分身体を通じて流れ込んでいく。その魔素は大地に染み渡り、土地を強化していった。ルミナスはその光景を見て、うっとりとした表情を浮かべた。

 

「やはり美しい……」

 

一方で、ロイとルイはその力強い魔素の流れを感じ取り、驚きを隠せなかった。

 

「これが、樹妖精王(ドリュアス・ロード)の力か……」

 

ルイがつぶやき、ロイもそれに同意するように頷いた。彼らは目の前で起こっている出来事に驚きながらも、ルミナスの冷静な態度を見て、ひとまず事態を見守るしかないと判断していた。

 

土地の強化を終えたリンは、無言のままルミナスの元へと歩み寄った。

念話だとルミナスにしか届かないため、分身体の声を借り、本体であるリンが感謝の意を伝えた。

 

「……ありがとうございます、ルミナス様。大霊樹(ドリュアス)の力を使わせていただき、土地の強化ができました」

 

その言葉に、ルミナスは満足げに微笑んだ。

 

「ふふ、良い。そなたの本体と会えるときを、妾は楽しみにしておるぞ」

 

そう言いながら、ルミナスは優雅にリンの分身体を見つめた。彼女の視線はまるで、宝石を見るかのような愛情に満ちていた。

 

「——ルイよ、貴様が彼女を安全な場所まで送り届けよ」

 

ルミナスが命じると、ルイは短く頷いてリンの分身体に向き直った。

 

「では、こちらへ」

 

ルイが静かに促すと、リンの分身体は再び無言でその後に続いた。

 

その場に残ったルミナスとロイは、大霊樹(ドリュアス)の姿見つめて、強化されたルベリオスの地を感じながら、しばしの間無言で佇んでいた。やがてロイが、静かに言葉を漏らす。

 

「……樹妖精王(ドリュアス・ロード)とは、頼もしくも恐ろしい存在ですね」

 

ルミナスはそれに対して軽く頷きながら、口元に微笑を浮かべた。

 

「ふふ、そうじゃな。だが、妾にとっては彼女の美しさこそが魅力じゃ。あの本体とこれから関わること、妾は楽しみにしておるよ」

 

ロイはルミナスの言葉に深くは言及せず、ただその微笑の裏に隠された彼女の思惑に、心中で静かに注意を払った。そして二人は、大霊樹(ドリュアス)の前に立ち続け、樹妖精王(ドリュアス・ロード)の力が与えた新たな秩序を見つめていた。

 

 

 

 

リンの分身体がルミナスの命を受けたルイの後に続いて、聖神殿の奥の院から外へと向かっていた。静かで荘厳な空気が漂う聖地ルベリオスの中、リンの分身体は無表情のまま歩いているが、その背後で本体であるリンは少し緊張していた。

 

(……ルイ・ヴァレンタイン……か)

 

リンはルイの存在を初めて目の当たりにし、少なからず圧倒されていた。法皇としての威厳と強大な力が同居するルイの姿は、ただその場にいるだけで重圧を放っている。リンは大霊樹(ドリュアス)の中から分身体を通じてその存在を感じながら、自分の言葉が果たしてどれだけ伝わるか心配になっていた。

 

ルイは横目で分身体を見やり、何も言わない無表情の存在に少し疑念を抱いた。無論、分身体であることはすぐに理解したが、いまだ彼女がどのような意図でルベリオスに来ているのかは完全にはつかめていなかった。

 

「……お前の本体と会話ができるのだろう?」

 

ルイが静かに問いかけると、分身体が瞬きもせずに頷いた。リンの本体が遠隔で会話に応じているのだと悟り、ルイは淡々と話を続ける。

 

「ふむ、まずはお前の目的を聞いておこう。樹妖精王(ドリュアス・ロード)よ、なぜこのルベリオスの地に来たのか?」

 

その問いに、本体であるリンは大霊樹(ドリュアス)の中で少し息を呑んだ。ルイの鋭い声が、まるで直接心に届いてくるかのように感じた。しかし、リンは分身体を通じて何とか返答する。

 

「……土地の強化を行うためです。各地の大霊樹(ドリュアス)を巡り、土地の力を高め、天魔大戦に備えるのが私の役割です。ルベリオスも、その一環です」

「なるほどな……天魔大戦か。樹妖精王(ドリュアス・ロード)がこの世界の調和を保つために動いているというわけか」

 

ルイは目を細めて考え込んだ。彼は以前、ロイから聞いた魔王たちの宴(ワルプルギス)でのリンの話を思い返していた。樹妖精王(ドリュアス・ロード)としての宿命を背負い、この世界の自然を守る役割を果たしている彼女の存在は、魔王たちにとっても警戒すべき力を持つが、同時に協力者としても重要だという認識があった。

 

「だが、なぜ今この時期に、ルベリオスの地に来たのだ?天魔大戦の準備というならば、もっと急ぐ場所もあるだろう」

 

ルイの問いに、リンは少し迷いながらも答えた。

 

「……土地の強化は、順番に進めています。ルベリオスはまだ手をつけていない大きな土地の一つでした。自然を強化することが、私たち全員にとって重要だと考えています」

 

ルイはその言葉に納得したように軽く頷いた。しかし、彼の目はまだ鋭く、リンの本体に対して一つの疑念を抱いていた。

 

「お前自身は、どうなのだ?」

「どう……とは?」

 

ルイは少し息をつき、鋭い視線をリンに向けた。

 

樹妖精王(ドリュアス・ロード)よ。お前自身、魔王たちに囲まれ、天魔大戦という大きな戦いに備える中で、どう考えているのだ?お前の心に不安や疑念はないのか?」

 

その問いに、リンは少し驚いた。彼が自分の心情を聞いてくるとは思っていなかった。しかし、彼の問いに対して嘘をつく理由もなく、素直に心の内を明かすことにした。

 

「……正直に言えば、私は不安です。私が樹妖精王(ドリュアス・ロード)として果たすべき役割は重く、時に自分の力が足りないのではないかと感じることもあります。ミリムと共に修行し、強くなろうとしていますが、それでも……」

 

ルイはリンの言葉を静かに聞きながら、その言葉に真剣さが込められていることを感じ取った。

 

「ふむ……お前もまた、自らの限界を感じているのだな。しかし、お前は十分に強い。それはお前の周囲の者も認めているだろう」

 

リンはルイの言葉に少し安心しながらも、まだ自分自身に対する自信を持ちきれない様子だった。

 

「……ありがとうございます。ですが、私にはまだ、守りたいものがたくさんあります。それを守りきるためには、もっと強くならなければいけません」

 

ルイは少し考え込むように目を伏せた後、再びリンの分身体に目を向けた。

 

「そうか……お前がそう決めたのならば、今後も精進せよ。お前の役割が、この世界にとって重要であることを忘れるな」

「はい……ありがとうございます」

 

その言葉に、リンは静かに頷いた。彼女の心の中に少しだけ安堵が広がった。ルイ・ヴァレンタインという強大な存在に認められたことで、自分が進んでいる道に少しだけ自信を持てたのだ。

 

その後、ルイは分身体を安全な場所まで送り届けるため、歩き始めた。リンの分身体は、静かに彼の後に続いた。

 

 

 

 

リンは大霊樹(ドリュアス)の中で、先ほどのルベリオスでの出来事を振り返っていた。ルミナスとのやり取りや土地の強化が無事に終わり、ひとまず安堵していたが、何か落ち着かない気持ちが心に残っていた。

 

(ラミリスさん……少し話せる?)

 

念話で呼びかけると、すぐにラミリスの声が返ってきた。

 

『リン!どうしたの?土地の強化は順調?』

(うん、今はルベリオスで土地の強化を終えたところ。でも、ちょっと話したいことがあって……)

『ん?何々?どんな話?』

 

リンは少し躊躇ったが、真界領域(しんかいりょういき)についてラミリスに報告しようと決心する。

 

(実は、私……この前獲得した真界領域(しんかいりょういき)を試してみたの)

『ああ、アレね。どうだったの?どんなスキルだった?』

(えっと、もう一体分身体を作って、それに真界領域(しんかいりょういき)を使って色んな攻撃したら……全部無効化された)

『……全部?』

(全部)

 

リンはその時の様子を説明して、真界領域(しんかいりょういき)は様々な攻撃を完全に無効化する結界を展開するスキルであることを伝えた。

 

『へえ……すごいスキルね。守りに特化した樹妖精王(ドリュアス・ロード)にピッタリって感じ!』

(それに、属性魔法も吸収して自分の魔力に還元できたりするみたいで、精神攻撃にも対応できるし、すごく便利そうだよ。ただ……発動には大量の魔素が必要で、かなり消耗するから連続は難しいかな)

『まぁ、そんだけすごい効果ならそうなるわよね。無茶しないようにね、リン』

 

ラミリスの心配が伝わってきて、リンは少し申し訳なく思いながらも頷いた。

 

(ありがとう、ラミリスさん。でも、私……もっと強くなりたいから、このスキルも使いこなせるように頑張るよ)

『……もう、ホントに危なっかしい子ね……』

(あはは、まぁ気をつけるようにするよ。あ、それとね)

『うん?』

 

リンは深呼吸をして、次の話題を切り出した。

 

(実は……ルベリオスでの土地の強化中に、ルミナスっていう人に会ったの。ラミリスさん知ってる?)

『ルミナス?あのルミナス・バレンタイン!?』

 

ラミリスの声には驚きがはっきりと表れていた。

なんでも、ルミナスが魔王の座を引いてから長らく姿を消していたため、ラミリスも彼女の所在を知らなかったとのこと。

 

(ルベリオスに住んでいるみたいで、彼女の案内で土地の強化ができたの。ロイ・ヴァレンタインさんや……ロイさんそっくりのルイさんとも会ったんだけど、ルミナス様のおかげで特に問題なく終わったよ)

『そ、そうなんだ……ルミナスって昔から付き合いが悪いから、最近どこにいるのか全然わからなかったんだけど、まさかルベリオスに隠れていたなんてね……』

 

ラミリスは驚いた様子でしばらく考え込んでいたが、ふっと息をついた。

 

『でも、まあ、ルミナスが協力してくれるなら心強いわね。あの人も昔は……ま、ちょっと気難しいところもあるけど、悪い人じゃないから。でもリン、あんまり深入りしない方がいいわよ?ルミナスは何かと厄介だからね』

(……そうなの?でも、彼女は私のことを気にかけてくれたみたいで、私の本体と会えるの楽しみって言ってくれたよ)

『ふーん……まあ、ルミナスが気に入ったなら、仕方ないか。でも、何かあったらすぐにアタシに教えてよ?』

 

ラミリスは少し不安そうに言ったが、リンはその優しさに感謝しながら微笑んだ。

 

(わかった。ありがとう、ラミリスさん)

『ま、リンが頑張ってるのはわかってるけど、無理しすぎないようにね。アタシたち、みんなで一緒に頑張るんだから!』

(うん、そうだね。これからもよろしくね)

 

リンはラミリスとの会話を終えた後、少し気持ちが軽くなった。ルミナスとのやり取りも含め、これからのことをどう進めていくか考えつつ、自分が成長していることを実感していた。




これであらかたの土地の強化は終えましたが、まだもうちょっと続きます。
ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるために修正。
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