転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第四十五話

天使族(エンジェル)が攻めてきたら大霊樹(ドリュアス)の中にいるようにというギィからの戦力外通告を受けたリンは、心の中で葛藤を抱えながらも、これも守ることに繋がるのだろうと無理矢理自分を納得させた。目に見えて落ち込むリンの様子を見たギィは、彼女がこれまでに行った土地の強化の意味と、天魔大戦の際に注意すべきことを話し始めた。

 

「天魔大戦が始まれば、天使族(エンジェル)に狙われる地はもちろん、各地で争いが起こる。その被害を軽減するために、お前が魔素を流した各地の大霊樹(ドリュアス)を介して、お前が住まうこの大霊樹(ドリュアス)の魔素が消費されることになる」

 

リンはその言葉に耳を傾け、しっかりと理解しようと努めた。

 

「土地の強化を行ったことで、ある程度の抑制はされるだろうが、完全ではない。だからこそ、大霊樹(ドリュアス)に留まり、魔素を供給し続ける必要があるんだ」

 

リンはギィの説明を聞いて、天魔大戦が始まれば今まで以上に大霊樹(ドリュアス)に魔素を供給しなければならないということを理解した。

 

「つまり、私がもっと魔素を供給し続けないといけないということ?」

 

ギィは頷き、真剣な表情で続けた。

 

「そうだ。今お前に必要なのは敵を倒すための力ではなく、安定して魔素の供給を行えるだけの魔素量だ。現時点では、お前の魔素量は星霊樹(セレスティア)だった頃の樹妖精王(ドリュアス・ロード)の1割にも満たない。過去の樹妖精王(ドリュアス・ロード)たちと比較しても、せいぜい4〜5割程度しかない。」

 

リンはその言葉に愕然とした。圧倒的に魔素量が足りていないという事実は、彼女にとって衝撃的だった。

 

「そんな……成長してきたと思ったのに、それでもまだ足りないの?」

 

ギィは、リンの成長速度には目を見張るものがあると認めつつも、まだ若すぎると考えていた。

 

「今のお前なら、今回の天魔大戦には耐えられるだろうが、永くは持たないだろう。守りたいと思うのは結構だが、方向を間違えるな。お前は大霊樹(ドリュアス)を、自然を守る存在であり、戦闘はお前の役割ではない」

 

ギィの言葉に、リンは深く考え始めた。皆を守りたい、その気持ちは強い。しかし、それは敵を倒すことではない。自分に必要なのは、役割を全うできるだけの力と「守る」力だ。真界領域(しんかいりょういき)も守る力の一つだが、魔素の消費量が多く、皆を守るために使うには自身の魔素量を増やす必要がある。

 

「闘いはオレたち魔王に任せて、お前は己の役割に専念しろ」

 

ギィの言葉は、リンの心に響いた。彼女は強く頷き、天魔大戦までにさらに力をつけることを決意した。

 

「私は、もっと強くなる。皆を守れる力を手に入れなきゃ!」

 

その言葉には、自信と決意が宿っていた。リンは今まで以上に自分の役割に向き合うことを決め、ギィの期待に応えられるよう、努力することを誓った。大霊樹(ドリュアス)の中で、リンの心には新たな目標が燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

天魔大戦の話が一段落すると、ギィは笑顔を見せた。

 

「さて、天魔大戦の話はここまでだ。次はお前を労ってやろう」

 

唐突な話題の変換に、リンは目を瞬いて、何をするのかと首を傾げた。

 

「何かして欲しいことはあるか?」とギィが尋ねると、リンは以前と同じくお願いを一つ聞いてもらえるのだということに気付いた。

 

さて、何をしてほしいか思案しながら、「ギィさんに鍛えてもらうことかな?」とまたも考えたが、ヴェルザードからの嫉妬が恐ろしく、頼む勇気は出なかった。では再びギィの髪で遊ばせてもらおうか……いやいや、強くなるって決めたばかりなのに、そんなことをしている場合ではない。

 

悩み続けるリンを、ギィは楽しそうに見ながら「まぁ、すぐに決めなくてもいい」と言い、彼女の身体を引き寄せて倒した。

 

「えっ、ちょ、ギィさん!」

 

リンは驚いた。彼女の頭がギィの膝に乗ると、意識が一瞬飛びそうになる。 

 

(ギィさんの膝枕!なんでこうなったの!)

 

アワアワしながらも拒絶しようとは思わず、ギィがリンの髪を撫で付けるのを緊張しながら受け入れるしかなかった。

 

「……ギィさん、なんでそんな優しくするの?」

「気に入りの駒だからな。壊れないように接するさ」

「駒……」

 

その言葉に、リンは嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになった。「まあそうだよなぁ」と思いつつ、ギィの手が彼女の髪を優しく撫でる感触に、少し心が和んでいく。

 

「願いは決まったか?」

「いやー……ホントはギィさんに鍛えてもらおうかなとか考えたけど……ヴェルザードさん怖そうだし」

「またヴェルザードか。お前はアイツを気にしすぎだ」

 

リンは以前にも同じことをギィに言われたのを思い出す。わかってはいるのだが、ヴェルザードの冷ややかな視線を思うと恐怖が湧き上がってくるのだ。

 

「いやだって、ギィさんの近くにいるだけですんごい冷たい目で見られたよ?気にもなるよ……」

「次にオレの城に来たら話しかけてやればいい。アイツは気難しいところもあるが、味方につければ頼りになる」

「ハードル高いから……」

 

ヴェルザードと仲良くなれるのならなりたいが、リンにはそんな未来は見えてこなかった。今まさにギィに膝枕されて頭を撫でられている状況だって、ヴェルザードに知られたら氷漬けにでもされそうである。たぶん、されないだろうが。……されないはず。

 

「まぁ、気が向いたら鍛えてやる。ミリムからお前の成長ぶりは聞いているからな」

「ありがとう……。あ、そういえばね、この前ミリムとラミリスさんが何か内緒話してて、ミリムが私を見てなんかすごいはしゃいでたり、ラミリスさんはミリムとヒソヒソ話して驚いてたり……あれなんだったのかな?ギィさんわかる?」

 

リンの質問に、ギィは少し考えるような仕草をして、やがて口元をゆるめた。

 

「……思い当たることがなくはないが」

「ホント!?え、何、教えて!」

「それが今回の願いか?」

「えっ、あー……うん、もうそれでいいや。教えてください!」

 

どうせそんなに大した願いは思い浮かばない、ならば疑問を解決しようとリンはそれをお願いすることにした。ギィはそんな願いの使われ方をされるとは思わず、苦笑する。

 

「……お前は本当に……まあいい。ミリムとラミリスが話していた件だが、おそらくお前が『魔王種』を獲得したことだろう」

「……魔王、種?(って何それ教えて先見者(ミトオスモノ)!)」

 

リンは頭の中で先見者(ミトオスモノ)に問いかけた。

 

『解。「魔王種」とは、魔素の量や保有スキルなどが「真なる魔王として覚醒するに足る」状態にある魔物を指します』

「……いや私魔物じゃない……よね。よくわかんないけど、強くなれるってことかな?」

「ああ。条件を満たしたらお前もオレやミリムと同じ『真なる魔王』になる」

(『真なる魔王』って、また知らない単語が……先見者(ミトオスモノ)〜)

 

リンは再び頭の中で先見者(ミトオスモノ)に解説を求めた。

 

『解。「真なる魔王」とは、魔王種が一定量の魂を養分として獲得し、「魔王への進化(ハーベストフェスティバル)」を経て覚醒した状態を指し、「覚醒魔王」ともいわれます』

(魂ってアナタ)

 

先見者(ミトオスモノ)の解説に紛れた不穏な単語に、リンは内心顔を引き攣らせた。

 

「…………いやー、樹妖精王(ドリュアス・ロード)が魔王ってどうなの?」

「ははっ、確かにな。まあ後はお前が決断することだ」

「うーん……まあその時になったら考えるよ」

 

そんな話をしている間も、ギィはリンの髪をくるくると自身の指に巻きつけて楽しんでいる。リンは「自由人め」と思いながら、徐にギィの髪に手を伸ばし、彼がしているように指に巻きつけてみた。

 

「オレの髪で遊んでいいとは言っていないが?」

「ギィさんもずっと私の髪で遊んでるからおあいこだよ。嫌なら私の髪から手を離してね」

「……ふん、好きにしろ」

 

リンの髪を離すつもりはないらしいギィ。その反応に少し笑いながら、リンはギィの髪の手触りを楽しむことにした。

 

(綺麗な赤だなぁ……)

 

リンは心の中で感心しつつ、手のひらで髪の感触を楽しんでいた。

ギィはそのままリンの頭を撫で続けながら、近づく天魔大戦のために思索にふける。

 

二人の間には、優しい静寂が流れ、リンは心の奥深くで自分の決意を再確認していた。




ギィさんとのほのぼのなやり取りはそろそろ誰かにツッコミ入れてほしいところ。天魔大戦の前にもうちょい書きたいことあるのでまだ準備期間は続きます。お付き合いください。

ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
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