転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

47 / 97
第四十六話

土地の強化を無事に全て終えたリンは、久しぶりにラミリスの迷宮を訪れることにした。

迷宮に足を踏み入れると、広がる幻想的な空間とエネルギーの流れが彼女を包み込み、心が軽くなった。迷宮の奥へ向かうと、リンの来訪を察知したラミリスが抱きつきそうな勢いでリンの前まで飛んできた。

 

「リン!」

「ラミリスさん!土地の強化がやっと終わったよー」

「おおー!お疲れ様ー!これでちょっとは休めるわね!」

 

二人は喜びを分かち合いながら、迷宮の広間に腰を下ろした。ラミリスが用意したお茶を飲みながら、リンはしばらくラミリスと楽しく過ごした。彼女の純粋な笑顔に触れると、心の重さが少しだけ和らぐような気がした。

 

「ところでリン、どうしたの?なんか難しい顔してない?」

 

ラミリスの問いかけに、リンは少し真剣な表情になった。

 

「実はね、私、自分の魔素量を増やす方法を考えていて……ラミリスさんに、何かいい案がないか聞きたくて」

「ふむふむ、魔素量ね。名付けやスキル獲得、あるいは進化が鍵になるってことは知ってるのよね?」

「うん。ラミリスさんが私に名付けしてくれたけど、それでも進化はしていないみたい」

 

リンの話を聞きながら、ラミリスはふと考え込むように眉を寄せた。

 

「うーん、確かに過去の樹妖精王(ドリュアス・ロード)たちも進化した子はいなかったのよね。だから、進化が難しい存在なのかも」

「そうなんだ……」

 

リンは少し落ち込んだように肩を落としたが、すぐに顔を上げた。

 

「それにね、ギィさんに言われたんだけど、私の魔素量はこれまでの樹妖精王(ドリュアス・ロード)と比べても少ないんだって。どうしてなんだろう?やっぱりまだ若すぎるからなのかな?」

 

ラミリスはしばらく考えた後、納得したように頷いた。

 

「それもあるんだろうけど、たぶん、リンの魔素が守りに極振りしていることも関係してると思う。元々樹妖精王(ドリュアス・ロード)は守りに特化した魔素を持っているけど、リンの場合、それがとても顕著なの。量より質って感じ?」

「守り……それってスキルにも影響あるかな?真界領域(しんかいりょういき)、エクストラスキルにしては強すぎるなって思ってるんだけど……」

「あー、確かにね。所有者の魔素の性質がスキルに影響されるってのは稀にあるわ。ただ、性質を持ってること自体珍しいんだけどね」

 

通常、魔力によって属性やイメージの付与などをしない限りは魔素は魔素で、強さや洗練度の大小はあれど、それ以外の違いはないらしい。ラミリスの知識の深さにリンは改めて尊敬の念を抱いた。

 

真界領域(しんかいりょういき)も、樹妖精王(ドリュアス・ロード)というか、アンタの魔素の性質によって、普通より強力な結界として機能しているんじゃないかな」

「……なるほど。だからミリムの『とっておき』の一撃にも耐えられたんだね」

 

リンはようやく腑に落ちた表情を見せた。

 

しかし、リンはその後すぐに深刻な表情になった。

 

「でも、いくら強力な結界でも、私の魔素が守りに特化してても、それを安定して使えるだけの魔素量がなければ意味がないし、今の私じゃ天魔大戦の後どうなるかも分からない……」

 

進化について考えを巡らせていたリンは、ふとギィから聞いた「魔王種」のことを思い出した。少し迷ったが、ラミリスにこのことを打ち明けてみることにした。

 

「そういえばね、ギィさんから私が『魔王種』を獲得したってこと聞いたんだ。ラミリスさんとミリムは内緒にしてたみたいだけど……」

 

リンがその話を切り出すと、ラミリスは驚いた表情を見せた。

 

「えぇっ!?それ知ってるの!?ギィの奴、話しちゃったのね……!」

 

ギィに軽く文句を言いつつも、ラミリスは真剣な顔つきになり、リンに説明を始めた。

 

「『魔王種』っていうのは、真なる魔王になるための一歩なのよ。でもね、リン、アタシはアンタが真なる魔王になることに反対よ。人の命を奪ってまで強くなってほしくないから」

 

その言葉に、リンの表情が少し暗くなった。しかし彼女は、穏やかな口調で自分の思いをラミリスに伝えた。

 

「私も、人を傷つけたくはないし、ましてや命を奪うなんて覚悟はない。でも……もし本当にそれしか方法がないのであれば、私は選ぶと思う」

 

ラミリスは「でも……」と説得しようとしたが、リンの穏やかな表情を見て、彼女の覚悟が揺るがないことを理解した。

 

「……そんなときが来ないことを祈るわ」

 

リンは微笑んでその言葉に応えた。

 

「ありがとう、ラミリスさん」

 

再び話はリンの進化のことに戻り、二人は真剣に検討を重ねた。

 

「それなら、もう一度大霊樹(ドリュアス)に試練をお願いしてみようかな……」

 

リンの呟きに、ラミリスはすぐに心配そうな表情を浮かべた。

 

「待って、リン。前回はとても過酷だったんでしょ?試練はそう何度も受けるもんじゃないわよ」

 

リンはその反応に少し驚いたが、すぐに頷いた。

 

「うん、分かってる。でも、今のままじゃどうしようもない。魔素量を増やさなきゃ、私自身が天魔大戦の後どうなるかわからない」

「それはわかるけど……」 

 

ラミリスは心配そうに目を細めた。

 

「試練でもしリンが魔素を完全に失ったら……」

「大丈夫、私はしっかり対策を考えているよ。それに、私は強くなりたい。自分の役割を全うするためにも、進化が必要なんだ」

 

ラミリスはため息をつきながらも、リンの意志を尊重するしかなかった。

 

「……わかった。でも、無理はしないでね。って言ってもするんだろうけど」

「ふふ……ごめんね。ありがとう、ラミリスさん」

 

リンは微笑みを浮かべ、その気持ちを胸に秘めて新たな挑戦に向かう決意を固めた。

 

結果として、リンの進化に一番近道っぽいのはやはりこれまでと同様に「スキル獲得」であるという結論に至り、彼女は再び大霊樹(ドリュアス)に試練をお願いするこにした。

 

 

 

 

 

リンはラミリスとひとしきり楽しい会話を終え、心を軽くしながら自分の住まう大霊樹(ドリュアス)へと戻った。樹々が優しく揺れる中、大霊樹(ドリュアス)の存在が目に映ると、彼女は安堵のため息をついた。しかし、近づくにつれ、ふと視界に異様な影が映った。

 

大霊樹(ドリュアス)の前に佇む一人の女性。その姿は、黒髪に仮面をつけ、剣を携えた冒険者のような風体だった。彼女は隙のない様子で立っており、リンが空から降りると、彼女の顔がこちらに向けられた。

 

「……よかった、会えた」

 

仮面を付けているため表情は窺えないが、女性の声は、安心しつつも緊張感が漂っていた。

 

リンはその言葉に反応し、心の中で不安を抱いた。

目の前の女性がどのような目的でここにいるのか、樹妖精王(ドリュアス・ロード)である自分に害を成すつもりなのか、あるいは大霊樹(ドリュアス)に何かをしようとしているのか。

以前ファルムス王国で自分を捕えて、樹妖精王(ドリュアス・ロード)の力を利用しようとした男——ラーゼンのことを思い出し、警戒心が高まった。

 

険しい顔をするリンに対し、女性はその仮面の奥から言葉を発した。

 

「あなたを傷つけるつもりはない。ただ、少し話がしたいの」

 

知り合いですらない女性に「話がしたい」と言われても、困惑するしかなかった。リンはラミリスに念話で知らせようかと思ったが、剣を抜く素振りも見せずにただそこに立つ女性に、とりあえず話だけでも聞くかと考えた。

 

しかし素性の知れない人物を大霊樹(ドリュアス)の中に入れるわけにもいかず、リンは女性との距離を空けたまま話をすることに決めた。

 

「話って何?」

 

リンは声を落として尋ねた。

 

「——天魔大戦では決して外には出ないでほしい」

 

リンは訝しげに女性を眺め、そもそもギィに大霊樹(ドリュアス)の中にいるようにと言われているので、出るつもりはないが、なぜこの人がそれを言うのか理解できなかった。

 

「何故あなたがそれを頼むの?」

 

女性は少しの間を置き、決意を持って答えた。

 

「あなたを失わないために、必要だから」

 

リンはますます意味がわからなくなった。天魔大戦の中で外に行けば危険だということはギィからも言われている。そもそも、彼女が何を持って「あなたを失わない」と言うのかが不明だった。この女性も樹妖精王(ドリュアス・ロード)を、大霊樹(ドリュアス)を、自然を失わないようにと考えてわざわざ忠告しに現れたのだろうか。

 

「ここで大霊樹(ドリュアス)に魔力を供給し続けることが私の役割。それを放棄するつもりはない」

 

リンは毅然とした声で答えた。

 

「あなたならそう言うだろうと思ってた。でもあなたは優しいから……あんなことに……」 

 

女性の悲しそうな声が風に乗ってリンの耳に届く。

リンはその言葉の意味がわからず、首を傾げた。

 

「あんなことって?」

「……お願い。決して出ないで。あなたはこの世界に……未来に必要なの」

 

女性の言葉には強い意志が込められていた。

リンは女性の必死さと、何かよくわからないものを感じ取り、戸惑いながらも頷いた。

 

「わかった。外には出ない。約束するよ」

「……ありがとう」

 

女性は仮面越しでもわかるほどに、まだ不安そうな様子で、けれど少しホッとしていた。

 

そのまま身を翻し、去ろうとする女性に、リンは思わず問いかけた。

 

「あなたは誰なの?」

「……またいつか、会えたときに」

 

その言葉だけを残し、女性は静かにその場を去っていった。

 

(……何なんだろう、あの人は)

 

残されたリンは釈然としない気持ちを抱えながら、大霊樹(ドリュアス)の中に戻った。女性の言葉が心に引っかかりつつ、彼女の目的や背景がますます気になってしまった。




リンはこうと決めたら貫きそう。
ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。