転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第四十七話

リンは、大霊樹(ドリュアス)の中心に立ちながら、ふぅ…と息を吐いた。

 

進化を目指して新しいスキルを獲得するために、大霊樹(ドリュアス)に再び試練をお願いする。前回の試練が過酷であったことを思い出し、彼女は今回もまた厳しい試練が待っているだろうと覚悟を決めた。

 

「念には念を入れよう」

 

リンは自分に言い聞かせるように呟き、エクストラスキル真界領域(しんかいりょういき)を使用することにした。このスキルは、発動時に大量の魔素を消費するものの、維持には魔素を必要としないため、試練に挑む際には心強い助けになると考えた。

 

「よし、これで行こう」

 

リンは真界領域(しんかいりょういき)を発動させた。彼女の周囲に穏やかな光の結界が広がり、安堵感が漂う。しかし、発動の瞬間、彼女の身体はやや重くなり、力が抜けていくのを感じた。リンは大霊樹(ドリュアス)の根元に横たわり、魔素の回復に努めることにした。周囲の大霊樹(ドリュアス)の実を食べながら、彼女は魔素の回復を待った。

 

——先日の黒髪の女性はリンに危害を加えるつもりはなかったようだが、いつ敵意を向けてくる者が現れるかわからない。リンは真界領域(しんかいりょういき)を今後は常時発動しておこうと決意した。

 

そこでふと、女性から言われた「天魔大戦では決して外に出ないでほしい」という言葉を思い出す。

 

天魔大戦がどれだけの壮絶な戦いになるのか、想像すらできなかった。ギィが大霊樹(ドリュアス)の中にいるようにと言っているのだから、大霊樹(ドリュアス)の中にいれば安全なのだろうか。ここで魔素を供給し続ければ守れるのだろうか。他に何かできないだろうか。

 

ギィからの命令、黒髪の女性からの頼みは、共通した内容である。それを無視する気は毛頭ないが、もし天魔大戦で自然を、みんなを失うようなことがあれば、自分がここにいる意味などない。

何かあったとき、すぐに駆けつけられるようになれたら——リンはそこまで考えて、転移について思い出した。ギィが使っていたもの、さすがにあの荘厳な扉を出そうとは思わないが、ファルムス王国でリンを助けに来てくれたギィが、リンを抱えてラミリスのところ——自身の居城まで転移していた。

 

あんな風に長距離を一瞬で移動できるのであれば、危機回避にも役立つし、次に土地の強化を行うときにも便利だろう。是非とも覚えたいスキルだ、とリンは気合いを入れながら、少しでも早く魔素が回復するように眠りに入ることにした。

 

 

 

 

 

暗闇の中、リンはまたこの夢かと思った。何度も何度も見ている、自身が木の根に囚われる夢。手足を、身体を、魂を絡め取り、意識までも呑み込もうとする——いずれ訪れるかもしれない、リンの未来を示唆している夢だ。

 

相変わらずこちらの身体に無作法に巻きついてきて、胸の中心——魂までたどり着く根。リンは少しうんざりしながらも、以前のような恐怖はさほど感じなかった。何度も見ている夢だから慣れたのだろうか。今は過去の恐怖とは違い、冷静に根の動きを観察する余裕があった。

 

黒く染まる意識の中で、鮮やかな色が目に入る。リンはその色を知っていた。

 

冷たい、でもどこか温かい、怖い、緊張する、安心する、楽しい、嬉しい、ちょっと寂しい。

 

その色を視界に入れるたびに色々な感情が浮かぶ。

あの色は、あの人の——。

 

リンが黒の中に映える色に手を伸ばそうとして、そこで目が覚めた。

 

「……あれ?」

 

夢から覚めたリンは、虚空に向かって手を伸ばしていた。何をしているんだろうと考えるが、夢の内容は思い出せなかった。

まあ思い出せないなら必要ないのだろうとリンはすぐさま思考を切り替え、自分の魔素の回復具合を先見者(ミトオスモノ)に聞いた。

 

先見者(ミトオスモノ)、私の魔素、回復した?)

『解。全快時の8割回復しています』

 

それを聞いたリンは「よし」と立ち上がり、大霊樹(ドリュアス)に念話を飛ばした。

 

大霊樹(ドリュアス)、私、転移できる能力が欲しいの)

『……各地の大霊樹(ドリュアス)と、我は繋がっている。そなたが魔素を流したことで、そなたと各地の大霊樹(ドリュアス)との間にも繋がりができた。それを利用することで移動は可能だ』

(……どうすればいい?)

『我を含む全ての大霊樹(ドリュアス)と同時に同一化を行い、道を作る』

 

全ての大霊樹(ドリュアス)と同時に同一化——リンは顔を引き攣らせた。大霊樹(ドリュアス)との同一化は、最初ほどではないとはいえ消耗する。あの身体に根を張られて這いまわられる感覚は、精神的にキツイものがある。

 

だが転移能力は欲しい。背に腹はかえられないか。リンはため息をついて、大霊樹(ドリュアス)に再度念話を飛ばす。

 

(わかった。やるよ)

『承知した。気を緩めれば、そなたの星幽体(アストラル・ボディー)精神体(スピリチュアル・ボディー)は分離し、二度と戻れなくなる。心せよ』

(先に言ってくれ……まあ頑張るけど)

 

リンの身体に大霊樹(ドリュアス)から魔素が送られてくる。いつもの同一化と同じか——そう思った矢先、四方八方からものすごい魔素がリンの体内に入ってきて、リンはたまらず悲鳴をあげた。

 

「——ひっ……いやあああああ!!」

 

思わず逃げようともがくが、いつの間にか大霊樹(ドリュアス)がリンの身体を根でとらえており、逃げることはできなかった。

 

これでは、あの夢のようではないか——。

 

リンは己の体内で蠢き続ける魔素をなんとかしようと、張っていた真界領域(しんかいりょういき)の完全結界で制御を試みる。

 

「うぅ……!この……言うこと聞きなさいよ……!」

 

 

——道を作る。

 

大霊樹(ドリュアス)の言葉を思い出す。

 

——そなたと各地の大霊樹(ドリュアス)との間にも繋がりができた。

 

 

繋がりがあるのならば、干渉することもできるだろう。そうだ、土地の強化でさんざんやったではないか。リンは土地の強化をしたときのように、自身の魔素を各地の大霊樹(ドリュアス)に送ろうと集中した。

 

 

言うことを聞け。

 

私はあなたたちに使われる存在じゃない。

 

私があなたたちを使うんだ。

 

従え。

 

 

「——従え!!」

 

リンの魔素が一気に放出され、大霊樹(ドリュアス)が揺らぐ。そのとき、各地の大霊樹(ドリュアス)が微かな異変を生じさせるが、気付いたものは極僅かだった。

 

 

 

 

 

リンの意識がぼんやりとした中で、自分の魔素を各地の大霊樹(ドリュアス)へと流し続けた。心の奥にある繋がりを感じながら、彼女はその感覚に身を委ねた。

 

各地の大霊樹(ドリュアス)を通して、周辺の様子が徐々に明確に浮かび上がってきた。これまで訪れた場所が次々と頭の中に入ってきて、リンはその情報に驚きと感動を覚えた。

 

そして、やがて一番気になっている場所——「黄金卿(エルドラド)」が見えた。

 

あれだけ魔素を注いでもなお、その存在感は希薄だった。しかし、あの魔素の濃い環境下で生き続けているのもすごいことだ。リンは薄れていく意識の中で、そっと微笑み、心の中で呟いた。

 

(——また行くね)

 

その瞬間、意識はさらに深い暗闇に引き込まれていく感覚を覚えた。

 

 

 

リンが意識を取り戻したとき、身体に巻き付いていた根はなく、自由に動けることを確認した。魔素を消費したことで倦怠感はあるものの、真界領域(しんかいりょういき)も健在だった。

 

試練はどうなったのだろうか——。

 

リンが大霊樹(ドリュアス)に問いかける前に、あちらからの念話が届いた。

 

『……道は繋がった。今後は大霊樹(ドリュアス)を介しての移動が可能だ』

(えっ……)

 

本当にできるようになったのか、と驚くリンの頭の中に声が響く。

 

『告。エクストラスキル「樹界移動(じゅかいいどう)」を獲得しました』

 

世界の言葉だ。つまり、本当に手に入れたのだ。リンはその瞬間、嬉しさが胸に広がるのを感じた。

 

「……——やったぁ!!」

 

これで少しは楽に……いや、皆の役に立てる機会が増えるかもしれないと、リンは飛び上がって喜んだ。

 

この喜びを誰に伝えようか、やはり友人であり主である彼女だろうか。

 

リンはさっそく念話をラミリスへ飛ばそうとして、思いとどまった。

 

「……進化、できてない……よね?先見者(ミトオスモノ)、どう?」

『解。(マスター)は進化には至っていません』

「やっぱり……あー、どうすれば進化できるのかなぁ」

 

リンは肩を落とし、ラミリスへの報告はちょっとやめておこうと考えた。そのまま寝床にごろりと転がり、柔らかな光に包まれた天井を見上げた。

 

(……私、天魔大戦の後も生きてるのかな……)

 

ギィは今のリンなら耐えられるだろうと言っていた。しかし、永くは持たないだろうとも言っていた。彼女の心に不安が渦巻く。

 

——消えたくない。

 

リンは自身の奥から湧き上がってくるその想いに蓋をするように目を閉じた。

 

意識を失ったその瞬間、彼女は再び自分の役割を全うするために強くなりたいと願った。その思いが、彼女を支える力になっているのだと、信じていた。




転移スキルゲットだぜ!現実でも欲しいですね、転移スキル。ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
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