転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第四十八話

リンは、得たばかりのスキル樹界移動(じゅかいいどう)を試すために移動先を悩んでいた。いくつかの候補を頭に浮かべるが、結局、彼女は「本体で会いに行く」と約束したルミナスのいるルベリオスを選択することにした。

 

「せっかくだから、ルミナス様に直接会いに行こう」

 

そう決心したリンは、分身体を大霊樹(ドリュアス)の中に残し、スキルを使用する準備を整えた。

 

「よし……樹界移動(じゅかいいどう)

 

意を決して樹界移動(じゅかいいどう)を発動すると、目の前が一瞬真っ白に染まる。そして以前ルミナスに案内してもらった聖神殿の奥の院の大霊樹(ドリュアス)からポンッと出た瞬間、目の前にはルミナスが立っていた。

 

「うわっ!」

 

リンは思わず声を上げた。ルミナスの前に飛び込むようにしてしまい、彼女の腕の中にダイブしてしまった。

 

「おっと……まさか妾の腕の中に飛び込んで来るとは……ふふ、そんなに妾に会いたかったのか?」

「いや、違……じゃなくて、いや、会いに来たんですが……すみません、ルミナス様……」

 

ルミナスに抱きしめられながら、リンはわたわたと謝る。ルミナスの身体から柔らかく、心地よい香りが漂っていた。

 

「気にするでない。約束を果たしに来たのであろう?」

「は、はい」

 

リンは少し緊張しながらも、ルミナスの優しさに安心感を覚えた。

 

大霊樹(ドリュアス)から出てきたな。そなたのスキルか?」

「あ、はい。樹界移動(じゅかいいどう)ってスキルで……大霊樹(ドリュアス)を介して移動できるんです」

「ほう、大霊樹(ドリュアス)を……そなたにしか扱えないスキルじゃな。ふふ、妾のところへ瞬時に来れるとは……」

 

愉快そうにするルミナスに、リンは怒られないでよかったとホッとする。

 

しかし、そのときリンは、いまだにルミナスに抱きしめられたままでいることに気づき、再び慌て出した。

 

「あ、あの、ルミナス様……そろそろ離していただけると……」

「……そうじゃな。名残惜しいが、仕方ない」

 

ルミナスは微笑みながらも、彼女を解放した。

リンは改めて背筋を伸ばして、ルミナスに挨拶した。

 

「ルミナス様、先日はこの大霊樹(ドリュアス)まで案内してくださってありがとうございました」

「ああ、そんな堅苦しい挨拶はよい。お茶を用意させるから、妾とゆっくり語り合おうぞ」

「はい」

 

 

 

 

 

二人は聖神殿の奥の院にある、柔らかな光が差し込むテーブルに向かった。ルミナスが召使いにお茶を用意させる間、リンはその穏やかな雰囲気を楽しんでいた。

 

「さて、最近の生活はどうじゃ?」

「えっと……最近、天魔大戦に向けての土地の強化を終えました」

 

リンは自分の近況を話し始めた。天魔大戦の影響を考えつつ、少しでも力を付けようと努力していることを伝えた。

 

「そなたがそんなにも成長しておるとは、嬉しく思うぞ。天魔大戦が近づいているこの時期に、さらに力を高めておくことは必要じゃからな」

「ありがとうございます、ルミナス様。皆が無事でいてくれるよう、私も頑張ります」

 

お茶が運ばれ、二人は和やかな時間を過ごした。リンは、ルミナス教について小耳に挟んだことを話すことにした。

 

「あの……ルミナス様、最近聞いた話で、ルミナス教について知っていますか?」

 

ルミナスは興味深そうに頷いた。

 

「ああ、妾の教えは多くの者に広がっている。生まれた理由は、人間の血を効率的に集めるためじゃ」

 

リンはそれに驚きながらも、続けて質問した。

 

「それがいつしか、世界宗教になったんですか?」

「そうじゃ。妾は吸血鬼の女王として、吸血鬼たちを束ねる存在であり、食料となる血を効率よく継続的に集めるために宗教が必要じゃった。それが、東の帝国以外の人間国家の国教的な宗教になったというわけじゃな」

 

ルミナスは誇らしげに微笑む。

 

「すごいですね……。でも、血を集めるために宗教が必要だなんて、ちょっと驚きました」

 

リンは複雑な気持ちを抱えながらも、ルミナスの説明に耳を傾けた。

 

「教えは信じる者たちにとって、希望や安らぎを与えるものでもある。妾はそれを大切にしているのじゃ」

 

リンはその言葉を聞き、ルミナスがただの吸血鬼の女王ではなく、多くの人々に影響を与える存在であることを再認識した。彼女の教えがどれほどの人々に支えられているのか、想像すると、その重責を感じる。

 

「……そなたの力が、自然や人々を守るために使われることを願うぞ」

 

ルミナスは優しい目でリンを見つめ、その存在を大切に思うような視線を送った。

リンはその言葉に勇気をもらい、これからも成長を続けようと改めて心に誓った。

 

 

 

 

 

ルミナスが淹れた香り高いお茶を飲みながら、リンは彼女と共に過ごす穏やかな時間を楽しんでいた。ルミナスの微笑みは、リンの心に安心感を与え、二人の距離を縮めていく。

 

「ルミナス様、ルベリオスは新しく建て直した国だって聞いたんですけど……かつて治めていた国は、どのような国だったのですか?」

 

ルミナスは一瞬考え込んだが、次第に昔を懐かしむような表情に変わった。

 

「妾が治めていた国は、かつては人間を守る宗教国家ではなく、逆に人間を奴隷として扱う吸血鬼の楽園的な国であった」

「楽園……ですか?」

 

リンは驚きを隠せなかった。

 

「そうじゃ。人間の血を欲しがる吸血鬼たちにとって、奴隷となった人間は貴重な存在じゃった。……しかし、暴風竜ヴェルドラの戯れで国は崩壊し、妾の国は立て直せない程に崩れ去った」

 

ルミナスの目が険しくなる。

 

リンはその話を聞き、以前にジュラの大森林で聞いたヴェルドラの名を思い出した。

 

「ヴェルドラのこと……嫌いなんですか?」

 

リンが尋ねると、ルミナスの表情は一層険しさを増した。

 

「その通りじゃ。奴は何も考えず、破壊を楽しむ存在じゃ。妾の国が崩壊したのも、奴の戯れが原因であった」

 

ルミナスの言葉は冷たく、まるで忌々しいものを見るような目をしていた。

 

「その後、このルベリオスを建国し、人間と共存する道を選んだ。妾は人々に平穏な暮らしを与え、同時に人間の血を効率的に集めることを考えたのじゃ」

 

ルミナスは、以前とは違う温かい笑顔を見せた。

 

「でも、どうして人間をそのように扱うのですか?」

 

リンは、彼女が抱える矛盾に疑問を持った。

 

「妾は血を摂取せずとも生きられるが、他の吸血鬼たちはそうはいかぬ。信仰心を育て、共存していくためには必要なのじゃ」

「信仰心?」

「幸福に過ごしている人間の血は美味でな……配下達が人間を程々に襲撃したり魔物を差し向けては、聖騎士達や妾達が迎撃して、それに感謝を覚える人間の信仰心を保たせる……いわば『仕組まれた救済』じゃ」

「仕組まれた救済……」

「そうして妾は人間に精神操作をかけ、少量の血液を密かに奪いつつも彼らに平穏な暮らしを与えているのじゃ」

 

リンはその話を聞き、少し複雑な気持ちになった。人間を守りたいというルミナスの意図がある一方で、その手段には問題があるように思えた。しかし、彼女の信念は本物であると感じ、リンは納得することにした。

 

「……ルミナス様の考えには感心します。皆を守るために、自らの方法を築くなんて」

「ふふ、そなたも守りたい者がいるのなら、しっかりとその力を高めるがよい」

 

ルミナスは優しく微笑む。

リンはその言葉に励まされ、決意を新たにした。

 

「はい、頑張ります」

 

しばらく、和やかな雰囲気の中でお茶を飲みながら、二人は様々な話を楽しんだ。リンは自分の成長を話し、ルミナスは彼女を見守るように微笑み続けた。

 

 

 

 

 

その後も、穏やかな会話が続いていた。リンはルミナスとのひとときに心を満たされながらも、ふと彼女の表情に変化を感じた。

 

「——リン。もう一度、そなたが土地の強化をしているところを見たいのじゃが」

 

ルミナスが微笑みながら言った。

 

「えっ、でも、もう土地の強化は終わっているんですけど……」

「それでも、どうしても見たいのじゃ」

 

ルミナスは目を輝かせ、少し強引におねだりを続けた。

 

「でも……」

 

リンは言い淀む。ルミナスのその熱意に押されて、心のどこかで「見せてあげたい」と思ってしまう自分がいる。しかし、どうしても「土地の強化」はもう終わってしまっている。

 

「お願いじゃ、リン」

 

ルミナスは目を細めて、無邪気な子供のように頼み込む。彼女のその姿に、リンは思わず心を動かされてしまう。

 

「……分かりました、ルミナス様」

 

リンは心の中でひとつの策を思いついた。

 

「ここはギィさん方式でいこう」

「ギィさん方式?」

 

ルミナスは首を傾げた。

 

「私のお願い一つ聞いてくれたら、土地の強化を見せます」

 

リンは自信満々に提案した。

すると、ルミナスは嬉しそうに顔を輝かせた。

 

「本当に良いのじゃな?そなたのお願いなら喜んで聞こう」

 

リンはその反応にホッとしつつ、何をお願いしようかと頭を巡らせる。しかし、特に思いつかない。心の中で必死に考えていると、咄嗟に口から出た言葉があった。

 

「……デートしてください!」

 

リンは思わず言ってしまった。言った瞬間、自分の言葉の意味を理解し、顔が熱くなる。

 

ルミナスは目を大きく見開き、瞬時に驚いた表情に変わったが、次の瞬間にはその顔が嬉しそうにほころんだ。

 

「デート……妾との?」

 

リンはもう、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになった。

 

「あ、いや、あの……言葉のあやで……」

「いいのじゃ、嬉しいぞ、リン」

 

ルミナスはその喜びを隠さず、リンを見つめた。彼女の目が楽しそうに輝き、リンの心はますます恥ずかしさでいっぱいになった。

 

「それでは、約束じゃ。そなたのお願いを聞くのじゃから、土地の強化の様子も見せてくれ」

 

ルミナスは満面の笑みを浮かべながら言った。

 

「……はい」

 

リンは言葉を詰まらせつつ、心の中で「やっちまった感」がじわじわと広がるのを感じた。しかし恥ずかしさはあるが、ルミナスの笑顔を見られるのなら、別にいいかと思い直した。

 

リンは早速聖神殿の奥の院の大霊樹(ドリュアス)へ移動し、土地の強化を行うことにした。彼女は大霊樹(ドリュアス)の根元に立ち、意識を集中させた。

少し離れた場所から、ルミナスがその様子を眺めている。

 

「……よし」

 

そっと大霊樹(ドリュアス)に触れると、周囲に優しい光が広がり、リンの魔素が流れ込んでいく。彼女の身体から放たれる魔素は、まるで美しい光の帯のように大霊樹(ドリュアス)に溶け込んでいく。リンは心の中で願った。自分の力が土地を豊かにし、そこに住む者たちを守るための力になるように。

 

その様子を見守るルミナスは、リンの輝く姿に見惚れていた。本体から放たれる魔素の美しさは、まるで自然そのものが息づいているかのようだった。ルミナスは思わずため息を漏らし、心の中で感じる感動を抑えきれなかった。

 

「素晴らしい……」

 

ルミナスは声を漏らした。リンが魔素を流し込み、大霊樹(ドリュアス)がその恩恵を受けていく様子は、彼女にとってまさに神聖な儀式のように見えた。

 

「本体による土地の強化は、さらに美しい……」

 

ルミナスはうっとりとした表情で呟き、その瞬間、リンの存在の持つ力強さと神秘さに心を奪われてしまった。

 

リンはその言葉に気づかず、夢中で土地の強化を続けていたが、ふと感じたルミナスの視線が熱いことに気づいた。

 

「ルミナス様、私の姿、そんなに驚くほどですか?」

 

リンは照れくさくなり、思わず顔を赤くした。

 

「ふふ、そなたの美しさに惹かれたのじゃ。魔素が流れる姿は、まるで自然そのものじゃ」

 

ルミナスは嬉しそうに微笑み、リンを見つめ続けた。

 

リンはそんなルミナスの反応に驚きつつ、気恥ずかしさを感じながらも、その言葉が励みになった。より一層力を込めて、土地の強化に集中する。

 

時間が経つにつれて、土地は活力を増していき、リンの魔素が大霊樹(ドリュアス)に溶け込んでいく。ルミナスは彼女の魔素が土地を満たしていくのを感じながら、さらなる強さを生み出していることを実感していた。

 

こうして、リンの二度目の土地の強化が終わり、ルミナスはその美しさに心を躍らせながら、彼女の成長を見守っていくのだった。




この話を書いてて、ルミナス様に何お願いしようかなーと考えて、咄嗟にデートが浮かんじゃったのでもうそのまま書きました。後悔はしていない。
ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
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