でも、ある日ふと、思いついた。
「ここって……ファンタジー世界なんだよね? だったらさ、魔法、使えるんじゃない?」
この身体、この世界。
精霊も妖精も実在する場所で、魔法が使えたって、全然おかしくない。
なにより――ラミリスさんが、軽々と空を飛んでいたあの姿。
「私も……飛びたいな」
そう思ったら、もう止まらなかった。
「よーし! まずは空を飛ぶ魔法からやってみよう!」
とはいえ、やり方なんてわからない。
とりあえず両手を広げてみたり、深呼吸して目をつぶってみたり……でも、なーんにも起こらない。
「うーん、魔法ってどうやって発動するの……?
《解。魔法とは、魔素を用いて属性ごとの現象を引き起こす行為です。飛行には、体を支える上昇気流を魔素にて形成・制御する必要があります》
「……つまり、風を生んで支えれば飛べるってこと? よし、やってみよう!」
私は集中して、体の内側に流れる魔素を意識した。
風が身体を持ち上げるように――両足の下に風をイメージする。
すると、足元に小さく風が集まり始めて――
「わっ、わわっ!?」
ブワッと一気に吹き上がる風に、私はバランスを崩してゴツンと背中から木の根に激突した。
「いたたた……」
《解。制御が不十分です。魔素の出力を均等に分散し、持続制御を行う必要があります》
「うぅ、やっぱり簡単にはいかないか……」
それでも私は何度も、何度も挑戦した。
時に顔面を幹にぶつけ、時に風に煽られて回転し……でも、不思議と楽しかった。
「……もう少しで、飛べそうな気がするんだよなぁ……!」
また挑戦する気力を振り絞り、私はさらに練習を続けた。しかし、少しずつ慣れてきたものの、飛ぶのは難しい。バランスを取るのが予想以上に大変で、意識が散るとすぐに魔素が暴走してしまう。
「あー……もうちょっとで……!」
ようやく数秒間、ふわりと浮かんだとき――
「やった、ちょっと浮いた……!」
けれどその直後、強烈な倦怠感が全身を襲った。
「ん……なんだろ、眠い……?」
《警告。
「そんなに使ってたの……!?」
《是。
「……なるほどね……」
私はそのまま、ふにゃりとその場にへたり込んだ。
眠気が、どっと押し寄せてくる。
「……もうちょっとだったのにな……」
悔しいけれど、体が言うことをきかない。
まぶたが重くなり、私はゆっくりと目を閉じた。
「……おやすみ、
そして、夢の中で私は、雲の上を自由に飛び回っていた。
翌朝、私は元気に目を覚ました。全身が軽い。頭もスッキリ。
昨日の魔素消耗は回復したらしい。ならば、やることは一つ。
「さあ今日こそ飛ぶぞー!」
両手を広げて、風のイメージを描く。
暴走させないように、ゆっくりと。
全身を優しく包むように、風を動かす。
「……いける!」
ふわりと体が持ち上がった。今度はバランスも取れている。
私はゆっくりと、
「飛べてる……! やった、飛べてる……!」
高く、ゆるやかに、静かに。
木の中を風に乗って進む感覚は、地上を歩いていた時とはまるで別物だった。
「よし、このまま上に行ってみよう!」
せっかく飛べるようになったのだから、今まで行けなかった
幹に沿って少しずつ上昇するたびに、景色が変わる。
葉の隙間から光が差し込み、下では見えなかった構造や空間が次々と現れる。
「……ここ、外に……繋がってる……?」
葉の間に、ぽっかりと空いた隙間を見つけた。
そこから顔を出すと、目の前に広がっていたのは――
「……すごい……」
果てしない緑の森。遠くに連なる山々。どこまでも続く、青い空。
前世では絶対に見られなかった光景。これが、この世界の“現実”。
「あれ、なんか飛んでる?」
青空の中を何かが飛んでいるのが目に入った。鳥……ではない。もっと大きなものだ。翼を大きく広げて、ゆったりと空を舞っているその姿は、明らかに魔物だろう。
「……あれ、外に出たら会えるのかな?」
ふと、そんなことを考えた。私はこの
(……外の世界、行ってみたいな)
そんな願いが、ふと胸をよぎる。
「……今は、まだダメだよね」
私は
私がここを離れることで、多くを失わせてしまう。
「……いつか、行けるようになるかな」
そうつぶやいて、私はゆっくりと風に乗って引き返した。