転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第五話

大霊樹(ドリュアス)での暮らしにも、少しずつ慣れてきた。

でも、ある日ふと、思いついた。

 

「ここって……ファンタジー世界なんだよね? だったらさ、魔法、使えるんじゃない?」

 

この身体、この世界。

精霊も妖精も実在する場所で、魔法が使えたって、全然おかしくない。

なにより――ラミリスさんが、軽々と空を飛んでいたあの姿。

 

「私も……飛びたいな」

 

そう思ったら、もう止まらなかった。

 

「よーし! まずは空を飛ぶ魔法からやってみよう!」

 

とはいえ、やり方なんてわからない。

とりあえず両手を広げてみたり、深呼吸して目をつぶってみたり……でも、なーんにも起こらない。

 

「うーん、魔法ってどうやって発動するの……? 先見者(ミトオスモノ)、ヘルプ!」

《解。魔法とは、魔素を用いて属性ごとの現象を引き起こす行為です。飛行には、体を支える上昇気流を魔素にて形成・制御する必要があります》

「……つまり、風を生んで支えれば飛べるってこと? よし、やってみよう!」

 

私は集中して、体の内側に流れる魔素を意識した。

風が身体を持ち上げるように――両足の下に風をイメージする。

 

すると、足元に小さく風が集まり始めて――

 

「わっ、わわっ!?」

 

ブワッと一気に吹き上がる風に、私はバランスを崩してゴツンと背中から木の根に激突した。

 

「いたたた……」

《解。制御が不十分です。魔素の出力を均等に分散し、持続制御を行う必要があります》

「うぅ、やっぱり簡単にはいかないか……」

 

それでも私は何度も、何度も挑戦した。

時に顔面を幹にぶつけ、時に風に煽られて回転し……でも、不思議と楽しかった。

 

「……もう少しで、飛べそうな気がするんだよなぁ……!」

 

また挑戦する気力を振り絞り、私はさらに練習を続けた。しかし、少しずつ慣れてきたものの、飛ぶのは難しい。バランスを取るのが予想以上に大変で、意識が散るとすぐに魔素が暴走してしまう。

 

「あー……もうちょっとで……!」

 

ようやく数秒間、ふわりと浮かんだとき――

 

「やった、ちょっと浮いた……!」

 

けれどその直後、強烈な倦怠感が全身を襲った。

 

「ん……なんだろ、眠い……?」

《警告。(マスター)は魔素を過剰に使用しています》

「そんなに使ってたの……!?」

《是。(マスター)大霊樹(ドリュアス)に魔素を供給し続けており、飛行魔法の修練による追加消費が重なっています。休息を推奨します》

「……なるほどね……」

 

私はそのまま、ふにゃりとその場にへたり込んだ。

眠気が、どっと押し寄せてくる。

 

「……もうちょっとだったのにな……」

 

悔しいけれど、体が言うことをきかない。

まぶたが重くなり、私はゆっくりと目を閉じた。

 

「……おやすみ、先見者(ミトオスモノ)

 

そして、夢の中で私は、雲の上を自由に飛び回っていた。

 

 

 

 

 

翌朝、私は元気に目を覚ました。全身が軽い。頭もスッキリ。

昨日の魔素消耗は回復したらしい。ならば、やることは一つ。

 

「さあ今日こそ飛ぶぞー!」

 

両手を広げて、風のイメージを描く。

暴走させないように、ゆっくりと。

全身を優しく包むように、風を動かす。

 

「……いける!」

 

ふわりと体が持ち上がった。今度はバランスも取れている。

私はゆっくりと、大霊樹(ドリュアス)の中を漂うように進み出した。

 

「飛べてる……! やった、飛べてる……!」

 

高く、ゆるやかに、静かに。

木の中を風に乗って進む感覚は、地上を歩いていた時とはまるで別物だった。

 

「よし、このまま上に行ってみよう!」

 

せっかく飛べるようになったのだから、今まで行けなかった大霊樹(ドリュアス)の上の方を探検してみたい。上に行けば行くほど、もっと新しい発見があるかもしれない――そんな期待感が膨らんでいく。

 

幹に沿って少しずつ上昇するたびに、景色が変わる。

葉の隙間から光が差し込み、下では見えなかった構造や空間が次々と現れる。

 

「……ここ、外に……繋がってる……?」

 

葉の間に、ぽっかりと空いた隙間を見つけた。

そこから顔を出すと、目の前に広がっていたのは―― 

 

「……すごい……」

 

果てしない緑の森。遠くに連なる山々。どこまでも続く、青い空。

前世では絶対に見られなかった光景。これが、この世界の“現実”。

 

「あれ、なんか飛んでる?」

 

青空の中を何かが飛んでいるのが目に入った。鳥……ではない。もっと大きなものだ。翼を大きく広げて、ゆったりと空を舞っているその姿は、明らかに魔物だろう。

 

「……あれ、外に出たら会えるのかな?」

 

ふと、そんなことを考えた。私はこの大霊樹(ドリュアス)の中に閉じこもっているけれど、外の世界にはまだ知らないことがたくさんある。

 

(……外の世界、行ってみたいな)

 

そんな願いが、ふと胸をよぎる。

 

「……今は、まだダメだよね」

 

私は大霊樹(ドリュアス)に魔素を供給しなければならない。

私がここを離れることで、多くを失わせてしまう。

 

「……いつか、行けるようになるかな」

 

そうつぶやいて、私はゆっくりと風に乗って引き返した。

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