転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第四十九話

土地の強化を終えてからの日々は、穏やかな日もあれば騒がしい日もあり、気づけば8年もの月日が経過していた。リンは進化を目指してミリムとの修行や大霊樹(ドリュアス)からの試練で己を鍛え続けていたが、樹界移動(じゅかいいどう)を獲得してからというもの、新たにスキルを獲得できておらず、焦りと不安を募らせる毎日を送っていた。

 

そんなある日、リンの耳にある情報が飛び込んできた。

 

「——進化してる?」

「そう!リンが土地の強化をした場所の周辺の魔物たちが、続々と進化してるらしいの!」

 

ラミリスがキリっとした顔で話す。

天魔大戦に向けて各地の土地の強化を行なってから数年が経ち、その影響なのかは不明だが、周辺の魔物が進化しているとのことだった。ゴブリンはホブゴブリンやゴブリナに、オークはハイオークにと、種族が一段階上に進化しているという。

 

「普通なら進化には名付けとかの大きなきっかけが必要なんだけどね。こんなに多くの魔物が進化するなんて、すごいことよ」

 

ラミリスはその状況に驚きを隠さず、興奮気味に言った。

 

「……もしかして、私の土地の強化が影響しているのかな?」

 

リンは自分の力が役立ったのかもしれないと、胸の内が温かくなるのを感じた。

 

「たぶんね。アタシはアンタの力で皆が進化したって思ってるわ」

 

ラミリスはリンに向かって微笑んだ。

 

「じゃあ、戦力アップって考えていいのかな?」

「そうね。まあ彼らが戦うかはわからないけど、少なくとも生き残る可能性は以前よりも上がったはずよ」

「そっか……」

 

リンは一人でも多く無事でいてくれることを願うと同時に、彼らに対して別の思いを抱いた。

 

(……いいなぁ)

 

リンは自分自身の進化について思い悩んでいた。自分はいまだに進化に至れていない。頑張っても頑張っても、何のきっかけも掴めない。どうすれば進化できるのか、単純にスキルを獲得するだけではダメなのだろうか。

 

もう何年も前に進めていないという事実が、リンの心に暗い陰を落としていた。

 

 

 

 

 

進化の兆しもないことに悩んでいたある日、大霊樹(ドリュアス)にミリムが現れた。

 

「リン、修行するぞ!」

「んー……ミリム、今日は外で追いかけっこをしない?」

 

これまでも何度か、どちらが速いか勝負してきたが、全てミリムに惨敗していた。今度こそは一矢報いたいと、リンは気合いを入れた。

 

「おお、いいな!やるのだ!」

 

ミリムは楽しそうに快諾し、二人は大霊樹(ドリュアス)の外に出た。

 

 

 

「よし、行くよ!」

「今回も負けないのだ!」

 

どちらからともなく空へ飛び上がり、まずリンがミリムを追いかける形で勝負が始まった。ゴールらしいゴールはなく、これはどちらかの魔素が限界になるまで飛び、最終的に前にいた方が勝ちというルールである。ただしリンの魔素量はミリムを遥かに下回っているため、勝てる見込みはほぼ皆無だった。

 

リンは自身の限界を図るついでに、ミリムにスピード勝負を挑んでいる。彼女は一生懸命に追いかけながらも、時折追い越したりするが、だいたいミリムがリンの遥か前方を飛んでいる。

 

リンは風走(ふうそう)を使ってミリムに追いつきつつ、気流操作(きりゅうそうさ)でミリムの妨害を試みる。

 

そして全力飛行から数時間後、先見者(ミトオスモノ)から魔素の過剰使用を警告された。

 

『警告。魔素の過剰使用が確認されました』

「うう……」

「リン、大丈夫かー?」

 

ミリムが心配してるようなしてないような様子でやってきた。

 

「うぅ、悔しいけど……もう無理だ。降参!」

 

リンは敗北を認め、悔しさに肩を落とした。

 

「ふっふっふっ、またワタシの勝ちなのだ!」

 

ミリムは高笑いしながらも、彼女に向かってニコニコしながら言った。

 

「本当に速くなったし、スキルの使い方も上手くなったな!」

「ありがとう……でも、進化できないんじゃ意味ないんだよなぁ」

 

リンは苦笑いしながら呟いた。自分の成長を喜ぶミリムの姿を見ていると、なおさら自分の未熟さが心に刺さった。

 

ミリムはその様子に気づき、優しい目で「どうかしたのか?」と心配そうに尋ねた。

 

「うーん、実は……進化したいんだけど進化の糸口が掴めないんだ」

 

ミリムは少し考えてから言った。

 

「そうだな……リンがラミリスと主従関係にあるなら、ラミリスが成長すればリンも変わるかもしれないぞ」

 

リンはその言葉に驚いた。

ラミリスは成長すると、小さかった姿が大人の姿になり、力も増すと聞いたことがある。リンはそれを聞いて、希望を抱いたが、やはり他人頼みというのは性に合わないと考えた。

 

「それでも、進化は自分の力で成し遂げたいな。誰かに頼ってばかりじゃダメだと思うから」

「その気持ちがあればきっと大丈夫だ。ワタシはリンならできると信じてるぞ」

 

その言葉を聞いて、リンは少し元気をもらった。

 

「うん、ありがとう、ミリム。まだまだ諦めない!」

 

自分に喝を入れると、リンは再び前を向くことができた。

 

 

 

 

 

自分の力で進化を成し遂げることを誓ったリンだったが、やはりラミリスが成長した際の自分への影響が気になっていた。果たして、自分にどのような影響があるのか。それを知りたいという思いが強まり、リンは思い切ってラミリスに会いに行くことを決めた。

 

迷宮に到着し、緊張しながらも奥へ進むと、突然、ラミリスが彼女の存在を察知したのか、飛んできた。まるで風のように軽やかに空を舞い降り、リンのすぐ目の前で止まった。

 

「リン、来てくれたのね!」

「うん、こんにちは、ラミリスさん」

 

リンは挨拶もそこそこに、すぐに本題に入った。

 

「あの、ちょっと聞きたいんだけど……」

「ん?何?」

 

ラミリスは興味深そうにこちらを向いた。

 

「ラミリスさんって、成長するんだよね?」

 

リンはドキドキしながら尋ねた。

 

「うん、するよ。もうじきかなー。そんなに遠くないから!成長したらリンに修行つけてあげるわ!」

 

ラミリスは嬉しそうに言ったが、リンの心には焦りが残った。

 

「ありがとう。それで……ラミリスさんの成長って、私に影響あるかな?主従関係だし……」

 

リンは緊張しながらも、自分の不安を吐き出すように質問した。

 

「うーん……アンタの前の樹妖精王(ドリュアス・ロード)とも主従関係だったって話したでしょ?その頃にアタシが成長したとき、アイツの力もいくらか増してたから、影響はあると思うよ」

「いくらか……そっか……」

 

リンはその言葉を噛みしめる。進化できていない自分が、ラミリスの成長で変わる可能性があることに期待する一方で、何も進展しない自分への焦りは消えなかった。

 

「リン、どうしたの?何か悩んでる?」

 

ラミリスは心配そうに尋ねる。

 

「うん……なかなか進化できないから、ミリムがラミリスさんと主従関係ならラミリスさんが成長したら私にも影響あるんじゃないかって教えてくれて……」

 

リンは思わず目を伏せた。

 

「……そっか。まぁ、可能性はあるんだし、焦らないで…って言っても焦るか。進化って謂わば覚悟の表れでもあるから、リンが樹妖精王(ドリュアス・ロード)としての覚悟を持って頑張っていけば、変わってくると思うな」

 

ラミリスの言葉には、彼女なりの理解があったが、リンの心には暗い影が残っていた。

 

「覚悟…………それ、運命を受け入れろって言ってるの?」

 

低く呟かれたリンの言葉に、ラミリスが焦ったように手を振った。

 

「違う違う!そういうんじゃなくて、もっとこう、自然とか世界と向き合って「守る」って意識を常に持ち続けるのが大事ってこと!」

 

ラミリスは熱意をもって説明したが、リンの焦りは少しも和らがなかった。

 

「……持ってるよ。持ってるから、守りたいから強くなりたいの!進化して、これからもずっと守っていきたいの!——消えたくないの!!」

 

リンの言葉には、心の奥底から湧き上がる強い思いが込められていたが、同時にそれが焦りとなって彼女を苦しめていた。

 

「リン……」

 

リンは思わず声を荒げてしまったことにハッとして、気持ちを落ち着けるためにそっと息を吐いた。

 

「……ごめんなさい」

「ううん……アタシもごめん。アタシがこんなんじゃなかったら、リンは苦しまなかったかもしれないのに……」

 

遥か昔に転生と成長を繰り返すようになったラミリス。慣れてしまったそれが、大切な友人を苦しめている一因となってしまっているかもしれないことに、ラミリスは落ち込んだ。

 

「……ラミリスさんは悪くない。私が弱いから……」

 

リンは自分の無力感を呟いた。

自分以上に暗い顔でいるリンに、ラミリスは思わず声を上げる。

 

「リンは強いわよ!リンほど頑張ってる樹妖精王(ドリュアス・ロード)、いなかったもん!アタシ、リンがいてくれて嬉しいの。これからだって一緒にいたいし、だからリンがいなくなるなんて絶対イヤよ!」

 

ラミリスは真剣な眼差しでリンを見つめ、その気持ちを伝えた。

リンはその言葉に驚き、心が温かくなる一方で、まだ解消しない不安が胸に重く残った。

 

「……」

「アタシも頑張るから……リンも諦めないで」

 

ラミリスの力強い言葉が、リンの心に響くが、彼女の焦りは消えず、どうすればいいのかという疑念が頭を離れなかった。

 

「……うん」

 

リンは、彼女の言葉を胸に刻むが、その心の奥には依然として不安が根を張っている。

 

守りたい。強くなりたい。消えたくない。リンはその想いにしがみつくことしかできなかった。進化の道が見えないまま、近づく「運命」にただ俯いていた。




ルミナス様とのデートや、ギィさんの居城への再訪問はまた番外編とかで書きたいと思います。本筋には関係ないほのぼのな内容(予定)なので。天魔大戦頑張って書くぞ!ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
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