転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第五十一話

大霊樹(ドリュアス)の中で、天魔大戦という経験したこともない「戦争」の空気を感じるリン。自分がいる場所は変わらず静かな空間だというのに、どこかから剣戟音が聞こえてくるような、地響きがするような感覚に陥っていた。

 

本当にこれでいいのだろうか。

 

皆が命がけで戦っているこの瞬間に、安全な場所で戦争の終結を待つなどどうしても性に合わない——と思う自分がいることを初めて知った。

 

(……失敗しないように、ちゃんと見なきゃ)

 

前世、愚かにも左右確認を怠ったことで事故死したリン。その失敗を生かして、今度こそはと思い、手に入れたのがユニークスキル先見者(ミトオスモノ)だった。

 

これまでにこのスキルの権能「未来予測」を使った回数はごくわずかであり、戦闘らしい戦闘の経験などない自分には持て余す能力であることをリンは自覚していた。

 

(役に立つために私にできることは、まずは知ることだ)

 

この場に留まりながらも出来ることはあるだろうか。リンは今自分に何が出来るのかを知るために、先見者(ミトオスモノ)に「未来予測」を頼んだ。

 

先見者(ミトオスモノ)、「未来予測」を使う準備をして)

『了。いつでも発動可能です』

(ありがとう。よし、あとは……)

 

リンは同一化の準備をする。もちろん外へ出るわけではない。

樹界移動(じゅかいいどう)を獲得した試練で、各地の大霊樹(ドリュアス)と同時に同一化を行った際にその周辺の情報が自分の頭に流れ込んできたのを記憶している。

今回はそれを使うつもりである。

 

多少は消耗するだろうが、あの頃よりも自分は成長している。

リンは覚悟を決めて、大霊樹(ドリュアス)へ全ての大霊樹(ドリュアス)との同一化を行うことを伝えた。

 

大霊樹(ドリュアス)、もう一度、各地の大霊樹(ドリュアス)と一度に同一化する。今どんな状況なのか情報を手に入れたい)

『……一度に同一化すれば——』

(油断すれば星幽体(アストラル・ボディー)精神体(スピリチュアル・ボディー)が分離するんでしょ?わかってる。でも私はやるよ)

 

やらずに後悔するよりも、やって後悔する方が自分的には納得できる。

リンの意志の固さを感じたのか、大霊樹(ドリュアス)は仕方ないといった様子が伝わる声色で了承した。

 

『試練の際、そなたは各地の大霊樹(ドリュアス)を従えた。そなたが望むならば、彼らも協力は惜しまないだろう』

(それは朗報だねえ。ではやりますか)

 

リンは目を閉じて、大霊樹(ドリュアス)から送られてくる魔素に集中した。その直後にまるで激流のように身体に流れ込む方々からの魔素にリンは歯を食いしばって耐える。

 

(——もう一度、私に力を貸してもらうよ)

 

そう思うのと同時に、リンは自身の魔素を放射線状に放つイメージで各地の大霊樹(ドリュアス)へと送った。それを続けることで、やがて頭の中に様々な情報が入ってくる。

 

先見者(ミトオスモノ)、情報を整理した上で「未来予測」を実行して。今私にできることを探して)

『了。情報収集および整理を開始します』

 

——ユーラザニアは真界領域(しんかいりょういき)のおかげで被害は軽微。ジュラの大森林はまだ天使族(エンジェル)は来ていない。ルべリオスも大丈夫。ドワルゴンは——。

 

ドワルゴンの様子を認識した瞬間、リンは先見者(ミトオスモノ)に向けて叫んだ。

 

先見者(ミトオスモノ)!ドワルゴンを重視して!」

『了。武装国家ドワルゴンの現在の状況について収集完了。「未来予測」を実行します』

 

瞬間、未来の映像が見えた。

間もなく天使族(エンジェル)からのとんでもない攻撃がドワルゴンに向けて放たれる。一度は耐える。けれど二度目にはドワルゴンは——。

 

多くの種族が暮らしていたあの場所が、瞬く間に崩壊するその光景にリンはぞっとした。

 

(……だめだ、絶対にそんなことさせない)

『告。現在の状態を維持したまま、エクストラスキル真界領域(しんかいりょういき)を使用することで遠隔にてドワルゴンへ設置が可能です。実行しますか?』

(やって)

 

本来なら魔素の供給のために、魔素の消費は抑えなければならない。ただでさえ魔素を消費する真界領域(しんかいりょういき)を、遠隔で設置するという初めての試みを土壇場で行うなど、正気の沙汰ではない。

 

けれどリンは迷わなかった。

魔素などいくらでも捻り出してやる。守れなければ、自分の存在に意味などないのだと強く思った。

 

『——遠隔設置の準備が完了しました。真界領域(しんかいりょういき)を発動します』

「……っ……!」

 

大霊樹(ドリュアス)の実で多少回復したとはいえ、本日二度目の真界領域(しんかいりょういき)の使用に、一瞬リンの視界が歪んだ。

 

『……成功しました。真界領域(しんかいりょういき)は安定しています』

(……大丈夫、まだいける)

 

リンは深く息を吐き出して、ドワルゴンの様子を注視する。

 

真界領域(しんかいりょういき)に戸惑う人々、けれどそれが天使族(エンジェル)の攻撃を無効化していることに気づき、これを好機と捉えて迎撃を始めている。

さすがにガゼル王の国は判断が早い。

 

しかし、攻撃が通らなくなったことで天使族(エンジェル)が動きを変えた。

距離を取り、何かを仕掛けてくるような様子にリンは真界領域(しんかいりょういき)の精度を高めるためにさらに集中する。

 

天使族(エンジェル)から放たれた強力な波動は、ミリムの「竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)」並みにすさまじく、真界領域(しんかいりょういき)で守れていない広範囲が吹き飛んだ。

 

(……先見者(ミトオスモノ)、あの辺、誰かいたかな……)

『否。生命体の反応は確認できませんでした』

(そっか。……誰もいないことはよかったけど、元に戻るといいな)

 

その後も天使族(エンジェル)の猛攻を真界領域(しんかいりょういき)が全て無効化し、彼らが使用する属性魔法は吸収され、使用者であるリンへと還元されていく。

リンはこれなら持つかもしれないと、ドワルゴンに注意を払いつつ他の地についても監視していくことにした。

 

 

 

 

 

ドワルゴンの王宮へ、一人の兵士が駆け込んだ。その先で戦況報告を待つガゼル・ドワルゴへ現状を報告するためである。

 

「陛下、先ほどの正体不明の結界が天使族(エンジェル)の攻撃を防いでおり、被害は最小限で済んでおります」

「……そうか。ならばそのまま結界内より攻撃を仕掛けよ。近接戦闘をする者は十二分に警戒するように。怪我人は結界の中心へ運べ」

「はっ!」

 

すぐさま立ち去る兵士を見送り、ガゼルは思索に耽る。

 

——正体不明の結界。それは害あるものでは決してなく、自分たちを守るために張られたものだった。いったい誰が、などとガゼルは思考することもなく、それが誰の仕業なのかわかっていた。

 

(……樹妖精王(ドリュアス・ロード)、またも我が国に力を貸してくれようとは)

 

本来であれば目にかかることも難しい存在、それが樹妖精王(ドリュアス・ロード)である。彼の者は大霊樹(ドリュアス)に住まい、表に出ることなどないからだ。

しかしリンはギィからの頼みもとい命令で分身体を覚え、大霊樹(ドリュアス)との同一化により外に出ることが可能となっている。

さらには自らの足で土地の強化をして回り、魔物たちと交流する。

 

これまでの樹妖精王(ドリュアス・ロード)という存在を思うと考えられないほど、リンは周囲と関わることを好み、精力的に活動している。リン本来の気質なのか、周囲がそうさせているのかは定かではないが、リンの行動がドワルゴンを、この世界を救っていることに疑う余地はない。

 

(この大戦の後に、我が国へ招待するのもよかろう。あの者との繋がりが、この先のドワルゴンを支えるかもしれん)

 

ガゼルはリンと次に相まみえる機会を楽しみにしながら、天魔大戦を乗り切るための次なる一手を講じることにした。

 

 

 

 

 

(……ドワルゴンはひとまず大丈夫……かな。先見者(ミトオスモノ)、他に危なそうなところってある?)

『解。数体の天使族(エンジェル)がルベリオス方面へ向かっていることが確認できました』

(ルベリオス!?……ルミナス様とロイさんとルイさん……いや、あの人たちなら大丈夫だろうけど、街に被害が出たら……いやでも余計なお世話かなぁ)

 

ルミナスのリンへの好感度は不思議なほどに上り調子だが、法皇ルイはともかく魔王ロイ・ヴァレンタインのリンに対する態度は冷ややかなものだ。下手に手を出せば何を言われるかわからない。リンはひとまず静観することにした。

 

先見者(ミトオスモノ)、ルベリオスに行った天使族(エンジェル)って……)

『告。今しがた、個体名ロイ・ヴァレンタインの攻撃により消滅しました』

(はやっ)

 

やはり大丈夫そうである。リンは一応は注意しておくように先見者(ミトオスモノ)に頼んで、次に危なくなりそうなところはないかと、先見者(ミトオスモノ)に「未来予測」で予測してもらう。

 

『告。ユーラザニアに進行中の集団を確認。約2時間後にユーラザニアと交戦中の天使族(エンジェル)との戦闘が開始され、進行中の集団が壊滅します』

(……ん?天使族(エンジェル)でもユーラザニアの人でもないってこと?)

『是。ファルムス王国の軍であると思われます』

 

リンは頭を抱えて「あのオッサンの国か……」と低く唸った。恨みはある。だが守りたい。

ていうか、この非常事態に何してんだアホかよと毒づきながら、リンはどうすべきか考えた。

 

(んー……たぶん天魔大戦に乗じてユーラザニアを潰しに来たんだよね。どうしようかな)

『告。ユーラザニアは現在、真界領域(しんかいりょういき)が展開されているため、ユーラザニアへの対処は不要です』

 

先見者(ミトオスモノ)の言葉に、それもそうだと頷くリン。ならば手を打つ必要があるのはファルムスだろうと標的を変えた。

 

(ファルムスにはお帰りいただくことにして……何かいい方法ある?)

『解。ファルムス王国の軍の進行方向にある大霊樹(ドリュアス)を介して遠隔にて気流操作(きりゅうそうさ)を発動し、方向感覚を狂わせることで妨害が可能です』

(遠隔すげぇ。というか大霊樹(ドリュアス)すごくない?便利すぎる……)

 

大霊樹(ドリュアス)を介して様々なことができるのは大きい。そしてその方法を提案してくれる先見者(ミトオスモノ)は、自分にはもったいないほどに有能である。

 

リンは素敵なスキルをくれた世界に感謝しつつ、先見者(ミトオスモノ)に提案された方法でいくことを決めた。

 

(そんじゃ、やっちゃって先見者(ミトオスモノ)

『了。対象の大霊樹(ドリュアス)にアクセスします……接続完了。続けて気流操作(きりゅうそうさ)を実行します』

(……魔素、だいぶ使っちゃったな)

『成功しました。「未来予測」にて結果を予測します……確認しました。ファルムス王国の軍はユーラザニアから離れ、自国へ帰還するものと思われます』

 

リンはホッと息を吐いた。

今のところ、大きな被害は出ていない。このままいけばいいが、そうはいかないのが現実である。

引き続き戦いの様子を大霊樹(ドリュアス)を介して把握しながら、リンは徐々に重くなる身体を誤魔化すように軽く伸びをした。

 




そのうち大霊樹(ドリュアス)を介して無双乱舞決めそう。ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
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