転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

55 / 97
第五十四話

リンはゆっくりと覚醒していく意識の中で、賑やかな声を聞いた。

 

「……だからリンのそばにはアタシがいるから大丈夫よ!」

「ズルいのだ!ワタシも一緒にリンを守るぞ!」

「いやアンタ、ずっとあっちこっちで天使族(エンジェル)をぶっ飛ばしてたでしょ。知ってんだからね!肝心なときにリンのところに来なかったくせに!」

「……う……ら、ラミリスだってリンが危険なときにリンのそばにいなかったのだろう!?」

「アタシはリンの進化の役に立ったもん!」

 

相変わらず仲が良いのか悪いのか、騒がしい二人にリンは少し笑いながらも、仲裁のために目を開けた。

 

「……二人とも、ケンカはダメだよ」

「「——リン!!」」

 

ミリムとラミリスは同時に叫び、リンの顔を覗き込んできた。

 

「大丈夫!?リン、気分悪くない?」

「心配したぞリン!ワタシがいるからもう安心していいのだ!」

「だからアンタは……まあいいわ。リン、起きれそう?」

 

リンは頷こうとして、動きを止めた。自分に膝を貸しながら、上から見下ろしてくる女性に目を瞬く。髪の色、瞳の色、顔立ち——間違いなくラミリスなのだが、自分の知るラミリスの姿ではなかった。

 

「……ラミリスさん、なんか大きいね」

「今そこ気にするの……?成長したのよ。ちょっと前にね」

「ああ、なるほど」

 

小さい彼女は可愛らしいが、成長した姿は美しい。リンは綺麗だねとふわりと微笑んだ。ラミリスはその言葉に照れたように笑い、アンタもねとリンの頭を撫でた。

 

ふと、ミリムがリンにぐっと顔を寄せてくる。

 

「……何、どうしたのミリム」

「離れなさいよ、リンが起きれないでしょ」

「おおー、見てみろラミリス。リンの目が……」

「ん?目?」

 

ラミリスもミリムに倣ってリンの顔を近くで眺めだす。あまりにも近い距離にリンは笑いそうになったが、ラミリスの顔が段々と険しくなっていっていることに気づいて首を傾げた。

 

「ラミリスさん、何かあった?」

「…………ギィのアホー!!」

「えっ!?」

 

突然のギィに対する罵倒にリンは身体をびくりとさせた。わなわなし出すラミリスとは真逆で、ミリムは愉快そうに笑っていた。

 

「ギィのせいだ絶対ギィのせいだあああ……アタシのリンなのにぃ〜……」

「よいではないか。綺麗だぞ?」

「リンはいつも綺麗よ!ああああ、アタシがずっとそばにいたら!!ギィのせいだ!」

 

何が何だかわからない。リンはただ困惑しながら、荒ぶるラミリスを宥めようと身体を起こす。

 

「あの、ラミリスさん。なんでギィさんに怒ってるの?」

「……ううう……ギィがアンタに魔素をあげたせいで進化に影響出た上にリンの目がああああ……」

「魔素……ああ、譲渡してもらったこと?あれは私が悪いんだし、ギィさんを責めなくても……」

 

嘆くように顔を手で覆っていたラミリスはくわっと勢いよく顔を上げてリンの両頬を掴んだ。

 

「わっ!?な、何、ラミリスさん……」

「アタシとお揃いの方が嬉しいわよね?そうよね?ギィとなんか絶対嫌でしょ?ね?」

「え?あ、あの……」

「今からでも遅くないかしら。いやでも、進化は終わってるし……いっそのこと目だけ取り替える?」

 

ぶつぶつと何やら恐ろしいことを呟き出したラミリス。リンはどうしたものかと、救いを求めるようにミリムに視線を移した。

 

「あの、ミリム、ラミリスさんどうしちゃったの?」

「ラミリスは拗ねてるだけなのだ。リンの目がギィとお揃いになったからな」

「は?」

 

意味がよくわからず、さらに首を傾げたリンに、ミリムは魔力感知で自分の姿を見てみるように言った。リンは言われるがままに魔力感知の視点を切り替える。

 

腰まで伸びた薄緑の髪、白い肌、そして——赤い瞳。

 

「んん!?」

「お、見れたか?ギィと同じ色なのだ!」

 

似合ってるぞ、と笑うミリムに対してラミリスが似合ってるけど似合って欲しくない……と恨み言のように呟く。リンは翡翠色の瞳が鮮やかな赤になっていることに戸惑いを隠せなかった。

 

「な、なんで……」

「はぁ……ギィから魔素をもらったんでしょ。ギィは原初の悪魔で、通常よりもずーっと強い魔素を持ってるの。それがアンタの体内に残り続けてて、進化のときに影響を及ぼして、そのせいで……はああ〜……ギィのアホ」

「……うーん、まあ別にいいか。見えるし」

「アタシは嫌だけどね!アンタがいいって言うなら仕方ないけど!」

 

ムスッとするラミリスだったが、リン自身が受け入れるのならば自分も受け入れざるを得なかった。

 

「なあなあ、リン。進化したのだろ?前よりずーっと強くなってるし、まさか覚醒したのか?」

「いや、えーっと、ちょっと待ってね」

 

リンは先ほどから耳にする「進化」という単語に心が躍りそうになった。たしか大霊樹(ドリュアス)に「エリオン」と名付けて——そこからは記憶がない。迎撃に向かわせた分身体は消えているようだが、大霊樹(ドリュアス)を攻撃してきた天使族(エンジェル)はどうなったのだろうか。

 

そんな疑問に答えたのは先見者(ミトオスモノ)改め千視ノ神(プロフェティア)だった。

 

天使族(エンジェル)は個体名エリオンへの名付けの際、彼が放った魔素により消滅しました』

(あ、そうなんだ。よかった……)

『尚、(マスター)樹妖精王(ドリュアス・ロード)から聖魔樹帝(ルフレス)への進化を果たしています』

(……やっぱり私進化したの?え、あの、エリオンは?)

『——そなたの内にいる、主よ』

「うわっ」

 

頭の中に響く声は、確かに大霊樹(ドリュアス)——エリオンのものだった。いつもの念話とはどこか違う、自分の中にその存在を感じられるような不思議な感覚だった。

 

いきなり声を上げたリンに、ラミリスが心配し、ミリムはキラキラとした目を向けてくる。

 

「え、どうしたのリン?」

「覚醒してたか?どうだ?」

「い、いや、覚醒はしてない……かな?(だよね、先見者(ミトオスモノ))」

『はい。(マスター)は覚醒魔王ではありません。なお、ユニークスキル先見者(ミトオスモノ)究極能力(アルティメットスキル)千視ノ神(プロフェティア)」に進化しています』

「ぶふぅ!」

 

たまらず吹き出したリン。いつの間にか究極能力(アルティメットスキル)になっていることに少し震え出す。

 

「だ、大丈夫?具合悪いの?」

「なんでもない……聖魔樹帝(ルフレス)に進化してたよ」

「おお!星霊樹(セレスティア)ではないのだな!」

「……ギィのせいでね」

 

呟きながらまたも不機嫌になるラミリス。リンはラミリスが怒る理由がいまいちわからなかったが、ギィから分けられた魔素の影響で星霊樹(セレスティア)ではなく聖魔樹帝(ルフレス)になったことや、瞳の色が赤くなったことは理解できた。

 

「リン、それだけ強くなったのなら天使族(エンジェル)などイチコロだろう?一緒に暴れないか?」

「ええ……ちゃんと戦えるかわかんないよ……」

「大丈夫!もしものときは守ってやるのだ!」

「まったくもう……リンは天魔大戦の間は外に出ちゃダメなのよ!魔素の供給しなきゃいけないし、ここに留まって大霊樹(ドリュアス)を守るべきよ!」

「えー!」

 

不満そうに頬を膨らませるミリム。さすがに天使族(エンジェル)相手に暴れるというのは遠慮したいリンだが、進化した自分がどこまで出来るか試したい気持ちもあった。

 

(うーん、分身体を行かせようかな。それなら何かあっても大丈夫なはずだし。どう思う?えっと…千視ノ神(プロフェティア)

『分身体を向かわせることは有効な手段といえます。私の能力である無限視界(むげんしかい)を併用することで、各地の大霊樹(ドリュアス)を介しての監視では届かない範囲まで把握することが可能です』

(……無限視界(むげんしかい)?)

無限視界(むげんしかい)とは、(マスター)が視界に収めた範囲内で、すべての対象の動きや状況を瞬時に把握できる能力です。視界に入るすべての情報を見落とさずに捉えることができ、敵の隠れた動きや隠蔽された罠も即座に感知可能となります』

(あー、なるほど。分身体の視界を使えばさらに広い範囲が把握できるのか)

『その通りです』

 

なんとまあすごい進化を遂げたものである。これは他にもとんでもないスキルを手に入れたに違いないと、リンは内心で苦笑する。

 

進化の結果をじっくり確認したいところではあるが、いつまた天使族(エンジェル)が来るかもわからない現状でそんなことをしている暇は——という考えを遮って、千視ノ神(プロフェティア)が発言した。

 

天使族(エンジェル)の襲撃は夜明け後であると、未来映写(みらいえいしゃ)によって予測できています』

未来映写(みらいえいしゃ)……未来予測が進化したの?)

『はい。特定の人物や状況の未来を映し出し、次に起こり得る可能性を映像として視認することができます。未来予測では断片的な予測しかできませんでしたが、進化により精度が飛躍的に向上しました』

(進化ってすごい……)

 

なんでも新しいスキルに加えて先見者(ミトオスモノ)のときに持っていた思考加速や森羅万象も引き継いでおり、千視ノ神(プロフェティア)との会話は思考加速により現実での数秒にも満たない速さで展開されていた。ちなみに今は深夜であり、千視ノ神(プロフェティア)による天使族(エンジェル)の再度侵攻のタイミングの予測が正しければ、まだまだ時間はある。リンはますます頼もしくなった己のスキルに感謝しつつ、これ幸いと進化結果の確認をする。

 

(それじゃ千視ノ神(プロフェティア)、私の今のスキルを教えて)

『はい。(マスター)聖魔樹帝(ルフレス)に進化後、固有スキルを獲得しています』

 

パッと頭に流れてきたスキル諸々にリンの頭は一瞬停止した。

 

 

聖域創造(せいいきそうぞう)——任意の領域を完全に支配下に置き、外部からの害ある干渉や侵入を拒絶する。領域内の物理法則や魔素の流れをも自由に操作可能。領域内にいる味方の再生能力を強化し、絶対的な守護を齎す。敵を閉じ込め、領域内の環境を操作することで破壊することも可能。

 

万象再生(ばんしょうさいせい)——万物の再生を司り、大地や植物、生命そのものを再生させる能力。枯れた地を蘇らせ、戦いで傷ついた仲間や大霊樹(ドリュアス)も完全に復元できる。ただし、広範囲の再生や同時多発的な再生には負荷がかかり、長時間の連続使用は制限される。

 

魂鎖崩壊(こんさほうかい)——敵の魂に触れることで、物理的な存在を崩壊させる。再生能力を無効化し、消滅に至らしめる。魂そのものを縛り、支配下に置くことで、対象の存在を永遠に消し去ることが可能。ただし、使用時には使用者自身にも大きな負荷がかかるため、制約が存在する。

 

深淵樹霊(しんえんじゅれい)——内に眠る悪魔族(デーモン)の魔素と共鳴し、絶対的な防御と攻撃を兼ね備えた姿に変貌する能力。

 

 

(——いや、多いから!っていうか物騒!何気に悪魔族(デーモン)の魔素と共鳴とかあるし、これギィさんに知られたら怖いよ……)

 

まさかこんな形であの人からの魔素の譲渡による影響が出るとは思わなかった。リンの頭にはギィが笑顔で威圧してくる様子が浮かんできており、これは絶対に隠し通そうと誓った。

 

(はあー、使いこなすのに時間かかりそうだなぁ。そういえば、進化前に持ってたヤツはどうなったの?)

『各種スキル、耐性は再取得に成功しています。ですが、ユニークスキル先見者(ミトオスモノ)の進化の際に、同一化と真界領域(しんかいりょういき)は魔素へ還元したため、消失しています』

 

リンは絶句した。真界領域(しんかいりょういき)はまだいい。聖域創造(せいいきそうぞう)が上位互換のようだから、納得できる。

しかし——。

 

(……ええ……と、まず同一化ないと私、外に行けないんじゃ……)

『いいえ。(マスター)は個体名エリオンへ名付けを行い、彼と完全融合したため、常に同一化しているのと同じ状態にあります』

(えっ、そうなの?本当?エリオン)

 

自分の中のもう一つの存在に問いかけると、すぐに返答があった。

 

『事実だ。我と主はすでに同一の存在となっている』

(同一……私の一部になったんだっけ。——あれ?じゃあこの大霊樹(ドリュアス)はもうエリオンじゃないの?)

『我はすでにそなたの中へと移っている。この大霊樹(ドリュアス)はもはや抜け殻のようなものだ』

 

青白い光が漂う空間の雰囲気は変わらないのに、抜け殻とはこれ如何に。

 

(自然を守るのに大霊樹(ドリュアス)はいるんじゃない?各地の大霊樹(ドリュアス)の大元でしょ?)

『大元となる大霊樹(ドリュアス)の力——つまり我の存在は今は主と一体になった。この大霊樹(ドリュアス)に代わる存在は主だ』

(……えっと、魔素の供給は?ここ、樹妖精(ドライアド)の魂もあるし、放置はできないよね?)

『主が存在する限り、主の魔素がそのまま自然を守り、豊かにし、各地の大霊樹(ドリュアス)に流れる。主がこの大霊樹(ドリュアス)で過ごすことで、樹妖精(ドライアド)の魂も成長する』

 

それを聞いて、リンはホッとした。これまでと変わりない生活を送りながらでも、あの樹妖精(ドライアド)の魂が成長するまで、守ることが出来そうである。

 

そこで次に気になるのが自身の「運命」にかかわることだ。この大霊樹(ドリュアス)に代わるのが自分だとして、吸収されるのは変わらないのだろうか。進化したことで、果たして何か変わっただろうか——。

 

(……あの、魔素を完全に使い果たしたら……?やっぱり吸収?)

『我が主の一部となったことで、それが可能な大霊樹(ドリュアス)はすでにない。主が魔素を使い果たした場合、主の魔素の恩恵を受けている地が不毛の大地となるだろう』

(そこは変わらないのね!まあ、魔素を使い果たさないように気をつけるよ)

 

進化により、一応は「運命」を回避できたらしい。リンは安堵しながらも、己の存在の重要性が増していることを自覚しだした。

 

——自然を、世界を守ることは変わらない。けれど守るべき大霊樹(ドリュアス)は自身だ。自分が生き続けることで守ることに繋がる一方で、力尽きれば多くの生命を道連れにするハメになる。

 

一層過酷な運命が待ち受けていそうではあるが、それでも諦めずに生き続けようと強く思うリンだった。




こんな感じで一旦は大霊樹(ドリュアス)に吸収される運命は回避しましたが、あまり状況は変わってません。むしろ悪化したような気がしなくもない。ご覧いただきありがとうございました!

20241102:リンの新たな固有スキルについて修正
20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。