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王座に座るファルムスの国王は、険しい表情で自軍の戻ってきた者たちを見つめていた。彼の目は怒りに燃えていた。
「なぜ、ユーラザニアへの攻撃ができなかったのだ!」
国王の激しい問いかけに、軍の将軍たちは恐れおののきながら一様に黙り込んだ。重苦しい沈黙が場を支配する中、一人の男が一歩前に出る。
「陛下、此度の作戦、私が軍を率いていたのですが、進軍中に何故か進むことができませんでした。気がついたら、自国へ戻る羽目に……」
「……何を言っているのだ!そんな馬鹿な話があるか!」
国王は激怒し、怒声を上げた。
将軍は困惑しながら続けた。
「私たちは正確な道を進んでいたはずなのですが、気がつくと方角が狂い、進行できなかったのです。まるで……」
「まるで?」
国王が鋭い目を向けると、将軍はさらに口を開いた。
「まるで、何かに影響されたかのように……」
その言葉に思考を巡らせたラーゼンは、急に何かを思い出した。
「確か、あの辺りには
国王はその言葉に反応し、眉をひそめた。
「
「そうです。彼女の力が働いたのかもしれません。無闇に戦いを挑めば、逆に我々の方が危険に晒される可能性があります」
国王は考え込む。だが彼の怒りは収まらなかった。
「
「陛下、少しお待ちを。
ラーゼンは過去にリンを捕らえようとして、ギィから警告されたときのことを思い出した。あの威圧感、下手するとファルムスが消え去ることも充分にあり得る話である。
ラーゼンの言葉に国王は渋い表情を浮かべ、考え直す。やがて彼は、怒りを抑えた声で口を開いた。
「ならば、
国王の命令に応じて、将軍は急ぎ軍を編成し、ラーゼンもまた王の命令でそれに同行することになる。彼はやや躊躇していたが、命じられれば従う他なかった。
「すぐに
こうして、ファルムス王国にて新たな命令が下され、急速に準備が進められる中、戦況はさらに混沌としていくのだった。
その数時間後、リンが住まう
「ミリム、
「分身体?もちろんいいぞ!本当はお前と一緒がいいのだが、仕方あるまい」
「ありがとう。分身体の視覚を使って
「任せるのだ!」
にこっと笑うミリムに笑い返すリンの横で、ラミリスがちょっと面白くなさそうに口を尖らせていた。
「……アタシも役に立ちたいのに」
「えっ、ラミリスさんもたくさん私を助けてくれてるでしょ?
「ほー、そんなことをしていたのかラミリス」
「だってリンの力になりたかったし」
ムスッとしたままのラミリスに苦笑しつつ、リンは彼女の手を握って微笑む。
「ラミリスさん、本当にありがとう」
「……べ、別に魔素分けるくらいなんでもないし!まあリンが嬉しいならアタシも嬉しいけど!」
「うん、すごく嬉しい。来てくれてありがとう」
「そりゃアタシはリンの主だしね!アンタが危なそうだったから飛んできたわけ!」
ラミリスは怒っているような表情だったが、口元がニヤけだすのを抑えきれないようだった。リンに握られたままの手をぶんぶん振り回すラミリスに、ミリムが対抗するように空いた方のリンの手をギュッと握った。
「リン、ワタシも飛んできたのだ!」
「ミリムにももちろん感謝し——」
「アンタはアタシよりずううううーっと後から来たじゃないミリム」
「これでも急いできたのだぞ!」
「
自分を挟んで言い争う二人にリンはフッと笑って、場を収めようと口を開く。
「ほら二人ともそのへんにしてね。そろそろ準備をしたいから」
「……そうね」
「リンが言うならこのへんにしておいてやるのだ」
再び口喧嘩をしそうな雰囲気を払うように、リンは二人の手を離して分身体を作り出した。
最初の頃よりもずっとスムーズに作れるようになっており、これも進化の影響かと思った。
「……あー、やっぱ分身体の目も赤いのね。ギィの奴今度殴ろうかしら」
「もう、ラミリスさん……そんなに気にしないでよ。赤い目なんてたぶん珍しくないよ」
「ギィの影響って言うのが気に入らないわ。アタシのリンなのに」
ラミリスとギィは仲が良い方だと思うのだが、それ故にたまに遠慮がないときがある。ギィを殴ろうかと考える者など、この世にいくらもいないだろう。リンは喧嘩にならなきゃいいなと思いつつ分身体に魔素を与えていく。
(
『可能です。
(あー、そうなんだ。まあすごいスキルだから仕方ないか。今の私の魔素ならそれなりに持つよね?)
『はい。リン様の現在の魔素量ならば、数日は維持できると思われます』
天魔大戦がどれだけ続くかはわからないが数日あればなんとかなる……と信じることにするリン。ミリムも一緒なのだから相当なことがない限りは大丈夫なはずである。
「……よし、こんなもんか。次は——
リンの手から放たれた力が分身体を包み込み、やがて見えない防壁を作り出した。その光景にラミリスとミリムが揃って感心するような声をあげる。
「これ、
「うん、
「おおおお!なあなあ、ちょっと殴ってもいいか?」
いいか?と聞きながらすでに殴る気満々で拳を構えているミリム。リンが苦笑して頷くと、即座にミリムの拳が分身体に向けられた。
衝撃がくる——はずだった。
「……あ?」
ミリムはぽかーんと口を開いたまま、分身体にぶつかる直前で止まった自身の拳を見ていた。ラミリスも目を瞬いており、リンはやっぱりそうなるよなぁと予想していた展開に少し笑った。
「思いっきりいったはずだぞ!?ぶつかった感触もなかったのに……ええい、もう一度!」
ミリムが分身体から距離を取り、勢いをつけて魔素を集めた拳を振り下ろした。——だがミリムの拳は分身体に届くことなくその勢いと魔素が消え失せて、音も衝撃もなく防がれていた。
ミリムは再び呆然とし、やがてプルプルと震えだした。
「……あの、ミリム、手大丈夫?」
「——すごいのだ!!」
「ひゃっ!?」
「リンすごいのだ本当にすごいのだ!
ミリムはリンの肩を掴んでガクガクと揺らし、興奮している様を見せる。
「あ、あの、ミリム、ちょっ、待っ……」
「さすがリンなのだ!修行が待ち遠しいぞ!」
「う、うん、あの、離、ミリ、ム」
「これなら
喋りながらリンの身体を揺らし続けるミリムを、ラミリスが止める。
「ちょっとミリム、リンを離しなさいよ!そんなに揺らしちゃかわいそうでしょ!」
「む?……あ、悪かったのだ!リン、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ……」
「じゃないわね。まったくもう、ホント加減を知らないんだから」
ラミリスの言葉にちょっとしゅんとしたミリム。リンはまだ少し揺れているような感覚に耐えつつ、ミリムに大丈夫だよと笑いかけた。ミリムはホッとしたような表情を見せて、次は気をつけるのだと笑った。
「……さて、そろそろかな」
「お、準備できたのだ?」
「うん、この分身体を連れて
「任せておくのだ!ちゃんと守ってやるからな!」
ミリムはそう言って分身体の手を掴み、飛ぶような勢いで
「ふふっ、ミリムは頼もしいね」
「そりゃあのミリムだからね〜。あれならアンタの分身体も大丈夫でしょ」
「だと思うな。あ、ラミリスさんもそろそろ戻って」
「——は!?なんで!」
笑顔から一転して驚愕の表情を浮かべるラミリスに、リンは申し訳なさそうに眉を下げる。
「ラミリスさんにはラミリスさんの役割があるんでしょ?私にばかり時間を取らせるわけにはいかないよ」
彼女は世界の均衡を保つ重要な役割を担っていると聞いたことがある。世界を脅かす天魔大戦の最中に、ここに留まるのは良くないだろうとリンは考えた。ラミリスが住まう迷宮にある精霊の棲家に、万が一のことがあるかもしれない。この
「……あ、るけど……でもアンタを守るために来たのに……」
「それはわかってるし、すごく嬉しい。でも私は、これからの私のためにも自分の力でこの戦いを乗り越えたいの」
「………でも、アンタに何かあったら……」
ラミリス自身も、ここに居続けるのは良くないことであると理解しているようだが、それでも大切な友人を守りたいと思ってここにいる。
リンはラミリスの気持ちを察しつつ、けれど彼女に甘えるわけにはいかないと己を律することに決めた。
「私は大丈夫。進化したし、充分回復したし、戦えるよ」
「……うん」
「ラミリスさん、私を信じてくれるよね?」
「……信じてるわ。リンならちゃんと出来るって……でも心配はするわよ。友達だし!」
「むしろ親友かな?」
「そうね親友ね!だから、絶対無事でいてよね!また遊ぶんだからね!」
泣きそうな顔を隠すように、ラミリスはリンの身体を抱きしめた。リンは少し驚きつつもラミリスを抱き返す。ラミリスが耳元で囁いた、「信じてるから」という一言を胸に、リンはこの場所で皆を支え守る決意を固めた。
安定のファルムスです。ご覧いただきありがとうございました!
20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?
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樹界移動を進化させる
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聖域創造を進化させる
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万象再生を進化させる
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深淵樹霊を進化させる
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「神智核」一択
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魔王覇気とか
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特に思いつかない