転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第五十七話

千視ノ神(プロフェティア)が予測した天使族(エンジェル)の再度侵攻まで残り1時間を切っていた。リンは元はエリオンだった大霊樹(ドリュアス)聖域創造(せいいきそうぞう)によって守り、エリオンに頼んで各地の大霊樹(ドリュアス)と接続して、千視ノ神(プロフェティア)無限視界(むげんしかい)にて監視を行なっていた。

無限視界(むげんしかい)でも把握できない位置に天使族(エンジェル)が現れた場合は、分身体が魔力感知などで察知してくれるだろう。来たら知らせるように命じてあるため、魔素の消費を少しでも抑えるためにそちらは一旦任せきりにしている。

 

そこでふと思った。天使族(エンジェル)が再び現れるタイミングは、自分やラミリス、ミリムは知っているが、他の者はどうなのだろうと。

 

(ねえ、千視ノ神(プロフェティア)天使族(エンジェル)が来るタイミング、他の人は知ってるの?)

『いいえ。再度侵攻については、リン様とエリオン以外には個体名ラミリス、ミリムのみが知っていると思われます』

(……それ、ちょっとまずくない?)

 

リンたちは知っているからこそ、こうして備えることもちょっと気を抜くことも出来る。だが知らない者たちはいつまた天使族(エンジェル)が来るかと怯え、常に警戒し、ろくに休まずに襲撃に備えることだろう。

そんな状態が続けば疲弊するし、いざ戦いが始まったときに身体が思うように動かないかもしれない。

 

リンは少し頭を抱え、何か手を打たなければと思考する。

 

(うーん……手っ取り早いのは知らせに行くことだよね。もう時間はないけど、知ってた方がいいだろうし。樹界移動(じゅかいいどう)で行けばすぐだし。分身体をもう一個作って——)

樹界移動(じゅかいいどう)は本体にしか使用出来ません』

(え!?そうなの?……えー、じゃあ私が行くしかないのかな。いやでもギィさんが怒りそうだし……)

 

大霊樹(ドリュアス)そのものとなったことで魔素の供給についてはあまり考慮する必要はなくなったが、天魔大戦の間は外に出るなと命じられているリン。あの黒髪の女性とも約束してしまっているため、それを反故にするのは避けたかった。

ではラミリスに念話で頼もうかと考えるが、自分の力で乗り越えると決めたからには彼女は頼れない。そもそもそんな使いっ走りのような真似をさせるわけにはいかないと、リンはラミリスに頼む選択肢は除外した。

 

ではミリムが連れている分身体を使うのはどうだろうと考える。天使族(エンジェル)が再度現れるまでに、彼らが狙うであろう場所を千視ノ神(プロフェティア)未来映写(みらいえいしゃ)で確認してもらって、そこだけに絞ればいけるかもしれない。最悪、ミリムと分身体で手分けして回ることもできる。ミリムに頼ってしまうことになるが、分身体を任せていることを考えると今さらなのでこの際気にしないことにしたリンだった。

 

(……よし、じゃあ千視ノ神(プロフェティア)天使族(エンジェル)が次にどこを狙うか未来映写(みらいえいしゃ)で見せてくれる?)

『はい。未来映写(みらいえいしゃ)を実行します——』

 

リンの頭の中に鮮明な映像が映し出された。

ドワルゴン、ユーラザニア、ルベリオス、ファルムス——そしてサリオン。

 

(いや多いな!っていうかサリオンって大霊樹(ドリュアス)なかったから土地の強化してないんだけど……)

『魔導王朝サリオンは「神樹」の守護が強く働いているため、不要かと思われます』

(神樹?大霊樹(ドリュアス)とは違うの?)

『はい。神樹とは魔導王朝サリオンの首都を守護する神の樹であり、現存する2つの神の手による聖遺物の内の1つです。世界の魔素を安定させて天災からこの星を守る役目を担っている大樹であり、過去に起きた個体名ミリムの暴走では、汚染の被害からサリオンの地を守っていました』

 

なんだかよくわからないけどすごい樹らしい。すごい樹ばっかりだなこの世界、とリンは妙に感心する。

 

(えっと、その神樹があるから大丈夫なんだね?)

『サリオンの首都“エルミン”は巨大な神樹の内部に築かれた都であり、それは天使族(エンジェル)の侵攻を考慮された結果であると思われます。リン様のお力は現状必要はないかと』

(すごいなあ。いつかちゃんと見て回りたいな。……じゃあ、サリオンはいいとして、他だね。ドワルゴンとユーラザニア、ルベリオス、ファルムス……これ間に合わないんじゃ?)

 

思索に耽っている今このときは、思考加速により現実での数秒間であるため問題はない。だがもう天使族(エンジェル)が現れる時間まで1時間もないのだ。いくら分身体やミリムが全力を出したとて、四カ国全てに伝えるなど難しいだろう。

 

(あああ、後手後手だあ……どうしよう)

『ドワルゴン及びユーラザニアは聖域創造(せいいきそうぞう)により守られているため、サリオン同様に除外しても問題はありません』

(……うーん、なんか申し訳ないけど仕方ないか。後で謝るとして、ルベリオスとファルムス優先かな?あ、でもファルムスはまずいかも)

 

ファルムスはどうも厄介なところがある。リンは自分を狙ったりユーラザニアを狙ったりしているかの国に対してあまりいい印象は抱いていなかった。しかし傍観することは己の役割に反するため憚られる。

天使族(エンジェル)の再度侵攻を分身体が伝えにいけば、高確率で何かされそうである。聖域創造(せいいきそうぞう)を使用しているとはいえ、何があるかわからない。ミリムを伴っていけば分身体は安全だろうが、ファルムスが安全ではなくなりそうで、リンは低く唸った。

 

(あー……どうしよう千視ノ神(プロフェティア)、何かないかなぁ)

『……ファルムス王国に限定して、未来映写(みらいえいしゃ)を実行します——ファルムス王国の軍勢がこの地を目指して進行中です。天使族(エンジェル)の再度侵攻と同時刻に到着予定です』

(はあ??えっ、無限視界(むげんしかい)でもっと早く感知できなかったの?)

無限視界(むげんしかい)は本来リン様の視界に入った情報を取得するものであり、現在は大霊樹(ドリュアス)を介しての監視を用いているため、大霊樹(ドリュアス)から離れた場所は感知できません。ファルムス王国の軍勢は、大霊樹(ドリュアス)から離れたルートで進軍しているようです』

 

あの国は本当に何を考えているのかとリンは舌打ちしたい気分になった。いっそ再度侵攻については知らせず放置してやれば天使族(エンジェル)の襲撃に危機感を抱いて引き返すかもしれない。しかしそれには多大な犠牲が出るだろう。

 

「ああもう!こんなときぐらい大人しく自分の国にいればいいのに!」

『ファルムス王国の目的はリン様を懐柔し、その力を自国のために使うことである模様です』

「誰が懐柔されるか!私は皆のために力を使うの!ファルムスだって危なくなるようなら守るし、それじゃ足りないんかー!」

 

大霊樹(ドリュアス)の中にリンの叫びが木霊した。怒りを抑えるように息を吐き出して、再び思考に戻る。

 

(……とりあえずルベリオスはミリムと分身体に任せよう)

 

リンはすぐに分身体を介してミリムとコンタクトを取ることにした。

 

 

 

 

 

遡ること1時間前——大霊樹(ドリュアス)を出たミリムはリンの分身体と共に、方々へ飛び回っていた。まだ天使族(エンジェル)が現れるまで少し時間があるため、ミリムはこの僅かな時間を有効活用しようと、思いついたことを実行に移すことにした。

 

「なあなあ、天使族(エンジェル)が現れるまでワタシと遊ばないか?リンの聖域創造(せいいきそうぞう)のすごさはわかったから、今度は攻撃の方が知りたいのだ!」

 

分身体は静かな表情でミリムを見つめ返した。本体が命じた以外のことは行わない。天使族(エンジェル)の迎撃、各地の監視、そしてもしも自身に危険が迫れば相応の対処をして生き残ること——リンが分身体に命じたのはそれだけだった。故に、ミリムからの誘いに応じることはなく、ミリムの横を通り過ぎて、現状で実行可能な各地の監視を行う。

 

ミリムは、まるで自分の存在を無視されているような気がして、呆然とした後少し寂しさを覚えてしゅんとして、やがて悔しそうにムッとした表情を浮かべる。

 

「——待つのだ!ワタシを無視するなど許さないのだ!」

 

分身体はミリムの制止など意にも介さず、地上を見下ろして監視の命を実行し続ける。ミリムは何とか分身体の意識を自分に向けさせるため、手に魔素を収束させて、分身体に向けて放った。

 

「いい加減にこっちを向くのだー!」

 

ミリムが放った魔素の塊は、分身体へぶつかる直前にフッと消え失せる。聖域創造(せいいきそうぞう)により、外部からの干渉は一切拒絶されるからだ。

ミリムはさらに悔しそうに顔を歪めて、より強い一撃を喰らわせようと空気が震えるほどの魔素を集めだす。

 

「……——攻撃行動を確認。敵と認識します」

「えっ?」

 

分身体が唐突に喋り、ミリムは思わず動きを止めた。ミリムの手には視認できるほどの魔力が溜め込まれており、分身体は自分に対しての悪意ある——ただしミリムにそんな気はない——行動と判断して、危険を排除するために戦闘態勢に移行する。

 

深淵樹霊(しんえんじゅれい)を発動——」

 

分身体が己の内に眠る魔素を呼び起こし、共鳴する。白い肌が浅黒く染まり、薄緑の髪が赤く変化した。曝け出した両の腕には木の根が蔓延っているような模様が浮かび上がり、普段は抑えられている魔素が爆発するような勢いで増大した。

 

ミリムはその変貌ぶりに咄嗟に距離を取る。

 

「……この気配、悪魔族(デーモン)か?」

 

ミリムの推測は間違いではなかった。ギィから与えられた魔素と共鳴することでその力を発揮する、それが深淵樹霊(しんえんじゅれい)である。リン——というか分身体の気配は聖魔樹帝(ルフレス)ではなく、悪魔族(デーモン)そのもののような強烈なものだった。

 

「発動完了。……排除します」

「——!!」

 

瞬く間に分身体がミリムとの距離を詰め、その拳で殴打する。ミリムは多重結界によりほとんどダメージはないが、以前のリンとはまるで別人のような姿と力に笑みを浮かべた。

 

「……面白いのだ。遊んでやろう」

 

本体が「何かあれば連絡するように」と命じていれば、このような事態にはなっていないのだが、残念なことにリンはそれを失念していた。天使族(エンジェル)の再度侵攻を前に、リン自身も、千視ノ神(プロフェティア)すらも予測出来なかった戦いが始まろうとしていた。




ミリムと分身体の様子を書いてたらこんなことに。まあ(ミリム的には)遊びなので。そして分身体からすれば何かあったら対処してねという命令を実行してるだけなので(言い訳)。ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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