転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

6 / 97
第六話

大霊樹(ドリュアス)の中を、いつものようにふわふわと飛ぶ練習をしながら探検していると、私は上手く着地できずに足を踏み外してしまった。

 

「わっ、やば――!」

 

空中でバランスを崩した私は、着地にも失敗し、そのままゴロンと足を滑らせ――

 

ズルッ、ドサッ。

 

「ぐえっ」

 

気づいたときには、根と根のあいだの狭い隙間に落ち込んでいた。

落ち葉のクッションこそあったけど、それどころじゃない。

 

「え、えぇーっ!? なにこれ絡まってる!? 嘘でしょ……!?」

 

四肢に蔦と根がびっちり絡みついて、ぴくりとも動けない。

体を捩っても、しなるように付いてくるし、無理に引っ張れば締め付けが強くなる。

 

「いやほんと、どうしろとこれ……!」

 

一応、魔法でなんとかならないかと考えるけれど、火なんて使ったら大霊樹(ドリュアス)が燃えるわけで、絶対にNG。

そもそも火の魔法、練習してないし!

 

「助けて……先見者(ミトオスモノ)……!」

《解。現在の状況における安全な解除手段は存在しません。火属性魔法は推奨されず、物理的破壊も大霊樹(ドリュアス)に損傷を与える恐れがあります》

「ちょっと待って、じゃあ私このまま……植物の肥料になる未来しか見えないんだけど!?」

 

そんなときだった。

 

「――おいおい、これが新しい樹妖精王(ドリュアス・ロード)ってやつか? 冗談だろ」

 

ぞくり、とするような声が上から響いた。

冷ややかで、底に炎を孕んだような重たい声。

 

見上げた先には――

 

紅い髪と瞳。漆黒のコートを翻し、飄々とした笑みを浮かべる男が、片足を根に掛けてこちらを見下ろしていた。

 

「ど、どちら様ですか……?」

「オレはギィ・クリムゾン」

《告。魔王の一人です》

(――ま、魔王ぅぅ!?)

 

先見者(ミトオスモノ)の補足に、衝撃で一瞬混乱しかけた頭がフリーズしかけたが、ギィと名乗ったその人は、ため息交じりに笑った。

 

「ラミリスがさ、“面白いやつが現れた”って言うから見に来たってのに……なんだこのザマは」

「い、いや、落ちただけで! わざとじゃなくて!」

「ははっ、そりゃそうだろうよ。でもよ、樹妖精王(ドリュアス・ロード)ってのは大霊樹(ドリュアス)と一体の存在のはずだ。その守護者が、木に締め上げられてんのはさすがにギャグだぜ?」

「わ、笑えないギャグですぅぅ……!」

 

ギィさんは肩をすくめて、手をひと振りした。

それだけで、私を絡め取っていた蔦や根がスルスルと解けていく。

 

「えっ……そんな簡単に……?」

「この程度のことで驚くな」

 

ギィさんは口の端を上げて、不敵に笑った。

その表情に、先見者(ミトオスモノ)の警告が脳内に表示されそうになるのを感じた。

 

でも、それより何より――

 

「……かっこいい……」

 

ぼそりとこぼれた私の言葉に、ギィさんがにやりと笑う。

 

「へぇ」

「あわわわ、なななんでもないです!」

「気にすんな。そういう素直なやつ、オレは嫌いじゃねぇよ」

(余裕の魔王……圧がすごい……でもなんか嫌じゃない……) 

「で、忠告だ」

 

ふと、ギィさんの声のトーンが変わる。鋭く、冷静な目が私を射抜いた。

 

「今の状態、どう見ても大霊樹(ドリュアス)が“お前を助けようとしていない”ってのはわかるな?」

「……え……?」

「お前が本当にこの大樹に認められてるなら、こんなふうに締め上げられたりはしねぇ。つまり、まだお前は樹妖精王(ドリュアス・ロード)として“認められ切ってねぇ”ってこった」

「そんな……でも私は、転生したときに――」

「知ってる。名も得て、ラミリスの祝福も受けた。だがな、そういう形式的な“始まり”は、ただのスタートラインに過ぎねぇんだよ」

 

ギィさんの声は淡々としていた。けれど、そのひと言ひと言が心に刺さってくる。

 

「お前はまだ“選ばれたばかり”。これから、“信頼”を得るために行動しなきゃなんねぇ。大霊樹(ドリュアス)も、世界も、そう簡単には甘くねぇぞ?」

「……はい……」

 

自然と、私の背筋が伸びていた。

 

「ま、オレはラミリスが面白がる理由もわかる気がするぜ? お前、素直で反応がいい。育て甲斐があるってな」

 

肩にぽん、とギィさんの手が置かれる。それだけで、身体がビリッとするほどの力を感じた。

 

「次に会うときは、もう少しマシな姿を見せてくれよな。樹妖精王(ドリュアス・ロード)――リン」

 

名前を呼ばれて、私はびくりとする。

それは初めて、“魔王の名を持つ存在”に、私の名が通じた瞬間だった。

 

「……はい!」

 

私は強く頷いた。

 

そして――去っていくギィさんの背中を、しっかりと目に焼き付けた。

 

(私、まだまだだ……でも、きっと、なれる。なってみせる)

 

もっと大樹と繋がるために。

もっと、この世界に“根を張る”ために――

 

私は、もう一度立ち上がる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。