「わっ、やば――!」
空中でバランスを崩した私は、着地にも失敗し、そのままゴロンと足を滑らせ――
ズルッ、ドサッ。
「ぐえっ」
気づいたときには、根と根のあいだの狭い隙間に落ち込んでいた。
落ち葉のクッションこそあったけど、それどころじゃない。
「え、えぇーっ!? なにこれ絡まってる!? 嘘でしょ……!?」
四肢に蔦と根がびっちり絡みついて、ぴくりとも動けない。
体を捩っても、しなるように付いてくるし、無理に引っ張れば締め付けが強くなる。
「いやほんと、どうしろとこれ……!」
一応、魔法でなんとかならないかと考えるけれど、火なんて使ったら
そもそも火の魔法、練習してないし!
「助けて……
《解。現在の状況における安全な解除手段は存在しません。火属性魔法は推奨されず、物理的破壊も
「ちょっと待って、じゃあ私このまま……植物の肥料になる未来しか見えないんだけど!?」
そんなときだった。
「――おいおい、これが新しい
ぞくり、とするような声が上から響いた。
冷ややかで、底に炎を孕んだような重たい声。
見上げた先には――
紅い髪と瞳。漆黒のコートを翻し、飄々とした笑みを浮かべる男が、片足を根に掛けてこちらを見下ろしていた。
「ど、どちら様ですか……?」
「オレはギィ・クリムゾン」
《告。魔王の一人です》
(――ま、魔王ぅぅ!?)
「ラミリスがさ、“面白いやつが現れた”って言うから見に来たってのに……なんだこのザマは」
「い、いや、落ちただけで! わざとじゃなくて!」
「ははっ、そりゃそうだろうよ。でもよ、
「わ、笑えないギャグですぅぅ……!」
ギィさんは肩をすくめて、手をひと振りした。
それだけで、私を絡め取っていた蔦や根がスルスルと解けていく。
「えっ……そんな簡単に……?」
「この程度のことで驚くな」
ギィさんは口の端を上げて、不敵に笑った。
その表情に、
でも、それより何より――
「……かっこいい……」
ぼそりとこぼれた私の言葉に、ギィさんがにやりと笑う。
「へぇ」
「あわわわ、なななんでもないです!」
「気にすんな。そういう素直なやつ、オレは嫌いじゃねぇよ」
(余裕の魔王……圧がすごい……でもなんか嫌じゃない……)
「で、忠告だ」
ふと、ギィさんの声のトーンが変わる。鋭く、冷静な目が私を射抜いた。
「今の状態、どう見ても
「……え……?」
「お前が本当にこの大樹に認められてるなら、こんなふうに締め上げられたりはしねぇ。つまり、まだお前は
「そんな……でも私は、転生したときに――」
「知ってる。名も得て、ラミリスの祝福も受けた。だがな、そういう形式的な“始まり”は、ただのスタートラインに過ぎねぇんだよ」
ギィさんの声は淡々としていた。けれど、そのひと言ひと言が心に刺さってくる。
「お前はまだ“選ばれたばかり”。これから、“信頼”を得るために行動しなきゃなんねぇ。
「……はい……」
自然と、私の背筋が伸びていた。
「ま、オレはラミリスが面白がる理由もわかる気がするぜ? お前、素直で反応がいい。育て甲斐があるってな」
肩にぽん、とギィさんの手が置かれる。それだけで、身体がビリッとするほどの力を感じた。
「次に会うときは、もう少しマシな姿を見せてくれよな。
名前を呼ばれて、私はびくりとする。
それは初めて、“魔王の名を持つ存在”に、私の名が通じた瞬間だった。
「……はい!」
私は強く頷いた。
そして――去っていくギィさんの背中を、しっかりと目に焼き付けた。
(私、まだまだだ……でも、きっと、なれる。なってみせる)
もっと大樹と繋がるために。
もっと、この世界に“根を張る”ために――
私は、もう一度立ち上がる。