転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第五十九話

ミリムとリンの分身体は、猛スピードで空を駆け抜けていた。

 

「——見えたのだ!!」

 

ミリムはキラリと目を光らせるようにある建物に狙いを定める。

隣を飛ぶリンの分身体の腕を掴み、その凄まじい勢いを殺すことなく——むしろさらに加速して、ルベリオスにある聖神殿に突っ込んでいった。

 

聖神殿の壁を破壊しながら勢いよく入ってきた彼女たちの姿に、様子見のために出歩いていており、たまたま居合わせたルミナス・バレンタインはぽかーんと口を開けた。

 

ミリムの突撃による轟音に何事かと、聖神殿の警備をしていた者たちが集まるが、ここでルミナスの姿を見せるわけにはいかないと判断した彼女の配下の一人がすぐに追い払い、その場は再び静まり返った。

 

「もうすぐ天使族(エンジェル)がまた攻めてくるのだ!」

 

と、ミリムが叫ぶ。

その声に反応して、ルミナスは「ミリム貴様……何なのじゃ、いきなり——」と抗議しようとしたが、視界に入ったのはミリムの後ろに立つリンの分身体だった。

 

「……これは、リンの分身体か?」

 

ルミナスは驚きつつ呟き、分身体が頷く。

 

「リンから伝言だ!もうすぐ天使族(エンジェル)が再度侵攻してくるのだ!」

 

ミリムが改めて説明する。

ルミナスはその言葉を受けて、念話にて法皇ルイに指示を出した。

 

(——ルイ、天使族(エンジェル)がもうじき現れる。貴様はすぐにこのことを皆に伝え、備えるのじゃ)

天使族(エンジェル)が……承知いたしました)

 

地下にいたルイは即座に行動に移る。

この時間帯の襲撃に備えるには聖騎士団(クルセイダーズ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)神殿騎士団(テンプルナイツ)を可能な限り結集せねばならないが、各地の守護にあたっている者も多く、なかなか厳しい戦いになりそうだとルイはルミナスからの念話の向こうで厳しい顔をしていた。

 

「じゃあ、確かに伝えたからな!」

 

ミリムはリンの分身体の手を引いて去ろうとしたが、ルミナスが声を張り上げる。

 

「待つのじゃ!分身体は置いてゆけ!」

「コイツには大事な仕事があるからダメだぞ!ワタシはリンにコイツのことを任されているからな!」

 

ミリムは自信満々に胸を張る。

ルミナスはしばらく悔しそうにミリムを見つめたが、やるべきことがあるのだろうから仕方ないと諦める。

以前行ったように、分身体を通して本体へ念話を送る。

 

(……リンよ、またいつでも妾のところへ来るがよい)

(——えっ、ルミナス様!…あ、ミリムたち着いたんだ……。えっと、はい、戦いが終わったらお邪魔します!)

(ふふ、待っておるぞ)

 

ルミナスが分身体から離れると、ミリムは再び「ではな、バレンタイン!」と笑って、分身体と共に空へ飛び去っていった。

 

その一瞬を見送り、ルミナスは先ほどミリムによって壊された聖神殿の一部を見てため息をついた。

 

「まったく、あの破壊魔は……」

 

ルミナスは今にも舌打ちしそうな険しい表情で、戦いの準備に入るべく動き出すのであった。

 

 

 

 

 

ほどなくして太陽が完全に姿を現し、ルベリオスは光に照らされた。

だが、その陽光は平和をもたらすものではなく、逆に戦場の緊迫感を増すかのようだった。

 

天上から絶対的な秩序を纏った輝きが降り注ぎ、地上の兵たちは圧倒的な威圧感に震え上がった。それは天使族(エンジェル)の軍勢。

主天使(ドミニオン)力天使(ヴァーチャー)能天使(パワー)

 

昨晩の襲撃で現れたのは全てが下級天使であったため、リンの土地の強化による影響を受けたロイたちが密かに排除することができた。

しかし此度出現した天使族(エンジェル)は明らかに格が違っていた。彼らはルベリオスを浄化するかのごとく無慈悲に降り立ち、戦闘態勢を取っていた。

 

 

 

 

 

地上の戦力として動けるのは聖騎士団(クルセイダーズ)神殿騎士団(テンプルナイツ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)のみ。

血紅騎士団(ブラッディーナイツ)や三公、超克者たちは闇に乗じることができないこの時間帯では表立って戦うことはせず、地下に身を潜め、闇夜を待つしかない。

昨晩は騎士たちが戦う中で、彼らに悟られないように戦いはしたが、今はそれは出来ない。

特にルミナスや魔王という立場にあるロイが戦ってしまうと、「人類の敵対者である魔王」や「神ルミナス」のレッテルが剥がれてしまいかねないからである。

彼らはただ、地上で戦う者たちが無事であるようにと祈っていた。

 

 

 

 

聖神殿の前には、聖騎士団(クルセイダーズ)神殿騎士団(テンプルナイツ)がそれぞれ布陣を整え、天使族(エンジェル)の軍勢を前に立ち尽くしていた。

先頭に立つ聖騎士団(クルセイダーズ)の団長は声を張り上げるが、その響きには不安が滲んでいた。

 

「全員、陣を崩すな!ここは我々の神聖な地。侵入は許さん!」

 

だが、彼の言葉が終わるか終わらないかのうちに、前列の能天使(パワー)が無表情のまま静かに進軍を開始した。

その瞳には冷たい光が宿り、無感情でこちらを睨んでいる。

彼らの一体が冷たい声を響かせ、剣を振りかざした。次の瞬間、閃光が放たれ、何人もの騎士が一瞬で身体を貫かれ、絶命した。

 

「くっ……まだだ、全員持ちこたえろ!」

 

聖騎士団(クルセイダーズ)団長は奮い立たせるように叫ぶが、主天使(ドミニオン)は鋭い光の槍を振り下ろし、聖騎士団(クルセイダーズ)の盾や結界をあっけなく打ち砕いていく。

光の刃は容赦なく身体を裂き、倒れた仲間を無機質な目で踏み越えて前進を続ける天使族(エンジェル)の姿に、騎士たちは戦慄を覚えた。

 

「どうして……どうしてこんな無慈悲な攻撃が許されるんだ!」

 

一人の騎士が叫んだ瞬間、力天使(ヴァーチャー) が一歩前に出てその言葉を遮るかのように剣を振るい、彼の頭上から光の雨が降り注いだ。

騎士たちは咄嗟に盾を構えたが、その光は鎧を貫き、骨まで焼き尽くすような激しい痛みが彼らを襲った。

 

 

 

 

 

聖騎士団(クルセイダーズ)が戦っているさらに後方——聖神殿の入り口では、神殿騎士団(テンプルナイツ)がなんとか天使族(エンジェル)の進行を食い止めようと奮戦していた。

法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)も後方で結界を張り、聖神殿の守護を行っている。だが、その結界の一角に向けて、主天使(ドミニオン)が一歩前に出ると、まるで嘲笑うかのようにその手から光の矢を放った。

法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)の兵が必死に防御を構えたものの、光の矢は簡単に結界を破壊し、その衝撃波が兵たちを吹き飛ばした。

 

「……くそ、相手にならないのか……!」

 

神殿騎士団(テンプルナイツ)の団長が絶望的に呟きながらも、神聖魔法で何とか主天使(ドミニオン)たちを撃退しようと試みる。

聖光衝波(ジャッジメント・ウェーブ)」を放ち、光の波動が主天使(ドミニオン)の一体を包み込んだ。

だが、主天使(ドミニオン)はわずかにひるんだだけであり、その目には一切の動揺がなかった。

逆に主天使(ドミニオン)は手をかざし、眩い光を放ち、その衝撃波が騎士団を飲み込み、次々に騎士が地に伏していった。

 

法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)の兵たちは一歩も引かぬ覚悟で天使族(エンジェル)に立ち向かっていたが、能天使(パワー)が容赦なく彼らを一掃していく。

光の刃が兵士たちの胸を貫き、絶命していく中で、彼らは最後の力を振り絞り、友の屍を盾代わりにしながら戦い続けていた。

しかし、その努力も無情なまでに打ち砕かれ、騎士たちは次第に追い詰められていくのだった。

 

 

 

 

 

聖神殿の奥深くに潜んでいたルミナスは、この惨状を目の当たりにしながらも動かず、冷静に影から支援の手を伸ばしていた。彼女は陰から「暗黒聖光波」を発動し、侵入してきた力天使(ヴァーチャー) たちを一掃した。その力を受けた天使族(エンジェル)は一瞬動きを止め、光の中に崩れ去っていった。

しかし、主天使(ドミニオン)はその姿を見ても一切の恐怖を見せず、無表情のまま進軍を続ける。

 

「これが……天使族(エンジェル)の強さか……」

 

法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)の団長が呟く。彼らは自分たちがただの数合わせにしか過ぎないことを理解しながらも、戦いを放棄しなかった。

 

「……まだ諦めるな!」

 

残り少ない騎士たちは最後の気力を振り絞り、主天使(ドミニオン)に立ち向かった。だが、彼らの剣は主天使(ドミニオン)の身体に届くことすらなく、光の刃が逆に彼らの身体を一瞬で切り裂き、無数の屍がルベリオスの地に重なっていった。

 

 

 

聖神殿の入り口では、最後の神殿騎士団(テンプルナイツ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)の兵士が、仲間のために時間を稼ぐため、必死に立ち塞がっていた。

 

「頼む……せめて、この地を守ってくれ……!」

 

兵士たちは震えながらも立ち続け、天使族(エンジェル)に向かって剣を振るい続けた。

だが、その一瞬一瞬が彼らにとっては命を削る行為でしかなく、光の剣が彼らの身体を次々と引き裂き、血の海が聖神殿前に広がっていった。

 

 

 

 

 

ルベリオスでの戦いを、リンは大霊樹(ドリュアス)の中から見ていた。

 

昨晩の戦いの様子からして、ルベリオスなら大丈夫だと思っていた。だが甘かった。

昼間の戦力は夜よりも少なく、かつルミナス教のことを考えればルミナスらはおいそれと手出しはできないのだ。

しかも今回現れた天使族(エンジェル)は、どう見ても昨晩の天使族(エンジェル)よりも強い。

リンが土地の強化を二度行っているにもかかわらず、騎士たちとの力の差は歴然であった。

 

(……ルミナス様たちはたぶん出てこないよね。ルミナス教の「仕組まれた救済」がバレたら大変だし)

 

——考えられるのは、騎士たちが全滅する前にルミナスらが逃亡し、再建国すること。

 

それが彼らの選択ならば、リンに止める権利などない。

本来なら自然を守るためにいる自分がここまでするのは、役割から外れている「余計なお世話」なだけかもしれない。

 

それでもリンは守りたいと思った。

彼らの国は彼ら自身でどうにかすべきなのだと理解していても、手を差し伸べずにはいられない。

 

(……千視ノ神(プロフェティア)、ルベリオスに聖域創造(せいいきそうぞう)を展開)

『——ルベリオス、聖神殿の奥の院の大霊樹(ドリュアス)を中心に、聖域創造(せいいきそうぞう)を展開します……成功しました』

(ありがとう)

 

千視ノ神(プロフェティア)からの警告はなかった。例え聖域創造(せいいきそうぞう)の維持と各地の監視に魔素がどれだけ消費されようとも、リンは譲らないと理解しているからである。

リンの力がルベリオス全域に広がり、不可視の結界が聖神殿とその周囲を包み込んだ。

神聖な領域が一瞬にして構築され、その力が天使族(エンジェル)を焼き尽くす。

 

その領域内で、冷徹な主天使(ドミニオン)力天使(ヴァーチャー) たちは無言のまま、聖域創造(せいいきそうぞう)の波動に飲まれて次々と消え去っていく。彼らの冷たい表情は最後まで変わらず、ただ静かに無に帰していった。その無数の光の破片が宙を舞い、地上に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

聖神殿の前には、無数の屍が横たわり、血と光の破片が混じり合う不気味な静寂が広がっていた。ルベリオスの地は、リンの聖域創造(せいいきそうぞう)によってかろうじて救われたものの、残された兵士たちは無数の仲間の犠牲に愕然とし、戦いの余韻に浸ることしかできなかった。

 

ルミナスは陰からその光景を見つめ、無言でただひっそりと自分の領域を見守り続けた。その瞳には、無慈悲な戦いと失われた命への哀しみが浮かんでいたが、それを誰も知ることはなかった。




捏造まみれの戦いです。
ご覧いただきありがとうございました!

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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