転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第六十話

荒涼とした大地に冷たい光が満ち、空には数多の天使族(エンジェル)が整然と浮かび、冷ややかな視線でリンの分身体とミリムを見下ろしていた。

天使族(エンジェル)は無表情で一切の容赦を見せず、冷徹なままに二人を狙っていたが、ミリムはその視線を楽しげに受けて、不敵な笑みを浮かべている。

 

「ふっふっふっ、ワタシが相手だ!さあ、かかってこい!」

 

ミリムが軽快に声を上げ、拳に膨大な魔素を集中させると、力天使(ヴァーチャー) に突撃。拳が天使族(エンジェル)の胸元を貫き、轟音と共にその身体が砕け散る。

しかし、他の天使族(エンジェル)は冷ややかなままに、無数の光の刃を生成し、二人に向かって放ってきた。

 

リンの分身体は表情を崩さず素早く回避し、淡々と距離をとる。ミリムの援護には回らず、ただ敵の攻撃を冷静に受け流しながら分析を続けていた。

分身体は、普通の攻撃では再生力を持つ天使族(エンジェル)に十分な効果を与えられないことを瞬時に判断し、戦法を切り替えることを決意する。

 

「……深淵樹霊(しんえんじゅれい)、発動」

 

無表情のまま呟くと、分身体の身体が闇に包まれ、その肌が浅黒く染まり、薄緑の髪が真紅に変わる。深淵樹霊(しんえんじゅれい)による悪魔族(デーモン)の力が全身に宿り、彼女は冷ややかな視線で天使族(エンジェル)を睨んだ。

 

分身体は天使族(エンジェル)に無言でその力を向け、目の前の能天使(パワー)に向けて手をかざした。

 

冥絶縛鎖(めいぜつばくさ)

 

と、淡々と呟くと、漆黒の根が何もなかった空間から現れ、目の前の天使族(エンジェル)を絡め取った。

その根が天使族(エンジェル)の身体に巻きつき、再生を封じるように締め上げる。

 

天使族(エンジェル)の無機質な目が分身体を捉え、無表情のまま抵抗を試みるが、分身体は一切動じず、根で動きを封じたまま、深淵樹霊(しんえんじゅれい)の力を込めた拳をその胸元に突き刺す。

圧倒的な力で貫かれた天使族(エンジェル)の身体は、再生することなく崩れ落ちた。

ミリムはその様子を見て、「なかなかやるではないか!」と笑みを浮かべ、さらに別の天使族(エンジェル)を粉砕していく。

彼女は楽しげに次々と攻撃を加え、天使族(エンジェル)の陣形を崩していった。

 

一方で、分身体は冷静な目のまま天使族(エンジェル)を見つめ、冥絶縛鎖(めいぜつばくさ)を再度発動。

黒い根が次々と周囲の空間から伸び、複数の天使族(エンジェル)の足元を絡め取り、その動きを封じた。

天使族(エンジェル)は冷たい視線で反撃の構えを取ろうとするが、分身体は淡々と根を強化し、敵を一体ずつ始末していく。

 

彼女は表情ひとつ変えず、必要最低限の魔素を維持しながら冥絶縛鎖(めいぜつばくさ)天使族(エンジェル)の動きを封じ、確実な一撃を加えていった。

 

 

 

分身体の冷静な攻撃と、ミリムの強烈な攻撃により、天使族(エンジェル)は次々と消えていった。

全ての天使族(エンジェル)が消え、戦場に静寂が戻ると、分身体は悪魔族(デーモン)の力を収束させ、深淵樹霊(しんえんじゅれい)を解除した。

彼女の身体に纏っていた闇が静かに消え、元の姿に戻る。

 

ミリムは満足そうに分身体に近づき、笑顔を浮かべて声をかけた。

 

「やっぱりお前は強いのだ!すごかったぞ!」

 

分身体は無言で一礼をし、ただ淡々とその場を後にしようとする。ミリムはその反応に少しつまらなそうにしたが、すぐに笑顔を取り戻し、分身体の後を追った。

 

「さあ、次はあっちだ!あっちにもいっぱいいるかもしれないぞ!」

 

まるで遠足を楽しむようなミリムとは対照的に、分身体はただ一つ頷き、冷静な動きでミリムの示した方向へと進んでいった。

その瞳には、命じられた行動を完遂するという無機質な使命感だけが宿っていた。

 

 

 

 

 

そろそろ分身体の魔素の残量が危ない。

そう千視ノ神(プロフェティア)から警告された本体であるリンは、そういえば魔素がなくなりそうになったら戻ってくるように命じてなかったなぁと、自分の抜け具合に半笑い状態でいた。

 

(んー……今はサリオン方面に行ってるのか。あそこは大霊樹(ドリュアス)ないから監視出来てなかったし、ちょうどいいんだけど……)

 

このまま向かったとして、魔素切れで分身体は消滅する。まあそうなればまた分身体を作るだけなのだが。

しかし可能な限り、これ以上の魔素の消費は避けたいのも事実だ。

さてどうしようかと思考するリンに、千視ノ神(プロフェティア)が提案する。

 

『個体名ミリムに、分身体への魔素の譲渡を要請することを提案します』

(ミリムに?……えっ、そんな魔素の譲渡ってホイホイできるものなの?)

『個体名ミリムの魔素量からして問題ないと思われます』

 

それはそうだろうが。

確かにそうしてもらえるなら非常に助かるが、本当に大丈夫だろうかとリンの胸の内に不安が過る。

ギィから与えられた魔素により、進化に影響が出て、ラミリスから分けられた魔素により先見者(ミトオスモノ)千視ノ神(プロフェティア)に進化した。

ではミリムに分けてもらったらどうなるのだろう。

 

ミリムは世界にただ一人の竜魔人(ドラゴノイド)である。その上最古の魔王であり、リンなどでは到底及ばない力の持ち主だ。

そんな存在の魔素を貰ったら、何か予想もできない事態になるんじゃないかと、リンは一度気になってしまった魔素の譲渡による影響についてぐるぐると思考を巡らせる。

 

(……これでミリムからも魔素をもらったら最古の魔王全員に魔素の譲渡をしてもらったことに……いや、ミリムから魔素をもらうのは分身体だからいいのか?)

 

何がいいのかは自分でもわからないが、リンは本体へ魔素の譲渡を行わないのであればおそらく大丈夫なはずだという結論を出した。

 

(これはフラグじゃない……大丈夫大丈夫……だよね?千視ノ神(プロフェティア)

『リン様が個体名ミリムから魔素を受け取った分身体を取り込まなければ何も問題ありません』

(だよね!よし、さっそくミリムに頼もう!)

 

リンはミリムと共にいる分身体へと意識をとばし、ミリムへと話しかける。

 

(ミリム、ちょっとお願いがあるんだけど……お願いばかりで申し訳ないんだけど)

『お、リンか!お前からのお願いならいくらでも聞くぞ!言ってみるのだ!』

 

いい子過ぎる……とリンはミリムに深く感謝して、要件を切り出す。

 

(あのね、私の分身体、そろそろ魔素の残量が危ないの。だから——)

『わかったのだ!ワタシの魔素を分ければいいのだな!もちろんいいぞ!』

(え、あ、うん、ありがとう……ホントにいいの?)

 

揃いも揃って魔素の譲渡に躊躇がなさすぎて逆に戸惑うリン。

ミリムは声色からでもわかるほどご機嫌な返答をしてきた。

 

『いいに決まってるのだ!今度お前にもやるからな?楽しみにしてるといいぞ』

 

その言葉にリンは硬直した。

こんな形のフラグ回収は予想外である。しかし、ミリムの嬉しそうな声に拒否する勇気など消え失せてしまった。

 

(……あー、うん、まあ……ミリムがいいならいいんだけど……)

『ギィとラミリスばっかりズルいと思っていたからな!これでワタシもお揃いだぞ!』

(どんなお揃いなのそれ……)

 

ミリムは時々意味がわからない発言をすることがある。今回は、おそらくは自分だけ除け者にされているようで面白くなかったのだろうか。

 

それはさておき分身体への魔素の譲渡を頼めたことにリンはホッとした。

まだまだ戦いが続きそうであるため、こういう協力をしてもらえるのは本当にありがたいことである。

 

(じゃあミリム、引き続き分身体をよろしくね)

『うむ、ではな!』

 

ミリムとの話を終え、リンは再び各地の監視に戻ることにした。

 

頭の中に流れ込んでくる戦場の様子にリンの胸がざわつく。

先ほどのルベリオスでの凄惨な光景——最初から聖域創造(せいいきそうぞう)を使っていれば、あるいは天使族(エンジェル)の再侵攻をもっと早く伝えていれば免れていただろう。

おそらく誰も自分を責めはしないだろうが、自分に出来ることは全てやるのだと決めたのに、後手後手に回ってしまったことを悔いずにはいられなかった。

 

(……私がもっと強かったら、ちゃんと最初から守れたのかな)

 

進化したのに、それでも足りない。

全部丸ごとは守れない。

 

リンは己の力不足を痛感しながら、なお苛烈さを増していく戦いの様子を見守っていた。




ミリムは絶対あちこちで暴れ回るタイプだと信じて無双していただきます。ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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