転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第六十一話

各地の天使族(エンジェル)との戦闘が激化する一方で、リンは何かあったときにすぐに対処できるようにと、頭の中に流れ込んでくる様子に全力で集中していた。

 

——そこでふと気になったことがあり、千視ノ神(プロフェティア)に確認する。

 

千視ノ神(プロフェティア)、ファルムス軍ってまだここに着かないの?確か天使族(エンジェル)の出現と同時刻って言ってたよね?)

『はい。未来映写(みらいえいしゃ)による未来の映像は、あくまで訪れる可能性が最も高い未来であるため、刻一刻と変化していくことがあります。なお、接続中の大霊樹(ドリュアス)から見える範囲にはファルムス軍は確認できません。——未来映写(みらいえいしゃ)を再度実行しますか?』

(あー……そうだね、来ないなら来ないでその方が嬉しいけど、一応どうなるのか見せてくれる?)

未来映写(みらいえいしゃ)を実行します』

 

監視中の各地の様子とは別に、未来映写(みらいえいしゃ)による映像が頭の中に浮かぶ。

目で見るわけではないので、複数のことを同時に考えなきゃいけないような状態は正直頭が破裂しそうである。

千視ノ神(プロフェティア)先見者(ミトオスモノ)のときに手に入れた並列演算でサポートしてくれてなかったら、今頃自分の頭から煙でも出ているんじゃなかろうか。

 

そんなことを考えながらゆっくりと流れる映像に意識を傾け——悲鳴をあげそうになった。

 

「——!!」

 

見えたのは、鎧を纏った者たちの亡骸の山。

全員が血に塗れ、酷く損傷している。その惨い映像に、リンはたまらず頭の中の映像を追い払った。

 

あるはずのない心臓が冷えるような、悍ましい光景。あんな事態がここを目指しているファルムス軍に起きるのか。

リンは震える指先を握りしめて、息を整える。

 

(……千視ノ神(プロフェティア)、あれが1番起こる可能性が高い未来なの?)

『はい。ファルムス軍は行軍中に座天使(ソロネ)に遭遇するようです』

座天使(ソロネ)?)

座天使(ソロネ)とは、天使族(エンジェル)の階級の一つです。上級下位の天使族(エンジェル)であり、その強さは天使族(エンジェル)の中で上から三番目にあたります』

 

淡々と説明する千視ノ神(プロフェティア)

なんでも上級は上から熾天使(セラフィム)智天使(ケルプ)座天使(ソロネ)、中級は主天使(ドミニオン)力天使(ヴァーチャー)能天使(パワー)

昨晩現れた下級は特に名称はないのだそう。

 

上級である三天使は覚醒魔王と同等——つまりギィやミリムなどとやり合えるほどの力を持っている。

中級は少なくともAランクオーバーとのことだが、そんなランク付けではリンには強さを想像できない。

——しかし、ルベリオスに現れたのがこの中級であると言われ、その強さに背筋が凍りついた。

 

(…………ファルムス軍が、座天使(ソロネ)に襲われるの?)

『はい。現状では最も可能性の高い未来です』

 

リンは震え続ける手を力いっぱい握る。

 

大霊樹(ドリュアス)から離れたルートを進んでいるらしいファルムス軍を助けるには、分身体を探しに向かわせるか、本体が探しにいくかだ。

 

ミリムたちにはサリオンの様子を見に行って欲しい。サリオンが神樹のおかげで大丈夫だとしても、ルベリオスのようにならないとは言えない。

もしものときに備えて、ミリムたちにサリオンに行ってもらうのがいいだろう。

 

覚醒魔王と同等——と言っても幅はあるらしいが、それでも自分よりも格上だろう。

 

ラミリスに頼る?彼女に座天使(ソロネ)を任せる?そんなこと出来るわけがない。

ではギィに連絡して助けてもらうか?きっと条件次第では手を貸してくれそうではあるが——。

 

(……失望されるかも)

 

天魔大戦では外に出るなと、ギィに命じられているリン。

その命令を守り、ここで出来る限りのことをしている。

 

だが、各地に聖域創造(せいいきそうぞう)を展開して守って、ミリムに分身体を任せて天使族(エンジェル)の迎撃と各地の監視を命じ、今は自分を狙うファルムスを助けようとしている。

 

バレたら確実に怒りを買うことだろう。もうバレてそうではあるが。

 

(……終わったら、目一杯謝ろう)

 

ギィに怒られようと失望されようと、ラミリスに泣かれたとしても、守ると決めたら守る。

躊躇いはあるしすぐには決断できないばかりだが、結局はその答えに行き着くのだ。

 

——リンの手は、もう震えていなかった。

 

千視ノ神(プロフェティア)座天使(ソロネ)がどのへんにいるかわかるかな?)

無限視界(むげんしかい)で捜索します……発見しました。対象はブルムンド王国の南方より、北上中です』

 

ブルムンドは確かここから少し北にある国だ。

土地の強化のときに立ち寄ったが、居心地が良さそうな国だったように思う。

だがあそこは発展した都市とは言い難い。天使族(エンジェル)側からしたら違うのだろうか。

 

(……ブルムンドを狙ってるわけではない?)

『一体で一国を襲撃することは考えにくいため、可能性は極小です』

(なんで一体で彷徨いてるんだろ。何か探して——)

 

リンの頭の中にフッと思い浮かんだ。

今回の襲撃で天使族(エンジェル)が狙っている場所には、ファルムス王国が含まれている。

 

(まさか……ファルムス軍を探してる?ファルムス王国を狙ってるなら、そこの戦力を削ぐために……)

『ブルムンド王国を狙う可能性よりは、そちらの方が有力です』

 

千視ノ神(プロフェティア)からの返答にサッと青ざめるリン。

いくら気に食わない国であろうと、自分を狙ってくる連中でも、死んで欲しいわけではない。

どんなに酷いことをされようと、あの人たちも守りたいと思ってしまうのだ。

 

(ファルムス軍は今どこに……)

『……大霊樹(ドリュアス)を介した無限視界(むげんしかい)では把握できない範囲から、ルートを計算……完了しました。計算結果と未来映写(みらいえいしゃ)の情報をもとに、ファルムス軍の現在位置を割り出します』

 

相変わらず賢いスキルである。

リンは千視ノ神(プロフェティア)に感心しながら、結果をじっと待つ。

 

(……できそう?)

『——完了しました。ここより北北西、約120km先と思われます。なお、座天使(ソロネ)の現在位置から計算しますと、あと5分ほどで交戦状態に入ります』

(5……)

 

思っていたよりも時間がない。

5分で120km先——全速力でも間に合わない、なんて迷ってる暇はない。

 

(……私が樹界移動(じゅかいいどう)で行けばすぐ近くだし、ちょっと行くわ。それでも間に合わないけど、何人かは助けられるかもしれないし)

『——リン様、それは危険過ぎる』

(エリオン、私、もう同一化してるのと同じなんでしょう?)

 

それならここに留まらなくても大丈夫だよね?とリンが問いかける。エリオンは少し黙った後肯定した。

 

(ならよし。さすがにこのまま行く気はないから、私自身にも聖域創造(せいいきそうぞう)を使っておくよ)

 

言いながら、千視ノ神(プロフェティア)任せだった聖域創造(せいいきそうぞう)を自分で展開する。

これで合計6ヶ所に使っていることになるが、不思議といつもの倦怠感は感じなかった。

 

千視ノ神(プロフェティア)樹界移動(じゅかいいどう)で移動したら座天使(ソロネ)かファルムス軍を魔力感知で探して)

『……承知いたしました』

『リン様、相手は座天使(ソロネ)だ。気を抜くな』

 

なんだかエリオンが心配性になっているような気がするリンだが、この状況ならそんな反応にもなるだろうなと少し嬉しくなった。

 

(充分気をつけるよ。死にたくないからね)

 

そう笑いつつ、リンは樹界移動(じゅかいいどう)でブルムンドの外れにある大霊樹(ドリュアス)へ移動した。

頭の片隅に、あの黒髪の女性からの言葉が蘇り、リンは約束を破ったことを心の中で彼女に謝罪した。

 

 

 

 

 

ファルムス軍はリンが住まう大霊樹(ドリュアス)を目指し、慎重に進軍していた。

王国の大魔法使いラーゼンも、護衛の兵たちと共にその中心に佇んでいる。長い時を生き、「叡智の魔人」と恐れられた彼の視線は険しく、周囲を鋭く見渡していた。

 

その時、前方の森から不気味な静寂が広がり、突如として冷たい圧力が空気を満たした。何かが、ゆっくりと近づいてきている。

 

「何か来るぞ……全員、備えろ!」

 

ラーゼンの低い声が響くと、兵士たちは武器を構え、緊張の面持ちで周囲を見回す。

その場の者全員が、押し寄せる不穏な気配に圧倒されていた。

 

やがて、銀色に輝く光が森の奥から姿を現した。姿を見せたのは、一人の天使族(エンジェル)——威厳と冷徹さを湛えた座天使(ソロネ)だった。

その美しくも冷酷な顔立ちは、表情一つ変えず、静かにファルムス軍を見つめている。

 

声なき意思が伝わるかのように、座天使(ソロネ)が静かに指を動かした瞬間、銀色の光が一閃し、数人の兵士が何が起きたのかも分からないまま、瞬時に身体を両断され、地に崩れ落ちた。

 

「くっ……!」

 

ラーゼンはその光景を目の当たりにし、即座に魔法障壁を展開する。

しかし、兵士たちは皆、座天使(ソロネ)の圧倒的な力に恐怖を覚え、動けずに立ち尽くしていた。

次の瞬間、座天使(ソロネ)が冷たい目で兵士たちを見据えると、再び光の刃が幾筋も放たれ、彼らを襲う。

 

「ぎゃあああっ!」

 

絶叫が響く中、兵士たちは次々と切り裂かれ、地面に倒れていく。

血が辺りに広がり、冷たい土が赤く染まっていく様子を、座天使(ソロネ)はただ無表情で見下ろしていた。

その冷徹な視線には、一切の感情がなかった。

 

「……この強さ、その姿……座天使(ソロネ)といったところか」

 

ラーゼンは唇を噛みしめながら、一瞬でも油断すれば自分も討たれるであろうという緊張感を保ちつつ、座天使(ソロネ)に視線を向けた。

 

座天使(ソロネ)は淡々とラーゼンに目を向けると、その目には冷酷な決意が浮かんでいた。

 

座天使(ソロネ)は再びその手をかざし、光の槍を生成し始めた。

槍は純白の輝きを放ち、見る者すべてに死を告げるかのように冷たく輝いている。

ラーゼンはその一撃の威力を感じ取り、すかさず間合いを取った。

 

「さすがに、これほどの存在が出てくるとはな……!」

 

ラーゼンは距離を保ちながら、高速詠唱で魔法の力を集中させる。

だが、その間にも兵士たちは次々と座天使(ソロネ)の攻撃に屈し、無残に散っていく。

 

座天使(ソロネ)が再度手を動かすと、地面から純白の光が放たれ、周囲の兵士たちを呑み込むように包み込んだ。

その光の中で、兵士たちは叫ぶ間もなく命を失い、次々と崩れ落ちていく。

見るも無残な光景が広がる中、ラーゼンは冷静に魔力の精度を高め、反撃の機会を伺っていた。

 

「これが、座天使(ソロネ)の力か……だが、簡単にはやらせん!」

 

ラーゼンは炎と氷の混ざり合う高等魔法を放ち、ソロネに向けて攻撃を仕掛けた。

炎と氷の一撃が座天使(ソロネ)の周囲を包むが、座天使(ソロネ)はその美しい顔をわずかに傾けるだけで、淡々と光の盾を展開し、全ての攻撃を無力化してしまう。

 

座天使(ソロネ)は再び冷たい目でラーゼンを見据える。

その目には絶対的な力への確信が浮かんでおり、彼に対して一切の恐れも感じられなかった。

 

ラーゼンは内心焦りを感じながらも、決してその表情には出さず、静かに魔法の詠唱を続ける。

 

「ファルムスを守るためなら、我が身など惜しくはない……だが、貴様のような存在に屈するわけにはいかない!」

 

ラーゼンの周囲に青白い光が集まり始め、彼の目に冷たい決意が宿る。

 

 

 

 

 

ブルムンド近郊の大霊樹(ドリュアス)から飛び出したリンは、その勢いをそのままに空へ飛び上がり、周囲を見渡した。

 

千視ノ神(プロフェティア)、ファルムス軍と座天使(ソロネ)は近くにいる?)

 

リンの問いかけに、すぐさま千視ノ神(プロフェティア)が返答する。

 

『ここより南西へ約20kmの森林に、ファルムス軍および座天使(ソロネ)を感知しました』

(わかった、ありがとう!)

 

リンは風走(ふうそう)を発動し、全速力でその方向に向かって駆け抜けた。

 

やがて見えてきたのは、あの未来映写(みらいえいしゃ)で見た惨状の中に立つラーゼンの姿。そして、彼の前には冷たい光を纏う座天使(ソロネ)が、無表情で彼を見据えていた。

倒れ伏す兵士たちの血が周囲に広がり、残酷な静寂が辺りを支配していた。

 

リンは息を呑み、震えるように飛び出してラーゼンの前に立ちふさがると、座天使(ソロネ)に向かって叫んだ。

 

「——お願い、彼を殺さないで!」

 

その突然の登場に、ラーゼンは目を見開き、驚愕に震える声でリンに問いかける。

 

「……なぜ、お前がここに……」

 

リンはラーゼンの言葉に短く答えた。

 

「守ると決めたから」

 

毅然とした彼女の姿に、ラーゼンはしばし黙り込んだ。リンの様子が以前とはまるで違うことを、彼は言葉もなく見つめる。

 

しかし、座天使(ソロネ)は冷徹な視線でリンを見据えると、何の表情も見せないまま、彼女を排除しようと攻撃の手をかざした。

リンは身構えたが、聖域創造(せいいきそうぞう)の力により、その攻撃は干渉することなく弾かれる。

座天使(ソロネ)は淡々とリンを見つめ直し、この障壁が容易には崩せないと悟った。

そのとき、座天使(ソロネ)の意識に声が届いた。

 

(——その女を連れて来い)

 

次の瞬間、座天使(ソロネ)の目が鋭く光り、彼は新たな手段を取るべく、瞬時に視線をラーゼンへと向けた。

リンの目では追えない速さで動き、彼を捕らえてその身を拘束する。

 

「ラーゼン!」

 

リンは息を呑み、深淵樹霊(しんえんじゅれい)を発動しようとしたが、その時、座天使(ソロネ)が冷ややかな声で彼女に告げた。

 

「この男を救いたければ、大人しくついて来い」

 

唐突な言葉にリンは驚き、思わず呆れたように「は?」と声を洩らした。

その言葉の意味を考えかけた時、頭の中でエリオンが必死に警告する。

 

座天使(ソロネ)の言葉を聞いてはならぬ!』

 

リンはエリオンの声を頭の片隅で聞きながらも、無視してしまうことに申し訳なさを感じつつ、座天使(ソロネ)に問いかけた。

 

「私がついていけば、その人は殺さないでくれるの?……それを約束できる?」

 

ソロネは淡々と答えた。

 

「我が主が望むのはお前だけだ。その他はどうでもいい」

 

リンは冷静に彼の言葉を受け止め、決意を込めて告げた。

 

「……それなら、絶対にこの人には手を出さないで。そう約束するなら、私がついて行ってあげる」

 

その瞬間、エリオンの抗議の声がリンの頭の中に強く響く。

 

『リン様、行ってはならぬ!その者はそなたの敵だ!』

 

リンは頭の中で叫ぶエリオンに苦しげな気持ちを抱きながらも、座天使(ソロネ)に向き直り、その視線から目を逸らさずに立ち続けた。

 

すると、再び座天使(ソロネ)の頭の中に主たる者の声が届く。

 

(その男には手を出すな)

 

命令を受けた座天使(ソロネ)は、その場でラーゼンを解放し、冷ややかな目でリンを見据えた。

 

「この男には手は出さない。約束しよう」

 

リンは安堵の息をつき、静かに頷いた。

ラーゼンの方へ向き直り、短く言い聞かせるように告げた。

 

「ファルムスには天使族(エンジェル)が攻めてきているはずだから、急いで戻ってあげて。みんな、あなたの帰りを待ってる」

 

ラーゼンは、言葉もなくリンを見つめていた。

彼女の瞳に浮かぶ覚悟の光が何を意味するかを感じ取りながら、複雑な思いを胸に言葉を飲み込んだ。

 

リンは一つの頷きを返し、座天使(ソロネ)と共に空へと飛び上がった。

ラーゼンはただ呆然とその二人の背中を見つめ、遠ざかっていく姿を見送るしかなかった。




大変なことになってきましたがまだまだ色々書きたい。ちなみに天使族(エンジェル)が喋るかは調べてません。本作では上級はみんな会話できるってことにしておきます。

ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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