転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

63 / 97
第六十二話

魔導王朝サリオンの空が、不気味な輝きを帯び始めた。冷たい光が広がる中、天使族(エンジェル)の軍勢が次々と浮かび上がり、無数の天使族(エンジェル)が静かに降り注ぎ始める。サリオンの兵士たちはその圧倒的な光景を前にしながらも、意志を固め、剣や魔法で迎撃の態勢を整えた。

 

「このままじゃ国が……! 我らがサリオンを守り抜くんだ!」

 

兵士たちは上空を見上げ、必死に防御を固め、襲い来る光の刃や天使族(エンジェル)の攻撃に対抗する。しかし、その力の差は歴然としており、天使族(エンジェル)の猛攻に圧倒され、徐々に防衛線が崩れ始めていた。

 

その時、上空から爆発的な力が放たれ、何体もの天使族(エンジェル)が一瞬で消し飛んだ。目を凝らして見てみると、空にはミリム・ナーヴァが現れ、笑顔で戦場を見下ろしている。

 

「よーし、やっぱりここも騒がしいのだ!さあ、お前たちを全部吹き飛ばしてやる!」

 

ミリムは楽しげに叫び、拳に魔素を込めた。そして彼女の拳が天使族(エンジェル)に向かって放たれるたび、次々と天使族(エンジェル)が爆発し、消滅していく。その強大な力に、サリオンの兵士たちは驚愕し、戦場の光景を見つめていた。

 

「……あれは……魔王、ミリム……!」

「どうしてここに……!?」

 

兵士たちは混乱しつつも、ミリムの圧倒的な力に希望を見出し始めていた。彼女が一撃ごとに天使族(エンジェル)を粉砕していく様子は、まさに神のごとき力であり、周囲に威圧感を放っていた。

 

その時、もう一つの影が戦場に舞い降りた。薄緑の髪を持つ少女——リンの分身体だった。冷静な表情で周囲を見渡し、淡々と天使族(エンジェル)の群れを見据える。

分身体は無表情のまま魔素を用いて風を操り、冷徹に敵を見据えながら攻撃を繰り出した。

分身体が生成した鋭い風の刃が天使族(エンジェル)の間を舞い、切り裂いていくが、天使族(エンジェル)の再生力によって完全に倒しきることはできなかった。

 

それでも、分身体は淡々と戦いを続けている。

 

「なあ、さっきワタシに見せた力は使わないのか?」

 

ミリムが笑いながら分身体に声をかけると、分身体は深淵樹霊(しんえんじゅれい)の発動を決意した。彼女の体が闇に包まれ、髪の色が変わり、全身から冷たい魔素が溢れ出す。その姿に、サリオンの兵士たちは戦慄しつつも、圧倒的な闇の力に見惚れていた。

 

「すごい……! 何者だ……?」

「まさか、あの魔王ミリムの仲間なのか……!?」

 

その問いかけに答えることなく、分身体は冷静に天使族(エンジェル)に向かい、「冥絶縛鎖(めいぜつばくさ)」と淡々と呟く。

闇の根が天使族(エンジェル)の身体に巻きつき、再生する隙を与えずに圧倒的な力で締め上げていく。

 

ミリムも続いて、竜爪連撃(ドラゴ・クロー)天使族(エンジェル)を次々と打ち倒していく。彼女の攻撃が放たれるたび、サリオンの兵士たちが驚愕の声をあげる。

 

「す、すごい……あれが魔王の力……!」

「この戦場がまるで一方的に……」

 

ミリムは笑みを浮かべながら攻撃を続け、分身体も冷徹に、確実に天使族(エンジェル)を殲滅していく。やがて、天使族(エンジェル)は全てが地に伏し、光の刃が収まると、サリオンの空には再び静寂が訪れた。

 

サリオンの兵士たちは信じられないという表情で、戦場を静かに見渡していた。

 

 

 

 

 

戦いが静まったサリオンの戦場で、ミリムはまだ興奮冷めやらぬ表情を浮かべ、周囲の様子を確認していた。天使族(エンジェル)は全て討ち倒され、サリオンの兵士たちが疲れ切った面持ちでその場に佇んでいる。

 

その時、ミリムに寄り添うようにいたリンの分身体が淡々と口を開いた。

 

「本体が……座天使(ソロネ)に連れて行かれました」

 

ミリムは一瞬、分身体の言葉の意味を理解できずに硬直した。そしてその言葉が何を意味するかを理解した瞬間、目を大きく見開き、焦りの表情を浮かべた。

 

「えっ……?リンが連れて行かれただと!?どこに!?」

 

分身体は無表情で続けた。

 

「本体は座天使(ソロネ)と共に東の帝国方面へ向かっているようです」

 

ミリムの中に怒りが沸き上がった。

大切なリンが連れて行かれるなど、決して許せることではない。ミリムはすぐに助けに行こうと勢いよく飛び上がりかけたが、ふと足を止め、分身体を見つめた。

 

「お前は来ないのか?」

 

ミリムは、分身体が動こうとしないことを不思議に思い、問いかけた。分身体はその問いに対し、淡々と答えた。

 

「本体から、ここでサリオンの防衛と監視に努めるよう命じられています。そのため、私はここに留まります」

 

分身体の冷静な答えに、ミリムは思わず表情を曇らせた。

しばらく黙り込んで考え込むと、やがて彼女は小さく頷いた。

 

「……そうか、リンがそう命じたなら仕方ないな」

 

ミリムの声には少しの悔しさと、寂しさが滲んでいた。しかし、彼女はその気持ちを押し殺し、真剣な表情で続けた。

 

「リンからは、『分身体を頼む』って言われてるのだ。だからワタシもここに残ることにする」

 

ミリムは分身体の目を見つめ、その目にはリンの本体に対する信頼が見て取れた。

 

「大丈夫だ、きっとリンは無事に戻ってくる」

 

そう言って、ミリムは決意を込めた笑みを浮かべた。

 

分身体も静かに頷き、淡々とした表情のまま、サリオンの防衛に意識を戻した。ミリムもその姿を見届けると、彼女の隣に立ち、リンの帰りを信じて共にサリオンに留まる決意を固めた。

 

 

 

 

 

東の帝国の広大な玉座の間で、ルドラは静かに立ち尽くし、窓の外を見つめていた。彼の表情には微かな疲労が漂っており、その瞳には幾重にも重なった苦悩の影が隠されている。しかし、帝国の皇帝としての威厳を崩すことなく、その存在感は依然として周囲を圧倒していた。

 

彼の隣には、凛とした姿勢で立つヴェルグリンドが、静かに彼の顔を見つめている。彼女の視線には深い愛情と、ルドラへの不安が浮かんでいたが、彼の前でそれを表に出すことはなく、ただ静かに寄り添っている。

 

「……もうすぐだ。あの座天使(ソロネ)が彼女をここに連れてくる」

 

ルドラは少し遠くを見るように窓の外を見つめ、淡々とした口調で言葉を発した。その声には冷静さを装っているが、どこか焦りを含んでいた。

 

ヴェルグリンドは彼の横顔を見つめながら、柔らかな声で問いかける。

 

「ルドラ、どうしてそこまでその子にこだわるの?帝国にとって脅威になるのではないかと感じるわ」

 

ルドラは一瞬、視線をヴェルグリンドに向け、その目に少しの苦笑を浮かべた。

 

「ヴェルグリンド、お前の心配は理解している。だが、彼女の力は帝国のために必要だ。……彼女の持つ大霊樹(ドリュアス)の力、その可能性を考えれば、我が国に計り知れない強化をもたらすかもしれない」

 

ヴェルグリンドはその言葉に納得しきれない様子で微かに眉をひそめた。

 

「帝国のために必要だと言うけれど……本当のところ、あなたは彼女の力で何を得たいの?」

 

その問いかけに、ルドラは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに落ち着いた表情で微笑んだ。

 

「お前はいつも勘が鋭いな、ヴェルグリンド。しかし、今はまだ話せないことが多い。……彼女の力が、余に必要なのだ」

 

ヴェルグリンドは彼の言葉にどこか引っかかりを感じながらも、ルドラの疲れた表情を見つめ、静かに溜息をついた。

 

「あなたが何を抱えているのか、知りたいとは思わないわ。ただ、無理をしないでほしい。それだけよ」

 

ルドラはその言葉に小さく頷き、ヴェルグリンドの手をそっと取り、その手を少しだけ握りしめた。

 

「ありがとう、ヴェルグリンド。……余は、お前がいてくれるからまだこうしていられるのかもしれない」

 

彼女はルドラのその言葉に微笑みを返し、その目にはほんの一瞬だけ優しい光が宿った。しかし、次の瞬間には再び厳格な表情に戻り、背筋を伸ばした。

 

「さて、あの子がどのような存在か、私も少し興味が湧いてきたわ。あなたがそこまで注目する理由、見せてもらいましょう」

 

ルドラはその言葉に頷き、再び視線を遠くに向けた。その心の中には、帝国のためという建前と、自分自身のためという本音が渦巻いていたが、それを表に出すことは決してなかった。




勘の良い方ならおわかりになる展開。ご覧いただきありがとうございました!

20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。