ギィ・クリムゾンは、自身の居城である氷雪に包まれた城の大広間に立ち、冷静に周囲の気配を読み取っていた。天魔大戦の激しさを増す戦いの中で、突如として
「なんか作為的なものを感じるな……妙に急な撤退だ」
すると、そばにいたヴェルザードがふと眉をひそめ、何かを感じ取ったようにギィに告げた。
「ギィ、リンの気配が
その言葉を聞き、ギィの表情に不敵な笑みが浮かんだ。
「……帝国に?面白ぇな」
ギィは笑みを深めながら、過去のやり取りを思い出す。
彼は以前、リンに対して帝国には手を出さないようにと釘を刺していた。さらに、天魔大戦の間は外に出ないように命じ、
だが、リンはその命令をまるで意に介さず、各地に強固な結界を展開し、分身体を使ってミリムと共に
ギィはそのあまりの反抗ぶりに一瞬怒りを感じたが、すぐにその怒りがどこか愉快な気持ちに変わり、爆笑し始めた。
「はっはっはっ!まったく、とんでもねえじゃじゃ馬だな、あいつ!」
その愉快そうなギィの様子に、ヴェルザードは少し眉をひそめ、彼を鋭く見つめた。
「ギィ、彼女がいずれ妨げになるのではなくて?」
ギィはヴェルザードの言葉に一瞬考える素振りを見せたが、すぐに肩をすくめて答えた。
「それはそれで面白ぇさ。何もかもオレの思い通りにならない駒が一つぐらいあった方がいいだろ」
ヴェルザードは少し呆れたような表情を浮かべたが、ギィがリンに興味を持っていることに対して、どこか不快感を覚えている自分に気づいていた。
それでも、リンがあそこまで自分の意志を貫き、ギィの命令に屈せず動き回っていることに、一種の好感を抱いていた。
「……あの子、また会ってみたかったけれど、こうして自分の意志で動く姿を見ると、余計にもう一度会いたくなるわね」
ヴェルザードがそう呟くと、ギィは意外そうに目を瞬かせた。
「お前がそう言うとはな。だが、またリンが怯えそうだな……まあ、それも面白い光景か」
ギィは楽しげに考え込み、何か企むような笑みを浮かべた。
「いいだろう。いずれまた、あのじゃじゃ馬をオレの居城に招くことにしよう」
ヴェルザードもそれに軽く微笑を返し、ギィと共にその時を待つことにした。
ルドラに導かれ、帝国の宮殿の地下へと続く長い廊下を進む。リンは、その壮麗で複雑な造りに圧倒されていた。天井から吊るされた豪華なシャンデリア、壁に施された重厚な彫刻や装飾品の数々。足元には絨毯が敷き詰められているものの、どこか冷たい空気が流れているように感じた。
(案内がなかったら絶対迷子になる……こんな複雑な造りにする必要あるの?)
心の中で愚痴りながらも、リンの視線はせわしなく辺りを動いていた。それでも、頭の片隅にはどうしても拭いきれない疑問が残っていた。彼女は歩みを止め、少し躊躇いながらもルドラに問いかけた。
「ねえ、ルドラ……どうして天魔大戦を起こしてるの?」
その問いに、ルドラは一瞬足を止め、目を伏せる。その表情にはわずかな動揺が見えた。やがて彼は顔を上げ、深く息を吐いて答えた。
「……帝国軍の強化と魔王軍の戦力を削ぐためだ。そして、世界を支配し、ギィに勝つ。余の力を認めさせ、このゲームに勝利するために——」
彼の言葉はそこまでで止まった。視線がリンと交わった瞬間、何かが胸の奥で軋んだかのように、彼は再び言葉を飲み込んだ。そして、静かに続ける。
「いや、違うな……それは今の理由であって、最初からそうだったわけではない」
ルドラはその場に足を止め、遠い記憶を辿るように静かに語り始めた。
「……余が望んでいたのは、誰もが幸せに暮らせる世界だった。星王竜ヴェルダナーヴァと共に、人々が安らぎの中で生きられる理想郷を目指していたのだ」
彼の言葉に、リンは思わず息を呑む。その声には、かつて描いていた理想が今もかすかに宿っているように感じられた。
「ヴェルダナーヴァは親友であり、余の師匠でもあった。彼は人類を深く愛していたが、その未来に滅亡の兆しを見て恐れていた。余は彼に誓った。世界を統一し、恒久的な平和を実現すると」
ルドラの瞳には、かつての情熱が微かに灯っているようだった。
「だが、それがどれほど困難な道かは理解していた。ヴェルダナーヴァも『理想論だ』と笑ったよ。それでも彼は、『お前が望むならやってみろ』と言ってくれた。その言葉だけで、余は自分の進むべき道を見つけたのだ」
リンは、彼が抱いていた信念の強さに胸を打たれた。そして、彼の次の言葉がさらにその重みを増す。
「
だが、その声には次第に悲しみが混じり始める。
「やがて、妹のルシアとヴェルダナーヴァが結ばれ、子供も生まれた。だが……それは彼が寿命を負うことを意味した。ヴェルダナーヴァは不死ではなくなり、死を意識するようになったのだ」
その言葉に、リンは場の空気が一層重くなるのを感じた。ルドラは苦々しい表情で続ける。
「だから、余は彼を安心させるために、統一国家を築き、平和な未来を示そうとした。しかし……」
ルドラの瞳には深い後悔が浮かび上がる。
「余が遠征で帝国を離れている間に、国内でテロが起きた。ヴェルダナーヴァも、ルシアも……その事件で命を奪われた」
言葉を絞り出すように語るその声には、押し殺した感情が滲んでいた。リンは何も言えず、ただ静かに彼の言葉に耳を傾けていた。
「……余の理想も、目的も、すべて彼らを失ったことで意味をなくした。今はただ、ギィとのゲームに勝つことだけが余の全てだ」
その言葉は虚しさと疲れに満ちていた。繰り返す転生の中で、ルドラが抱いていた理想は薄れ、ただ「勝つ」ことだけが彼を支えているのだ。
リンは、ギィが話していた「ゲーム」の真意を理解し、改めてルドラの抱える痛みの深さを実感した。彼女は何も言わず、ただ彼の苦悩を受け止めるように静かに寄り添った。
ルドラもまた、自らの思いを語ることで、ほんの少しだけ心の重荷が軽くなったように感じていた。
ルドラとリンは、それから会話を交わさないまま帝国内の
道中の静寂が心地よいものとは言えず、ルドラは先ほど話した自分の過去がどれほどの重みを持っていたかを改めて噛み締めていた。
リンもまた、ルドラが抱える悲しみと彼の理想の欠片に触れたことで、複雑な心境を抱いていた。
やがて、二人は地下の奥深くにある
その巨大な根が壁にまで張り巡らされ、まるで帝国の命脈そのものを支えているかのような存在感を放っていた。
ルドラはその前に立ち止まり、静かに見守る。
リンはゆっくりと
しばらくの間、魔素の放出が続き、
しかし、それが終わった瞬間、リンの頭の中に警告の声が響いた。
『魔素の過剰使用が確認されました』
複数の
「……大丈夫か?」
ルドラが心配そうに問いかけ、彼女に歩み寄る。しかし、リンはまだ彼を完全には信用していなかった。ここで倒れるわけにはいかないと気力を振り絞って踏ん張る。
(……これ以上魔素を消耗したら本当にまずい)
リンは少しでも消費を抑えるため、各地に展開した
ルドラの魂と自身に展開したものを除外し、すべての結界を一つ一つ消していく。それでも体の中の魔素は少しずつ減り続け、倦怠感が全身を覆い、次第にまぶたが重くなっていく。
リンは再びふらつき、辛うじて立ち続けながら、疲れ切った身体を引きずるようにして
少しの間呼吸を整えた後、ルドラの方に目を向けて呟くように告げる。
「……もう限界だから、帰るね」
ルドラはリンの尋常ではない様子に気づき、彼女の疲労が深刻なものであることを察した。
「……わかった。ここまで協力してくれたこと、そして、余の魂を回復してくれたことに感謝する」
ルドラの真摯な声に、リンは疲れた笑みを浮かべて頷く。
「うん、回復したらまた来るね……それじゃ」
最後の力を振り絞り、リンは「
帝国内の
慣れ親しんだ空間に到着した瞬間、緊張の糸が切れたように、リンはその場で意識を手放した。
リンが去った後、ルドラは静かにその場に立ち尽くしていた。彼女が注ぎ込んだ魔素が、帝国内の
「……なるほど、これは確かに脅威だな」
彼女の能力が、ただ単に味方する者を強化するだけでなく全体をも守る力であることに驚嘆し、リンが基本的に中立を貫いて、平等に皆を守ろうとするその姿勢に、彼は安堵した。
何が大変だったかって、ルドラの過去をまとめるところだよ。なるべくわかりやすくしたつもりだけど何か間違えてたらすみません。ご覧いただきありがとうございました!
20241116:魔素と魔力を書き分けるため修正。
20241229:ルドラが過去を語る部分を微修正。
リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?
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樹界移動を進化させる
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聖域創造を進化させる
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万象再生を進化させる
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深淵樹霊を進化させる
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「神智核」一択
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魔王覇気とか
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特に思いつかない