転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第六十八話

ギィは白氷宮の一角で一人、薄く笑いながら考え込んでいた。

リンが引っ掻き回したおかげで天魔大戦が終結した。しかも、ルドラが約束を守る限り、もう二度と天魔大戦が起こることはないだろう。リンというじゃじゃ馬が騒ぎを起こして、意図せず世界に小さな平穏をもたらしたのだ。

 

しかし、ルドラの目的があくまで「世界統一」にあるならば、彼が今後、天使族(エンジェル)を使わずして目指す道は明白だった。

ルドラは次なる一手として、リンの力を最大限に利用し、帝国をさらに強化して、各国を制圧することで統一を目指すだろう。

ルドラは自身の理想にリンを賛同させる手段を講じ、恒久的な平和という大義名分で彼女の協力を得るかもしれない。

だが、リンが一国のためだけに力を使うことはない——ただ、ルドラが掲げる「平和のために」という理想に共鳴するなら、リンは力を惜しまず協力する可能性も否定できない。

 

「友達になったってのは建前にしても、協力関係を築いたのは本当だもんな」

 

ギィは鼻で笑いながら、ルドラとリンの関係を思い返す。

リンは、たとえ彼女自身が犠牲を払うことになろうとも、世界を守るための協力は厭わないだろう。ルドラの言葉に心を動かされ、恒久平和という目的のためならば、彼女はそのために動くだろうか?それとも、どんな犠牲も許さず、自分の意志を貫くのか。

 

「…まあ、きっとあいつは後者だろうな」

 

ギィは小さく呟いた。

リンは、誰よりも優しく、その分誰よりも頑固なやつだ。自分をかえりみず、全てを守るために全力を尽くすだろう——やがて力尽きることがわかっていても、それでも彼女は止まらないに違いない。

 

彼女が大霊樹(ドリュアス)と完全に同一化したことで、リンが力尽きたとしてもすぐに消えてしまうことはないだろう。

だが、それは不死身というわけでもない。力を使い果たし、弱り果てた彼女がどんな危険にさらされるか——ギィは一瞬、まるで世界の滅亡のトリガーとも言えるリンを自分のそばに置いて守ることを考えた。そうすれば、リンを守れるかもしれない、と。

 

「……でも、あいつは断固拒否するだろうな」

 

ギィは軽く頭を振って、その考えを打ち消した。そもそも、リンは「守られる側」には決してならない。リンは、自分が守る側でありたいと強く願っているし、彼女自身、すでに誰かに守られるほどの弱者ではない。

あのじゃじゃ馬は何があろうとも、自分のやりたいこと、やるべきことを貫き、誰かに屈することなく、強い意志で突き進んでいくだろう。

 

「ちっとも思い通りに動かねえ駒だが…まあ、そこが面白い」

 

ギィは口元を歪め、にやりと笑った。期待と信頼の眼差しを向け、リンという存在を見守る覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

リン、ラミリス、そしてミリムは、リンが住まう大霊樹(ドリュアス)へと飛んで帰った。

だが、大霊樹(ドリュアス)が見えてきた頃、リンはその周囲に複数の存在を感知して警戒を強める。ラミリスとミリムも同じく周囲に目を光らせ、互いに視線を交わして緊張を高めた。

 

やがて、大霊樹(ドリュアス)にたどり着くと、彼女たちの姿を確認した集団が一斉に視線を向けてきた。

リンが何か言おうと口を開きかけた瞬間、一人の獣人が前に出てくる。

 

「リン様ですね。私はユーラザニアの王、カリオン様にお仕えしております三獣士が一人「黄蛇角」のアルビスと申します」

 

穏やかに言葉を紡ぐ女性に、リンは驚き、ラミリスがさっとリンの前に立ちはだかる。

 

「ちょっと、リンに何か用?こんなに集まって、リンに手を出すならタダじゃおかないから!」

 

ラミリスの険しい表情に、アルビスは顔を強張らせ、他の使者たちも怯えた様子で一歩後ずさりする。さらにミリムも前に出て、不敵な笑みを浮かべた。

 

「お前たち、リンはワタシの親友なのだ。リンに手を出すならばワタシが許さないからな」

 

リンが魔王ミリムにまで庇護されている状況に、使者たちは息を呑む。そんな中、もう一人の男性がそっと前に進み出た。

 

「私はドワルゴンの使者、ドルフと申します。リン様に危害を加えるつもりはございません。ガゼル・ドワルゴ陛下の命により、リン様の安否の確認に参った次第です」

「…なるほど」

 

リンは微笑みながら頷きつつ、自分が心配をかけたことを申し訳なく思った。すると、他の数名もおずおずと前に進んできて、それぞれが名乗り始める。

 

「私はルベリオスより参りました。我が国の法皇ルイ様より、貴方様の様子を調べてくるよう仰せつかりました」

「私はファルムス王国の王宮魔術師です。魔術師長ラーゼン様より、リン様を探して何かあれば手助けするようにとの命を受けております」

 

ユーラザニア、ドワルゴン、ルベリオス、そしてファルムス——それぞれの国からの使者たちが、リンの無事を確認しに来ていた。リンは、こんなにも多くの人々を心配させてしまったことを少し恥じるように頭を下げ、ラミリスやミリムに落ち着くよう促しながら話を始めた。

 

「皆さん、ご心配をおかけしました。私は大丈夫です。それより、天魔大戦はもう終わりました。私が話をつけて、二度と天魔大戦を起こさないようにと約束させました。なので、皆さんはどうか国の復興に力を尽くしてください」

 

リンの言葉に使者たちは目を丸くし、その意味を問うように口を開きかけたが、リンは「今ここではお話できないので、必要であればまた各国へ伺った際に」と告げ、彼らも渋々ながら納得した様子で、それぞれの国に戻っていく準備を始めた。

 

「カリオン様が酷く心配しておられました。また、どうかユーラザニアへお越しください」

 

帰り際にアルビスがそう言い残し、リンは微笑みながら頷いた。

 

使者たちが去ると、ラミリスが軽く茶化すように言う。

 

「リン、あちこちで結構好かれてるみたいじゃない?」

「好かれてるっていうか、ただ心配かけてるだけで…」

 

と、リンが肩をすくめると、ラミリスはぷりぷりと怒り出した。

 

「心配かけてるって自覚があるなら、自重してよね!」

「はは、そうだね」

 

リンは少し申し訳なさそうに笑って誤魔化しつつ、ラミリスとミリムを大霊樹(ドリュアス)の中へと招き入れた。久しぶりに安心できる空間で過ごせることに、リンはほっとした気持ちを噛みしめた。

 

そんなとき、不意にリンの頭の中に念話が届いた。それは、ルミナスからだった。

 

『リン、無事であろうな?』

(ルミナス様!?)

 

念話に集中しようとリンは静かに目を閉じ、心で返答する。

 

(はい、大丈夫です。先程、ルベリオスから来られた方にも同じようにお伝えしました)

『…そうか。無事でよかった。安堵したぞ』

 

ルミナスの安心した声が届き、リンは微笑んだ。だが、彼女が黙り込んで念話に集中する姿を見たラミリスとミリムが、何事かと問いかけてきた。

 

「誰かから連絡?」

「うん、ルミナス様からの念話だよ」

 

リンの答えに、二人は驚きの声を上げた。

普通、念話は近くにいるか、特別な主従関係でなければできないものだ。ラミリスは思わず不安そうな表情で口を開く。

 

「…まさか、リン、ルミナスと主従関係でも結んでるんじゃ……?」

「ちょっと待ってラミリスさん、そんな関係じゃないから」

 

リンが苦笑する間に、ミリムはむくれたようにリンに訴えた。

 

「バレンタインずるいのだ!ワタシもリンと念話がしたいぞ!」

「はは、わかったわかった」

 

リンは笑いながら、念話の中で「またすぐに会いに行きますね」とルミナスに伝える。ルミナスは『待っておるぞ』と満足げに返答し、念話を切った。

 

ルミナスとの念話が終わると、ラミリスとミリムが少し不機嫌そうにしている。リンはそんな二人を宥めるように優しく微笑んだ。

 

「まあまあ、私の親友はラミリスさんとミリムだけだから、そんなに拗ねないで」

 

リンの優しい言葉に、ラミリスとミリムはつい毒気を抜かれて顔を見合わせる。

 

「…まあ、リンがそう言うなら仕方ないか!」

「うむ。リンがそういうなら、ワタシも気にしないのだ!」

 

二人はそれぞれ納得した様子で微笑んだ。和やかな空気の中、リンは心から幸せを感じて、安堵のため息を静かに吐いた。

 

 

 

 

 

リンは、ラミリスとミリムとじゃれ合いながら穏やかなひとときを過ごしていたが、ふとギィの居城でラミリスが提案した「自由に出歩けるならどこかに身を隠してはどうか」という言葉が頭をよぎった。身を隠すつもりは今のところないものの、大霊樹(ドリュアス)の中で暮らしている理由が樹妖精(ドライアド)の魂を成長させるためだというのも事実だ。だが、ルドラと協力関係を築いた以上、今後は帝国へ出向く機会も増え、長く不在にすることもあり得るだろう。

 

(ここにいなくても樹妖精(ドライアド)が成長できる方法はないかな……)

 

リンは頭の中でエリオンに相談することにした。

 

(分身体を置けば、どうかな?)

 

エリオンはすぐに返答をくれる。

 

『分身体なら魔素の供給は可能だが、樹妖精(ドライアド)の魂の成長には直接の助力にはならないだろう。分身体はあくまで分身体で、本体ほどの効果は発揮できない』

(そっか、そんなうまい話はないよね……)

 

リンはため息をついたが、すると千視ノ神(プロフェティア)から別の提案が浮かんだ。

 

『「並列存在」というスキルがあります。これは、本体となり得る分身体を作り出すスキルです』

 

リンは思わず身を乗り出す。

千視ノ神(プロフェティア)は続けた。

 

『このスキルは一部の悪魔族(デーモン)などの超常的な存在にのみ可能なもので、次の特性があります。まず、一体生み出すごとに最大魔素量の一割が担保として取られます。そして一体を消せば担保として差し出した魔素は本体に戻り、受けていたダメージを無かったことにできます。さらに、魔素量は全ての体で共有されますが、魔素が完全に分散するため全体の戦闘力は弱体化します。なお、一体でも残っていれば、その一体を本体として復活可能です』

(……本体と変わらないスペックの分身体と認識していい?)

『はい。通常の分身体では一部のスキルは使用できませんが、「並列存在」であれば本体のスキルが全て使用可能です』

 

リンは目を輝かせた。通常の分身体とは異なり、本来のスペックを保持して行動できるというのは実に魅力的だ。だが問題はこれで樹妖精(ドライアド)の魂の成長が行えるかどうか。

 

(エリオン、『並列存在』なら樹妖精(ドライアド)の魂の成長もできるかな?)

『問題ないだろう』

(おーっし!これはぜひとも手に入れたい!)

 

だが千視ノ神(プロフェティア)は続けて言う。

 

『強力なスキルであり、通常の修行では手に入りません。まずはこのスキルを持つ者を探し、解析鑑定をするのが得策です』

 

リンは再び肩を落とした。

 

(せっかくいい話だと思ったのに……)

 

しょんぼりするリンの様子に、ラミリスとミリムが心配そうに声をかけてきた。リンは思わず二人に「並列存在」というスキルを使えるか尋ねてみるが、二人とも首を振る。

 

「うーん、アタシは使えないけど、悪魔族(デーモン)の一部が使えるって話は聞いたことあるわよ。ギィに聞けばいいんじゃない?」

 

ラミリスの提案に、リンは首を振った。

 

「ギィさんに頼むのはちょっと怖いな……解析鑑定を受けてもらうのって、なんだか触れてはならないものに触れてしまいそうで……」

「じゃあ、竜種はどうだ?」

 

ミリムがそう提案し、ギィのそばにいるヴェルザードを思い出させてくれた。だが、突然態度が緩和した彼女にいきなり頼むのも気が引ける。リンは少し考え込んで、話題を切り替えた。

 

しかし、ふとルドラのそばにいたヴェルグリンドの顔が脳裏をよぎった。彼女も竜種であり、協力関係を築いたルドラからならば頼んでもらえそうな気がする。

ルドラは「頼みたいことがあれば言うように」と言っていたので、もしヴェルグリンドが「並列存在」を使えるなら、解析鑑定をお願いすることができるかもしれない。帝国の強化にも貢献するためだと説明すれば、ヴェルグリンドも了承してくれるのではないか。

 

リンは少し悩んだ末、今度帝国に行ったときに思い切って頼んでみることに決めた。




なんだか危険なフラグですね。
ご覧いただきありがとうございました!

20241206:並列存在について修正。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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