転生したら木の中でした   作:猫田やなぎ

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第七十話

ドワルゴンの地下にある大霊樹(ドリュアス)から静かに現れたリンの姿に、その場の警備をしていた兵士たちは驚きに目を見開いた。彼女の独特な気配を察し、一瞬の緊張が走るが、すぐに相手が誰であるかを理解する。

 

「……リン様!」

 

ひざまずく兵士たちに、リンは恐縮しながら「ガゼル王への謁見をお願いしたいのですが」と告げた。その声に兵士はすぐさま頷き、王宮へと伝令を飛ばした。

 

別の兵士に案内されながら、リンはふと尋ねた。

 

「ドワルゴンの被害状況は、どうですか?」

 

兵士は少し言葉を選ぶようにして答える。

 

「住民の住む場所は比較的軽微な被害で済みましたが、周辺部や戦闘に参加した者たちは……甚大な被害を受けています」

 

リンの脳裏に壮絶な光景が蘇った。天使族(エンジェル)の放った一撃が、結界で守られていなかった部分を吹き飛ばした——。あの破壊力を思い出すだけで胸が痛む。

 

さらに、天魔大戦の最中、自身が進化の眠りに入り先見者(ミトオスモノ)千視ノ神(プロフェティア)に進化する過程で真界領域(しんかいりょういき)が一時的に消え、ドワルゴンが多大な被害を受けた可能性も考えると、自責の念がこみ上げる。

 

「……もっと早く動けていれば」

 

しかし、今は悔いる時間ではない。そう自分に言い聞かせ、リンは案内された王宮の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

玉座に座るガゼル・ドワルゴは、堂々とした姿勢のままリンを迎えた。だが、その顔にはどこか安堵の色が見える。

 

「無事だったか、リン。報告は受けていたが、顔を見るとやはり安心するものだな」

 

ガゼルの重厚な声に、リンは深々と頭を下げる。

 

「ご心配をおかけしました。そして……お詫びを申し上げます」

「詫びだと?」

天使族(エンジェル)の再侵攻のタイミングが事前にわかっていたにもかかわらず、ドワルゴンにはそれをお伝えできませんでした……」

 

ガゼルはその言葉に眉をひそめたが、次第に思案するような表情に変わる。

 

「なるほど、予知のスキルを持っているというわけか。ならば気にすることはない。そもそも敵の侵攻のタイミングなどわかるほうが異常だ。備えは我々の責務だ。お前が謝る必要など全くない」

「ですが……」

 

リンは再び頭を下げたまま言葉を続けた。

 

「天魔大戦の最中、私が進化したことで一時的に結界が消え、そのせいでドワルゴンの被害が増えたかもしれません。それも含めて、申し訳なく……」

 

ガゼルはそんなリンの姿に呆れたようにため息をつき、低く笑った。

 

「お前が結界を張らなければ、ドワルゴンそのものが消えていた可能性すらある。守ってくれたことに感謝こそすれ、謝罪など不要だ」

 

その言葉に、リンはルベリオスでルミナスたちに言われたことを思い出し、自責の念を抑え込む。そしてガゼルの真っ直ぐな目に見つめられながら、彼の言葉を受け入れた。

 

リンは姿勢を正し、これから話すことの重大さを意識しながら口を開いた。

 

「ガゼル陛下。既に報告があったかと思いますが、天魔大戦は終わりました」

「……確かに、ドルフからその報告は受けているが、俄には信じ難い話だな」

「この戦いを引き起こしていたのは東の帝国の皇帝、ルドラです。私は彼に協力する代わりに、二度と天魔大戦を起こさないように約束させました。これからは私がルドラを見張り、約束を守らせます。どうか、私を信じて、帝国に手を出さないでください」

 

一瞬、静寂が広がる。リンの言葉を聞いたガゼルは、表情を引き締め、考え込むように目を閉じた。そして、長い沈黙の後、ゆっくりと顔を上げる。

 

「信じ難い話だが……お前が言うならば信じないわけにもいかんな」

 

ガゼルの目がリンを真っ直ぐに射抜く。

 

「よかろう。此度の天魔大戦におけるお前の功労に報いて、お前を信じるとしよう」

 

その言葉に、リンはホッと息をつき、感謝の言葉を述べる。しかし、次の瞬間、ガゼルは堪えきれなくなったように笑い出した。

 

「はっはっはっ!まったく……面白い者が現れたものよ」

 

縮こまるリンに、ガゼルは愉快そうな目を向ける。

 

「落ち着いたらまた来い。歓迎するぞ」

「は、はい……」

 

まだ少し恥ずかしそうに頷くリンに、ガゼルは満足げに微笑んだ。

 

 

 

 

 

ガゼルとの謁見を終えたリンは、彼の許しを得てドワルゴンの復興を手伝うことにした。

 

まず向かったのは、怪我人が集められている場所だった。

そっと姿を現したリンに兵士が近づき、跪く。

 

「いかがされましたか、リン様」

「怪我人の治療に来ました。重傷者がいる場所まで案内をお願いします」

 

恐縮する兵士に案内され、重傷者の元へと向かう。そこに広がっていたのは、目を覆いたくなるような凄惨な光景だった。リンは少しだけ震えたが、中央に立ち、深く息を吸った。

 

万象再生(ばんしょうさいせい)……!」

 

暖かな緑色の光が重傷者たちを包み込み、壊れた身体を再生させていく。瀕死だった者たちが次々に目を開け、歓声や感謝の言葉が飛び交う。その声にリンは微笑みながら、「軽傷者も含めて集めてください」と兵士に頼んだ。

 

集められた怪我人を数回に分けて治療し、全員の治療を終えたリンに、人々は平伏して感謝を述べた。

 

「そんな……それほどのことはしていませんから、頭を上げてください」

 

そう言いながら後ずさるリンだったが、その謙虚な態度に感謝の声はさらに高まるばかりだった。

 

続いてリンは、戦闘の影響で崩壊した街の外れの修復に取り掛かった。万象再生(ばんしょうさいせい)を使用すると、吹き飛ばされていた森が元の姿を取り戻していく。

 

森の中から顔を覗かせる魔物たちが、恐る恐る近づいてくる。

 

「ありがとうございます……! これでまたここに住むことができます!」

 

住処を取り戻して喜ぶ彼らの姿に、リンの心は暖かくなった。

 

一通りの復興を終えたリンは、付き添ってくれた兵士に感謝を告げた。

 

「私は次の国に向かいます。ありがとうございました」

「陛下にお伝えしておきます。またお越しくださいませ」

 

再び頭を下げたリンは、樹界移動(じゅかいいどう)で次の国へと転移した。

 

その後、ドワルゴンではリンの名が語られ、天魔大戦直後にもかかわらず活気に満ちた様子を見て、ガゼルはしみじみとリンという存在の大きさを感じていた。

 

 

 

 

 

ドワルゴンを後にしたリンは、各国へ飛び回って復興に手を貸すと同時にその国の統治者に会い、天魔大戦の終結と理由、そして今後は自分が見張るので帝国へは手出ししないようにという願いを伝えた。

やや難色を示す国や帝国に対する憎悪を見せる者もいたが、リンの必死の説得と、リンの天魔大戦における行動により、どの国も最終的にはリンの願いを聞き入れてくれた。

 

しかしそれはあくまで表面上はという話であり、今後は帝国に加えて各国の様子も注視しなければと決意するリン。

天魔大戦の最中に小競り合いでもあったのか、方々を巡る中で目にした戦場の爪痕はどれも酷いものであり、それを知ってなおこれ以上被害を出さないために、戦いを繰り返さないために、守り切るためにリンはただ自分の意志を貫くのだった。




帝国に手を出す国は稀だと思いますので、どの国も一旦はリンのお願いを聞いてくれるはず。と思いたい。

リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?

  • 樹界移動を進化させる
  • 聖域創造を進化させる
  • 万象再生を進化させる
  • 深淵樹霊を進化させる
  • 「神智核」一択
  • 魔王覇気とか
  • 特に思いつかない
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