天魔大戦の終結について各国を回って説明しているリンだったが、次に訪れるファルムスのことを考えると胸の奥がざわついた。捕らえられた過去。そして天魔大戦の最中、再び狙われたこと——どちらもリンの記憶に深く刻まれていた。
「……一人で行くのは、やっぱり怖いな」
ふと、ラミリスの顔が思い浮かぶ。心強い味方であり、何かと自分を助けてくれる存在。思い立ったが吉日と、リンはラミリスに念話を送る。
(ラミリスさん、今大丈夫?)
『んー? どうしたの、リン?』
軽やかな返事が返ってきて、ほっと胸を撫で下ろす。リンは事情を説明し、ファルムスへの訪問がどうしても怖いから一緒に来てほしいと頼んだ。すると——
『任せなさい!』
ラミリスの弾んだ声が響いた。
『やっと頼ってくれたわね!アンタを傷つけようとするやつはアタシがぶっ飛ばしてやるから、安心しなさい!』
その頼もしさに、リンは心底安堵した。そして、これから迷宮へ向かうと告げて念話を終えた。
迷宮に向かう道中、リンはファルムスでの対応について考えを巡らせていた。ファルムスは他のどの国よりも心の距離を感じる国だ。国王に会えるかもわからないし、仮に会えても何をされるかわからない。捕らえられた記憶がリンを縛る。
「どうしようかなぁ……」
そう呟いたところでラミリスの迷宮が視界に入った。中へ入ると、待ち構えていた妖精たちが一斉に声を上げる。
「リン様だー!」
「リン様、なんかまた強くなってるー!」
「ほんとだ、すごーい!」
賑やかな歓迎に、リンは微笑みながら手を振る。程なくして、ラミリスが飛ぶように現れた。その姿は成長後の美しい姿——リンより少し背が高い。だが、その勢いは変わらず、リンにしがみついてきた。
「リン、アンタほんっと頑固なんだから。でも頼ってくれて嬉しいわ!」
ぎゅっと抱きしめるラミリスに、リンも抱き返す。
「ラミリスさん、ありがとう。本当に助かるよ」
リンは感謝しつつ、ファルムスでの対応について悩んでいることを伝えた。国王に会うのは難しそうだし、再び捕まる可能性もある。頭を抱えながら、ラミリスと二人でうんうん唸って考える。
「じゃあさ、ラーゼンってのがいるんでしょ?」
ラミリスが提案する。
「アンタが助けたんだから、恩くらいあるんじゃないの?」
その一言にリンは目を輝かせた。
「確かに、ラーゼンさんなら話を聞いてくれるかも!」
二人は頷き合い、まずはラーゼンに接触することを決めた。
ラミリスの手を掴んだリンが
「ちょっと速すぎるってばー!」
「進化したから慣れてなくて!ごめんね!」
そんなやり取りをしながら、想像以上の速さでファルムスに到着した。
「このまま街に入ったら目立ちすぎるよね、たぶん」
「じゃあ、アタシの魔法で気配を隠すわよ」
ラミリスが魔法をかけると、驚くほど自然に人々の視線が二人を避けていった。人目を気にせず王宮近くまでたどり着いた二人は、偶然にも王宮から出てきたラーゼンの姿を捉えた。
「チャンスだね、ラミリスさん」
「ええ、一人だし、今行くしかないわ!」
タイミングを見計らい、リンはラーゼンに声をかけた。振り向いたラーゼンの目が驚きに見開かれる。
「お前……無事だったのか。いや、無事だとは聞いてはいたが……」
その声に、リンはハッとして
「……私は何もしていない。ただ無事を確かめたかっただけだ」
「本当は国王陛下にお話ししたいんですが……立場上、それが難しいのでラーゼンさんに伝えたいと思いまして」
そう前置きして、リンは天魔大戦が終わったこと、東の帝国皇帝ルドラの仕業だったこと、そして自分がルドラに協力する代わりに二度と天魔大戦を起こさないように約束させたことを説明した。
ラーゼンは驚き、そして深く考え込んだ末に、遠い目をしながら呟く。
「……まったく、長生きはするものだ。
どこか呆れたようなその言葉にリンは反論する。
「私は進化して、
リンから感じる以前よりも強い気配に、納得したように頷くラーゼン。リンは再度、帝国に手を出さないようお願いした。
「わかった。陛下には全てお伝えする。ただ、どうなるかは陛下次第だ」
「それは構いません。ただし……」
リンの瞳が鋭く光る。
「もしファルムスが帝国に手を出すなら、そのときは両国を止めるために制圧します。殺しはしませんが、それでも覚悟はしておいてください」
その覚悟に満ちた気迫に、ラーゼンは息を呑みながらも静かに頷いた。これ以上敵に回すべき存在ではないと理解したのだ。
ラーゼンとの対話を終えたリンは、ファルムスの復興を手伝う許可を得ると、ラミリスと共に街へ向かった。他国でも行ったように、怪我人を治し、建物を修復していく。緑の光が怪我人を癒し、次々と街を蘇らせていく様子に、街の住民たちは言葉を失った。
「アンタ、ちょっと強くなりすぎじゃない?」
誇らしげに笑うラミリスに、リンは照れたように微笑む。
その後もラミリスとリンはファルムスの各所にて怪我人の治療や建物などの修復を行い、復興に尽力する日々を送った。
ラーゼンはファルムス国王のいる王宮の会議室に向かった。天魔大戦終結と、その背景を伝えるためである。国王と重鎮たちが揃う中、ラーゼンは整った口調で語り始めた。
「天魔大戦は東の帝国、皇帝ルドラによって引き起こされたものです。そして、その天魔大戦を終結させたのは
その言葉に会議室がざわめく。天魔大戦を終わらせたのがリンであるという事実に、驚きと戸惑いが入り混じる。
「彼女はルドラに直接会い、協力する代わりに二度と天魔大戦を起こさないよう約束させたと言っています。これが事実ならば、今後の天魔大戦の再来は防がれるでしょう」
国王が静かにラーゼンを見つめた。
「……ルドラが本当にそのような約束を守るのか?」
ラーゼンは一瞬逡巡したが、毅然として答えた。
「それを守らせるために、彼女自身が監視を続けると言っています。そして、もしファルムスが帝国に手出しをするならば、両国を制圧してでも戦争を止めると」
制圧という言葉に、重鎮たちが眉をひそめた。
「彼女は、帝国とファルムスのどちらの味方でもなく、戦いを終わらせるために動く。それが彼女の意志です」
国王は目を閉じ、深く息を吐いた。
自分たちはリンの力を手に入れるために彼女を狙った。それでもファルムスを守り、復興の手助けまでしてくれた。その意志の強さに感謝以外の感情が湧かない。
「……我々の国を救い、復興まで助けてくれた彼女に、敵意を向けることなどできんな」
しかし、重鎮たちの中には異を唱える者もいた。特に、過去に帝国と何らかの因縁を持つ者たちが声を荒げる。
「東の帝国が天魔大戦を引き起こしたこと、そしてそれにより多くの命が奪われた事実を看過するのですか!?」
「陛下、我々も報復するべきです!」
国王は彼らの意見に耳を傾けつつも、やがて重い声で返した。
「確かにルドラの行いには怒りを覚える。しかし……帝国の軍事力を侮ることはできない。そして何より、彼女を敵に回すことになる」
その言葉に、会議室が静まり返る。国王の表情は硬いが、その瞳には決意が宿っていた。
重鎮たちの中にはなおも納得しない者がいた。そんな中、ラーゼンが前に出る。
「
彼の声は鋭く、それでいて冷静だった。
「彼女は私を
そこで一拍置き、ラーゼンは言葉を続けた。
「この国に未来はないでしょう」
その厳しい言葉に、重鎮たちは息を呑んだ。ラーゼンが感情を剥き出しにすることは珍しい。その言葉の重さに、誰もが黙り込む。
会議室の静寂を破るのは、国王の深い息だった。
「……リン殿の意志を尊重する。帝国には手を出さない。そしてこの場で、重ねて厳命する。
その言葉に、重鎮たちは渋々頷いた。反発する者もいたが、国王が譲る気配を見せない以上、従わざるを得なかった。
会議が終わり、ラーゼンは一人廊下を歩いていた。どこか疲れたような歩みだったが、心の中では静かな決意を抱いていた。
「……この国を救ったばかりか、王をも変えさせるとはな」
あの
その後、ファルムス王国内では
ファルムス王は、これまでの自身の行いを少しずつ改め始め、臣下たちにリンの庇護を得るための方策を練らせていた。
ファルムスは変わりつつあった。そして、その変化を作り出したのは紛れもなく一人の少女——
ファルムス王国の中に響く彼女の名。その偉業と意志は、確実に国を変えていった。
これでファルムスも大人しくなりました。この頃のファルムス王はまだマシな御方という設定にしてます。
リンが新しく獲得するスキルはどれがいいですか?
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樹界移動を進化させる
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聖域創造を進化させる
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万象再生を進化させる
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深淵樹霊を進化させる
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「神智核」一択
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魔王覇気とか
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特に思いつかない